第百三十話*《十二日目》『乾燥・解』の実力
それにしても。
『思った以上に凶悪なスキルだな、解』
『字面は格好いいのに、音にしたらツッコミを入れてるようで……』
『そこを含めて凶悪だと言っている』
『含めてなのっ?』
なんでだろう、職業名から始まり、職の役割といい、スキルといい、他の職と違ってツッコむところばかりなのは。
『システムがシステマチックに職を作ったらこうなりました、の見本だな』
『なるほど?』
それで、でしてね?
どれだけダメージが与えられたか、そしてスキル名に関してのツッコミだとか、スキルの凶悪性を話をしていて、大変に肝心なことを忘れてましたが。
『気のせいか、クラーケの視線を感じないか?』
というフーマの声に、思い出した!
『洗濯屋の、デフォルトヘイト値が高いのに、さらに高ダメージを与えて、ヘイト値が上がらないわけがなくっ!』
『いやぁ、やらかしてますねぇ』
『フェラムさん、のんきに構えてますけど、範囲で狙われてっ! うきゃあっ!』
クラーケの脚は第二形態になって伸びているわけで。
クラーケはやみくもに脚を振り回してきていて、さすがの私たちにもダメージががが。
『うきゃあ』
『うわっ!』
『ぎゃあっ!』
クラーケの脚が私たちを舐めるように殴っていく。
伸びた脚がムチのようにしなり、ビシッと私たちをもれなく殴っていく。
『ぅぅぅ、さすがに痛い』
『久しぶりに攻撃を喰らったな』
フィニメモで攻撃を喰らったのは別に初ではないけど、あのシール事件のことを思えば痛くない。けど、痛い。
『こ、これが痛覚三十%……』
シールのときの痛覚が何%だったのかは分からないけど、とてつもなく痛かった。
今回も痛かった!
『うぅ、攻撃を当てたいけど、当たりたくない……』
『なに当たり前なことを言ってるんだ』
『とはいうけどっ! 戦闘で攻撃を受けたのは……あれ? これが初なの?』
『初、である。わたしも痛かった』
『フェリスも痛かったにゃあ』
イロンとフェリスも痛かったようだ。
『リィナリティさん、さっきからずっと気になっていたのですけど、その首に巻いているのは?』
『フェリスにゃあ』
『フェリスという名の水色の猫、です』
『猫……を首に巻いている? ……いや、巻き付かれている?』
『巻き付かれてる、が正解です』
もふもふ感はあるし、暖かいし、重みもあるけど不快ではない。すでに自分の一部であるかのようになっている。
『猫は液体、と言われることがありますが……本当に液体なんですね』
『ぇ、フェラムさん、それ、本気で言ってます?』
『どう見てもそれ、液体ですよね?』
『……………………?』
首に巻いたままフェリスを見る。
……液体?
液体……?
液体っ!
なにを言っているんだと思うかもだけど、フェリスは私の首に巻き付いたまま、液体になっていたのだ!
液体というよりかは、ジェル状? といえばいいのだろうか。だけどやはり液体で……。
『フェリスは液体だったの?』
『そうでもあり、そうではないにゃあ』
『どういう?』
『水が好きなんだにゃあ』
フェリスの謎の答え……、いやこれ、答えになってないよね?
それはともかく。
『おまえら、第二弾が来るぞっ!』
のんきに話している場合ではなかった!
第二弾が来ると分かっていても、逃げればいいのか、防御はどうすればいいのか。
『イロン、なんかないの?』
『雑な聞き方だな』
『急いでるのっ! あるの、ないのっ?』
『ある』
『それならお願いっ!』
イロンが淡く光ると、私たちを覆うようなドーム状の膜が現れた。
『なに、これ』
『保護膜』
保護膜とは?
と思っていたら、クラーケの脚がそれに当たった。
脚が保護膜に当たると、ぼよんっと跳ねた。
クラーケは私たちを殴れなかったことに気がつき、もう一度、保護膜に攻撃をして、跳ね返されていた。
クラーケは諦めずに何度も何度も殴ってきて……。
その必死さがかなり怖いのですけど!
しかも!
べりべりべりっと膜が剥がれたっ?
剥がれた膜は以前見た湯葉の引き揚げみたいな状態になっていた。
えーっと? それだけ薄いけど頑丈ってこと?
『イロン?』
『問題ない、想定どおりだ』
どういう意味よ? と思っていたら。
クラーケは膜を脚にまとわせたまま、私たちをなぎ払おうとして……膜が脚にまとわりついて動きを阻害しているようで、スカッスカッと私たちの頭上を何度も行き来している。
当たりそうで当たらない、そんな状況なのでかなりドキドキだ。
クラーケはようやく膜をどうにかしなくては私たちに攻撃が出来ないと気がついたようで、脚をぶんぶんと振って膜を剥がそうとしていた。
『よし、この隙にっ! 『乾燥・解』っ!』
今度は先ほどよりHPを突き込んで、半分ほど。
『リィナを止めるのは無理だと悟った』
『なにを今さら。だが、大人しいリィナなんて、リィナではないっ!』
キースとフーマの会話が聞こえてきたけど、ひどくない?
それについては覚えていたら後でツッコミを入れるとして。
クラーケが必死に膜を剥がそうとしているところに私のHPの半分を注ぎ込んで『乾燥・解』を掛けたのだけど、クラーケのHP残量の半分が削れる、なんてことはなかった。
むむむ?
【攻撃続行で! クラーケのHP、だいぶ削れてきているが、最後まで油断するな!】
キースの指示に、あちこちから返事が返ってきていた。
うん、さすがだ、キース。
『さっきと同じくらいのダメージだが、リィナ、HPはどれだけ注ぎ込んだ?』
『半分Death』
『殺すな。……半分か。これ、乾燥と同じく、なにかデバフが掛かっていたり……はしないな、ふむ』
『乾燥・解』は『乾燥』みたいにデバフがつくなんて特典はないの?
そう思っていたのだけど、どうもクラーケの様子がおかしい。
さっきまで必死になって膜を剥がそうとしていたのだけど、まだ剥がれていないのにもかかわらず急に興味を失ったかのように振っていた脚を止めただけではなく、私たちから視線を外した。
結構なダメージを与えたからまた攻撃されると思っていたのに、拍子抜けだ。
『……あれ? なんでクラーケからの攻撃がないの?』
『なんだ、リィナ。やはり殴られたかったのか?』
『んなわけないでしょっ! ヘイトを稼いだから、当然、殴られると思うじゃないですか!』
『まあ、そうだな』
もう! 前も言われたけど、なんでそんな痛いの大好きな人になってるの!
『ところがそれがなかった。ということは、だ。またなにかの効果が付与された、と考えられるな』
なにかの効果……ね。
それはなんだろうか。
そう思いつつ、何気なくシステムメッセージに視線を向けた。
『……ん?』
『どうした?』
『ぅ……。システムさん……』
私はスクリーンショットを撮って、無言のまま共有した。
フェラムたち運営チームとパーティメンバーが一斉にスクリーンショットを見ている。
『クラーケのヘイト値を下げます。……成功しました。なるほど、これか』
『洗濯屋のヘイト値が高いのに、さらにとんでもないダメージを与えたらヘイト値も吹っ切れるから、ヘイト値減少というデバフを掛けた、と』
『みたいですね』
継続してヘイト値を減少させなくていいから、クラーケに掛かっているデバフを見ても分からなかった、と。
『HPを半分注ぎ込むから、相手によって一撃で残りHPを削られる可能性があるから、ヘイト値減少のデバフか。相変わらずの過保護っぷりだな』
『ほんとに』
それにしても、なんでこんなにもシステムさんは私のことを気に掛けてるのだろうか。
一度、話せるものなら話してみたいDeathっ!




