第百七十話*《二十二日目》変異種?
キースと手を繋いで外に行こうとしたけれど、ふと狩りに行く前に、確認したいことがあったのを思い出した。
「キースさん、ちょっと待ってくれますか」
「なんだ?」
「ここの中の確認とマップの確認がしたいです」
「あぁ、そうだな。サクッと確認して狩りに行くか」
ということで、マップと照合しながら二階を探索した。
二階の造りは横長で、真ん中にどこにでも瞬時で繋いでくれる扉があり、そこを境にプレイヤー用の部屋とNPCの部屋と分けられている。
台所は扉の近くにあり、どちらからもアクセスしやすくなっていた。
そして台所を挟むように両側に階段がついていて、ここから階下へと行けるようになっている。
NPCの部屋は人数分しかなく、余分な空き部屋などない。
だけどプレイヤー用の部屋はいくつか空き部屋があったけれど、それらはすべて私が所有者になっていた。これはメンテ前に設定したまま引き継いでいた。
台所をのぞくと珍しくだれもいなかった。
この時間は階下で仕事をしているのだろう。
階下がどうなっているのか確認したかったけど、仕事の邪魔になるといけないので、これは後にしよう。
確認が終わったので、扉に戻ってきた。
扉に手を掛けて開けるために引いたのだけど。
「……あれ? 開かない?」
「鍵を開けないと開かないだろ」
「さっき、閉めたときに鍵は掛けてないですよ?」
「それなのですけど、自動で閉まるようになってます」
オルドの説明に、疑問が。
「自動で閉まるの?」
「はい。ここの扉ですけど、建物の外からは見えないのですよ」
「洗浄屋の外から見ても?」
「はい。ただの壁にしか見えません」
「へー」
「それもあって引いて開けるようにしてます」
なるほど、いろいろと考えられてるのね。
「あと、この扉が鍵で開けるようにしているのは、許可されていないものがなんらかの理由で誤って迷い込んだとき、勝手に使われないようにするための措置です」
「そんなこと、有り得るの?」
「ゼロとは言えません。なんらかの不具合や意図せぬ変更等、なにがあるか分かりませんからね」
ま、まあ、あの運営だからね……。
予期せぬことが起こるのは大変にあり得る。
そういったことを想定して、変更がなされたことは良く分かった。
「うん、ありがとう。よく考えられてると思う」
「そうですか! よかったです! キースさんの提案がほとんどですけどね!」
「おまっ! それ、言うなって言っただろうが!」
「ぁ……。す、すみません! こんな手放しで褒められたらその、慣れないもので、つい」
キースの案だったのか、なるほど。
「キースさんもありがとにゃ」
見上げてお礼を言うと、キースは真っ赤になってそっぽを向いた。
恥ずかしがり屋なのね。
「オルドたちシステムも一緒に考えてくれたからな」
みんなが考えてくれたというのを知って、とても嬉しくなった。
「みんな、ありがとう!」
◇
さて。
本日もニール荒野にやって来ましたよ、と。
ニール荒野に生息しているモンスターは一通り倒したと思う。
ただ、ここにもボスとレイドボスがいるはずなのだけど、発見されてるのかしら?
今までレイドボスが出てきた状況を思い出してみると、何体? 何十体を一発で倒したのをキーにして出現していたような気がする。
いや、気がするではなく、そうだった。
なんだけど、そもそもが初期村周辺ならともかく、この辺りから何十体と一発で倒すなんて、どれだけのお化け火力の持ち主なのかってことになるのだけど。
残念ながら、私はそれが出来てしまうのですよね。
洗濯屋ってまさかのチート職だった?
なんてNe☆
とはいえ、ここも同じ条件が設定されているのかというと、さすがに違う条件のような気がするのですよ。
「キースさん」
「ん?」
「ニール荒野ってボスとレイドボスって発見されてるのですか?」
私の質問に少しの間、悩んでいた。
「……されていたような、いないような」
「はっきりしない?」
「すまない。この辺りになると、フーマとひたすら狩りだけしていた記憶しかない」
「ふむ。となると、オルドは知ってる?」
「ここのボスとレイドボスですよね。問い合わせますので少々お待ちを」
それほど待つことなく、再度、オルドが口を開いた。
「この辺りからボスとレイドボスは出現条件がなくなり、常時、出ていますね」
「そうなんだ」
「ただ、ボスもレイドボスも倒されると一定期間が経たないと再出現しないですね」
「リポップのサイクルが通常モンスターより長いってこと?」
「はい、そうです。これはメンテナンスやなんらかの不具合などで鯖の再起動がなされても引き継がれます」
「へー。オルド、ありがとう」
「いえいえ」
ということは、だ。
今までみたいに意図せぬ形で出現させてしまうことはない、ということか。
うん、安心して狩りができますね!
「では、キースさん。昨日に引き続きレベリングしますか!」
「あぁ、そうだな」
いつものようにキースからパーティ申請が来たため、承諾する。
今日は再び荒野ウサギエリアDeathっ!
バフを掛けて狩りを始めてその異変はすぐに来た。
前にここに来たときよりレベルが上がっている。とはいえ、適正レベル。
レベルが上がってスキルレベルも上がったおかげなのか、荒野ウサギは一発で沈んでいく。
一撃で沈んでいくのが楽しくて、荒野ウサギばかり狙って倒していたら、ゴゴゴゴという音が聞こえてきた。
『んにゃ?』
『リィナ、またやったな』
『へ?』
キースを見ると、楽しそうに音がしてきたところに視線を向けていた。
なので私もそちらを見たのだけど。
『……な、なにっ?』
狩りをしていて妙な空き地があるなと思っていた場所に、周りの荒野ウサギと色違いが数羽いた。
『色違いのモンスターなんて沸きました?』
『リィナ、よく見ろ』
んん?
そうだ、鑑定だ!
ということで鑑定をしてみたのだけど……。
『荒野ウサギ・変異種?』
え、なにそれ?
荒野ウサギはこの荒野で目立たないように茶色の毛をしているのだけど、変異種はまるで草のような濃い緑色で毛が逆立っていた。
『変異種とは?』
『まんまだな。……あぁ、身体が大きいのを鑑定してみろ』
キースに言われて改めて見ると、荒野ウサギよりひとまわり大きな変異種が四匹に、かなり大きなのが一匹。
キースはそれを鑑定してみろと言っているのだろう。
それでは、改めてそちらを鑑定、と。
『……ボス・荒野ウサギ・変異種? へっ? えっ、えっ? オルドっ?』
さっき、ボスは倒されて待機中といった話をしてなかった?
「ん? なんですか? ふむふむ……分かりました」
オルドがだれかと話をしていた?
『リィナリティさん』
『にゃ?』
『例外がありまして』
『例外?』
『ニール荒野からボスとレイドボスは他のモンスター同様にフィールドにいますが、これらが討伐されて再出現待機期間中に限りますが、初期村周辺でボスとレイドボスを出す条件と一緒で、条件が成立した場合、変異種が沸くそうです。これは通常のボス、レイドボスより強いです』
『にゃんだってぇ!』
『さすがだな、リィナ。やはりオレの嫁だ』
『なに感心してるのですかっ!』
『おっと、向こうに気がつかれたぞ?』
『うぅ。『アイロン補強』、『アイロン充て』、『癒しの雨』っ! 『乾燥』っ!』
こうなったらヤケクソである。
先手必勝と言わんばかりにバフをして、MPマックスを注いでの『乾燥』である。
出来たらデバフが効いてくれるといいのだけど。
あれ? そういえば家族型のボスって始めてじゃない?
今まで戦ってきたボスとレイドボスは基本は単体だったけど、状況に応じて雑魚が出てくることはあった。
ちなみに家族型というのは、親がいて子がいる今回のような形のことをいう。
一体だけいるのは、単体だ。
家族型だけど、一体を叩くと連鎖するのが特徴だ。
後は親だけアクティブということもある。
この場合、親を叩くと子がリンクして襲ってくるので油断すると危険。
今回の場合は親の索敵範囲が広いのか、私が召喚してしまったから反応したのか、よくわからない。
分からないけれど、戦うしかないっ!
攻撃を加えたため、それまで反応していなかった子まで私めがけて来ているけど、それに反して親は止まった。HPは半分になっていた。よかった、デバフも効いたようだ。
とはいえ、安堵している場合ではない。
子もまとめて『乾燥』をと思ったけれど、倒せていないため、MPが回復していないっ!
おぅ、これは油断していた……っ!




