第百二十八話*《十二日目》『解』って……
※鯖構成の話をしてますが、適当です。
クラーケは人質にと思って捕まえたプレイヤーに攻撃をされて慌てて投げていたのだけど、投げられた人たち、大丈夫?
【投げられた人たち、大丈夫か】
問題なーい! という元気な声が返ってきていたので、無事のようだ。よかった。
『クラーケのHPは半分になったか?』
『私たちがぐだっている間にそんなに……。フェラムさん、やはり想定より早いですか?』
『早すぎですね』
やはりバフは偉大、と。
『ぜひとも、バッファーの取得条件をだれかに見つけてもらわないと』
『実はメンテ明けにバッファー第一号が誕生しているのですよ』
『な、なんだってっ?』
『その人、ここにいます?』
『いないみたいですね』
いたら突撃して条件を聞こうと思ったのに、残念っ!
さて。災厄キノコと違って、まだ二形態目だ。とはいえ、形態変化したということは、先ほどとはなにかが違うはずだ。
現にプレイヤーを人質にするべく、捕まえていた。
思惑どおりにいかなくて、すぐに投げ飛ばしていたけど。
『モンスターもNPCの一種、なのですよね?』
『定義から言えばそうだが……』
『今ってモンスターとAIって繋がってないのですよね?』
確認のためにフェラムに視線を向けると、渋面を向けられた。
『先ほどのキースさんの返事にお答えしますが、モンスターは別鯖で管理しています』
『そ、そうなの?』
『ゲーム内で一番、生成数が多くて負荷が掛かるのがモンスター鯖です。なのでこちらは独立させています』
『知らなかった』
『鯖構成を公表しているタイトルはほぼないはずですからね』
『それはどうして?』
『外部から侵入されるとどうなるか……あとは分かりますよね?』
『な、なるほど?』
自分ではできないけれど、世の中にはそういうことを嬉々としてやる人がいるというのは知っている。
そういうことをする人の理由は様々だと思うけど、人に迷惑をかけることを喜んでやることは間違っていると断言できる。
というのはともかくとして。
『ですので、一番活発で、負荷が掛かる鯖にAIを接続したらどうなるか、火を見るより明らかではないですか』
そういう理由でモンスターにはAIが乗ってないのか。
『もし乗せていたら、プレイヤーはAIに翻弄されてモンスター鯖の負荷が低くなっていたかもな』
『……と考えますよね』
『違うのか?』
『結論から言うと、違うと思う、です』
『なぜ曖昧な答えなんだ。検証したのか?』
『もちろんです。「リアルにこだわる」が開発のコンセプトのひとつですから』
フィニメモはリアルにこだわって作られていると思っていたけど、そのとおりだった!
『の割には野菜が動いたりするのは?』
『そこはゲームですから。このディシュ・ガウデーレにおける現実と思っていただければ』
この世界では野菜も動く、と。
なるほど、現実世界とまったく同じだと面白くない、ということか。
『それで、ですね。モンスター鯖とAIを繋いでみたのですが、想像以上に鯖に負荷が掛かって話にならなかったのですよ』
『モンスターの数が多すぎて?』
『そう思って、地域を絞って適用したのですが、変わらずでした』
むむ?
どういう理由で?
『しかも、フィールドに肝心のモンスターが沸かなくなりまして』
『え?』
『AIがモンスター鯖内でモンスターを倒していたのですよ』
『AIェ……』
AIさん、なにしてるの。
『もしかしたら、AIはモンスターの検証をしていたのかもしれません』
『検証?』
『はい。モンスターの強さ、スキルの有無などです。なので、もしかしたらあのまま続けていたら、AIが積まれて、モンスターに知性が宿っていた可能性があります』
『途中で止めたんですか?』
『はい。例のミルムが無駄だと言って切り離しました。なのではっきりとした結論が出たわけではないのです』
『むー?』
ミルムはAIがモンスターに乗っかって知性を得られることを由としなかったからなのか、それとも、AIの危険性を知って止めたのか。
今となっては分からないし、分かったところで仕方がないので、とにかく、なんらかの理由で止めた、と。
『ミルムはとにかくAIを敵視してましたね』
『彼女なりに思うところがあったのだろうが』
『だからって無差別BANはねぇ?』
しかも味方であるはずの運営陣を全員BANするとか。
まったくもって意味が分からん。
『リィナ、乾燥なんだが』
『あいにゃ?』
『もう一度、試してみないか?』
『いいですけど、なにか突破口でも見つけました?』
『ない』
ないって!
きっぱりしすぎですよ!
『さっきの』
『さっきの?』
『クラーケを出すキッカケになった一発狩りにヒントがあると思うんだが』
それだけ言って、キースは腕を組んでなにやら考え始めていた。
それにしても、一発狩り?
……範囲に対してのゲージが出るようになっただけ……。
……………………?
『んっ?』
なにかのヒントにならないかとスキル一覧を見ていたのだけど、なにこれ?
乾燥・解……乾燥が掛かりにくい物体に対して部分に分けて(物理的にバラバラにはしません)乾燥を掛けます。
新……? スキル?
改良版?
もしかしなくてもなんだけど、システムさんなのかAIさんなのか分からないけど、私のプレイ結果を反映させてこれを作った?
あり得る話ではある。
そもそもが洗濯屋という職業はこのフィニメモ内で実は最初から合ったけれど、運営側が認識してなかった? それとも、仕様外の職業だったから拾われなかった?
いやいや、それではディシュ・ガウデーレは既存の世界って話になるか。
さすがにどこかにある世界を再現している、なんてことはないよね?
……………………。
う、うん。
怖いからこれ以上はこのことには触れないとして。
洗濯屋の本来の働きを考えると、洗濯をするのだから、それに付随したスキルを備えている。
そしてこの職は『戦うこと』は想定されてなかった。
だけど、だ。
なんらかの要因があって、戦わざるを得ない状況になったために先人たちが工夫して戦闘用に改良してきた……というのが洗濯屋のような気がする。
クイさんも前に『バフを覚えるまでお荷物状態で肩身が狭かった』的なことを言っていたし。
それで。
今回、水棲生物相手には乾燥というスキルが弱い……効きにくい? というのが明確になり、私に『水棲生物にちょうどよいスキル加減』を探らせた……というか、私が勝手にやったというか。
その結果を受けての『解』なのではないかと。
って、なんで改良の『改』ではなくて『解』なのだろうか。
まさか『これが答えだっ!』ってドヤッて付けた……なんてこと……。
う、うん。
システムさんなのかAIさんなのか分かんないけど、ネーミングセンス……。
ま、まぁ、いいや。
いきなりクラーケに使うのは怖いので、試しに使ってみたい。使い心地も知りたいし。
ってことで、試しに使うには……。
フーマがことごとく一発で倒している宙に浮いているイカを横なぐりしよう。
さて、と。
あ、その前にスキルを覚えて……ですね。
いざ、使おうと思ったのだけど、乾燥とまったく違うみたいで、どうやって使うのか分からないのですよ。
ひとりでうんうんやっていたら、キースが気がついたようだ。
『リィナ、どうした?』
『えと、そのぉ』
このタイミングで『解』をゲットしたと話した途端。
「運営解析チーム!」
『にゃっ?』
「目立たないように解析を」
フェラムの呼びかけに応じて、いきなり目の前に三人組が現れた。
三人とも黒子衣装なんだけど、逆に目立ってるから!
どうやらこの人たちが解析チームらしい。
『リィナリティさん、いつでもいいですよ』
『ぉ、ぉぅ』
いつでもいいって……。
『新スキルというか、バージョンアップ版というか。これ、使い方が良く分からないのですよ』
『乾燥とは違うのか?』
『同じはずなんですけど……』
『リィナ、スキル説明は?』
いつもまともに書かれていないからと見てないのだけど、もしかしたら詳しく使い方が書かれているかも。
そんな淡い期待を胸に見たのですけどね。
『……………………』
うん、ひどかった!
『どうした?』
『乾燥・解ですけど』
大きく深呼吸をしてからもう一度、説明を見た。
そ、それにしてもこれ……ひどいっ!




