第百五十八話*《十八日目》あれ、かなり肉薄していたのね
昼の部です!
お昼ご飯は楓真と陽茉莉とともに食べた。夕飯も一緒に食べようという話になったのだけど、それはいつものことではあるのだけど、今日は上総さんも一緒にということだった。
上総さんもってことは、フェラムのことを聞きたいから?
それはともかく、みんなが集まって食べるのは楽しいから、今から楽しみだ。
そして、フィニメモにログインっ!
台所でひととおり話をした後、応接室からニール荒野にきている。
「それでは、狩りに行きましょう!」
マリーからパーティ申請が来たので承諾して、さて、狩りにと思ったところでキースが待ったをかけてきた。
うにゃ?
「まだ少しレベル差はあるが、四人でパーティを組もう」
ん? パーティを組む?
「レベル差があっても?」
「リィナ、オレとフーマのレベルを知らないのか?」
「にゃ? ……んと?」
ふたりはβテストからプレイしていたから、かなりレベルが上だと認識していたのだけど、違った?
「えーっと? 確か……四十手前、でしたっけ?」
「そうだ。三十七だな」
んー?
「リィナ、レベルは?」
「……さ、三十五」
「ほう。かなり稼いだな。やらかし三人組のおかげか」
やらかし三人組って、ウーヌス、トレース、ドゥオのことか!
クイさんにこっそり聞いたのだけど、あの三人は夜な夜な出掛けて私のために戦ってくれているらしい。
うーむ、どうしてそこまでしてくれるのか分からないけど、本当にやらかしだと思うっ!
それはともかく。
「レベル差というから、もっと差があるのかと思っていたら、誤差じゃないですか!」
「思っていたより迫られていたのか」
「βテストって期間はどれだけだったのですか?」
「一ヶ月くらいだったと記憶しているんだが、フーマ?」
「うん、約一ヶ月だね。ゲームタイトルによるけど、新規大型ゲームの割にはこんな短期間と知って驚いた覚えがある」
「ほう」
βテストから始めたゲームってのが今までないから分からないけど、どれだけ短いのか分からない。
「βテストにも種類があって、クローズドとオープンとある。フィニメモの場合はクローズドβテストだった」
クローズドβテストというのは、特定の人のみで行われるテストであり、参加人数が限られている。
一方のオープンβテストは、クローズドβテストとは違い、参加者を限定しないで行われるものだ。こちらだと大規模なテストになりやすい。
「まー、クローズドβテストと思えば期間が短くても納得ではあるんだが。ただ、クローズドが短期間だったから、これはオープンをやると言われていたんだが、ふたを開けると正式サービスだ。なにか理由があるのか、はじめからこの予定だったか、そこは分からない」
「そうだったのね」
βテストから正式サービスまでは何ヵ月か空いているのだけど、その間に修正や調整、追加要素など手が加えられたのだろう。
「だけど」
ふと気がついたことがあったので口を開いた。
「フィニメモがどれくらいの規模のゲームか分からないのだけど、運営チーム、人数が少なくない?」
「運営チームの人数なんて、運営が発表しない限り、プレイヤーからは知ることは出来ないぞ。だから多いか少ないかは分からない」
ふむ。そうかもだけど……。
あのAIを取り戻すために運営と戦ったけど、あれに参加したのが運営の全員であるなんて、だれも言っていない。
なるほど、キースの言い分は間違ってない。
「二十四時間体制で対応しているから、それなりの人数はいるだろう」
運営チームはまさしくゲームを運営していくためにいるのだろうし、開発チームはまた別にいる。
そう思うとかなりの人数がいるのだろう。
「それにしても、相変わらずおまえらは話が脱線しまくってるな」
「ぉ、ぉぅ」
フーマと話しているときはそんなことはないのだけど、キースと話してるとどんどんと話がそれてしまう。
その違いは何だろうか。
「どうして? と不思議そうな顔をしているが、おまえらふたりしてフリーダム過ぎるんだっ!」
「フリーダム?」
「リィナは俺と話しているときは理路整然としているのに、なんでキース相手になると思いついたことをポンポンと口にするんだっ」
「んー? 話が弾みすぎて?」
「キースもだ。いつもは俺に投げっぱなしなのに、リィナとは話すのはなんでた」
「それはリィナが愛しいからに決まってるだろ」
「……………………」
あれ、さすがのフーマも言葉を失ってるぞ?
「さて、狩りをするか」
現実逃避したぞ!
「お兄さま、フーマさまをいじめないでくださいません?」
「別にいじめてないぞ」
「マリー、こいつはいつもこんなだから、相手するだけ疲れるぞ」
ふむ?
「お兄さまってなにを考えているのかさっぱり分からない人だと思ってましたけど、今、分かりましたわ」
マリーはそう言うと手を腰に当て、キースを指さした。
指で人を指してはいけませんよ?
「なにも考えていませんわねっ!」
マリーの指摘にキースはというと。
「……マリーの言うとおりだな。あれこれと考えを巡らせても仕方がないからな」
「なんてこと……っ!」
確かにキースが言うとおり、あれこれ考えても分からないことや無駄なことはたくさんある。だけど分かっていても考えてしまう。要するに割り切れないのだ。
すっぱりと割り切れるキースって、ある意味、すごいのかもしれない。
「でも、割り切って考えないのってすごくない?」
「そうかもですけど……。だからお兄さまは冷たいって言われるんですのよ」
「冷たい、か。そう思われていたら、もう少し穏やかに暮らせていたかもしれないな」
自嘲気味にそう言って、口角を上げてマリーを見る。
「マリーは男たちに追いかけられたりしたことはないのか?」
キースの質問に、マリーは渋面を浮かべた後、ものすごく嫌そうな表情を浮かべた。
「……ありますわ」
「ないわけないよな。それでは、どうして追いかけられたのか、は分かるか?」
「……分かりませんわ」
あれ? マリーって藍野家がなんと言われているのか、知らないの?
そう思ってキースに視線を向けると、目が合った。
「どうした?」
「あの、マリーちゃんは藍野家が」
「それは知ってますわ」
間髪入れずに返事が返ってきた。
「仮にですけど、もし、わたくしに未来が視えても、それが気に入らない未来だったからと言って、自分好みに自由に変えられるのか、といいますと、それは可能だけど不可能だと言えますわよね」
「?」
マリーの言いたいことはなんとなくは分かるのだけど、そう、なんとなくしか分からない。
「どういうこと?」
「少し長くなりますけど」
マリーはそう前置きをして、口を開いた。
「例えばですけど、数分後にわたくしがなにかにつまづいて転ける、という未来視をしたとします。わたくしは数分後に転けることを知っていますから、それを回避する行動を取りました。確かに転けませんでしたが、転けなかったことで、別のことが起こりました。それは先ほどの転けるよりさらにひどい頭上から物が落ちてくる、というものでした」
「え」
「転けることを回避した先にさらにそれよりひどい出来事が待っているのも未来視出来たとして、それを避けられても……」
「その先にはさらにそれを上回るなにかがある?」
「かもしれませんわね」
むむむ?
未来が視えて避けられたとしても、避けた先にはそれよりもひどいことが待っているだなんて。
「そんな、理不尽な」
「そうかもですけど、世界からしてみれば、バランスを取るための措置ですから、当たり前の挙動なのです」
「え、それでは」
「普通であればそうなのですけど、上総お兄さまは未来を変えたことで変わる分岐点も知ることができますから、そこも回避して、さらにその先も回避して……という神業ができます」
「そうなるとその」
「お姉さまがなにを心配なさっているのか分かりますわ。わたくしも最初、そう思いましたもの」
「受けるはずだったなにかが貯まりに貯まって……」
「それがですね。上総お兄さまはそれを無効にすることができるみたいなのです」
「なにそれ」
だからこそ上総さんの周りには人がたくさん集まってきている、ということなの?
「上総の話はそれくらいにしておけ。狩りを始めるぞ」
「はいにゃ!」




