第二百七話*《三十日目》狩り場を占拠されました……
フィニメモにログインしてます。
時刻はなんと! 十九時過ぎ。
本日、初めてのログインなのですが、どうしてこんな時間になったのかと申しますと、昨日、ログアウトしたとたんに寝てしまったようで、記憶がありません!
しかも目が覚めたら、すでに日が沈み始めていたという。
いや、まさかそんなに寝てしまうとは思わなくて、起きたとき、外からの光の具合から夜明け前と思ったのですよ。
その割になんだかすごくよく寝ていたような感覚があって戸惑っていると、麻人さんが安堵した表情で入室してきた。
そこで経緯を聞いて、我ながら寝過ぎと呆れてしまった。
そして早めの夕食を摂り、お風呂に入って寝る準備をしてから、ログインしたところ、なのですよ。
「え……っと、改めて、おはようございます?」
「あぁ、おはよう」
苦笑気味のキースにムッとしつつ、ベッドから降りた。
「ようやくオレに慣れてきたな」
「へっ?」
「リィナはあまり感情を表に出さないだろう?」
「あー……。そう、ですね」
「なのに今、オレに対してムッとしただろう?」
「……はい」
「心を許してるというか、慣れたというか」
「そうかもDeathっ!」
「殺すなっ」
ほんと、律儀な人だ。
そんな人だから、慣れるのが早かったかも。
「軽く狩りをして、交換も少ししてからログアウトでいいか?」
「はい、それでよいです」
ということで、ニール荒野に行くと、様子が違っていた。
昨日はイベント時だから混んでいたのに、今日はいない。
とはいえ、まったくいないわけではない。金曜日の夜とは思えないほど人がいない。
うーん?
たまたま人がいないのかなと思いつつ、昨日と同じ端の端で狩りをしていた。
狩りを始めてそんなに時間が経たないところで、視界の端にパーティが見えた。
夕飯を済ませてプレイヤーが戻ってきたのだろうと思っていたのだけど……。
なんとパーティの一人が私たちが狩りをしている方向に歩いてきた。
そればかりか。
「おい、おまえら。だれの断りがあってここに入ってきた?」
あれ、これって……。
思わずキースと顔を合わせた。
昨日の今日でまたもやコレと遭遇するとは。
理不尽な言葉に、昨日の戦いってなんだったのだろうと思わず悩んでしまった。
「特に断りがいるような狩り場ではないよな?」
「立て札を見ずにここに来たのか?」
「立て札?」
そもそもがこの狩り場には直行で来たので、そんなものは目にしていない。
いや、していても無視して狩りをしていたはず。
「この狩り場はベルム血盟が使っているので一般人は使用禁止と書いていただろうが!」
「……………………」
「なんだ、その無言はっ!」
怒り狂っているベルム血盟に所属と思われる人に背を向けて、キースと顔を寄せてボソボソと話し合う。
「昨日のあの茶番劇はなんだったのでしょうか」
「茶番……。いや、間違いないか。条件をのませる前に逃げられたからな」
「先に決めてから戦わないといけなかったと?」
「そうなるな」
昨日の三回目のメンテの後は少ししか狩りをしてないし、交換もしてない。
もしかしたらメンテが入ったことで確率が上がって、今回のイベントがとても美味しいものだと気がついて狩り場を占領し始めたのかもしれない。
「……交換して、確認してみますか」
「そうだな」
キースも同じ考えにたどり着いたのか、険しい表情で声を掛けてきた男を見た。
「トニトに伝えてくれないか。再度、勝負する、と」
「おまえはだれだっ!」
「キースと伝えればトニトは分かる」
かなり不機嫌な表情で男は私たちをにらんできた。
「盟主の知り合いでも、おまえたちはベルム血盟員ではないから、出て行け!」
キースと同時にため息をついて、私たちは洗浄屋にひとまず戻った。
「……なんというか、酷くなりましたね」
「まったくな」
あの様子だと世界樹の村周辺から高レベル帯の狩り場まで、数の暴力で占領していそうだ。
「狩り場の独占はモラルの問題だからな……」
「そうですね」
この問題は迷惑行為とはいえ、基本的にはプレイヤー同士の問題だ。だから運営は口出しできない。
「交換するか」
「そうですね」
世界樹の村はもしかしたら狩り場から閉め出された初心者さんたちであふれているかもということで、隠れ家的なシルヴァの森の水源がある村へ行くことにした。さすがにここまで人がいっぱいということはないだろう……たぶん。
いつもの扉でひとっ飛び。
村の近くの森の中に到着した。夜だから真っ暗だ。
「夜ですね」
「そうだな」
いくら『夜目』と『暗視』があっても辺りには光源がないため、暗い。空には月があるかもだけどここは森の中。木々があるために月光が遮られている。
不安な気持ちで周りをぐるりと見回していると、キースが手を握ってきた。
その温もりにホッとして両手でギュッと握ると、キースが肩をふるわせて笑っているのが伝わってきた。
「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」
「オレを頼ってくれているのがものすごくかわいいなと」
「かわいくないですっ!」
キースは相変わらず肩をふるわせながら歩き始めたので、着いていく。
ようやく笑いが治まったのか、キースが口を開いた。
「なぁ、リィナ」
「はいにゃ?」
「ゲーム内だけど、こうやって手を繋いで夜の散歩もいいものだな」
「……そうですね」
「いつか現実でも出来ればいいな」
それが実現できるかどうかはともかく、思うことさえしなかったら実現されない。だから──。
「はいっ」
今は無理でも、たとえ自分たちが無理でも、後世の人たちが出来るようになるのなら。
そんな気持ちで返事をした。
それからは無言で森の中を歩いていくと、水源がある村に着いた。
村に入る前に中を確認すると、前に来たときと同じように静かな様子だった。他の村の様子は確認していないけれど、さすがにここにはプレイヤーは来ていないようだ。
ホッとして村に入ると、すぐにサラが気がついてくれた。
「あら、どうかしたの?」
「イベントの交換に来た」
「詳しくは知らないけど、イベントをやっているのは知ってるわ。この村でも交換できるから、どうぞ」
サラに案内してもらって、私とキースは次々に交換していった。
交換は慣れたらサクサクと進み、【花の種】になったらフォリウムからフロースに渡してもらうようにお願いしたら、さらに交換速度が上がった。
いちいち受け取っていると、時間のロスだと気がついたのだ。
するとあっという間に交換手法が更新されたようだ。
効率の良い方法が見つかれば、それを共有してくれるなんて、さすがAI搭載?
種から発芽する条件が修正されたおかげで、最初よりはるかに高確率で花になって色んなものと交換されていく。
九割が消耗品だけど、残り一割が武器、防具、アクセサリなどだ。
武器と防具が出るのは嬉しいけれど、私の武器はイロンだし、防具も性能がイマイチっぽいから今のマリー製のがよい。
ということで、これらは売ることにした。
売るにしても、だれか想定している人がいるのだろうか。
「だれに売るのですか?」
「とりあえずももすけに声を掛けてみた。そうしたら全部買い取ると言ってきた」
「全部」
この間も全部買い取っていたけど、お金は大丈夫なのだろうか。
って、そんなところは心配しなくてもいいのか。
「とはいえ、もしかしたら全額払えないかもとはいわれたな」
「ですよね」
「知った仲なのもあるから、残りは後から払ってもらってもいいと伝えてある」
「いいのですか、それで」
「オレは問題ない。受け取った後になんならリィナ分を先に払うか?」
「うーん……」
先に全額を受け取っておいた方が計算はしやすいだろう。
「では、お言葉に甘えて先に全額を受け取ります」
「分かった」
それからは【花の種の欠片】を【花の種】にしてもらい、【花】になってアイテムを受け取った。
武器と防具はかなりの数になった。
……これだけになるのなら、狩り場を独占したくなる気持ちは分かる。
でもやっぱり譲り合って狩りをするものだよな、と思うのですよ。
そんなことを考えていると交換が終わったので、私たちはログアウトした。




