第百十八話*結婚祝いの宴・後編
上総さんと話をしていたら、楓真と陽茉莉が入室してきた。
楓真と陽茉莉ペア、むちゃくちゃ神々しいのですが!
白無垢なので、本来であれば綿帽子か角隠しなのだろうけど、それらは使わないでおくのが藍野家流らしい。そのため、髪を結うのだけど、私の髪の毛はボブなので、白い生花で作られたヘッドドレスがつけられている。とても華やかでかわいい。
陽茉莉はというと、髪が長いために自前の髪を使って結ってある。そして左右にはやはり白い生花。陽茉莉の美しさをさらに引き出していて、美しすぎる。
「お姉さま! やはりとても綺麗ですわ!」
陽茉莉も同じように白無垢を着ているのだけど、こちらは正統派美人だから、それはもう、目映いくらい美しい。
「あ、ありがとう。陽茉莉ちゃん、綺麗」
「うふふ、ありがとうございます」
「せっかくだから、二人が並んでるところを撮ってもらっても?」
「あ、いいね! それなら、麻人さんと楓真も並んで撮ってもらおう!」
「なんでだ」
「私がほしいからです!」
「わたくしもほしいですわ」
楓真が陽茉莉と二人で撮ってもらえばと言ったのに、麻人さんと楓真は渋っていたけれど、最終的にはワイワイと言い合って、写真を撮ってもらった。きょうだいショットまで撮ってもらった。すごく楽しい。
「麻人さん、陽茉莉ちゃん、末永くよろしくね」
「当たり前だ」
「もちろんですわ」
「あれ、俺は?」
「楓真は嫌でも一生のお付き合いでしょ」
「え、俺のこと、嫌なのか?」
「たとえよ、たとえ! 嫌なわけ、ないでしょ。大切な弟だよ?」
「……よかったぁ。俺の女神に嫌われたら、俺、辛すぎて引きこもる」
相変わらずの楓真に、陽茉莉と顔を見合わせて苦笑した。
「大丈夫ですわ。お姉さまは女神なのですから嫌うこともありませんし、なによりもわたくしが楓真さまのこと、好きすぎて辛いくらいですもの!」
「陽茉莉……っ!」
楓真が陽茉莉に抱きついているのを見て、父の行動と被って見えて思わず苦笑してしまう。
ラブラブなふたりを微笑ましく見ていると、麻人さんが横にやってきた。
「莉那」
「はい」
「ありがとう」
「ん? なにがですか?」
麻人さんを見上げると、その視線はとても優しく楓真と陽茉莉を見ていた。
「陽茉莉と仲良くしてくれて」
「ぇ。そこ、お礼を言われるようなことなんですか?」
「藍野家の存在が明らかにされたのはここ数年なんだが、その前からも周りからなぜか距離を置かれていたんだ」
なんというか、近寄るな的なオーラが出ているというか。
あとは……観察されているかのような、冷ややかな視線?
一番はたぶん、その見た目の良さ、のような気がする。
「容姿が整いすぎていて、近寄りがたいというか」
「そうなのか?」
「麻人さんは分からないかもですけど、やはり見た目がいい人のそばにいたいとは思いませんよ」
「それはなんでだ?」
「無意識のうちに比べてるからです。見た目のいい人の横に立てば、自分の見た目と比べて、コンプレックスが刺激されますから」
私の場合は楓真がそうなのだけど、慣れてしまったというか、比べること自体が馬鹿馬鹿しいというか。
「楓真は見た目もいいし、出来る子ですから、麻人さんと並んでもやっていけます」
「そうだな。あいつはオレのライバルでもあるからな」
「そうでなければ、ずっとそばにいられませんよ」
「……そうなのか?」
疑問に思うのももっともなので、説明を付け加える。
「人というのは、無意識に比べてます。特に見た目はだれが見てもわかりやすいから、よく比べられますね」
「……そうなのか」
「麻人さんは見た目がよいから分からないかもですけど! 私は楓真とよく比べられてました」
「莉那はかわいいぞ?」
「それは欲目です!」
「正直に言えば、最初に見たとき、整ってるのに地味だと思ったが」
「ほらっ!」
「でも、今は違う。莉那はかわいい。そのかわいいはオレだけが知っていればいい」
そう言って、麻人さんは私の頬を撫でた。思わずすりすりしてしまう。
「見た目がよいというのも考えものだな」
「どうしてですか?」
「オレも陽茉莉も、たぶんだが、見た目で遠巻きにされてきたような気がする」
「そうかもですね。でも、陽茉莉ちゃんはかなり明るい性格ですけど」
「オレは根暗だと?」
「そこまで言ってないですけど、あまり明るくはないですよね?」
「……まぁ、そうだな」
見た目だけではないような気がするけど、うーん、なんだろう?
麻人さんとそんな話をしていると、上総さんが近寄ってきた。
「麻人、莉那」
「はい」
「僕は仕事に戻るよ」
「え、今日ってお休みだったのでは?」
「僕は毎日が休みで、毎日が仕事だよ」
「?」
「託宣は時間を選ばないから、常に待機なんだよ」
それって大変なのでは?
「せっかくのお祝いの席にいられなくて、申し訳ない。……それにしても」
「?」
「麻人を視ていると色々と重要な未来が視えるのはどうしてなんだろうね?」
「オレ?」
「その点、莉那は視えない。……いや、前は麻人を視てもこんなに視えなかったから、莉那が視せてくれている、ということか?」
それから上総さんはなにかブツブツと呟きながら、部屋から出ていった。
せめて夕飯を食べてから戻ればいいのに、と思ったけど、それどころではないのかもしれない。
それから少ししてから父と母、依里さんの三人が一緒に現れた。
「久しぶりに楽しかったわ」
「なずこさんは相変わらずモテますね」
「穂希さんと依里さん以外の人からのそういった好意は要らないわ」
相変わらず母はモテモテらしい。
というより。
「え、お出かけしてたの?」
「えぇ。穂希さんとはよく出掛けるけど、依里さんとはとても久しぶりにだったわ」
世間は日曜日ですし、まあ、いいのかしら?
そういえば、と思い出す。
他の家がどうなのかは知らないけれど、陸松家では食品や日用品などの購入は主にネットを使っている。
近所に実店舗があるため、緊急時には買いに行くことはあるけど、滅多に買いに行くことはない。
だから出掛けるとなると、映画を観に行ったり、遊園地に行ったりといった場合だ。
まだVRが一般的ではないけど、一部ではVRで試着できるのを売りにしているネットショップもあるので、それが当たり前になると、ますます外に出る機会が減ってしまう。
そんな環境なので、お出かけは特別なものという認識が強い。
とはいえ、学校に通ったり、会社に行ったりで外に出るので私はあまり特別感はないけど、母は働きに行っているわけではないので、外出は珍しい。
後は母が外に出ると、やたらと声をかけられる。
それは幼いころから知っているのだけど、未だにというのがすごい。
声を掛けられるのがうっとうしいようだけど、父とは頻繁に出掛けている。不思議だ。
「ところで、上総は?」
「お仕事といって出て行きました」
「……そうか」
かなり残念そうな表情の依里さんになんと声を掛ければいいのか分からない。
「麻人と莉那ちゃん、楓真くんに陽茉莉、結婚、おめでとう。上総と杏珠がいないのが残念だが、お祝いの宴をするとしよう」
依里さんの合図で始まった。
「うちの子を選んでくれて、ありがとう。杏珠の望みを叶えてあげられたよ」
杏珠さんの望みは、私か楓真と麻人さんか陽茉莉のどちらかが結ばれること、だったと聞いた。
結果的に二人してなので、杏珠さんは満足だろう。
それにしても、とふと思う。
上総さんは仕事だといって席を外したけど、実は内心では先を越されて辛かった?
真相は分からないけど、上総さん不在なのはちょっと淋しい。
私たちは和気あいあいと美味しい料理を食べて、過ごした。




