第十一話*《一日目》初めての死亡体験
村から一歩出た途端にモンスターをトレインしていた人に巻き込まれて、私、死亡!
みなさん、お元気ですか? 平民エルフのリィナリティです。
うん、明らかに空元気ですね!
……ちなみに、モンスターをトレインというのは文字どおりで、列車のように大量のモンスターを引き連れている状態のことをいう。
引き連れていると言っても、召喚師やトレーナーが連れているモンスターではなく、狩り対象のモンスターだ。
トレインになるのは、なんらかの要因──たいていの場合は自分たちの戦闘力を甘く見積もった結果だが──でモンスターがプレイヤーの狩り速度より速く沸くなどして対応が出来なくなって、死ぬのが嫌だからと逃走をするうちに逃走経路にいたモンスターまでも巻き込んで引き連れている状態を言う。
最悪な場合は他のプレイヤーを巻き込むことになるので、MMOでのトレイン行為は大変に嫌われている。
まぁ、これを利用してプレイヤーを殺す行為なんてのもあるわけで、この行為はMPK、もっと分かりやすく言えば、モンスターを利用して間接的にプレイヤーを殺す行為、となる。
フィニメモは特定フィールド以外ではプレイヤーに攻撃はできないけど、残念ながらこのMPKはできてしまう。
そう、今の私がまさしくそうなのだ!
……自慢は出来ませんけど。
そしてその結果、私の身体はフィニメモの大地を存分に味わっている最中だ。
要するに──。
私はフィニメモで初の死亡というヤツを体験しているところだ。
ゲームによるのだけど、
(一)パーティだろうがソロだろうが死亡判定を食らったキャラクターはセーフゾーンに強制送還になるもの
(二)死亡したキャラクターはその場に死体となって動けないもの──この場合はパーティメンバーや外部のプレイヤーが蘇生アイテムやスキルを使用することでその場で復活ということも可能──
(三)パーティメンバーが生存している場合もパーティメンバーが全滅しても、(二)の状態のもの
(四)パーティが生存している場合は(二)の状態だが、パーティメンバーが全滅したらセーフゾーンに強制送還されるもの
と大まかに四種類に分別されると思う。
となると、私の今の状態は(二)となる。
さらに解説しよう!
フィニメモの死亡時ペナルティはどうなのかというと、レベル十まではペナルティなし。それを超えると経験値の十%のロストだったはず。
ゲームによっては所持金の何割かなくなったり、所持アイテムのロストあるいはドロップだったりと、これらのどれかだったり組み合わせだったりと様々だ。
そして、所持アイテムのドロップがある場合はMPKが多い傾向にあるようだ。なぜなら、自らの手は汚さずに美味しい思いができるから、らしい。
MPKerは滅びればいいと思う!
「リィナさんっ!」
ウーヌスだけではなく、洗浄屋のみんなが私の死体の前でおろおろしているのだけど、これ、どうしよう?
うーん、私の現在の取得経験値はゼロ。しかもまだレベル一。しかも村から一歩しか出ていない地点での死亡。
そうなると、だ。
今は死体なので、話すこともできない。
できることは『最寄りの村へ』をポチッとすることくらいだ。
今はだれもここに近寄ってきていないみたいだけど、いつまでもこのままだと私の哀しくて惨めな死体をプレイヤーにさらすだけ。
ちなみに、トレインされてきたモンスターの群れは私の死体の周りに未だにいる。
しかし、初期村の周辺はノンアクティブばかりのはずだけど……? はて?
ウーヌスたちに最寄る──死亡して「最寄りの村へ」行くことを言う──ことを伝えたいのだけど、喋れない。
いや、彼らはNPCだ。私よりゲームのシステムに精通しているはずだから私の死体が目の前から消えたら最寄ったと判断してくれるよね?
……いや、フィニメモの運営だからなぁ、かなり怪しいけど、迷っていても時間だけがいたずらに過ぎていくだけだ。
うん、『最寄りの村へ』を選択、と。
そして、視界が暗転して──私の身体は洗浄屋の玄関前に戻ってきた。
それから私は自分の身体を軽く動かしたり、状態を確認してみたが、特に痛みや違和感はない。
ないのだが、HPは半分ほどしかない。
なるほど、最寄ると体力が半分になるのか。
だけどこれは自然回復で戻るから問題ない。
なので私は慌ててウーヌスたちがいる村の出入口へと走って向かった。
ウーヌスたちは村に入って私の帰りを待ってくれていたようだ。
「みんな、ごめんね!」
「ねーちゃん! 心配したよ!」
そう言って、虹色の羽を隠したオルが私に走りより、抱きついてきた。私はオルをキャッチして、抱きあげた。
「心配掛けてごめんね」
眉毛を八の字にして今にも泣きそうなオルに笑ってみせると、口がへにゃっとした。それは必死に涙をこらえているようだった。
むちゃくちゃかわいいオルがそんな表情をしているのを見ると、ものすごい罪悪感にかられるのですが。
あまりのかわいらしさに思わずぎゅぅっと抱きしめたって罪はない! セーフだ、セーフ!
いやでも、今のは私は一ミリも悪くないはずだ。
ウーヌスが警告をしてくれたけど、さすがに村から一歩踏み出しただけであんな目に遭うなんて普通は思わないじゃない?
「すみません、リィナさん。油断してました」
「いや、ウーヌスが謝るところではないわよね?」
あれはトレインしていたプレイヤーが悪いのだ。
「……にしても」
「はい?」
「なんかおかしくない?」
モンスターはセーフゾーンには入ってこられない。だからこそ、あのプレイヤーはモンスターから確実に逃げるために安全地帯である村へトレインしてきたのだろうけど、どうにも腑に落ちないのだ。
ちなみに私たちは村の中にいる。出入口で立ち話をすると他のプレイヤーの通行の邪魔になるので、端に寄ってだけど。
でも、村から一歩踏み出せば、そこには私をノックアウトしたトレインされてきたモンスターがゴロゴロといるのですけどね!
だからなのか、村の外を見て引き返していくプレイヤーが後を絶たない。
なんともまぁ、迷惑な。
「初期村の周辺って手出しをしないとモンスターって襲ってこないはずよね?」
「そうだと認識してますが」
叩かない限りは襲ってこないモンスターの性質をノンアクティブという。
逆にこちらの姿を確認したら襲ってくるモンスターはアクティブという。
また、モンスターには同族意識のあるものもいて、ノンアクティブだけど同族意識がある場合は、一体を叩いたら周りにいるモンスターも反応して襲いかかってくるようなもの──これをリンクするという──もいる。
初期村の周辺はノンアクティブで、同族意識のないものばかりのはずだけど?
まだ私はフィールドには一歩しか出ていないから分からないけど、村の外にいるのってどのあたりにいるモンスターなのだろうか。
「ねぇ、私を一発KOしていったあそこにいるモンスターって、普段はどのあたりにいるの?」
私の質問にずっと黙っていたドゥオが口を開いた。
「こいつらなら、ここからでも見える。ちょっと先にいるでしょ?」
村の出入口に陣取っているモンスターを改めて見て、それからドゥオの指先をたどって見ると……。
確かにいますね、はい。
モンスターはプレイヤーと違って、頭上に名前がついている。
「グリーンマッシュルームは若い個体で、あまり強くないし、攻撃をしないかぎりは襲ってくることがない。しかも畑の野菜とは違って、収穫時に噛んでくることはない」
ぉ、ぉぅ……。
え、えーっと……。なんと申せばよろしいでしょうか。
いえね、ゲームだって分かっているのですが……、動くモンスターを食するっていうのが……。
それを言ったら肉や魚はいいのかって言われそうだけど、ほら、現実では加工されてるじゃないですか。だから平気ではあるのですよ!
ま、まあ、気を取り直して、と。
「こ、ここから畑に向かうの?」
「それね。どうする?」
ドゥオの言葉にウーヌスが口を開いた。
「ここからが近いですが、一歩でたらまたリィナさんが襲われる可能性がありますし」
「わ、私、なにもしてないけど、知らないうちにヘイトを稼いでたってこと?」
ヘイトとは、英語で「憎悪する」という意味だ。ゲーム内でヘイトというと、モンスターの嫌がる行動を取ること──ダメージを与えたり、回復系のスキルを使ったり──で、モンスターのヘイトを増加させることになる。他にはタンクなどが持つスキルで、わざとヘイトを稼いでターゲットになる、というのもある。
「大変申し上げにくいのですが」
「が?」
首を捻ってウーヌスを見ると、かなり視線が泳いでいる。
「言いにくいことなの?」
「それは……──」




