第十話*《一日目》歓迎会
どうやら私がログアウトしている間に、私の歓迎会を開こうという話になったらしい。
それを聞いて、むちゃくちゃ感動した!
「すごい嬉しい! みんな、ありがとう!」
「ほら、お礼を言うのはまだ早いよ。なんせ、歓迎会は始まってもいないのだから」
クイさんが言うとおりではあるんだけど、それでも私は嬉しい。
「あ、そうだ。みんながそろってるから聞きたいこと……というか、お願いがあるのですが」
私の言葉に、準備の手を止めて顔を向けてくれた。
「あ、邪魔したかしら?」
「大丈夫ですよ。それで、リィナさんのお願いごととは?」
「あの、フーマっていうプレイヤーは知ってる?」
プレイヤーの間では有名らしいけど、運営も知っているかどうかは分からない。たとえ運営が知っていても、NPCにその情報が渡されているかは分からない。
知らないと言われたら説明すればいいか、と思っていると……。
「ぼく、知ってるよ!」
「えっ? オルは知ってるの?」
「うん、ぼくはその人に助けられたんだ!」
な、なんという偶然!
……まさか?
それが引き金となって、レア職業をゲットした可能性、ない?
あり得るけど、再現するのはかなり難しい。
それとも逆に、私のこのレア職業を当てたから、オルがここの一員になったとも考えられるし……。
うーん、分からない!
考えても分からないことを考えたって答えは出ない! それに、これはゲームの中だ。そこまで考えられているとは思えない。
だからこれは偶然だ。そうしよう、うん。
「フーマ、かっこよかったよ!」
かっこよかったのか。
「私も助けられました」
「えっ、クイさんもっ?」
「はい。ここに来るようにと言ってくれたのは、フーマさんですから」
な、なるほど。
それで人間なのにここにいるのか。
話を聞くと、ここにいる五人とも、フーマとなんらかの関わりがあった。
βテストの一ヶ月の間に、フーマがどれだけ廃人プレイをしてきたかを垣間見れた気がした。
楓真はそんなので仕事は大丈夫だったのだろうか。
もしかして、あまりにも廃人プレイをしすぎて、海外勤務を命じられたっ?
……ゼロではなさそうだから、それが怖い。
「そ、それでね、そのフーマがみんなのことを色んな人に教えたいって言ってるんだけど、その、いい?」
NPC相手にそんなことを聞かなくてもいいのではないかと言われそうだけど、ケジメとして聞いておいたほうがいいような気がしたのだ。
すると、五人とも、一斉にうなずいてくれた。
「ありがとう!」
「お礼はこちらが言いたいです。私たちの意思を尊重してくれたのですから」
「それに、オレたちがなにをしてるかを知ってもらえるのはいいことだ」
「そうね」
ということで、この動画は楓真が適切に編集して、配信してくれるだろう。
「だったら、記念に写真を撮ろうか!」
フィニメモのスクリーンショット機能はなかなか便利だ。
まずは普通にスクリーンショット。これは私が見ている風景をそのまま保存してくれる。
そして、フィニメモの隠れた──と言っていいのだろうか、ちょっと悩むけど──機能の一つに写真モードというのがある。
これは普段は見ることの出来ない、自分の姿も撮影してくれる優れものだ。自撮りに似たような感じかもしれない。
だけど自撮りと違って、自分と周りにいる数人だけではなくて、集合写真も撮れるから、そこは違うかもしれない。
他には、上空からの撮影モードもある。これはフィールドや村の中を上空から撮って確認できる。
ということで、せっかくなので五人と一緒に写真を撮ることにした。場所は店舗のカウンターだ。そのほうがどこで撮ったのか分かりやすいと思ったからだ。
撮った写真はゲーム内ですぐに確認することができる。
それから私たちはワイワイとクイさんが作ってくれた料理を食べた。
リアルではご飯を食べたばかりだったけど、ゲーム内では別腹だ。料理はとても美味しくて、いくらでも食べられた。
ちなみに、右手に昔のアイロンを握ったまま食べようとしたら、ウーヌスからツッコミが入った。
うん、さすがだね!
ウーヌスたちから聞いた話を総合すると、やはり村などのセーフゾーンでは武器と盾の装備ができないそうだ。
しかし、私の持つアイロンは武器ではないため、戦闘ではまったく役に立たないという。だから村の中でも持つことが出来ている、と。
そ、そうですよね! 分かっていたけど、武器ではない、と。
……となると、私はどうやって戦えばよいのでしょうか。まさかこのままここで毎日、アイロンを掛け続ける……の?
そんな不安を抱えつつも、私は料理を楽しむことにした。
楽しんだ者が勝ちだからね、フィニメモは!
「これ、どうやって作るんだろう……?」
材料は……ジャガイモとトマト? あとはチーズに、なんだろう?
「なんだい、それ、気に入ったのかい?」
「はい。どれも美味しかったけど、特にこれが気になりました!」
「それならレシピを教えられるよ」
「ほんとですかっ!」
「ただ……」
「ただ?」
「最近、周りにいる魔物が急に強くなって、それらを狩りに行けなくなったんだ」
しばし固まること数秒。
「……あの、今、これらの食材を狩るって言いました?」
「あぁ、言ったよ」
な、なにそのバイオレンスな野菜たち!
「しかも、普段は大人しいんだけど、魔物が活性化しているからか、噛んでくるんだよね」
……ジャガイモとトマトが噛む、とは?
「魔物を全部狩れば大人しくなるんだろうけど、無尽蔵に沸いてくるからそれは無理なんだ」
な、なんだろう。
そんな情報、事前にはなかったような気がする。
……いや、ちょっと待って。
そういえばそんな話を公式で見たような……。
「あっ!」
思い出した!
初期の村の周りにいる魔物──モンスターはそれほど強くないけど、それでも苦戦するようなら、畑にいる比較的温厚な野菜たちを収穫しましょう。収穫でも経験値を獲得できます。
と書かれていて、「比較的温厚な野菜」という謎ワードに首を捻ったのを思い出した。
ここはゲームの世界だ。分かっていたけれど、なんてバイオレンスな世界なんだ!
「では、食事が終わったら、畑に行ってみようか」
「うん、いいね!」
今日はすでに店じまいをしているという話だから、みんなで出かけても問題ないのだろう。
しかし……いや、うん。
このゲームを始めて数時間経つけれど、私はまだレベル一のままだ。どうやらチュートリアルクエストでは経験値はもらえないようだ。
なので、野菜の収穫──狩りと言っていたのがかなり引っかかるけど──で経験値を獲得できるのなら、それは願ったり叶ったりだ。
なのだけど、武器がないままでも野菜って狩れるの?
◇
そして、村という名のセーフゾーンを出た瞬間。
「きゃぁぁぁ! そ、そこの人たち、逃げてぇぇぇ!」
という声と土煙とともに、プレイヤーらしき人が村に走り込んできた。
「マズいっ! リィナさん!」
えっ? えっ?
と思っている間に、私は土煙に巻き込まれたうえ、なにかに激しく体当たりをされた。
ちょ、ちょっと!
なんなのこれっ! 激しく 激しーくっ! 痛いのですがっ!
ねぇ、VRって痛覚の軽減がされてるんじゃなかった!?
なんかおかしくないですかっ?
とパニックに陥ること、たぶん一秒くらい。
私には永遠にも近いくらいと感じられたけど、実際は刹那と言っても問題がないくらいだったと思う。
最初の体当たりの一撃で、私のHPは吹っ飛んでたと思う。いや、もうちょっと耐えたかもしれないけど、とにかくあまりの痛さに正直、意識がぶっ飛びかけていた。
それからの私はというと……。
なんかよくわからない土煙の中をキリモミ状態になり……。
気がついたら、地面に倒れていた。なんだか頬がとても痛いよ。
だから起き上がろうとしたのだけど、身体が動かない。
なんで?
え、ちょっと待って?
も、もしかしなくても……?
私の疑問に答えるように、私の目の前に少し遅れてからシステムメッセージが表示された。
『死亡しました。
最寄りの村へ』
うん、すごいね私!
セーフゾーンから一歩出ただけで死亡するなんて!
もしかしなくても、最短記録じゃないの、これ?
……すごく悲しくなってきた。




