第百三十四話*《十三日目》ユニーク・クエストってどうやって判別するのですかっ!
本来ならば、見た目も中身も立派になるはずが、中身を入れる器づくりに夢中になってしまい、気がついたら中身が逃げていたというフィニメモ。そして外見は立派なのに、中身が空っぽという事態に。
「幸いなことに、細々としたクエストは別チームが作っていましたから組み込むことが出来ました。……といっても、単純なお使いクエストやモンスターを何体狩ってこいといったクエストばかりでしたが」
「あったな、そういえば。レベル上げだけだと単純作業だし、モチベがすぐに下がるから、クエストでどうにか維持してた感じだな」
「βテスト後のプレイヤーアンケートではあれらのクエストは不評でしたが」
「そんなの、一部の声の大きいヤツの意見だろう? オレが知る限りでは、バリエーションがないが、クエストがないよりマシ、だったぞ」
「それって要らないのと同じなのでは?」
「要らないとは言ってない。それなりに張り合いはあったからな。むしろオレはあって良かった派だ」
「そう……だったのですね。βテスト後、アンケートをもとにクエストを廃止するか否か会議で話し合ったのですが、結論が出ず、時間もなかったためにそのままになってました。結果的に残して良かったのですね?」
「あぁ。特に初期はチュートリアル的なものもあったから、助かったぞ」
キースのその言葉にふと疑問が。
「あのぉ」
「どうした?」
「そのクエストってどこで受けられるのですか?」
私の問いにフェラムとキースは固まった。
あれ? これってフィニメモでは常識なことを聞いちゃった?
「リィナ、つかぬことを聞くのだが」
「はいにゃ!」
「その返事、久しぶりに聞いたな」
「そういえばそうかもです」
「レベルはいくつだ?」
「んと? 二十……五っ?」
な、なぬぅ?
私が認識していたのは、二十だったのだけど?
「どうした?」
「私が認識していたレベルと実際のレベルに差があったので驚いているところです」
「記憶違いというのは?」
「それを考えたのですけどね? 昨日、狩りに行く前にたまたまスクショを撮っていたのですよ」
昨日のステータスのスクショを見せた。
「ふむ。二十、だな」
「それが、今見ると、Deathね」
今、撮ったばかりのスクショを見せる。
「二十……五、だな」
「昨日のクラーケで……。と思ったのですが、すみません、私がいたのでリィナリティさんに経験値がいってないのですよね」
「そうですよね? 経験値、もらえなかったと認識してます」
ううむ?
今回のやらかしの犯人はだれだっ?
「あぁ、リィナ」
「はいにゃ?」
「ドゥオとトレースが頑張って狩りをしてきたんだけど、成果はどうだい?」
「ま、まさか……」
「かなり貯まってるだろう?」
「かなりどころか、恐ろしいほどなのですけどっ!」
「そりゃあよかった! 何日もの間、頑張って貯めたものだからね!」
やらかしの犯人はドゥオとトレースっ!
しかも複数日に渡ってとは……。
「フェラムさん、これって」
「リィナリティさんに限りセーフとします」
「ど、どうも?」
運営公認のズルってことか。
「リィナリティさんが知らない間にクエストを受けて完了していた、ということで」
「ぅぅ」
「ちなみにクエストだが、村の中にいるNPCから受けることができる」
「他のゲームと同じなのですね」
「同じと言えば同じなんだが」
「ははは、分かります、そのなんとも言えない感じ」
「むぅ?」
「NPCから受けるんだがな。クセがありすぎて、中には素直にクエストを受けさせてくれないNPCもいるんだ」
「はぁ」
「AIの弊害、ですね」
「いかにNPCから手間を掛けないでクエストを受けるかというのに挑むのもなかなか面白いぞ」
「……そんなこというのはキースさんくらいだと思いますよ」
「なるほど、クエストを受けたくても受けられなかったり、精算出来なかったりで不評なところもあった、と」
「だな」
NPC、個性出しすぎぃ!
「クエストなんだが」
「はい」
「デイリークエストの導入は無理か?」
「デイリークエスト、ですか?」
「あぁ。ログインしたら毎日自動で更新されて、例えばログインしただけで報酬がもらえる、とか。連続ログイン何日目、とかでまた報酬というのは?」
「いわゆるスマホアプリのゲームでよくある感じのですかね?」
「そうだ」
「それ、いいですね! 報酬はちょっとしたアイテムでいいのですよ。体力回復剤一個だと悲しいですけど!」
「それについてですが、実は開発チームからも提案されているのです。導入を前提に進めてみます」
「おお! よろしくなのです!」
と、そこで、毎度ながら脇道に逸れまくっていることに気がついた。
「それで、魔術師のことですが」
「そうでした」
強制的に軌道修正しなくては、話が終わらない。
「色付きの魔術師のひとりが塔を出たところまでは聞きました」
「はい。その魔術師が」
「赤、なのか?」
「──はい」
赤の魔術師、ということは。
「ラウと村長の屋敷と」
「アラネアとノーナ、だな」
「な、なんか話が大きくなりすぎてませんか?」
「なってるな」
そう言って、キースはニヤニヤ笑ってる。
うぅ、あれ、分かってて笑ってるんだ。
「赤の魔術師のせいで、世界樹の村の村長の屋敷とアラネアがおかしくなりまして。どうしようかと思っていたところでした」
「アラネアは倒しましたよ」
「はい。そのお話を聞いて確認しましたら、アラネアは確かに交代してました」
ノーナが言っていたとおりだったので、安堵した。
「後は……村長の屋敷か」
「そういえば、村長の屋敷でラウを助けたときにラウからクエストを受けたのよね」
「まだ隠し玉があったのかよっ!」
「あれ? アラネアのときにフーマと話してましたけど?」
「あの時に話していたのがここに繋がっていたのか!」
「しかもこのクエストが発生したのって、二日目ですよ」
「……思っている以上のロングパスのやらかしだな!」
「しかも『【クエスト】呪いの魔術師』ってタイトルなんですけど、よくよく考えたら、意味深というか、思っているより壮大なクエストになりそうな予感がするのですが」
もう、なんといいますか。
このクエストって推奨レベルが表示されてないのですけど、まさかユニーク・クエスト……なんて言いませんよね?
……あれ?
まさかのユニーク・クエスト、なの?
「質問ですっ!」
「なんだ?」
「ユニーク・クエストかどうかってどうやって見分けるのですか!」
私の質問に、キースとフェラムは固まった。
あれ? もしかして、常識を聞いてしまった?
「フェラム、オレの思っていることを口にしてもいいか?」
「たぶん、同じようなことを思っていますが、どうぞ」
「自分の受けたクエストがユニークかどうかって、普通なら気にしないよな?」
「しませんね」
「ということだ、リィナ」
「ん? 結論?」
「結論を述べれば、気にしている時点でユニークだっ!」
キースはドヤッてそう言ったけれど、そんなので見分けられるわけないじゃない!
「リィナリティさんは本当に分かっていないようなので言いますが、ユニーク・クエストなんて、ひとりに一度、発生するかしないか、なんですよ」
「うむ」
「運営チームの解析班がリィナリティさんのクエストの解析をしたのですが、どうしてあなた、一般クエストがひとつもないのですかっ!」
「……え?」
「だから言ってるだろうが、やらかしの女神なんだって」
「そうなのかもですが、こうして明らかにデータで知らされると……なんでしょうか、私たちの知っているフィニメモの世界とは違う世界軸でプレイしているとしか思えないのですけど。こうして同じ空間にいるのは奇跡だとしか言えない、というか」
「そうなんだよ。どう見てもオレの知るフィニメモではない」
「ぇ?」
「本人が一番分かってない」
「そのようですね」
「いやいやいやいや、それはさすがにおかしくないですか?」
「では聞くが、村で自分からNPCに話しかけて受けたクエストはあるか?」
キースに聞かれて、考えなくても答えが出た。
「ないっ!」
「……ほらな」
「なにが『ほらな』なんですかっ!」
「自分から自発的にクエストを受けにいってないのにクエストを受けている時点で全部! そう、全部だ! ユニーク・クエストなんだよ!」
「な、なんだってー!」




