第十八話*《二日目》運営はクエストを終わらせる気があるの?
なにかに導かれるように池の畔にやってきたリィナリティだが、そこで助けを求める声が聞こえてきたので、声の主を探すのだが──。
ってな感じなのですが、なんかですね、私の視界に『隠れているなにかを探せ!』というメッセージが表れたのですよ。
あれ、これってさっきの突発クエストなの?
……うーん、どうもあそこで音が聞こえたのに反応したかしないかでルートが分かれているっぽい?
フィニメモのクエストって、フラグを立てたというか、分岐点を踏んだところでこうやってメッセージが出るものなのかしら?
その判断をするには材料がなさすぎる。なんたって私はまだ、チュートリアルクエストしか終わらせてないのだから。
さて、次の行動についてメッセージが出てきているので、声の主を探しますか。
私の視界の右には砂時計と時間が表示されているけど、『00:49:56』となっている。どうやら突発クエストが開始されて十分が経過したようだ。
この寄り道が、功と成すのか仇と成すのか……。
分からないけど、メッセージが出たのだからまるっきり意味を成さないってことはないだろう。
……たぶん。
さて、と。探しますかね。
ちなみに、だが。
私のリアルでのパッシブスキルだけど、『迷子』が搭載されているのはもちろんのこと、探し物が下手なのも付いている。スキル名を付けるのなら、『探し下手』だろうか。探し上手ならともかく、こんなスキル、要らないんですけど!
それにしてもここは不思議な空間だ。
池からは淡い色の光……ではない? これ、なんだろう?
それが次々と立ち上ってはパチンと弾けて消えていく。
シャボン玉のようにはハッキリはしてないんだけど、あえて例えるのなら蒸気?
ん? 蒸気?
どうしてそう思ったのか確認するために池に近づくと、なんだかむわっとした風が顔に吹き付けてきたうえに蒸し暑いのだ。
蒸し暑いって、これ、池ではなくて……。
「まさか温泉?」
唐突に現れた温泉に疑問符が飛びまくる。
それにしても、色の付いた丸い湯気が立ち上る温泉って初めて見た。
温泉の色はここから見る限りでは透明に見えるんだけど……。
『たす……け、て』
今までの中で一番ハッキリ聞こえた声。やはり「助けて」だったのだけど、どこから聞こえるのだろう? 周りを見てもそれらしき影もない。
「……どこ?」
池というより温泉? の縁に立って見回すのだけど、色とりどりの湯気のせいもあり、視界はあまりよくない。
悩んでいると、がしぃぃぃっと足首をつかまれた!
「ぎぇっ!」
あまりにも突然だったのもあって、まったくかわいげのない悲鳴が口から飛び出てしまった。
おそるおそる下を向くと──。
「ぎゃぁぁぁっ!」
騒がしいって言わないでっ!
だだだだだって!
そこには……。
「……えっ?」
むちゃくちゃ悲鳴をあげましたが、私の足首を掴んでいるのは、水色らしき長い髪の毛が身体中にまとわりついている……。
「えーっと、なんかこんな妖怪がいたよね?」
『あたちは妖怪などではないでちっ!』
妖怪ではないと主張する水色の髪の毛の塊みたいな人?
人、といっていいのかしら?
『早くあたちを湯からあげるでち!』
よくよく見ると、私の足首を掴んでいる手はとても小さいし、髪の毛の塊みたいにはなっているけど、身体はむしろオルより小さい?
「仕方がないわね」
この水色の毛の塊が助けてといっていた対象かは不明だけど、目の前で助けてと言っているのなら、助けるしかないか。
いえ、決して、決して! 足首を掴まれてるからってわけではないからね?
「助けるから、まずは手を離してくれるかしら?」
『嫌でち! 離したら、溺れるでちよっ!』
溺れる?
いや、そもそもここって温泉じゃないの?
水深が深い温泉がないわけではないけど、通常ならばいくらなんでもこの子でも足がつくはずよね?
……悩んでも仕方がないか。
とにかく、脇の下に手を入れて……と。
「よいしょっ!」
水色の毛の塊を引き上げようとしたのだけど、なんということでしょう! 引っ張ってもビクともしない。
なんで?
『あたちを引っ張るでち!』
「いや、引っ張ってるよね?」
『それは違うでしっ!』
違う、とは?
いったいどういうことなの?
頭の中は疑問符だらけなのだけど、脇の下に入れていた手を抜いてから屈んでみた。
よくよく見てみると、私の足首を掴んでる腕とは別に、もう二本の腕があった。
「あ、これ、あれだ! 仏像でこんな感じの手が何本もある……」
『だから、違うでちっ!』
あれぇ? 違うの?
「じゃあ、あなたの腕はどれなの?」
『あたちの腕は、これ! なのっ!』
これ、と言ったときに足首を掴んでいる手の力が入ったので、こちらが正解なのだろう。
私は手探りでわさわさと足首を掴む手を掴んだ。
「これ?」
『それでち!』
腕を引っ張るのは危険なので、腕を撫でるようにスライドさせて、脇の下に手を入れ、思いっきり引っ張ってみた。
「どりゃぁぁぁっ!」
すると、水色の毛がぶちぶちぶちっと音を立てて切れ、中から……。
『助かったでちっ!』
水しぶきとともに飛び出してきたのは、燃えるような橙色に近い赤髪の幼女、だった。
幼女はくるくるっと宙で回転すると、両手を高く上げ、着地した。
「おー、すごい、すごい」
ぱちぱちぱち……と拍手をすると、幼女は胸を張って威張っていた。
燃えるような赤髪に、黒い瞳。そして髪の毛と同じ色味の着物を着ている。
うん、なんだろう。
なんかこんな妖怪、いたよね?
いや、妖怪は見たことないけど、ほら、和風なRPGは一定のファンがいるために定期的に出されていて、私もプレイしたので知っている。
「座敷わ……」
『違うでちっ! あたちはぶらうにぃなのでち!』
ブラウニーって、あれよね?
「座敷わらしの海外版よね?」
『うぅぅ……だ、だいたい合ってるでち』
ブラウニーと言い張る座敷わらしの拙い説明を要約すると、昔から村長の屋敷に住み着いていたのだけど、謎の魔術師によって呪いをかけられ、屋敷は武家屋敷になり、そこにいたブラウニーも座敷わらしのような姿に変えられたという。
……ねぇ、このゲーム、次から次へと謎だけ出して大丈夫なのっ?
これ、きちんと解決される?
まさか『俺たちの戦いはこれからだ!』の打ち切り風エンドや、なんらかの理由で休載(期間無期限)、果ては作者が亡くなって断筆……なんてこと、ないよね?
なんだか思っているよりも壮大な話になってきているような気がしないでもないけど、気のせいにしよう!
「そ、それで、私はどうすればいいのかしら?」
『呪いをかけた魔術師を探してほしいでちっ!』
うん、みなまで言うな。
【クエスト】呪いの魔術師
が受諾されました。
と目の前に浮かんで、消えた。
え、私、承諾してないよ?
いや、するけど! しますけど!
なんか私の周りだけバグとしか思えないことが次から次へと出てくるのですが!
「……呪われてるのは私もよ……」
思わずそんなつぶやきが洩れるくらい、フィニメモではおかしなことしか起きてない。
「あなたに呪いをかけた魔術師は探すけど、すぐには見つけられないわよ」
『なんででち?』
「私も呪われているみたいで、村から一歩出ただけでモンスターに襲われて死んじゃうのよね」
『それはそうなるでち!』
「……え?」
『背中に……と言っても見えないでちね』
そう言って、ブラウニーと言い張るその子は私の背後に回ると、背中に触れた。
『取れたでち! これのせいでちよ!』
座敷わらしから渡されたのは、一センチにも満たない小さななにか。
「これはなに?」
『それはな、もんすたぁおびき寄せしぃるというやつでち!』
「モンスターおびき寄せシール? なにそれ? ……これ、私が預かっていてもいい?」
『もちろんでちよ』
良く分からないけど、インベントリに入れられるようなので入れてみた。
説明欄を見ると、
【「モンスターおびき寄せシール」の一部】
このシールはフィールド上にある木や岩に貼って使用します。モンスターがたくさん近寄ってきます。PCやNPCに貼るのは厳禁!
と書いてある。
これだけの説明なのに、突っ込みどころが満載って、本当に運営ってすごいわ!
そもそも、シールの一部って……。
しかも運営さん、この説明だと人に貼れと言っているのと同じですよね?
私は実際に貼られたせいで村から出られないという目に遭ったのですが、これ、運営に言ったら、対応してもらえるものなのかしら?
「なんてものを……」
『これで問題なく村から出られるでちよ』
「……まだ半信半疑だけど、ありがとう」




