第百四十八話*《十七日目》曲者だらけのはずなのに、大人しい商店街
見守り隊は私たちが店内に入ると、入れ替わるように出て行った。
「ところで三人はなにをしていたの?」
「それがで……うぐぅ!」
見守り隊のひとりが話そうとしたところを、別の見守り隊が口を塞いだ。
「なんでもありませんっ!」
明らかに怪しい。
「リィナはこのまま店内にいて、商品を見ていてくれ」
キースはそう言うと、つかつかと見守り隊に近づいていた。
気になるけど、商品のラインナップも気になる。
ここはキースに任せて、商品を見よう、うん。
ここも道具屋と同じようにメニュー表に視線を向ければ一覧が見えてほしい物が買えるようになっているのだけど、道具屋とは違って、どんなものなのかという商品見本が置かれている。
メニュー表を一通り見て、スクリーンショットも撮って、と。
実物も見てみることにした。
まずは、と。
「原木……? えと? 加工して紙を作ったり、菌を植え付けてしいたけ栽培をするのもよし、使い方はあなたのアイデア次第☆ ……ぉ、ぉぅ。☆が好きですね」
一番に手に取った品物が尖りすぎていた。
気を取り直して、と。
「白い布。──このまま使ってもよし、あなた色に染めてもよし。白はいろんな色に染まるけど、染まらないこともあるよね! ……う、うむ?」
他のもこんな調子で説明が書かれているのだろうか。
確認……しなくても問題ないかも。なんというか、ふたつしか見てないけど、それだけでお腹いっぱいでぐったりだ。
とぼとぼとお店から出ると、キースと見守り隊の三人はなにかを話していた。声が聞こえないということは、四人でパーティでも組んでいるのか。
私が店から出てきたのに気がついた四人は、なぜか横並びに並んで私を見た。
というかだ、キースもなんで混ざっているのですか!
しかも、キースは背がかなり高いので、ぴょこんと飛び出している状態だ。
「キースさん?」
「なんだ」
「なんで見守り隊に入ってるのですか?」
「オレもリィナの見守り隊の一員だからな!」
「キースさんがリーダーです!」
「……ぉ、ぉぅ」
なんで運営の人たちと仲良くなっているの。
「キースさんって実は人と仲良くなるの、得意ですよね」
「そうか?」
「実際、運営の三人と仲良しではないですか」
「共通項があれば、そうかもな」
「それでは、リアルでも共通項を見つけて、仲良しな人をたくさん作ってください」
「……考慮しよう」
キースはというか、麻人さんはもう少し人と関わった方が良いような気がする。
キースだとフィニメモ内では知り合いが多いのにね。それはフーマが絡んでいたとしても、それでも知り合いは多いのに、リアルだと仕事上ではいるかもだけど、プライベートだと少なそうなのよね。
「そういうリィナはどうなんだ?」
「私ですか? そこそこいますよ」
「連絡を取っているようには見えないが」
「連絡を取りたくても、私のことをずっと抱きしめていて、離してくれない人がいますからね」
「オレか」
「そうですよ」
昔から目立つのがやで気配を殺すことを頑張ってきたとはいえ、友だちがいないわけではない。
だけどそんな私だったので、やはり目立つことが嫌いだったり、控えめな子が多いため、友だち付き合いは地味に見えるだろう。
それでも休みの日に一緒に遊びに行ったり、遠出をしたりしてきた。
時には心配した楓真が着いてきて、逆に楓真を巡ってトラブることがあったりしたけど……。
そういう子とは、それが原因で疎遠になってきた。
だから今でも付き合いが続いている子は、とても貴重である。
……こんなにも友だちが減ったのは、心配した楓真が私が付き合う友だちをなぜか選別して、結局、残っている子は楓真のお目に適った人たちで、そういう子しか残ってない。
社会人になると、会う機会が減って、メッセージだけのやり取りになっていた。
そのやり取りさえ、麻人さんと結婚したら出来なくなっていた。メッセージが来たら、最低限の返事はしているけど、それだけだ。
あとはなんというか、麻人さんと結婚したことを伝えにくくて、ずるずると報告が遅くなっている。
「別にオレのことは気にしないで、連絡すればいい」
「離してくれないではないですか」
「抱きしめているだけだぞ?」
「放置して連絡なんて出来ないじゃないですか」
「はいはい、おふたり、ここで痴話げんかをしないでください」
そう言われて、私とキースは同時にその声の主に顔を向けた。
「同時にこちらを見るなんて、息が合いすぎです」
「痴話げんかではないぞ」
「けんかより低レベルな言い合いです」
「けんかにレベルなんてあるのか?」
「実際、今のはけんかではないですよね?」
「そうだな」
「だから」
「はいはい、分かりました。NPCのふたりが待ってますよ?」
「そうでした」
なんというか、見守り隊に指摘されるとは思っていなかったので複雑な気分だけど、それよりも買い物だ。
といっても、結局、ここに来てもなにも買っていないわけなのですが。
「リィナさん、こちらは食材が売ってあるのですよ」
「おお、食材!」
食材って畑に狩りに行かないといけないのかと思っていたのだけど、売ってるお店があったのね。
「パン屋、八百屋、肉屋、くだもの屋とあります」
「あれ、パン食なの?」
「そうですよ?」
「ご飯は?」
「ご飯とはなんですか?」
「ぉ、ぉぅ」
この世界はパン食のみなのね。
お米って実装されてないのかしら?
「米ならこの先に進むと出てくるぞ」
「そうなのですね!」
フィニメモ内で食事をしなければいけないってことはないので完全に趣味なんだけど、それでもずっとパン食というのはどうも気持ち的に辛い。
「それでは、お店を見ましょう!」
まず、パン屋さん。
「……………………」
ここの店舗も間口が広く、ドアを開けるまでもなく中を見ることが出来る。
手前のお店とは違ってメニュー表はなく、実物をトレイに乗せてレジに持っていく、リアルでのお店と同じ仕組みになっているようだ。
のだけど。
食パンもフランスパンもない。
あるのは丸いパンとバターロールみたいな形のパンとコッペパン……くらい?
「この時間だと、まだそんなに種類がないみたいです」
とシェリが説明してくれて納得。
とはいえ、シェリはトレイを持つと、パンを次々と乗せていった。そういえば、洗浄屋で食べたとき、シェリが乗せているパンを食べた覚えがある。あれってここで買ったものだったのか。
シェリがお会計をして、紙袋に入れてもらったのをさりげなくトレースが受け取って、インベントリにしまっていた。
次に行くのは、八百屋だ。
ここに売られているのは、野菜だ。
畑でさんざんやりあったキュウリ、トマト、じゃがいもの他にもみずみずしい野菜たちが売られている。
ここでもシェリはいくつか野菜を見繕ってお会計をして、買ったものをトレースが受け取っていた。
そうして、肉屋、魚屋と寄って、最後はくだもの屋だ。
特に変なところはないのだけど、なんでだろうか、逆に不安になってくるというか。
これまであまりにも変なところが多すぎて、普通になると不安になるってすごく不思議だ。
「どうした?」
私があまりにも不思議そうな表情をしていたからなのか、キースがそう聞いてきた。
「いえ……。当たり前といえばそうなのですが、普通すぎて不安になってきまして」
「だとよ、見守り隊隊員たち」
「あれ、逆効果でしたか?」
ということは、なにかしていたの?
「今日はみなさん、とても大人しかったですね」
空気を読まないシェリの声に、トレースは焦った表情をしていた。
なるほど。
「なにかしていたと思ったら、NPCに大人しくするように言ったのですね?」
「ぅぅ、そうです」
素直に白状したのだけど、どうしてそんなことをしたの?
なんだか釈然としないけれど、時計を見たらそろそろログアウトしてお昼を食べる時間になっていたので、そのまま洗浄屋に戻ってログアウトした。




