第百九十八話*《二十七日目》かなり奮闘しているよね!
『乾燥』が効きにくい人に『乾燥・解』を掛けようとしたのだけど、掛からなかった。
どうしてかと思ってシステムメッセージを確認すると、『使用できません』としか表示されていなかった。
むぅ。
そもそも『乾燥・解』って『乾燥』を使用して掛からなかった場合にしか使えなかったことを思い出した。
うーん、もう少しそこは緩くしてほしいところだわ。
ダメ元でもう一度『乾燥・解』を掛けようとした相手を見ると、サシャが一撃で倒していた。
サシャの攻撃力ってどうなっているの……。
前線で戦っている人が苦労しているようなら『乾燥・解』を掛けるのもいいのだろうけど、今の様子を見るとそんなことはない。むしろ遠方から一発で倒すとまたもや目立ってしまうから『乾燥』でできるだけ相手のHPをこっそり減らすという支援をすることにした。
『キース、戻ったよ』
私たちは実は未だに陣営から一歩も動いていなかった。
それはトニトも同じようで、向こう側の陣営には何人かの赤い旗が見えていた。
ここから陣営にいる人たちが見えるということは『乾燥』が使えるのだけど、うーん、下手に突っ込むと危険な感じがするので、手前の人たちから片付けよう、うん。
『フィーア、向こうの様子はどうだった?』
『かなり混乱していたよ』
『どうしてHPがゼロになっているか分からないからか?』
『うん、みたい』
ま、まあ……、『乾燥』はある意味チートだからなぁ。
とはいえ、『乾燥』は物理スキルではなくて魔法スキル扱いらしいので、魔法対策をしている人には効きにくいようだ。
なんだけど、ここまで対モンスターだけど戦ってきて魔法スキルを掛けられたことは数えられるほどだ。
例としてアネモネに睡眠を掛けられたくらい……?
だけどあれ、睡眠ガスっぽいのだったらしいから、魔法扱いってのはなんだか納得はいかないけど。
『それで。さっきから聞いたことのないスキルをえーっと……?』
『あ。リィナリティです。リィナと呼んでください』
『ご丁寧にどうも。ボクはフィーア。色んなことを検証するのが大好きなんだ』
どうにも女の子キャラでボクと言われると、ミルムを思い出してしまう。
『フィーアは名前と見た目で女性のように思われがちだが、実は男性だからな』
『な、なんだってー!』
だ、だってどこからどう見ても女性だよ?
む、胸が平らなところは親近感が沸くし、さらさらストレートの白い髪をふたつに結んでいたり……。
『という話はともかく。リィナさんが詠唱していたその聞いたことがないスキル』
『話すととっても長くなるので詳細はあとにしますが、ちょっとした事故? でみなさんとは違う職をゲットしまして……』
『もしかして、レア職業?』
『細かい分類はともかく、まあ、そんなところです』
なるほどと頷きながらフィーアはメモをし始めた。
『フィーア、メモは適当なところで区切って、戦闘に集中してくれ』
『うん、分かった』
『細かい話はこれが終わって落ち着いたらしてやるから』
って、それ、私も参加しなければならないものですよね?
……まあ、いいですけどね?
『リィナ、そろそろバフが切れる』
『あ。あいあいさ!』
またもや届く範囲でバフを掛け直しておいた。
ちなみに『癒やしの雨』はバフより有効時間が短いため、効果が切れる度に掛け直している。
『それで。どうしてボクを呼び戻したの?』
『オレは今、戦闘中だ。状況は見ているけれど、細かいところが見えてないから、代わりに見てもらおうと思って呼び戻した』
『なるほど』
いつもは戦わないで全体を見ているキースだけど、今回は珍しく戦闘に参加している。
『対人戦にはまったく興味はないんだが、今現在のオレの装備とレベルでどれだけ通用するのか見たかったからな』
『キースの装備はそのレベルにしては揃っているから、そこそこ通用するんじゃない?』
『あぁ。思ったより通用しているな』
『まぁ、ベルム血盟は今のところ上位に入っているけど、盟主をはじめとした周辺がそこそこ強いくらいで、それより下はそうでもないからいけるよ』
うー、やはりそうなのか。
で、今、残っている人たちは血盟内でも上の人たちってことか……。
さて、どうしたものか。
『オレとしてはベルム血盟を解体したいところなんだが、そうしたとしてもまたこいつらみたいな血盟が現れるから、今回の件で大人しくなればいいと思っている』
『キースさん、解体って……。過激ですね』
『リィナのさっきの《ピー》ね発言よりかなり柔らかいと思うが?』
『ぅ……』
問題発言は伏せられているし!
『最近では美味しい狩り場を独占しているとの話も聞いているから、ボクとしても検証が進まなくてお灸を据えてほしいなと思っていたところなんだけどね』
どうやら転職関係の場所だけではなく、美味しいと言われている狩り場でも『ココ使ってます!』をやっているようだ。
その気持ちは分からないでもないけど、それだったらわざわざオンラインゲームをしなくていいのでは? とも思うわけで。
いいところを独占して、俺TUEEEをしたいってのは分からんでもない。
なんだけど、やっぱりお互い様だと思うのですよ。
『さすがに残っているヤツらは硬いな』
『レベル差もあるんだと思うけどね』
『レベル差か。それで上位の廃人さまたちはレベル上げに固執するのか』
レベルに差がある場合、攻撃が通りにくいというのもある。
必中のスキルであったとしても、抵抗されてダメージが半分以下なんていうのはザラだという。
『てことは?』
『乾燥』のダメージが半分以下になる可能性が高いけれど、一応はダメージが通っているため『乾燥・解』は使えないということ?
うー、それはそれで困った……。
『前線で戦っているヤツらはオレたちと違って真面目にレベル上げをして互角のはずだから、そちらに期待するか』
といいつつ、キースは攻撃の手を緩めることはない。
半分以下でもダメージを与えられたらいいっていう考えなんだろうな。
そういうことならば、範囲でMPを上限まで突っ込んで『デバフ・無抵抗』が掛かるのを祈ろう。
『『乾燥』っ!』
イロンを手にして掛けたい範囲に向かって振り下ろすと、本来は残HPの半分を削るはずなのに半数が削りきれず、さらには『デバフ・無抵抗』が掛かったのも二・三人だった。
それでも掛かったから良かったのかしら?
サシャたちは動きが止まった人たちからサクッと倒していってくれた。
それからはサシャ、ももすけさん、ケンタムさんの三人が奮闘してくれたのだけど、向こうも不利なりにかなり抵抗していた。残りのベルム血盟員はこの三人が強いのが分かったらしく無視して、倒せそうな人たちから攻撃してきたために倒されてしまった。そのせいであっという間にこちらの残り人数も少なくなってしまった。
とはいっても、こちらが有利なのは変わらないけれどね。
って油断している場合ではなかった!
というのも、トニトたちが動き出したのだ!
だからと言って、私たちも誘われて動くなんてことはしませんよ!
キースもトニトたちが動き出したことに気がついてはいたけれど、動こうとしないで先ほどよりも渋い表情をしながらスキルで残っている人たちに攻撃をしていた。
私も補佐するように『乾燥』を掛けていくのだけど、さすがにここまで残っている人たちってだけあり、思うようにダメージが通らない。
先ほどまで気持ちがいいくらい一発でとどめを刺せていたから、余計にストレスがたまる。
『リィナも転職が必要だな』
『うー……』
洗濯屋の転職先ってなにか分からないのだけど、一応はクエストでフラグは立っている。
のだけど、ものすごく重たいのよね……。
『私の転職クエストはまずはキースさんが転職しなければいけないわけですからね』
『そうだったな。……今回のこの対戦で進むべき道は決まったかもな』
そういえばルートが複数あるから悩んでいるみたいだったけど、ようやく決めたのかしら?
『こちらは周りを片付けた。残るのはトニトたちだけだ』
向こうはトニトたち三人、こちらは私たち六人と高レベルと思われる人が三人の計九人。
かなり奮闘してるよね!




