第百二十九話*《十二日目》『解』って『かい』なので、音にするとちょっと残念なことに
『乾燥・解』というスキルを新たに覚えたのですが。
これのスキル説明が……いや、説明というより、発動条件がひどかった。
『MPではなく、HPを消費して使用します』
『…………? リィナ、悪いがもう一度』
『要するに、HP消費で使えるスキルですよ、と書かれてます! しかも「相手に大ダメージを与えると同時にこちらもただではすまないNe☆ 諸刃の剣っ☆」って! またここでもNe☆って!』
しかもなにが『諸刃の剣っ☆』なのよっ!
ゲームのスキル説明とはいえ、ふざけすぎっ!
『MPを使用して使おうとしたから使えなかったのね……。って、なんでHP消費なのっ! おかしいじゃないっ!』
『フィニメモ内でのスキルの一部にはHP消費で発動するものがいくつかありますから、そこまでおかしな条件ではないですね』
とフェラムがしれっと言うのだけど。
『具体的にっ!』
『まだ発見されていないスキルが大半なので詳しくは言えませんけど、HPとMPを入れ替えたりできますね』
『それ、どんな場面で……』
『MPが枯渇したとき、HPが潤沢にあれば交換したいと思ったこと、ありませんか?』
『思ったことも考えたこともないです』
『なるほど。そのあたりの管理が上手なんですね』
『そんなことはないですけど』
気が付いたらHPもMPも空で死んでいた、というのは別ゲームだけどあった。
『……HP消費でスキルを発動させる、なんて初めて聞いたのですけど』
『俺はあるぞ。だがまぁ、HP消費だからどちらかというとダークなスキルのイメージが強いな』
『ダーク……』
洗濯屋ってどちらかというと汚れ物を落とすから、爽やかな感じがするのだけど。それを思うと真逆なイメージのスキルじゃない?
『乾燥・解、というスキル名を読み解くと、どうしてHPなのか、おのずと分かりそうな気もするが』
そう言って、キースはなにかブツブツと呟いている。ちょっと怖い。
『キースがこうなったら、答えが出るまでずっとこれだからな』
『そうなの?』
『基本はすぐに答えが出るというか、出すというか。なんだが、難解な問題になればなるほど、当たり前だが答えが出るまでの時間が長くなる』
『乾燥・解』という名前って深い意味があって付けられたものなのだろうか。
……一応、意味があるのだろう。たぶん。
『もしかしなくても』
たぶんだけど、『解』は私がうんうん唸りながら検証した結果を、システムさんなのかAIさんなのか分かんないけど、答えを示した……『解』を出した、という意味での『解』だと思うのですよ。
いわゆる『アンサーソング』ってやつ?
……なんか違う。
ま、まぁいいや。
『私の悩みを、私が検証した結果を、システムさんなのかAIさんなのかが分析して、新たに開発したスキル、これが答えだっ! なんだと思いますけど』
『さすがは我が持ち主。良く分かっている』
『へっ?』
『なるほどな。さすがだ、リィナ』
あれ? 自力で答えにたどり着かないと満足いかないのかと思っていたのだけど? 違ったのかしら?
『キースが珍しい』
『珍しい?』
『自力でそこまでたどり着かないとたまに切れるんだよな』
『フーマ、オレは大人になったのだ』
『嘘くさいな』
キースが大人……?
……年齢から言えば成人して何年も経っているのでそういう意味では大人ではある。
では、精神的には? と聞かれると……。
ノーコメント。
怖いので触れないことにする。
うん、それがいい。
『私への答え=解でもあるのですが、スキルの説明にもその答えがあるのですよ』
『スキルの説明?』
『はい。取得する前に書かれていたのですけど、部位ごとにスキルが働くようなのですよ』
『部位ごと?』
『スクリーンショットを撮っておいたのですけど、見ますか?』
『是非っ!』
一番食いついてきたのは、フェラムと解析チームだった。う、うん。
スクリーンショットを見せると、全員が一斉に覗き込んできた。
『ぅぅむ。やらかし』
『こうも続くとその言葉も出てこなくなるな』
『まったくな』
フェラム、キース、フーマの順だ。
フェラムはまだ新鮮なのね。
なにが新鮮なのかは知らないけど。
『乾燥が掛かりにくい物体に対して部分に分けて(物理的にバラバラにはしません)乾燥を掛けます。……なるほど、解という漢字には「バラバラにする」という意味もある。色んな意味が込められすぎて情報過多なスキル名になってしまったということか』
解ってそういう意味もあるのは知らなかった。
あ、でも、解散ってのは漢字の意味からして、『バラバラになって散る』ってことだから、なるほど、意味が深い。
『普段、何気なく使っているものでも、見返すとなるほどと思えることが多いですね』
それには同感だ。
『通常の乾燥とは違って、部位ごとに掛けるとどうなるんだ?』
『これ、ぶっつけ本番でやってもいいですか?』
『その心は?』
『MP回復の餌では小さすぎるし通常の乾燥でも倒せると思うので、検証が出来ないからですっ!』
シン……と静まり返ってしまったのですけど、なんでよ! いつもだったら言葉に被せてくるくらいの速さでダメと言われるのに! だれでもいいから反応してっ!
『……どうする?』
『うーん……』
キースとフーマがこそこそ言い合い、しかもアイコンタクトで会話をしているのですけど。
君たち、そんなことをしているから「尊い回」って言われるんだよ。
そしてふたりの話し合い? 話してた? ……きっとウィスパーを使って話してたんだよ、うん。
そうしよう、そうだったと思っておこう。
目と目で通じ合う、なんてこと……。
ううん、やはり「尊い回」……。
『リィナ、行けっ!』
『ぉ、おっす!』
『リィナ、そこは御意』
『ぎょ、御意っ!』
もうなんでもいい、ヤケである。
やはりフーマが行けと言ってきた。
けしかけ役らしい。
『解』は初めて使うため、『乾燥』のように自動でMPを割り当ててくれるようにはHPを割り当ててくれない。
手動で、なんだけど。
HPって体力ではないですか。
0になると死んでしまうのですよ!
しかも私のHPは同じレベルの人と比べて少ないと思われる。
どれくらい注ぎ込めばいいのか分からないし、なんというか、MPを注ぎ込むときと違って、変な感覚がある。
なんというか、背中をなぞられているかのような、ゾッとする感覚、と言えばいいのか。
それを我慢して、とりあえず……四分の一? 注ぎ込みすぎ?
分からないから、安全圏である量にしておこう、うん。
んで、次はターゲットを決めて……と。
クラーケに視線を定め、よしっ!
『『乾燥・解』っ!』
うん、なんだろう。
字面はいいんだけど、響きが悪い。
乾燥かい! ってツッコミを入れているかのような響きだ。
乾燥と解の間に少しタメを入れるといいかもしれない。
そして、結果なんですが。
『うっひゃあ』
『毎度ながら規格外だな』
そう、私の体力四分の一と引き換えに、クラーケの残量から四分の一が削れたというね!
いきなりゴソッと減ったからか、異変に気がついたプレイヤーがざわめいている。
これ、どうするつもり?
【今のはバグでもなんでもない、想定どおりだ。攻撃を続けて問題ない】
と詳しいことは語らずに攻撃続行を指示するキース。さ、さすが?
さて、私のHPなのですけど。
『癒しの雨』の効果ですぐに回復した。
この『癒しの雨』なんだけど、前の災厄キノコのときにスキル名はともかく、効果は知られたため、特に混乱はなかった。
それで、このスキルはキースのユニークスキル、ということになっているらしい。
よし、キースを隠れ蓑にしてしまえばよし! ということで、今回のこれもキースのせいにしておこう、うん。




