第二百十話*《三十一日目》スムーズすぎて、逆に戸惑う
上総さんのところに行くために麻人さんが車の手配をしている間に、私は外出するための用意をしていた。
……のだけど。
呼び鈴が鳴って、階下で対応している声が聞こえてきた。のだけど、さすがに内容は分からない。
麻人さんを見ると、下にだれが来ているのか分かっているようで、手を掴まれて、そのまま部屋を出た。
そしてそこでだれが来ているのか、声で分かった。
「上総さん……?」
「みたいだな」
階段を降りている途中で上総さんが私たちに気がついた。
上総さんは挨拶もせず、開口一番に、
「どうも麻人に用がある人たちが来ているみたいだ」
「わざわざそれを伝えにここまで来たのか?」
「いや、今日はあの様子ではなにも出来ないから引き上げてきた。家に帰る途中だからついでだ」
なるほど?
「──で、どこのだれかは?」
「それは分かっているよ。こうなるのは前から分かっていたからね」
「それなら」
「分かっていても、こちらから手を出すことはできない。向こうのアクション待ちだったわけだ。上手く罠に引っ掛かってくれて助かったよ、ありがとう」
「オレたちも上総の手駒のひとつ、ということか」
「そう思われるのは心外だな。これでも僕は僕なりに麻人と陽茉莉を大切に思っているよ。もちろん、莉那ちゃんもだ」
なんだかさっきから麻人さんと上総さんは私の知らない事象を前提に会話が進められている。
えっと、たぶんこれってフィニメモのベルム血盟の件と、現実でゲーム内での抗議のことがリンクしてるのよね?
「あー……。上総に迷惑をかけたな」
「麻人、逆だよ」
「……は?」
「現実の出来事の鬱憤を晴らすためにゲーム内でたくさんの人たちに迷惑をかけてしまったんだ」
まさかの逆ルートだった!
「ゲーム内の行動を咎められたからって直談判に来るとは、なんというか……」
そこで上総さんは大きなため息を吐いた。
「心春の苦労を知ることができて良かったけど、ますます腕の中に閉じ込めておきたくなったね」
「いやいや、上総さん。独占したいのかもですけど、それをされると私たちの息抜きがなくなるのですよ!」
「……そうだね」
同意をしてくれたっぽいけど、上総さんだからなぁ。本当に理解してくれているのか怪しい。
「上総があっさりと承諾している……!」
「あっさりではないけどね。心春に説教された」
「さ、さすが心春さん……」
上総さんはなんだか幸せそうだ。本人たちがいいのなら、いいのだろう。
「あとはこちらで処ぶ……いや、処理しておくから、ふたりは気にしなくていいよ」
上総さん、今、処分って言いかけたっ?
「それでは、僕は失礼するよ」
そう言って、上総さんは半ばスキップをしているかのように足取り軽く出て行った。
心春さんは上総さんのおうちでお仕事してるから、逢えるのがうれしくて?
心春さんのお仕事の邪魔をして怒られないように、と心の中で祈っておいた。
◇
お昼を食べて、少し休んでからお昼の部Deathよ!
ログインをした途端にお知らせがあるとアラートが出た。なにかと思って見てみると……。
「あれ? 運営からのお知らせ?」
私たちがお昼を摂るためにログアウトしている間に進展があったようだ。
《いつもフィニス・メモリアをプレイしてくださり、ありがとうございます。
おかげさまで正式にサービスを開始してから、一ヶ月が経とうとしています。
その記念としてイベントを開始しましたが、大変ありがたいことに、運営が想定していた以上のプレイヤーに接続をしてくださいました。そのため、かなり混雑をして皆さまにご迷惑をおかけしています。
お詫びに【花の種】をひとりに十個、配付させていただきます。
また、今後のイベントアイテムの交換は、花壇ではなく、手元にいるフォリウムとフロースからできるようになります》
むむっ?
なにやら情報過多で混乱する。
「盛況なのはいいことだな」
「そうですね」
プレイヤーが増えているのはとてもいいことだと思う。
一度、読んだだけでは内容を把握しきれなかったので、もう一度読んだ。
「……【花の種】十個とは、なかなか太っ腹Deathね」
「リィナ、感覚が麻痺しているかもだが、太っ腹ではないと思うぞ」
「そうですか? 今までに運営からなにかもらいましたか?」
「……ないな。こういったゲームであれば、正式サービス開始記念になにかアイテムがもらえるが、それもなかったな。さらには、βテスト参加のお礼もなにもなかった」
「それを思えば、太っ腹じゃないですか。しかも【花の種の欠片】ではなくて、【花の種】ですよ」
「まあ、そうなんだが……。サービスがあるのが当たり前と思っているわけではないが、なんというか……」
キースが言いたいことはわかる。
わかるけれど、こればかりは会社の方針ってのが大きいから、仕方がない。
「アイテム配付もですけど、交換NPCが手元にって、どういう意味なんでしょうか」
「このお知らせの最後に、なにか添付されているな」
「添付?」
メールにはなにかがついてきていた。
アイコンを見ると、見覚えのあるフォリウムとフロースだ。
受け取って使用してみると、目の前にフォリウムとフロースが現れた。
「交換しますか?」
とフォリウムに聞かれたので、うなずいて【花の種の欠片】を渡した。
「わー、たくさんですねー!」
なんというか、花壇にいたときの反抗的ともとれる態度とまったく違っていて、戸惑ってしまう。
「態度が違っていて、なんというか、違和感が」
隣でキースも同じように呼び出して交換しているようだった。
「あぁ、わかる」
たぶん今の態度が通常なのだろうけど、今まで出会ってきたNPCは基本的にどこか変だったので、通常どおりだと思われる態度をとられると、なんというか、物足りないとはまた違うのだけど、妙な感じだ。
「明らかに毒されているな、オレたち」
「そうですね」
どちらが正しいという話ではないけれど、フィニメモのNPCは個性が強いという認識でいたので、ほとんどのゲームで見かけたNPCの態度そのものをフィニメモ内でされると、違和感が強い。
それはフロースも同じで、スムーズに交換ができたのだけど、やっぱりなんというか、物足りないし淋しい。
……というのはとりあえず置いといて、と。
「交換も終わったので、狩りに行きますか!」
「ニール荒野での狩りも飽きてきたな。いい加減、転職して新しい狩場に移動したいな」
「そうですね」
キースが言うように、少し前までは飽きてきてはいたけれど、そこを通り越すと、馴染みすぎてずっとここでいいかな、なんて思えてきてしまう。
ニール荒野に来て、いつものように端で狩りをする。
相変わらず忙しいけれど、キースとは息が合ってきたのもあって、楽しい。
かなり長い間、淡々と狩りをしていたのだけど、どちらからともなく狩りを止めた。
『さすがに疲れてきたな』
『そうですね。キリがよい感じなので、洗浄屋に戻りましょうか』
ということで『帰還』で洗浄屋に戻って、台所へ。
遅い時間ということで、オルとラウはいなかった。
「こんばんは」
「おや、リィナとキース」
クイさん、ウーヌス、ドゥオ、トレースが座ってお茶を飲みながら雑談をしているようだった。
「時間があるのなら、お茶でも飲むかい?」
「うん! 久しぶりにクイさんが淹れたお茶、飲みたいな」
クイさんと入れ替わるように私たちは席に座った。
「リィナ、久しぶり」
「久しぶり……? 数日前に会ったよね?」
「会った。けど、会っただけ」
「そういえばそうね。PvPのときに一緒に戦おうってなったけど、結局、手伝ってもらわなくても大丈夫になったから、言われてみれば久しぶりなのかも」
「そう。参加できなくて、残念。あいつら、ぼこぼこにしたかった」
ドゥオさん、相変わらずバイオレンスっ!
「あれではまったく懲りてなかったから、今度、手伝ってもらうかもしれないぞ」
「楽しみ」
楽しみ? いいの? そんなこと言って、ほんとにやるの?
「向こうから宣戦布告されている」
……なにを考えてるんだか。
「近日中に再戦だ」
前に戦って思ったのだけど、いくらゲーム内であっても、対人戦はやっぱり心理的に苦手。
でも、やらなければゲームで遊べないのなら、我慢してやりますよっ!
「ふふ、楽しみ」
ドゥオは私と違って楽しみのようだ。
うん、いざとなればドゥオに頼もう!
そう心に決めて、クイさんが淹れてくれたお茶を飲んで、まったりした。




