第百三十二話*《十三日目》オルドの正体
リアルでの出来事はしばらく割愛です!
ということで、フィニメモにログインっ☆
ログインすると同時にインベントリからイロンが飛び出してきて、さらには音もなく近寄ってくるのは、猫のはずなのに蛇のごとくなフェリス。
するすると身体を這って、定位置の首に巻き付いてきた。
「リィナ、フェリスの毛づくろいをするにゃあ」
「ログインするなり要求っ?」
「そこにいる紅い鳥肉に突かれて、せっかく整えてもらったのがぐちゃぐちゃにゃあ」
紅い……鳥肉、だと?
ばっと宙を見ると、あの夢で見た紅い鳥がいたっ!
「なっ? 夢が夢ではないっ?」
「追撃者オルドと呼んでください」
ばっさばっさと羽ばたいているオルドを、ログインしてきたキースが片手で鷲掴みしていた。
わ、ワイルド?
「なんだ、おまえは」
「あなたがキースさんですね。本当はリィナリティさんがいいのですが、あいにくと先客がいますから、特別にあなたの肩に止まってあげます」
オルド、まさかの上から目線!
対するキースはというと、鷲掴みのままオルドをジッと見つめ、それから思ってもいないほど穏やかな声でオルドに聞いた。
「それで、おまえは何者だ? システムか? AIか? ……AIだともう少し口が立ちそうだが、そうなるとシステムあたりか?」
え? まさかのシステムさんっ?
確かに、話してみたいとは思ったけど。
思ったけど、まさか、ねぇ?
「……AIが言っていましたが、やはりあなたは鋭すぎますね」
「ってぇ? 本当にシステムさんなのっ?」
「正確に言いますと、システムの一部、です」
「……………………」
「だから秩序なのです」
「なるほどねぇ。それで、システムさんは光栄にもオレの肩に止まってくださると?」
ちなみにキースはまだオルドを鷲掴みのままだ。オルドは特に嫌がることなく捕まえられたままなんだけど、あぁ、あれか。
「オルド」
「なんでしょうか」
「キースさんの手の中で、もしかして、気持ちが良かったりするの?」
「気持ちが良い? ……嫌ではないですね」
う、うむ。
さすがはキース?
システムまで手玉にしてしまうとは。
キースはようやくオルドを掴んでいた手を開いたのだけど、オルドは動こうとしない。
「おい、なんで手のひらに乗ったままでいる? おまえは手乗りインコかなにかか?」
「ぁ……? 暖かくて気持ちがいいのです」
「そ、そうか……」
キースはオルドを手のひらに乗せたまま、反対の手で毛並みを整えるように撫でていた。
うん、すごく分かるよ! キースに撫でられると気持ちがいいよね!
仕方がないのでおすそ分けってことで。
「フェリスもやってほしいにゃあ」
「してあげるのはいいんだけど。……なにかを忘れているような」
そう思っていると、フェラムからウィスパーが届いた。
『リィナリティさん、ログインしているのなら、下の台所まできてください』
『ぁ、はい』
そうだ! フェラムだ!
アラネアのことを聞きたいって言われてたんだ。
「キースさん、台所に行きますよ」
「あ? あぁ」
オルドを撫でることに夢中になっていた模様。
そんなにオルドの毛並みって気持ちいいのかしら? あとで撫でさせてもらおう。
キースとともに台所まで入ると、あれ? 台所まで広くなってる?
「リィナ、ようやく来たかい」
「こんばんは、クイさん」
「ちょうどおかわりのお茶を用意しようと思っていたところだよ。座って待っててくれるかい」
「クイさん」
「ん、なんだい?」
「台所、広くなった?」
「なったねぇ。最近はここに出入りする人が増えたから、建物が判断して広くしたみたいだね」
「ぉ、ぉぅ」
建物も学習するAI仕込み、と。
「フェラムさん、お待たせしました」
「いえ、美味しいお茶を飲んで待ってましたから問題ないです。……ところで、キースさん」
「なんだ」
「手のひらの上の紅い塊は?」
「あぁ、これか。なんか増えた」
「増えたって」
下手に正体を話したら騒ぎになるけど、その手抜きな説明もどうかと。
「それでは、本題に入りますか」
フェラムはそれ以上、突っ込んで聞いても答えを得られないと分かったのか、話題を変えてきた。
下手に聞かれたら答えてしまいそうだったから、助かった……!
椅子に座るとフェリスが当たり前のようにひざに乗ってきて撫でることを無言で要求してきたので、撫でながら話すことにする。
「アラネアですが」
「はい」
「実は、大変に困っていたのですよ」
「困っていた、とは?」
「魔術師のことは?」
「聞きました」
「ディシュ・ガウデーレには、赤、青、白、黄、緑、黒の色を冠する魔術師がいます」
「へー」
「それぞれの属性のトップ……みたいなものです」
ふむふむ、なるほど。
フェリスは私の膝の上を好き勝手にゴロゴロ転がり、撫でてもらう場所を変えている。
キースをちらりと見ると、こちらはオルドを撫で撫でしていた。
な、なんというか、うん、気にするな。
撫でられているオルドはとても満足そうな表情で……うとうとし始めた。
システムさんの一部、寝て大丈夫かっ?
「それで、その魔術師が?」
「……ちょっと待ってください。部屋の灯りがさっきからチカチカしてるような気がするのですが」
「言われてみれば」
チラリとキースの手の上にいるオルドを見ると、キースは私がなにを言いたいのか察してくれた。
撫でていた手を止めて、オルドをさりげなく起こしている。
オルドはキースに身体を揺すられて、ハッ! と飛び起きた。
「な、なんですかっ?」
「オルド?」
「あ、そのぉ」
「あとでお仕置き、な?」
「なっ、なんですとぉ!」
「あ、こちらは気にせず、続けてください」
「…………気になりますけど、続けます」
後からツッコまれる可能性を警戒しつつ、話の続きを促した。
「各色の魔術師はそれぞれ塔を持っていまして、基本的にはそこから離れません」
「離れない?」
「はい。自分の陣地にいないと秩序が乱れるのですよ」
「陣地? 秩序が乱れる?」
そんな設定があったの?
というか、それって周知の事実なの?
「リィナが戸惑うのも分かる。その話が出てくるのは、もう少し先だからな」
「ぇ? ネタバレっ?」
「ネタバレってほどではないな」
むむむ?
もう少し先……ということは、レベルの問題?
地域ごとに推奨レベルが設定されているから、そうなのかもしれない。
「キースさんは何色の魔術師と会いました?」
「まだどの色の魔術師とも会っていない。いる、としか聞いてないな」
「キースさんでもそうなのですね」
「あー……。βテストの後半は……下手に村に近寄ると女性プレイヤーに追いかけ回されたから避けていたんだ。だから村で発生するクエストはほとんど受けてない」
「なるほど。それでは、リィナリティさんが受けられるレベルになったら一緒に受けて進めるといいですよ」
「あぁ、そうだな。そうさせてもらう」
そんなことになっていたのか。
「あれ? 私と村の中を歩いても、別に追いかけられませんよね?」
「フードを被っているからな」
「うー? それだけだとは思えないのですけど」
レイドボスのとき、キースは私を抱えて走り回っていたから、私がいる=キースもいる、と思われていても不思議はないけど?
「あれか? フーマが出した動画」
「動画? ……あ! あれか!」
キースと私を妨害したらBANされるとまことしやかに言っていたあの動画か!
実際、あのモンスターおびき寄せシールを私に貼った人が、プレイヤーが見ている前でBANされているらしいし。
「BANされるのが怖くて、遠巻きに見てるだけなんだろうな」
「そ、それでも、追いかけ回されてゲームの進行が妨害されるよりマシですよね?」
「そうだな」
見られているというのは私には落ち着かないけど、追いかけ回されたり、罵声を浴びせられるよりマシ……と思うしかない。
な、なんか悲しくなってきた。




