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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《二十六日目》月曜日

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第百九十二話*《二十六日目》「使ってます」は悪習過ぎる

 扉の鍵を開けて引くと、目の前には数日前に行った場所に繋がった。


「あれ? なんでここ?」

「まずはオレが転職しろってことだろう」


 そういえばそんなことを言われたような気がする。


「……見る限り、あいつらはいなくなっているな」

「言われてみればそうですね」


 さすがに今回は運営がすぐに対応してくれたようだ。

 だが、まだそのことが広まっていないからなのか、私たち以外の人はいなかった。

 本当にだれもいないのかレーダーも含めて確認してみた。


「むぅ?」


 レーダーを見るとモンスター以外もいるようで、白い丸がぽつぽつとある。

 疑問に思っていると、キースが無言でパーティ申請をしてきたのですぐに承諾した。


『何人かプレイヤーが隠れているな』

『やっぱりいますよね』


 レーダーが壊れているわけではないようでホッとした。

 のだけど、どうして隠れている?


『なんで隠れているのかはだいたい分かっている。気にせず狩りをするぞ』

『はいにゃ! 『癒しの雨』『アイロン宛て』『アイロン補強』っ! そして『乾燥』!』


 少し先に固まっているモンスターに『乾燥』を掛ける。のだけど、わざとHPが残るように調整。

 パーティを組んでいればパーティメンバーにはクエストアイテムが行くようになっているのだけど、どうやらこの転職アイテムは必要な人が少しでも攻撃したほうが入手しやすい、なんて話も出回っている。あくまでも噂だけど。

 必ず出てくるアイテムならともかく、確率で出てくるアイテムなのでこればっかりは運もある。なのでその話が本当なのかどうかまでは検証されてない。というより、出来ない。


 キースも私の意図が分かったようで、範囲でサクッと片付けていた。


『……アイテム来たぞ』

『さすがキースさん、早いですね』


 拍子抜けするほどあっさりとゲット出来たようだ。


 いつまでもここにいてもと思って移動しようと振り返ったら。


「おい、だれの許しを得てここで狩りをしてるんだ」


 と見るからにガラの悪い人たちがゾロゾロと現れた。多分だけど、この間の血盟の人たちなのだろう。

 キースは私を背中に隠すと、集団を見た。


「ここはプレイヤー全員が狩りをしてもいい場所のはずだが?」


 キースの一言に、ガラの悪い人たちは気色ばんだ。

 のだけど、どうやらこちらが誰なのか分かったようで、少しだけ勢いがなくなったのが目に見えて分かった。


「狩りしても問題ないよな?」

「駄目だ! おれたちが使っているからな!」

「使っているって、この辺りにだれもいなかったぞ」

「きゅ、休憩していたんだ!」

「それなら、問題ないな。休憩している合間をぬって狩りをしたからな」

「駄目だ!」


 休憩中も使っては駄目だって、なにそれ。

 ムッとして口を開こうとしたら、先にキースが口を開いた。


「なるほど。おまえたちはこのゲームの運営会社や開発会社の資金提供者なのか」

「なにを言ってるんだ?」

「それとも、株主か?」

「は?」


 キースの質問に戸惑いの表情を浮かべ、こちらを見てくる。


「この世界は、ここに存在している者たちで共有されているはずだ。専用のアジトなどならともかく、ここは一般狩り場で、だれのものでもないはずだ。なのにそれを『使っています』の一言で独占できるとでも思っているのか?」


 キースの口からこぼれた言葉は、大半のプレイヤーが抱えていたもやっとした気持ちだ。

 だれもが思っていて、だけど楽しみたくて遊んでいるゲームでトラブルになるのを嫌がってのみ込んできた言葉。


「なに屁理屈を言ってるんだ。ここはおれたちが……」

「なるほど。分かった。それなら、おまえたちが使っているところをかぶせても問題ないな」

「は? なにを言ってるんだ。おれたちが」

「独占できる根拠がないのなら、だれが使っても問題ない、ということになるよな? フェラム」


 いつの間に現れたのか、私たちの後ろにフェラムがいた。


「基本、プレイヤー間の揉めごとに運営は関わらないのですけどね。あまりにも苦情が殺到しているため、急きょ、対応することになりました」


 凜とした声でそう宣言したフェラム。

 だけど向こうの『使っています』血盟の人たちは状況が分かっていないようで、怒号が上がった。


「おまえだれだよ!」

「なんだよ、口出しするな」


 などなど。


 これ、上総さんに見せられないなぁ……と思っていると、フェラムが横に来て大きなため息を吐いたのが分かった。


「……どうしてどのゲームにもこういう輩は沸いてくるのでしょうか」

「ゲーム内でしか()()できないからですよ」

「なるほど」


 フェラムは今度は大袈裟なくらい大きなため息を吐いた。


()()()血盟に所属しているのならば、自分たちがやっているゲームのゲームマスターくらい把握しておいてほしいものですね」


 いやいやフェラムさん、それは無茶な注文なのでは? と思ったけど、口には出さなかった。


 キースはいつの間にか私の後ろに回り込み、いつものように背後から抱きかかえるようにしてきて耳元で囁いた。


『見守り隊も来たから、後はフェラムに任せよう』

『せめて一言、伝えません?』

『問題ない、フェラムから行くように指示があった』


 いつの間にと思ったけれど、ウィスパーを使ったのだろう。

 フェラムが出てきたタイミングが良すぎるのは、キースが呼んだからかもしれない。その時に事情を話したのだろう。

 そのあたりのことは後で聞こう。


 フェラムの好意を無駄にしないようにゆっくりとジリジリ後退(あとずさ)りした。私たちのことに気がついた人がいたけれど、指摘される前にとかなり離れたところで『帰還』を使った。

 着いた場所はいつもの扉の前だ。一瞬で洗浄屋に戻ってこられるなんて、とっても素敵だ。


「さて」


 キースは腕を組んで、なにか考えているようだった。たぶんだけど、私と同じことを考えているような気がする。


「キースさん」

「なんだ?」

「別の転職アイテムを取りに行きたいけど、また難癖付けられそうだから違うことをするか、って顔してます」

「……そうだ」

「読心術ですね!」

「あの状況を見ておいて、これ以外のことを考えられるか?」

「いやまあ、そうなんですけどね」


 そうなんだけど、強行突破でもするのかなと思ったのだ。

 ただ、キースは基本、揉め事を嫌う。

 だから次の場所も揉める可能性が少しでもあるのなら、あえてそこに行こうとはしない。


「君子危うきに近寄らず、だ」

「とはいえ、避けたのにエンカウントするってヤツですね!」

「……そうだ」


 避けても別の厄介ごとに遭遇するって。


「あれ? もしかして、上総さんのとばっちり?」

「……なるほど、そういうことか」


 キースはどこかで納得したのか、大きなため息を吐いた。


「上総が未来を視て、未来を変えた代償をオレが代わって払っていると。不服なところがかなりあるが、この程度で済んでいるのならいいのだろう」

「それでキースさんってなんとなく薄幸そうな感じがしていたんですね」

「薄幸そう……。そんなにオレ、幸が薄そうか?」

「うーん、なんというか。昔からやたらとトラブルに巻き込まれてませんか?」

「言われてみると確かにそうだな。この状況が当たり前すぎて言われるまで気がつかなかった」


 この状況が当たり前って……。


「だが、本当に幸が薄いのなら、伴侶に逢うことはなかっただろうな」

「あー……、伴侶……」


 それって元伴侶のフーマのことも含むのかしら?


「しかもふたり。だからオレは幸は薄くないっ!」


 と断言したけど。


「単純に巻き込まれやすいと?」

「そうだ、そうに決まっているっ!」

「そういうことにしておきましょう。……では、次はどこに行きますか?」

「それでは──」

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