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第二話*《一日目》謎の初期アイテム

 私の視界は、真っ黒な世界から、いきなり明るい世界へとやってきたためにまぶしくて反射的に目を閉じていた。

 目を閉じていても、耳には鳥のさえずりや葉のすれる音、それからざわざわとしたざわめきが聞こえてきた。

 しばらく目を閉じていたけれど、ようやく明るさに慣れて来たため、ゆっくりと目を開けた。


「う……わぁ……!」


 目の前には、巨大な世界樹とその周りを飛んでいる鳥たち。まずはそれが視界に入った。


 β版だけど、楓真のプレイ動画は一通り見ていたため、初見ではない。

 だけど、やはりディスプレイで見るのと、こうして自分の目で見るのとでは、まったく違う。

 といっても、これはVRだから実際に見ているのとは違うのだけど、それでもかなり感動する。


 周りを見ると、あちこちにプレイヤーだと思われる下三角の白いマーカーが見えた。


 私が今いる場所は、エルフとダークエルフのスタート地点で、世界樹の村という。

 混雑緩和のために、人間と亜人はまた別の場所からのスタートとなる。だから周りはエルフかダークエルフのみ。


 ちなみにこの「フィニス・メモリア」はVRMMOということで、デフォルトだとプレイヤーの名前は見えない。というのも、プレイする人間のデータを元にキャラクターが作られるし、声は本人のものなので、個人の特定がしやすい。だから個人情報保護法に則り、デフォルトだと名前が見えないようになっている。

 VR機器は超高価なため、まだパソコンや据え置き機などでプレイするMMOもあるのだけど、そちらは頭の上に名前が表示されている。

 ……大変に蛇足だけど、MMOとはMassively Multiplayer Onlineの頭文字を取ったもので、日本語訳すると、「大規模多人数同時参加型オンライン」となる。マルチプレイはよく見る単語だけど、Massivelyはあまり見かけない単語だ。これが「大規模に」という意味らしい。


 だけど、個人情報保護法がなくても、この現実世界のように見える世界で頭の上に名前が見えるってのは違和感しかないから、これでいいと思う。まぁ、本音を言えば、マーカーも要らないと思うけど、これがなかったらNPCなのかプレイヤーなのか分からないから、これはこれでいいということにしておく。あと、マーカーがなくなったら、リアルと仮想と区別が付かなくなる可能性もなきにしもあらず、だ。

 だけど当分、リアルでも頭上を確認してしまいそうで怖い。

 それくらい、このゲームは精巧に作られている。


 さてと、周りの確認はこれくらいにしておいて。


 とりあえず、自分のステータスと持ち物などを確認しよう。

 まずはステータス……と。


 ちなみに、ステータスを確認するには「ステータス・オープン」と言うか、右か左の腕を二回、上下に振ればいいだけだ。腕を振る方が早いけれど、リアルでも無意識にやってしまいそうなので、とりあえず慣れるまでは声に出して言うことにしよう。

 でも、さすがに恥ずかしいので、小声で、だけど。


「ステータス・オープン。……おお、すごい!」


 声に反応して、目の前に私のステータスが表示されている宙に浮かんだウィンドウが現れた。

 これ、リアルにも欲しいんですけど! と思ってしまった。


 そして、ステータスを見てみる。

 名前は「リィナリティ」で、種族はエルフ。うん、私が設定したとおりになっている。

 さらにはこのウィンドウでは攻撃力などのステータスも確認することができるけど、外見も確認することができる。

 職業は初期では物理攻撃を主に担うファイターか、魔法攻撃のマジシャンしか選べない。

 私は楓真からヒーラーをやってほしいと言われているので、ヒーラーに分岐するマジシャンを選択した。

 楓真に言われなくても、ファイターは無理だと思ったので、どちらにしてもマジシャンを選択していただろう。

 それにしても、エルフでヒーラーって、ちょっと聖女っぽい。どうしよう、聖女さま、なんて呼ばれちゃったら!


 ……という妄想は置いといて。


 気を取り直して。先に見た目を確認しよう。

 見た目は私のリアルをスキャンして作られているので、美形ぞろいのエルフのはずなのに、どちらかというと平民っぽい。エルフの平民ってなんか変な表現だけど、そう表現するしかない。

 こだわる人はこのスキャンデータを元にして修正するそうだけど、私はそこは面倒だったので、省いた。ただ、唯一誇れる二重と、大きな瞳はそのままなのでそこは良かった。あとはボブカットの紅髪と紅瞳。

 うん、私が設定したとおりだ。


 周りを見るとやはり金髪と白金が多いので、この色だとちょっと目立ちすぎたかも。とはいえ、なかには緑の髪の人や青い髪もいたりするから、そこまでではないかもしれない。と思うことにした。そうしないとやってしまった感が半端ないのだ。


 デフォルトの防具はマジシャン系はフード付きのローブに、その下には長袖のシャツと長ズボン。素材はどれも綿でできていて、色は生成りとかなり地味だ。だけど着心地は悪くない。


 エルフは世界樹からうまれるという設定なので、名前のとおりに村の中心に世界樹がそびえている。

 そしてここは世界樹の村だ。

 そう、町ではなくて村なのだ。


 β版ではまだ実装されてなかったのと、テスト期間は一ヶ月だったためにできなかったが、プレイヤーが各地にある城を取り、育てていくと村から町になるという。

 とはいえ、β組はともかくとして、この正式サービスから参加するプレイヤーが大多数のため、平均レベルが二十を超えたら攻城戦を実装するという話だ。

 最初はNPCが城の保有者なので、プレイヤーはNPCと戦って、城を手に入れるそうだ。

 ちなみにこのフィニメモは、通常フィールドではPK行為──いわゆるプレイヤー・キラー──はできない。ただ、戦場に設定されている場所ではプレイヤー相手でも戦うことができるという。


 私はどうにも対人戦は苦手なので、やるつもりはない。

 楓真はやりたいと言っていた。さすが廃人ゲーマーさまだと思ったものだ。


 とまぁ、フィニメモの今後のアップデートの話はこれくらいにして、私は先ほどから気になることがあったのだ。


 フィニメモは選んだ職業で初期武器が決まる。だが、村や町、広大なフィールド内にあるいわゆる安全地帯と呼ばれる場所では武器を装備することができない。なぜなら、ここは安全地帯(セーフゾーン)で戦闘はできないからだ。

 それなのに私がこの地に降り立った時点で、右手にずっとなにかを握りしめているようなのだ。

 いえね、最初は気がつきませんでしたよ? だってようやくフィニメモの世界に降り立ったばかりだったのから。でも、今はちょっとだけ落ち着いて、周りを見回す余裕もできてきたし、自分の姿をステータス画面で確認もした。

 そのときにもなんか変だとは思ったのよ? でも、私の右手が握っているなにかは、杖やロッドのような長いものではなくて、とても短い……というとなんかおかしいかもだけど、杖と比較するとずいぶんと短いものだったのだ。

 意を決して私は右手を見ることにした。


「せーのぉ……と。……えっ? ふわっ?」


 気合いを入れて、右手を見てみた。

 ……私はなにかよく分からないものを握りしめていた。

 それの見た目はひしゃくのようなものだった。だけどひしゃく? は持ち手は木ではあるけれど、ひしゃくの水を汲む部分は鉄でできているようだった。

 って、なんですか、これ?


 眉間にしわを寄せて、その謎アイテムをじっと見る。

 だけど見てもそれがなにかはまったく分からない。

 ……そうだ、まだ私は自分の持ち物を確認していなかった! そちらを見れば、謎が解けるかも。


 ということで、自分が所持しているものを確認するためにインベントリを見ることにした。


 ちなみにフィニメモではアイテムを入れておく場所を「インベントリ」と呼ぶ。そもそもは商品や財産の目録という意味の英単語から来ているらしい。他のゲームでは「アイテム入れ」「カバン」などと名称が違ったりすることがある。


 さて、まずは確認だ!

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