第百九十九話*《二十七日目》勝敗の行方
トニトたちベルム血盟の残りは三人、私たちは九人。
最初は倍以上の差があったのに、気がついたらこちらが有利になっているっていう不思議。
【絶対におまえら、不正をしているな。やり直しを要求する!】
【まだ終わってないのに負けを認めるんだ?】
これまでずっと黙っていたももすけさんがトニトたちを煽っている。
そしてトニトたちも単純だから、顔を真っ赤にしていた。
【やり直しはなしだ。今から勝負をして決着を付けよう】
さすがキース、きっちり言ってくれた!
【先ほどまでの勢いはどこにいった?】
いや、キースまで煽らなくていいから。
【俺たちが勝って、おまえたちが不正をしているとして運営に通報させてもらうからな!】
【不正をしているのはどちらだろうな?】
『ココ使ってます!』はバグ利用でも禁止事項でもないけれど、プレイヤーから反発されるってだけなので問題はないと思っているのだろう。
実際のところそうなんだけど、やらない方がいいのはだれが見ても明白だ。
だけどそれをやってしまうってのは、自分たち以外はどうでもいいと思っているからだろう。
それにしても、さっきから不正、不正とうるさいのだけど、そういうことを言う人ほど自分たちがやっているのよね。
しかも勝ったらって、普通は負けたらではないの? 不思議な人だ。
【それでは改めて、攻撃開始!】
キースの一言に前線にいるももすけさんたちがトニトたちに向かって走り出した。
サシャはそもそもが接近戦、ももすけさんとケンタムさんの職を知らないけれど、どうやらふたりも接近戦のようだ。
そして残っていた三人は遠距離職のようで、少し遠くから攻撃をしているようだった。
『私たちも攻撃しますか』
『フィーアはオレたちの後ろを注意しておいてほしい』
『りょーかい』
キースがどうしてフィーアにそう言ったのか分からないのだけど、いくら端に陣営があるとはいっても、後ろにちょっとした隙間がある。
そこから不意打ちを喰らわないとは言えないので、警戒するのは重要だ。
フィーアが後ろを警戒してくれているので、私たちは安心してトニトたちに全力で集中できる。
『『乾燥』っ!』
あまりダメージが入らないのは分かっているけれど、それでも半分くらいは効くので使わない手はない。
『乾燥』はまったくエフェクトがないため、使われている方はまさか攻撃されているとは思わないだろう。
エフェクトがないのは善し悪しだな、と思いつつ使っている。
トニトたちに使った『乾燥』は予想どおり、半分しかダメージが入っていない。
だけどトニトたちはすぐに謎のダメージが入ったことに気がついた。
【おい、キース。なにか汚い手を使ったな?】
【通常に使えるスキルしか使っていない】
【それなら、どうしてスキルのエフェクトが見えない?】
どうしてと言われても、設定されていないからですけど……。
と言いたいのだけど、なんというか、色々と面倒なので言わない方がよさそうだ。
言わないなら言わないでややこしくなるんだけどね!
【おまえたちには見えていないのか? まあ、一瞬だから仕方がないな】
え? キースには見えているの?
もしかして『心眼』スキルがあれば見えるの?
『見えてる……の?』
『いや』
ぉ、ぉぅ。
見えていないのかよ!
ま、まぁ、はったりでもそう言っておけばなんとなく悔しがるだろうからいいってことで!
本来の威力より半分であってもダメージがないよりはいいってことで、私はひたすら使えるようになったら『乾燥』を使って攻撃をしていた。
そうしていれば向こうもこの見えないスキルを使っているのが私だと気がついたようだ。
【そうか、その赤髪が使っているスキルか!】
と気がつかれたのだけど、すでに遅し。
サシャがとどめの一撃を加えて、トニトと他ふたりは地面に伏した。
画面のベルム血盟員の残り人数がゼロになった。
【こちらの勝ち、だな】
キースの一言に、青チームから歓声が上がった。
【いや、今の戦いは無効だ!】
と言い張るのはトニト。
とは言っても、ねぇ?
【それならば、もう一度やるか?】
【望むところよ……! おまえたちのズルを見つけてやる!】
と威勢良く言っていたのだけど、結果は一回目と同じ。
【三回勝負だったとしても、こちらが二勝しているのだから、これで終わりだな】
【納得がいかん!】
さすがに三回目はやらないとしても、そろそろログアウトしなければならない人も出てきたため、青チームの勝ちで終了となった。
それにしても、しつこい。
キースがうんざりしていたのがよく分かる。
『さて、思っていたより時間が遅くなってしまったな』
『さすがに疲れたので、ログアウトして遅い昼食を摂って、それからおやつを食べてからのログインですね。……というより、いっそのこと、夜の部を少し早めにしますか?』
『そうだな、そうしよう』
パーティを解散させて、改めて私と組み直して洗浄屋に戻ろうとしたら、フィーアがキースの腕を掴んだ。
「逃げるな」
「逃げてないぞ」
「夜は何時にログインする?」
「……十八時以降だ」
「りょーかい。ログインしたのが分かったら連絡するから無視するなよ?」
とフィーアに釘を刺されてようやく解放された。
やれやれ。
◇
そんなこんなで夜の部ですよ、と。
ログインした途端にどうやらフィーアから連絡が来たようで、キースはしかめっ面をしていた。
「フィーアとは世界樹の下で待ち合わせになった」
「どうします? フィーアさんに全部話しますか?」
「全部といっても、どこからどこまでを話すんだ?」
「今のところユニーク職である洗濯屋のことと、洗浄屋のこととか……。その他もろもろです」
「開示しないという条件付きとなるな」
「んー、隠し続けるのもなんだか後ろめたくて素直に楽しめないというか」
「それも分からないでもないが、そこはフィーアとも相談が必要だな」
本来ならば動画を配信しているフーマもいるとよかったのだけど、ログインしてくる気配はまったくない。
とはいえ、最近ではまた動画を送ることをしているので、今回の動画を見てなにか動きがあるかもしれないということを期待しよう。
扉を使って世界樹のそばへ。
いつものごとく手を繋がれて世界樹まで行くと、そこにはフィーアとサシャ、それからももすけさんとケンタムさんもいた。
「あたしたちも気になったから来たよ」
「……仕方がないな」
こういう展開になるのは読めていたので別に驚きはない。
「えとまず、私と友だち登録をしてください」
「それは必要なことかい?」
「はい」
まずはフィーア、と。
サシャ、ももすけさん、ケンタムさんと登録申請をしたら、すぐに承諾をもらえた。
それから、と。
なんだかこの作業、久しぶりのような気がする。
まずは洗浄屋への入場許可と……。
結構な人数なので話をする場所をどこにするかなんだけど、この時間は洗浄屋の人たちは夕食を食べているだろうから、それを邪魔するのは申し訳ない。となると応接室を使おう。
二階への許可はキースに確認してからにしよう、うん。
「キースさん、とりあえず応接室でいいですよね?」
「……あぁ、そうだな」
私たちの会話を聞いて、ももすけさんが、
「応接室? アジト以外にもあるのか?」
「そういう話はまとめて後でだ」
キースはそう言って私を引っ張ると歩き出したので、私も後ろに続いた。
そして少し歩いたところでまたもやももすけさんが口を開いた。
「このルート」
「ももすけ、後から話を聞くんだからそれまでお口をチャックで!」
とサシャが突っ込んでくれた。
それより、お口をチャックって……。
サシャに言われてももすけさんは口を手で押さえていた。
なんというか、気心が知れてるって感じでいいね。
そして洗浄屋の前に到着、と。
「……え、ここって」
「おい、待てよ。なんでうちのアジトの側にあるんだよ!」
「それも含めて中で話をしよう」
夜なので、洗浄屋自体はすでに営業が終了している。
キースと私が先にお店に入り、ドアを開けて四人へ告げる。
「ようこそ、洗浄屋へ」
と。




