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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《二十二日目》木曜日 *《二十一日目》水曜日は省略!

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第百七十五話*《二十二日目》魔王から逃げてきましたっ!

 時計を確認すると、二十一時過ぎ。

 さて、どうしたものか。


「キースさん、どうしますか?」

「……微妙な時間だな」

「そうなんですよ。……あ、そういえば」

「ん?」

「さっき、血盟の話が途中でしたけど」

「そうだったな。……では、その話をするために戻るか」


 ということで、すぐそばではあるけれど、『帰還』で洗浄屋へと戻った。

 店舗から入ればいいのかもだけど、面倒なのでスキルで戻ってみた。


 着地したのは、扉の前。

 ここに戻る設定になっているのかもしれない。


「台所に行くか」

「あいにゃ」


 台所に行くと、だれもいなかった。クイさんは自室に戻ったのだろう。

 お茶が飲みたかったので、お湯を沸かして茶葉を取り出して準備をしていると、声が聞こえてきた。


『リィナリティさん、キースさん、今からそちらにうかがってもよろしいですか?』


 この声は……フェラム?


「どうぞ」


 フェラムが来るということは、一人分、お茶を増やさなければならないのか。

 お湯は多めに沸かしているからいいとして、茶葉を一人分、増やさなければ。


 準備をしてお茶が入ったタイミングでフェラムが現れた。


「こんばんは」

「……こんばんは。色々と変わっているけど、なにかしました?」

「あ」


 そうだった、色々といじったのを伝えるのを忘れていた。


「ちょっと悪いとは思ったのだけど、運営陣が入れるように設定を変えさせてもらいました」

「あ。設定変更はいいのですけど、NPCの設定は変えてないですよね?」


 私の質問に、フェラムは眉間にしわを寄せた。


「……ごめんなさい、そこ、いじったかも」

「うぎゃああああ、それ、マズいですって! すぐに元に戻してください!」


 私とキースが焦っているのを見て、フェラムも焦って設定を修正してくれたようだった。


「元に戻しました」

「ありがとうございます」

「……それにしても、なんでこんなことに?」


 席に座ってフェラムに簡潔に説明した。

 こうして改めて説明してみると、なんとも理不尽な感じだ。


「赤の魔術師が、ですか……」


 腕を組んで眉間にしわを寄せてフェラムはなにか悩んでいた。


「なので、模様替えをして一階すべてを店舗で必要な場所にして、二階は居住区として区分けしました」

「そうすることで許可のない者は二階に上がれないようにした、と」

「はい、そうです」

「運営まで入れないようになっていたからびっくりしました」


 運営のことなんて考えてなかった……とは言えなかったので、乾いた笑いを返すことしかできなかった。


「それにしても」


 フェラムはお茶を何口か飲んだあと、口を開いた。


「なんで私を休ませてくれないのですか……」

「え……と?」


 なんのことだろうか。

 今回の勝手に模様替えのこと? それとも別のこと?


「具体的に!」

「今回の拠点の部屋移動は問題ありません。ただ、運営が入れなくなっていたのは大変な驚きでしたので、今後のアップデートで修正します」

「このタイミングで分かってよかったですね?」

「そうですね。運営がそのことを知らず、プレイヤーが運営に秘匿するための空間なんて作られたら困るところでしたから」


 ということは、これはいいことをしたということで!


「それだけならともかく。変異種を出したばかりか、ふたりで倒してしまったと聞きました」

「あー、それですか。確かに倒しました!」

「倒しました! ではないですよ! 通常ボスをふたりでっていうのもマズいのに、変異種をふたりで倒すとは!」

「……あれ、やっぱりマズいですか?」

「マズいに決まってるではないですかっ! 設定を変えて強化していたのに、あっさりと倒すなんてっ!」

「フェラムさん、あっさりではないですからね! かなり苦労しました!」

「苦労したといいますけど、見守り隊からの報告によれば、おふたりはほぼノーダメージだったではないですか」

「キースさんは被弾してました!」

「リィナリティさんは無傷ではないですか」


 フェラムが言うとおり、被弾してない。


「だって、痛いのは()じゃないですか」

「そうですけど! だからってノーダメージはおかしくないですか?」


 フェラムの言っていることは良く分かる。

 洗濯屋のデフォルトヘイト値が高い割にダメージを喰らっていない。


「……倒してしまったものは仕方がありません。さらに強化するかは運営で話し合います」

「強化はしない方向性でお願いします」

「私の一存では決められませんから、どうなるかは分かりません」


 一区切りしたところで、今までずっと黙っていたキースが口を開いた。


「おまえら、義理とはいえ姉妹なのに敬語で会話とか、見てて面白いんだが」

「ここはゲーム内です! 現実(リアル)のことは持ち出さないでください!」


 フェラムはキースをにらんだ。

 うーむ?


「フェラムさん、上総さんとは、その?」

「聞かないでください! ようやく! ようやくあの魔王の手から逃れて来たのですからっ!」

「上総さんって魔王だったのですか?」

「……くっ、上総、余裕なさ過ぎ」


 キースを知っているだけに、上総さんの状況を易々と想像できてしまう。


「とにかく! 離してくれないのですよっ!」

「まぁ、藍野に気に入られてしまった時点で諦めるしかないな」

「べ、別に上総さんのことが嫌いな訳ではないのですよ! ただ、もう少しその、距離感というものを学んで欲しくて、Deathね!」

「フェラムさん、私とキースさんを見ていれば、その願いは無理だということが分かりますよね?」

「……分かりたくないですっ!」


 クイさんがキースはまだ自制していると言っていたけど、そうなのかもしれない。


「そいえば、マリーちゃんとフーマをこっちでもリアルでも見かけないけど、まさか?」

「マリーも藍野だからな。フーマは捕まったままかもな」


 それでログインしてこないし、夕飯もこちらに来て食べていないのか。


「それを聞いたら、オレがどれだけ自重しているのか分かったか?」

「……そうかもですけど、比較対象が振り切っている人たちなので、比較できないDeathね」

「ということで、フェラム。上総が落ち着くまで大変かと思うが、頼んだぞ」

「ということでって!」

「……落ち着くことってあるのですか?」

「まぁ、いつになるかは分からないが、落ち着くだろう」

「それってつまり、落ち着くことはないってことですねっ?」

「そうかもしれないし、そうではないかもしれない」


 藍野の男性は、キースと上総さん、それと依里(より)さんしか知らない。

 そして依里さんの伴侶はすでに亡くなっているため、どういう態度を取っていたのか分からない。

 分からないけれど、想像は(かた)くない。


「……フェラムさん」

「はい」

「お互い、諦めましょう……」

「えっ? ちょ、リィナリティさんっ?」

「私の父も母のことが大好きすぎて、いまだにべったりなんです。それを見て育ってきたので、覚悟するしかないと思います」

「そ、そうなんですね。うちとは大違いです」


 あ、毎度のことながら、無意識に踏み抜いてしまったかも!


「……すみません。今のは聞かなかったことに」

「あ、はい」


 フェラムの家庭環境が気になるけど、今は聞かなかったことにしよう、うん。


「それで、キースさん。血盟のことなんですけど」

「あぁ、そうだったな」


 キースはさりげなくお茶のおかわりを要求してきたので三人分を改めて淹れた。


「血盟……。ギルドともいうが、フィニメモでギルドというと職業別組合、ファンタジーでよくあるクエストを受注できる場所、だな」

「え、フィニメモってギルドがあったの?」


 私の質問にキースとフェラムは呆れた表情を向けてきた。

 あれ? なんか変なこと言った?


「……分かっていたが、同じ世界にいながらリィナとオレは違う軸にいるようだ。今、こうして同じ空間にいるのが奇跡なのではないかと思える」

「リィナリティさんは今までどうやってレベル上げや装備品をまかなっていたのか、疑問につきませんね」


 指摘されて気がついたけど、今までやって来たゲームだと最初の村や町を探索したりNPCからクエストを受けて、装備や消耗品、お金を調達をしていたけれど、フィニメモではそれをやってない。指摘されて初めて気がついた……!


「MMORPGでは定番の金策などしてません!」

「それを言ったら、オレも大した金策はしてないな。フィニメモは序盤から中盤はドロップでどうにかいけるからな。それと幸いなことにオレたちは防具を作ってくれる人がいるのも大きい」

「そうですね」

「なるほど」

「それで、血盟とは?」

「……毎度ながらそれてしまうな。フィニメモで血盟に入ると言うことは、今後、追加される攻城戦への参加資格を得ることができる、というのが大きなメリットか?」


 そういえば、フィニメモの大きな売りはそこだったと思い出した。


「オレは攻城戦は興味がないし、下手に血盟に入ると人間関係のトラブルに巻き込まれる可能性が高いからな」


 私としてもメリットはないので、入らないでおこう、うん。


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