第百九十六話*《二十七日目》揉め事は戦って勝ったほうが正しいって、なんだか複雑な気分
さて、いざ対戦の準備が出来たとなったのだけど、かなり集まってきてくれたとはいえ、明らかにベルム血盟が人数が多い。
その前にこれ、人を呼ばなかったら私とキースのふたりだけだった可能性が……。
『ハンデってないのですか?』
『ないだろうな』
むしろ、私たちふたり以外の参加を向こうが認めているのがすでにハンデとか?
……ありえる! ありえすぎてやだ!
『なんといいますか、前の運営との対戦の悪夢再びな感じがするのは気のせいでしょうか』
『気のせいではないだろうな』
あの時はミルムが大暴れしていた。
たくさんの罪のない人たちと私までBANされたので結末しか知らない。
結果としてプレイヤーが勝って元に戻ってめでたし? となった。でも、後味がものすごく悪かったけど。
『むしろ、あの運営との対戦はレアケースだ。これからはプレイヤー同士ということが増えるだろう』
確かに。
ことあるごとにプレイヤーと運営が戦っていたら、運営に問題がありすぎるってことになる。
そんな運営、嫌だっ!
『さて、どういうルールだとこちらに有利だと気がつかれないか』
あれ?
そもそもどうして戦うことになった?
思い返してみると、とにかく周りに迷惑だからここに移動させようという話になっただけ。
ただ、話をするために移動させるだけだと納得しないから、対戦を口実にしたのを思い出した。
『キースさん、戦う必要はないですよね?』
『ないが、戦って勝たないことには、あいつらはいつまでも付き纏ってくるぞ』
『むしろ負けないといつまでも付き纏ってきませんか』
『……負けるのは癪だ』
『それは同感です』
あんなのに負けるなんて、許しがたし!
負ければ顔を合わせる度に嫌味を言われそうだし、勝ったら向こうが勝つまで粘着されそうだし。
どちらに転んでもいいことがないって、ほんと、最悪。
『粘着質、嫌い……』
こういった人ってどうしてこちらの気がおかしくなるくらいつきまとえるのだろうか。
まっとうに生きていれば、自分のこと、周りにいる大切な人のことだけで手一杯で、嫌いな人に構っていられないと思うのだけど。
それとも、嫌味を言いつつ実は好きでたまらないから振り向いて欲しいの? それって悪手だと思うのです。
『ももすけとケンタム、後は珍しくサシャと……掲示板の主であるフィーアも来ているようだぞ』
『掲示板の主っ!』
とそこで、とても重要なことに気がついた。
『今日って火曜日ですよね?』
夜ならともかく、普通の人なら働いている時間帯のような……。
『そんな野暮なことは言うな』
『分かってはいるのですけど、とりあえずツッコミを入れたくて、つい』
世の中には様々な事情がある人がいるから、そういうことで!
キースはももすけさんたちをパーティに勧誘して、全員が入ってきた。
『キースさん、いつの間にかドゥオとウーヌスがいないのだけど?』
『人数合わせで入ってもらっていただけだ。そもそも彼らはNPCだから、オレたちの争いに巻き込むのは筋違いだろう』
『まあ、そうですけど』
ウーヌスと一緒に『乾燥』無双をしようと思っていたのに、残念。
『サシャ、珍しいな』
『そんなことないよ。ボス戦はあんまり興味ないけど、PvPは三度の飯より好きってだけ』
それはそれですごいけど、初めて会ったのはあの運営とのGvG大会だった。納得?
『それと、フィーア。久しぶりだな』
『そうですねぇ、久しぶりね』
真っ白な長い髪の毛をふたつに結んでいる女性が、掲示板の主と言われているフィーアらしい。
着ている服はチュールのような透け感のある布を何枚も重ねたワンピース。膝が隠れるくらいで、その下には白いふくらはぎ丈のレースのペチパンツを穿いている。
その服装のせいでふんわかした空気を感じるのだけど、それは周りを油断させるためにまとっているのだろうなと思わせるものがある。
『キースくん、なにやら面白いスキルを手に入れたらしいじゃないか』
キースくん……!
『あー……。それについては、改めて説明をさせてもらう』
『なんでだい、今からしてよ』
なんというか、このフィーアさん、とても独特な感性を持っている人のようだ。
『世界はこんなに広いのに! 新しい情報が入ってこないんだよ』
私なんて毎日が新しいことの連続なのに、フィーアさんは違うようだ。
『それなら今度、リィナと狩りに行ってみればいい』
『へっ、私っ?』
『キースくんも着いてくるんだろう?』
『当たり前だ』
『ボクはキースくんは要らないなあ』
『オレからリィナを盗らないでくれないか』
『君にはフーマが……って、あれ? フーマくんは?』
『妹と結婚した』
『ボクもキースくんも振られたのか! ははは』
相変わらずフーマもモテモテなのね。
なんて思っていると、ずずいっとフィーアさんが寄ってきた。
『さっきから気になっていたんだけど、赤髪の彼女は?』
『オレの伴侶だ』
『……ハンリョ?』
フィーアは目を丸くしてキースを不思議そうに見ていた。
私の時と似たような反応だったので、思わず苦笑してしまった。
『ここで言う伴侶とは、つまりは嫁、妻、奥さんとも言うな』
改めてそう言われると、妙な恥ずかしさがあるのですが!
『それは、ゲーム内だけの話かい?』
『いや、現実でもだ』
『……なるほどね。それで彼女を守るために新スキルを取得した振りをした、と』
『……相変わらず、鋭い洞察力だな』
キースは珍しく大きなため息を吐いて、フィーアを見た。
『その話をすると長くなるから、ゆっくりと話すために先にあいつらをさっさと片付けよう』
『ベルム血盟、だね。ボクの書き込みに対していつも筋違い、的違いのツッコミを入れてくるし、検証の邪魔をしてくるし、ほんと、邪魔なんだよね』
『同感。ほんっと邪魔しかしてこない』
フィーアとサシャは顔を見合わせた後、キースと私を見た。
『とにかく! 今回の言いがかりはこちらに好都合なわけよ!』
『ぎったんぎったんにやっちまってくだせぇ!』
私たちはまだ少ししか被害を受けてないけど、サシャとフィーアはβテストからやっていて、度々の妨害などを受けていて因縁の相手のようだ。
『直接手を下せる日が来るなんて、頑張ってきた甲斐があった!』
『なにがなんでも勝って、掲示板に勝利宣言を書き込みたいね』
『いいね!』
サシャとフィーアはふたりで盛り上がっている。
楽しそうだなと見ていたら、ポンッと頭に手が置かれた。
『あそこに混ざりたいか?』
『んー』
一緒にワイワイやりたいかと聞かれて、少し悩んだ。
そういえば最近ではそういうことしたことをやってないな、と。
『ベルム血盟の人たちをぎったんぎったんにしてから一緒に喜びます!』
『そうだな、それがいいかもな』
思っていたより優しい視線にかなり戸惑ったけれど、それを味わおうとしたところで、大きな声が遮った。
【いつまで待たせるんだっ!】
ベルム血盟の盟主のトニトの声。
待たせたのはどっちだよ! と思ったけれど、キースが冷静に返した。
【待たせて悪かったな。どうすればオレたちが勝てるかを相談していた】
それ以外の話が多かったけど、素直に言うものでもないし。
というより、煽ってませんか?
【数でも戦力でも明らかにこちらが勝っているから、いくら戦略を考えても無駄だな!】
向こうはスルーすればいいのに、いちいち反応しているし。
キースは煽りつつルールを提示した。
【復活はなしで、どちらかの人員がゼロになるまでやるか】
【こちらが有利だが、いいのかぁ?】
運営との対戦と同じルールだけど、今回はこちらは人数が少ない。分かっていてこのルールにした。
要するに向こうが油断している隙にガッツンガッツンと削ってやればいいのだ。
【戦闘が始まったら、人員の追加はなしで】
【それはこちらがおまえらに言いたいことだな】
【審判はどうする?】
【要するにお互いがここで殺しあうんだろう? ここのフィールドにシステムがあるからそれを利用すればいい】
なるほど、ここではPvPができるから戦う条件も設定できるのか。
一対一ならともかく、複数人対複数人、ひとり対複数人という場面もある。
乱戦になるのは目に見えて分かるので、審判云々は無理よね。
【用意はいいか?】
【こちらはいつでもいいぞー】
その言葉に、私たち全員、固唾をのんだ。




