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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《十三日目》火曜日

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第百三十五話*《十三日目》サブクエスト『魔術師の憂鬱』とはっ?

 私が今まで受けてきたクエストすべてがユニークだったとは。


「それでは今度、普通のクエストの受け方を教えてください」

「教えるのはいいんだが」

「だが?」

「NPCが素直に通常クエストを受けさせてくれるのかどうか」

「にゃっ? そんなに受けさせてくれないの? だって困ってるからお願いしてくるんですよね?」

「……そのはずなんだが。あれは、なんと言えばいいのか」

「オルドさん、そのあたりはどうなのですか?」


 オルドに話を振ってみると、


「システムとしてはプレイヤーに押し付けてでも受けて欲しいのですけど、AIが少し……どころかかなりひねくれてましてね」

「あのツンデレ具合はAIのせいなのか」

「ツンデレなの?」

「ツンデレ、だな」


 みんながみんなではないけれど、NPCがツンデレというのはものすごく分かる。


「……宿屋は問題なく泊まれたけど?」

「商売が絡むと問題ないな」

「そうなのね」


 それにしてもAIはなにを参考にしてそんな反応をさせているのだろうか。


「でも、宿屋のおかみさん、面白かった」


 ドゥオが私につけたとんでもないあだ名のせいがあるかもだけど!


「……とまぁ、そのあたりはまた改めるとして。ずいぶんと話がそれたが、フェラム、そのサブクエストとは?」

「え? ……あ、あぁ、『魔術師の憂鬱』ですね」

「まさか忘れていたのか?」

「ま、まさか! はははは」


 忘れてたなっ!

 フェラムは取り繕うように咳払いをすると、


「サブクエスト、と銘打ってますが、メインクエストはないです」

「ないな」

「ですが、このクエストはあくまでもサブ。難易度を高めに設定しましたが、思っていたよりクリア率が高いですね」

「MMOだからな、助け合ってクリアを目指すからな」

「そうですね。キースさんとフーマさんはこのサブクエストが実装されてすぐくらいに受けて、数日でクリアされてますね」

「まあな。フーマが解説動画を……。待て。この動画をきっかけにして……」


 キースがなにやらブツブツ言い始めたぞ!


「キースさんはしばらく放置の方向で」

「いいのですか?」

「今、話しかけても反応がないと思いますので」

「分かりました」


 そういえば、なにかのクエストの攻略動画を見た覚えがある。それがこのクエストだった?


「メインクエストがないのに、サブクエストとは?」

「リィナリティさんは『魔術師の憂鬱』の概要はご存じ」

「なわけないです」

「ですよね。このサブクエストはひとりの村人NPCから始まります」


 フェラムの語った内容を要約すると、その村人は塔に住む魔術師の食事係をしているという。昼と夕の日に二回、魔術師に食事を運んでいる。朝食は夕食とともに持って行っている。

 そして、その魔術師が最近、やたらとため息を吐いているので気になって聞いたところ、気になる人がいるのだけど、声を掛けることができないという。

 村人は気になる人に簡単な贈り物を贈ってみてはどうか、とアドバイスしたところ、魔術師はそれでは贈り物を作るための材料を集めてきてほしいと言われた、だけど自分では取りに行けないので手伝って欲しい、という始まりだという。


「──という軽いお使いだと思っていたら、とんでもなく長くて理不尽でそれでいて面倒なクエストだった」


 あ、キースが復活してきた!


「なので、フーマが解説動画を上げる、まではよかったんだ。ところが、だ。やってもやっても終わらない、要求がエンドレスなんだ。途中、何度、切れそうになったことやら」


 キースって意外に短気だと思うのよね。

 思い出した!


「しばらくなんかのクエストの解説動画が続いたからしばらく見てなかった時期があったわ」

「おいっ! 見てないのかよっ!」

「だって、やってないゲームのクエストの解説だなんて言われても、ねぇ?」


 とそこへ、フェラムが割って入ってきた。


「あのクエスト解説動画ですが、運営内で一時期、話題になってましたよ」

「そうなのか?」

「とても分かりやすくまとめられてましたからね。しかもサブタイトルを見ればどの段階か検索性にも優れていたかと」

「それならよかった。フーマのヤツが『動画ひとつは長くても十分までだ!』と言い張ってだな。内容もだが、長さにもこだわっていたんだ」

「長いとダラダラになりがちですからね」

「そう、フーマも同じことを言っていたな」


 そんなことを言っていたかもしれない。


「あのクエストを作っておいてなんですが、面倒というか、魔術師も大概だと思いますよね」

「思ったな。調子に乗るなよ、と」

「だからこそ、ラストが爽快だったのでは?」

「……まぁ、そうなんだが。なんというか、(あわ)れなヤツだなと同情したな」

「意外ですね。キースさんって心根は優しいのですね」

「おい、フェラム。失礼だな」

「キースさんって冷たそうに見えますよね、リィナリティさん」

「はっ? ぇ、な、なんで私に振るのっ!」

「キースさんのこと、よくご存じだからです」

「フェラムさん、実はDeathね」

「殺すな」

「キースさんと知り合ってから二週間も経ってないのですよ」

「……ぇ?」

「フーマは高校生の頃からの知り合いですけど、私、キースさんに会ったのは、このフィニメモ内で、が初めてなのです」

「な、なんだってぇ!」


 フェラムが頭を抱えて錯乱しているので、正気に戻るまで放置、と。


「それで、そのしちめんどうくさいクエストをどうにか終わらせたのですか?」

「あぁ、終わらせた」

「……ま、まさかとは思いますけど、村長の屋敷でラウに会ってユニーク・クエストが発生したのって」

「『魔術師の憂鬱』がきっかけになっている可能性は高いな」

「そ、そうですか」


 どうもいわゆる『やらかし案件』は高確率でキースが絡んでる。


「キースさんはトラブルを呼び寄せるパッシブでも背負ってますか?」

「だから言ってるだろうが。『伴侶を得るとまわりが騒がしくなるが絆が深まる、問題ない』と」

「パッシブスキル・トラブル引き寄せ、と」

「ま、この先も楽しいトラブルが待ってるだろうなぁ」

「フィニメモはゲームだから問題ないっ!」

「リアルでもあるからな」

「…………聞かなかったことにします」


 えぇ、激しく知ってますよ!

 まぁ、これでもかっ! というほど次から次へと……。

 まったくもって、なんでしょうかね?


「ど、どうして私には彼氏が出来ないのでしょうか」


 フェラムが復活してきたけれど、フルフルと震えているのは怒りから?


「フェラムさん、もしかしなくても『仕事が恋人』な人なんですか?」

「お、男なんてっ! 仕事は私の期待にいつも応えてくれるっ!」


 な、なるほど。

 だからこそのリーダーなのか。


 これ以上は危険なので気持ちをそらせよう。


「それで、フェラムさん」

「はい」

「さっきのサブクエストはひとつで終わりなのですか?」

「鋭意、開発中……の予定」

「って! まだ作ってないんかいっ!」

「そうなのですよ。この間のミルム事件でショックを受けて辞めた子が多くて、運営にも支障を来してまして」

「……の割にはのんきにここに来てもいいのか?」

「いいのです。今日は監視組が休みなので、私は足止めとして来てるのですから」

「相変わらず手の内をさらけ出すな」

「誠意を見せているのです!」


 時間を見ると、二十二時過ぎ。これでは狩りに行けない。


「フェラムさん、足止めは成功ですね。キースさん、そろそろログアウトしましょう」

「……だな」


 ログアウトするためにコップを洗って片付ける。

 その間、キースとフェラムはオルドを突いて遊んでいた。

 私も後でオルドを触らせてもらおう。


 洗って二人に近寄ると、オルドが半泣きになりながら私に向かって飛んできた。


「リィナリティさんーっ!」

「どうしたの?」

「焼き鳥にされます!」

「オルドって食べたら美味しいの?」

「食べられませんからっ!」

「そうなんだ」


 オルドに手を伸ばしてそっと身体に触れる。ふわりと暖かくて、優しい手触り。


「なるほど、触ると気持ちがいいのね」

「そうなのですよ! 手触りにはこだわりましたから!」


 オルドを堪能してから私たちはログアウトした。

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