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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《二十七日目》火曜日

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第二百話*《二十七日目》質問攻めは止めてください!

 四人の頭上にたくさんのはてなマークが付いているのが見えるような反応に、思わずキースと顔を見合わせて笑ってしまった。


「応接室はこちらです」


 応接室に入るには、店舗のカウンターを抜けて入る方法と二階への階段がある場所から入る方法がある。

 ──といっても、扉はひとつ。

 応接室を囲うように廊下がついている、と言えば分かりやすいだろうか。


 応接室の室内は前より広くなっていた。模様替え前はここが応接室として機能するより移動用の扉としてしか使われてなかったけどね!

 台所が二階に移動した関係もあり、簡易的なキッチンをつけたので、お湯を沸かして温かい飲み物も提供できる。

 初めてここを使うのだけど、クイさんが色々用意してくれているようで、ヤカンやポットにコンロ、茶葉も数種類あるし、ティーセットも十客用意されていた。うむ、さすがだ!

 茶葉の入っているガラス瓶にはなにが入っているのかきちんとラベルが貼られていて、どれにしようかなんて悩んでしまう。

 悩んで……悩んだ末にふと思い出した。

 そういえば、あのイカれた商店街で買った茶葉だけど、まだ飲んでいなかった!

 よし、今日はそれを使おう!


 インベントリから取り出して、袋をみる。

 すると袋にはお茶の美味しい淹れ方が書いてあった。

 おお、すっごく助かる!


 まずは『癒やしの雨』でヤカンに水をためて火に掛ける。

 お湯が沸くまでティーセットを取り出して軽くすすいで拭いて、セッティング。

 淹れ方どおりに茶葉を用意して、と。


 そんなことをやっていたら、キースが顔を覗かせた。


「にゃ?」

「来るのが遅いから様子を見に来た」

「お茶の用意をしてました」

「それならいいんだが」


 心配性だなぁと思うものの、なにかとやらかしているので気持ちが分からないでもない。


「イロンとアイがそばにいるから……って、アイがいない!」

「アイならこっちにいるぞ」

「フェリスのこと、忘れないでにゃー」

「フェリスは一部となりすぎてて、忘れてた」

「ひどいにゃ!」


 結局、キースは私がお茶を淹れ終わるまで付いていてくれた。

 ただ見られているだけだと恥ずかしいので、アレをして、コレをしてと指示は出したけどね!

 言えば私が思っていた以上にきちんとやってくれる。

 やることさえ分かるようになれば、勝手にやってくれそうな感じではあった。


 そうして準備をして応接室に戻ると、ももすけさんたちはなにやら情報交換をしていた。


「待たせたな」

「いや待ってないからいいんだけど、なにしてたの?」


 待ってないって……。

 情報交換していたからってこと?


「お茶を用意してました。すみません、慣れなくて時間が掛かってしまって……」

「もしかしなくても、さっきからとても良い匂いがしてたのは、お茶?」

「良い匂い……? あぁ、これか!」


 ローテーブルに置こうとしたら、そこはお菓子の山。


「あ、ごめん! 封を開けてないのを片付けるね!」


 サシャがサッとお菓子の山に触れると、かなりの量が姿を消した。どれだけ持ってきているの……。


「サシャ、お菓子好きなのは知っているが、食べすぎではないのか?」

「そうかもだけど! ほら! 現実(リアル)でたくさん食べたら太るじゃない? でも、ここだといくら食べても太らないから!」

「……なるほど」


 サシャの言い分を聞いて、思い出した。


 世の中にはゲームを楽しむためではなく、食べ物を楽しむためにVRゲームを楽しんでいる人がいるということを聞いたことがある。

 それならもっとド直球に、お菓子を楽しむVR、食事を楽しむVRなどがあるからそちらを楽しめばいいのにと思ったのだけど、どうやらそちらは月額いくらで食べ物代は別らしい。なので、食べれば食べただけお金が掛かる。

 ゲームも月額がかかるし、追加サービスは課金になるけど、ゲーム内のお金を貯めたり、場合によってはドロップでどうにかなるし、素材を使って料理をすることも出来るから、こちらのがはるかに安く済む、らしい。

 ただ、現実にある有名店のものは食べられないから、そちらが良い場合はそういったサービスを使うしかないのだけどね。


「それにしても、今のお菓子、種類が多かったな」

「そうなのよ! お菓子マイスターがいるのよ!」

「……お菓子、マイスター」


 私はお茶の入ったカップをそれぞれの前に置いて、それからソファに座ろうとして……空いている席がないことに気がついた。


「む?」

「ほら、リィナ。こっちにこい」

「……嫌です」


 六人いるのに、なんでソファが五脚しかないのか。

 その原因はキースであると、すぐに分かった。


「膝の上に座らせようとしないでくださいっ!」

「……やはり駄目か」

「駄目に決まってるでしょう!」


 まったく、ふたりのときならいざ知らず、他人様(ひとさま)がいるところでなにを要求してくるの……っ!


「私のソファ」


 ムッとして告げると、キースが座っているソファが一人掛けから二人掛けに変化した。

 どうして建物までキースの味方になっているの。


「ほら、隣に座ればいいだろう?」

「……なぜ。私が所有者なのに、なんでっ!」

「人徳?」

「いやそれ、おかしいからっ!」


 ここでごねると時間がもったいないので、仕方がなくキースの横に座った。もちろん、キースは私にべったりと引っ付いてきた。

 妥協だ、妥協!


「だれひとりとしてこの状況にツッコミなしですかっ!」

「実害ないし」

「正常運転じゃないの?」


 ……助けはない、と。


「それより気になるのは、さっきの戦闘でのスキルと、この建物。で、ここはリィナさんの所有物?」


 どうやら向こうはサシャが代表で質問をするようだ。

 フィーアがしてくるのかと思っていたから、意外だった。

 ……と思ったら、フィーアは記録することに集中しているようで、宙に浮くキーボードでものすごい速さでキーを打っていた。


「……順を追ってお話した方がよさそうDeathね」

「こっそり殺そうとするな」

「バレました? 失礼」


 それから現実(リアル)で体得したすまし顔でお茶を一口。


「うん、美味しい」


 味見したときと変わらない味に満足して、それから手を膝の上に置いた。


「私には弟がいまして、その弟がリアルの事情でフィニメモを正式サービスで始められないからと、VR機器一式とフィニメモのアカウントを譲り受けました」

「弟って、フーマ?」

「はい、そうです」

「フーマのお姉さんかぁ、納得」

「ぇ、なにがどう納得?」

「見た目が似てるなぁと思っていたのと、キースと仲がよいとことか?」


 ぉ、ぉぅ。


 リアルでは楓真と似てるなんて言われたことないのに、なんでゲーム内だと言われるのだろう、不思議だ。


「それで、正式サービスが始まってすぐにログインしてキャラ作成をしたのです。リアルにはない髪色にしたくて紅色を選んだのです」


 話が進まないので強制的に話を戻して、基本は時系列で後から分かったことも補足しながらザックリと話をした。


「大枠のことしか話してないな」

「細かく話したら一日が終わります!」

「まあ、そうだな」


 質問タイムを作って、そこで気になったことを聞いてもらうことにした。


「では、ボクから」


 フィーアが目を輝かせて手を上げて、怒涛の質問をしてきたぞ、と。


 フィーアだけではなく、ももすけさんとケンタムさん、それからサシャも聞いてきた。

 それぞれの質問に答えていると、さらにそこから派生して……となった。

 途中から夕飯とその片付けが終わったクイさんが来てくれて、お茶のお代わりを淹れてくれたりした。


「……なるほどねぇ」


 ようやく質問が終わった。

 さすがにグッタリしていると、キースがよくやったといわんばかりに頭を撫でてくれた。

 だから、公衆の面前では……!


「確かにこれを公表すると、いろいろ厄介だね」


 フィーアの一言に、思わず大きなため息が。


「その、洗濯屋? ボクとしてはいろいろ検証をしてみたいね」

「……フィーアさんみたいな人がなればよかったのに」

「んー、ボクは自分がってより、人がやってるのを検証するのが好きだから、ちょうどよいのではないかな」


 ひとつのことだけではなくて、色んなことを調べたいからか。

 私も検証するのは好きだけど、フィーアほどではないのよね。


「これはしばらく表に出さないでいるよ」

「そうなのですか?」

「今日の対戦で分かったけど、対モンスターでも強いし、対プレイヤーにも強い。となると、色んな城取りをしたい血盟がリィナさん獲得のために大変なことになりそうだからね」

「……なるほど」


 それはとっても嫌だ。


「黙っておく代わりに、たまに一緒に狩りに行かせてほしいな」

「リィナがいいと言えばいいぞ」

「ぇ、私にそこを委ねるのっ?」

「あぁ。オレとしてはリィナとふたりっきりがいいが、この先、ふたりだとキツい場面が増える。知り合いの助けがあるのならこれ以上になく心強い」


 キース、本音が洩れ出てるっ!


 それにしても、そういう条件を付けられると断れないって、私の性格を読んで言ってるわね。


「おれたちのところにもたまに助っ人で来て欲しい」

「リィナちゃん、おねーさんとペア狩りしましょうね」

「おいサシャ、オレは?」

「んー? キースは要らない」

「おまっ」


 そんなこんなでぎゃいぎゃいと騒がしい時間を過ごしたのでした。

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