第百四十四話*《十六日目》【クエスト】ハーブを採りに行こう!
仕事が終わって、もろもろを済ませてフィニメモにログインっ!
本日は金曜日。明日はようやくお休みですよ!
明日は朝からフィニメモが出来るっ! ……はず。
「さて、本日は……と」
「ハーブを採りに行くぞ」
むむ? 本日のやることは、昨日受けたクエストをやること?
とりあえず下の階に行って、台所へ。
ちびふたりはもう寝ているのでいないけど、全員がそろっていた。
「シェリ」
「あ、はい!」
「明日、商店街に一緒に行きませんか?」
一緒に行くと約束していたのに、行けなかったからね!
「はい、ぜひとも!」
よし、約束を取り付けたぞ、と。
「それでは、今からハーブを採りに行って来ます!」
「あぁ、それなら、リィナ」
「んにゃ?」
クイさんに呼び止められたのだけど、なんだろう?
「ついでにここで使うハーブも採ってきてくれないかい?」
「あいにゃ!」
クイさんから出されたクエストを受領、と。
「キースさんも?」
「あぁ、受けたぞ」
もしかしなくても、初めての一般クエスト?
「今日中でなくても大丈夫だからね」
とクイさんに言われたのだけど、はて、そんなに時間がかかるようなクエストなの?
疑問に思いつつ、キースに手を引かれて応接室へ。
「遠出するの?」
「逆に聞くが、ハーブガーデンなんてものがあるとでも思っていたのか?」
「ハーブガーデン……。そ、そんなオシャレそうな単語が出てくるとはっ!」
「オシャレ、なのか?」
「ハーブ畑ではないところが!」
キースは軽くため息を吐くと、私の腕を引っ張った。ぽすん、とキースの腕の中に収まっていた。
「にゃ?」
「なんでも英語にすればいいってわけではないな」
「?」
「ハーブを日本語にしようとしても、適切な単語がないな」
「薬草……でもあるけど、全部ではないし。野草……もなんか違う感が」
「草、というと違うしな。香辛料、だとまた違ったものを想像するし。ハーブはハーブ、だな」
「そうですね」
そんなことを話ながら、応接室のドアを開ける。
扉越しに見えるのは、世界樹をバックにした原っぱ、とでもいえばいいのか、そんな草がたくさん生えている空き地だった。
「ふむ、なるほど、まずはここでハーブの採り方を学べということか」
「?」
「リィナ、もう忘れているのか?」
「にゃにを?」
「植物すべてが動くということをだ!」
「あー……。あれ、でも、草原に生えてる草、動いてました?」
「動いてるぞ」
「……ぇ?」
「風に吹かれている振りをして、動いてるぞ」
「マジですか!」
植物なのに動くなんて、ほんと怖い世界ですね。
「草は噛んだりは」
「しないが、絡みついてきたり、草たちが連携して罠を作って引っ掛けたりしてくるぞ」
「な、なんということを……」
キースの言葉を証明するかのように、そこここに生えた名前もないような雑草は、風もないのに楽しそうにゆらゆらと左右に揺れて見せてくれた。
「植物にも耳があるの……?」
「あると言われているな。クラシックを聴かせて育てると味が良くなる、とか。どこまで本当かは分からないが、周りの音は聞こえている」
「だけど、言葉も音としてしか認識できない……はず、ですよね?」
「はずだがな。さすがにこんな雑草にまでAIが搭載されて……いるのか?」
雑草にもAIって、そんなに頑張って大丈夫なのか、AI!
「野菜畑の野菜もなぜかこちらと連携してましたよね?」
「なるほど、そういうことか。しゃべることはできないが、こちらの言っていることなどは分かる、と」
「下手にしゃべれないですね」
「どこにいても監視されている、か。窮屈な世の中だな」
現実をしばしの間でも忘れるためにゲームをしているのに、こちらでも監視されているなんて。
いつ、どこで私たちは気を休めればいいのだろうか。
……そんなことを考えると暗い気持ちになるので、気持ちを切り替えよう!
「それでは、ハーブを採りましょう!」
そう言ってから草に手を伸ばそうとして、止まった。
「はて? どれがハーブ?」
「やはり予想どおりの言葉が出てきたな」
ハーブは草が多いため、雑草なのかハーブなのか、はたまた薬草なのかぱっと見ただけでは区別がつかない。もちろん、それぞれに特徴があるのでそれを知っていれば採取出来るのだろうけど、私は残念ながら知らないのだ!
「植物の知識、というパッシブを取るといい」
「植物の知識……?」
「共通スキルだ」
共通スキルならば私でも取ることが出来る。
なのでスキル一覧を共通スキルのタブにして、探すと……あった!
早速取って、それから足下の草たちに視線を向けると……。
「おおお、紫の三角がでた!」
「おめでとう。だがな、それ、スキルレベルが上がると今度は薬草、毒草、ハーブ、食用と色が分かれて表示してくれるんだが、色が様々で目がチカチカしてくるからな」
「うへっ」
「そういうときは必要な色だけ表示させるといい」
「ほほー。ありがたきアドバイス!」
その時になったら忘れていそうだけど、先にそうなると知っていればスキルレベルが上がって見た目が変わってもパニックになりにくい、かもしれない。
それはともかく、雑草と有益な植物かの区別が付くようになった。
なったのだけど、それでもどれが必要なハーブなのか分からない!
ひとつずつ鑑定するのは大変なので、よし、適当に!
「はいこれっ!」
「……リィナ、それは毒草だ」
「へっ?」
「じゃ、じゃあこれは?」
「それもだ」
「ぅ」
「それもこれも、毒草だっ! しかも全部、種類が違うなっ! おまえはオレを殺す気なのかっ!」
「毒草……」
「リィナの選択眼は面白いにゃ」
おかしい……。どうして毒草ばかり選んでしまう?
しかも首に居座っているフェリスにまで突っ込まれる始末。
「なぜだ。なんで毒草ばかり」
「かわいい花が付いてたり、綺麗なのはたいてい、毒があるにゃ」
「ふむふむ」
「リィナ、そちらの……いや、それではないにゃあ。もうちょっと右の……うん、それにゃあ」
「え、これって」
「それでいいにゃあ」
こんな地味なのでよいの? 三角マークがついてなかったら、雑草扱いにしてしまいそうなのですけど。半信半疑でキースに渡す。
「そうだ、それだ。さすがだな」
「……フェリスが見つけてくれたの」
「フェリス、分かるのか?」
「分かるにゃあ」
「では、リィナに教えてくれないか」
「いいにゃあ」
ということで、フェリス監修のもと、ハーブ探しが始まった。のだけど。
「……あれ?」
「どうした?」
「クイさんからハーブを採ってきてと言われたけど、なんのハーブか言われてない?」
「ないな」
「なんでもいいのかしら?」
「料理に使えるのならなんでもいいんじゃないか?」
そんなアバウトなのでいいの?
うーん、どうなんだろう。きちんと聞いておけばよかった。
「とりあえず、なんでもいいから採っておけば、要らないと言われても、そのうち必要になるさ」
こういうのはきちっとしてそうなのに、思っている以上にアバウトだった。
だけどこれは私が見分ける練習にもなるから、いいってことで!
「クイさんからもだけど、黄金のティーポットさんからもハーブを採ってきてほしいって言われましたよね?」
「言われたな。こちらはハーブが指定されている」
そのクエストは、発生するはずだったのに、なぜか受けられなかったのよね、私。
「カルダモン、シナモン、クローブ……」
「それに紅茶を合わせたら、完全にチャイですね」
「チャイというと、スパイシーなミルクティーか?」
「端的にいえば、そうですね」
「ふむ」
とはいうけど、それ、ここにはなさそうだけど?
「クイさんには、フェンネル、パセリ、バジル、ジンジャーあたりはどうだ?」
「料理に使うのによさそうなハーブですね! ……というか、キースさん、やけにハーブに詳しいですね?」
「クエストをして覚えた」
「ハーブ採取のクエストって今回の他にもあるのですか?」
「あるぞ」
なるほど、それで詳しいのか。
「とにかく、毒草は避けるように」
「あいにゃ!」
フェリスに手伝ってもらいながら、私は有用そうなハーブを片っ端から採っていった。




