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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《一日目》木曜日 *正式サービス開始

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第十四話*【楓真視点】とんでもない爆弾を投げつけられた

 莉那から送られてきた動画を見て、俺は思いっきり頭を抱えていた。


 まったく、なんてとんでもないものを送りつけて来たんだ! こんなの配信できるわけがないだろう!


 ……とはいえ、この情報を秘匿しておくわけにもいかないし。

 まったくもって、どうすればいいのやら。


「莉那からもらった動画はとりあえずは当たり障りのないところだけピックアップするか」


 本当は二エンドしているのも使おうかと思ったのだが、まずは一エンドする前に村の中を移動している辺りがおかしかったのだ。

 NPCたちは洗濯屋のデフォルトヘイト値が高いと言っていたが、この二エンドはそれだけでは説明がつかない。

 とはいえ、洗濯屋がバッファーとなると、NPCたちの言葉には矛盾はない。そしてNPCたちは問題ないのだが、やはり村の中の移動中が怪しい。


 俺は何度か見直して、それからコマ送りで見て──見つけてしまった。


「マーカーが、黄色……」


 動画を一時停止にして、それから一コマずつ見ていく。

 莉那──ゲーム内だからリィナと言ったほうが適切か──がNPCたちとともに村の中を移動していて始まりの広場を横切る場面がある。

 そこは始まりの広場と呼ばれていることから分かるとおり、エルフあるいはダークエルフを選択したら初めて降り立つところになる。

 フィニメモの正式サービスの初日なので、かなりごった返っているのだが、リィナに不自然に近づく黄色いマーカーがいたのだ。


 始まりの村に黄色いマーカーがいても不思議はない。βテスト上位組でもリセットをして初めから挑みたいというヤツがいるだろう。あるいは俺のように事情があって別人に譲ったか……。

 ちなみにβテスト上位組に配られたダウンロードのコードだが、すでに個人認証済のものだったのだが、俺は運営に事情を説明して、莉那用にしてもらっていた。そのときに運営が莉那がレア職業になるように仕込んだ可能性も考えた。

 ……βテストのときにも色々とやらかして伝説──もちろん、マイナス方向の──を築いた運営だからあり得るのだが、さすがにこれはないだろうと考え直した。でもまぁ、あの運営だからあまり信用はできないのだが。

 この線は俺の妄想であるということにしておく。


 さて、問題の移動中の動画だ。

 頭のてっぺんと黄色いマーカーしか見えないが、どうも俺はそいつを見知っているような気がした。

 したのだが、いつもPTを組んでいたヤツらではない。

 そう思ったのは頭のてっぺんが黒かったからだ。


 フィニメモでは1PTの最大人数は六人だ。いつも組んでいたのは黄色い髪の毛の俺と青い髪のキース、それから緑やらピンクやらといったカラフルなヤツばかり。黒髪なんてだれもいなかった。

 上位組に何人か黒髪がいたが、よからぬコトをしようとしているのなら、正体がバレないように黒いフードを被っている可能性もある。

 ……そうなるとだれも彼もがあやしくなる。


 しかもこの動画では決定的なものは確認ができなかった。

 ただ不自然に近寄ってきているというのは分かっただけだ。


 これはキースに話して協力してもらうべきものだろうか。


 俺が日本にいればこんなことを思い悩まないで済むのだが、今は状況が許してくれない。

 ……やはりお願いをするしかないか。


 俺は一度、動画を止めて、それから日本時間を確認した。


 莉那から動画が送られてきたのは、日本時間で十八時過ぎ。イギリスは朝の十時で、俺は絶賛、仕事中だった。

 そして今は仕事が終わって、夕飯を食べながら莉那から送られて来た動画を見ていたところだ。

 部屋に戻ってきたのは二十時過ぎだったはずだが、早送りで動画を見ていたにも関わらず、いつの間にか日付が変わりそうになっていた。


「日本は……金曜日朝の八時前か」


 キースは確か今日あたりは在宅だったはずだ。それならば始業時間まで少し余裕がある。


 俺は思い立ったらなんとやらで、すぐにキースに電話をした。


『どうした?』


 キースとはすぐに繋がった。

 そしてリィナが当てたレア職業のこと、それからあやしい人物の存在などを説明した。


『……なるほど。あの手に持っていたのはヒシャクではなくて、アイロンなのか』

「思ったより冷静だな」

『そうでもないぞ。……だがまぁ、付き合いが長い分、耐性ができてるというか』


 俺は莉那とは生まれた時からの付き合いだが、未だに慣れないんだが。


『まぁ、あんだけの数々の裏技を発見したらしいし、なんたっておまえの姉だからな』

「気のせいか、ディスられてるような気がする」

『気のせいじゃない、ディスってる』

「おいいいい」


 こいつはそういうヤツだ、知ってた。


『どうもオレが直接接触するとマズそうなので、そのNPCに当たってみるか』

「あぁ、その方がよさそうだな」

『で、洗浄屋と言ったか?』

「あぁ」

『それはどこにある?』


 莉那から渡された動画は洗浄屋から出て村の中心に向かうところはあったが、逆はない。

 なぜなら死に戻っているからだ。

 だが、それでも大体の場所は分かっていた。


「始まりの広場から南に向かったところにある小道を通って……」

『そんなところ、あったか?』

「βからあったぞ。俺はマップを埋めるために世界樹の村は歩き回ったからな」


 動画を元に記憶の中の世界樹の村を逆走してみた。たぶんだが、あそこの道で間違いないし、俺はそこを何度か通っている。だけど「洗浄屋」なんて看板に覚えはない。そもそもそんな変な看板を見かけていたら、絶対に突っ込みを入れていたはずだ。

 それとも、βから存在はしていたが、洗濯屋がいなかったためにアクティブになっていなかった、とか? その方がしっくりくる。


「あと、洗浄屋のNPCには俺の名前を出してくれて構わない」

『どうしてだ?』

「妖精族の子どもを助けた突発クエスト、覚えているか?」

『あぁ、あれか。あの蜘蛛が大変だった』

「それ。そのときに助けたNPCがどうやら洗浄屋にいるようなんだ」

『ほぉ? それはまた奇遇だな』

「あと、路頭に迷ってた人間の女性がいただろう」


 俺とキースはβテストの時、フィニメモ内を制覇してしまおうと、二人であちこちを彷徨った。

 俺は主に動画のため、キースは好奇心のため、だ。


 βテストだからと結構な無茶もしたし、死にまくった。そのおかげで上位組に入れたのだが……。


 たぶんそれをしていなければ、本当の廃人さまには到底追いつかなかっただろう。なんたって廃人さまには時間の制限などなかったのだから。

 俺とキースは仕事をしながら、仕事に支障を来さない程度しかプレイしていない。


 あちこちと好奇心のままに赴いたため、様々なところで突発クエストというヤツに遭遇した。

 ちなみに廃人さまが最終的にはレベル六十くらいだったが、俺たちはレベル四十にいかないくらいだった。それでもこの突発クエストの攻略数がダントツだったため、上位組に入れたのだ。


『それにしても、βのときにNPCを助けまくったのは功を成したな』

「そうだな」


 NPCを助けていればなにかがあるとはまことしやかに言われていたが、βのときには分からなかった。

 本サービスになって変更があった訳ではなさそうだが、こういうところに生きてくるのかというのが分かっただけでも大発見かもしれない。

 だけどだ。これは配信するまいと思っている。


 俺はキースにNPCと接触して話をしてもらうことと、あとは遠くからリィナを見守ってほしいとお願いした。


「……というかだ。キースは狩りに行くよな」

『行かない』

「……は?」

『おまえを置いてレベルあげなんてできるわけないだろう』


 なんだろう、これ。

 キースってそういうヤツだったか?


『……というのは嘘だ』


 ですよねー。


『ちょっと生産に目覚めたんだ』


 フィニメモの生産はとても楽しそうではあったから、その気持ちは分かる。

 分かるが、なんだろうか、妙に不自然ではある。


「なんかよからぬことを考えてるだろう?」

『どうしてそう思った?』

「なんとなくだ」

『まあ、楽しみにしていろ』


 キースは必要以上に喋ることをしない。だから今回も彼なりの考えで生産をしようと思ったのだろうが、俺とつるんでいるくらいだ、どう考えても斜めな考えのような気がする。


『進展があったら報告する』

「こちらもなにか分かったら伝える」


 俺たちはそれだけ言って、通話を終えた。


 なんというか、色々と悩ましいことはあるが、今日はとりあえず寝てしまおう。

 俺はそう決めて、パソコンの電源を落としてからベッドへと向かった。

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