死んだ貴方が残す夢[謎夢シリーズ]
死
それは誰しもが必ず訪れる生の終わり。
だけど、それが突然大切な誰かに起こった時。私は、受け入れることができるだろうか……。
無論、不可能である。
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彼がいなくなって、一ヶ月が経とうとしていた。
だというのに、私の中から彼が消えることはなかった。
私の名前は若林水蓮。高校生活真っ只中である時期。そんな時期の私は、なに一つとしてやる気が起きなかった。勉強も運動も、何もかも、わたしには何一つやる気が起きなかった。
私の彼は、病気を患っていた。それを知ったのは、彼が学校に来なくなった二日後の事だった。彼の病気は、正体不明の病、所謂不治の病といったものだった。その病は、とても進行が早く、掛かってしまうと、約三ヶ月で死に至る病気だった。
「……湊君。」
彼の名前をボソと呟いた。
私がさっきから呼んでいる人の名前は謎夢湊。とても頭に良い優等生で、人望が厚い人だった。だけど、そんな彼はある日突然、亡くなってしまった。
あれから私は、その事に絶望し泣きじゃくっていた。彼が死んだという事実を、私は受け入れられなかったから、受け入れたくなかったから。だから私は、現実から目を背けた。
ふと、湊の姿がガラス越しに映った気がした。私は目をハッとして、窓ガラスの方に視線を移したが。
「ぁっ……。」
そこには誰もいなかった。
急に妙な虚しさが私の心を侵食した。私はそれに耐えられなくなって、ベッドに体を覆い隠し、そのまま寝むりについたのだった。
□□□
「……あれ、ここは?」
気づけば、真っ白な世界。
その目の前には、はいどうぞと言わんばかりの大きな両開き式の扉があった。
ふと、その扉の取ってに両手を置き、左右同時にゆっくりと扉を開いた。その扉を開けた先にいたのは……。
湊「やあ…、久しぶりだね。水蓮…。」
彼が、いた。目の前には、間違いなくあの時の彼がいた。私はそれに驚き、同時に嬉し涙を浮かべた。
湊「おいおい、泣くなよ…。せっかくまた会えたんだから、最初くらい笑おうぜ!」
「……うん。」
優しく声を掛けてくれる彼に、私はそう頷いて、涙をグッと堪えようとした。だけど、それでも私の目から、涙が止む事はなくて、一生懸命にそれを拭った。
そして、彼に言われた通り、彼に向かって満面の笑みを浮かべた。目にたまる涙を拭いながら、笑った。こんなに笑顔を浮かべたのはいつぶりだろうか…。
湊「それじゃ、せっかくまた会えた事だし、前みたいに、お話しよっか。」
すると、さっきまで何も無かった部屋には、丸いダイニングテーブルと、向かい合う様に置かれた椅子が二つ現れた。
湊「ほら、こっち来て椅子に座って…。」
そう言われて私は、奥にある椅子に連れられて、席に座った。そして彼も、私と向かい合う位置にある椅子に腰を掛けた。
湊「あっ……、お話するなら飲み物が必要だよね。そうだな〜……。」
彼は少し悩んだあと、決まった様な素振りを見せる。
湊「ここは無難に紅茶にしようか!」
そう言うと、彼は右手を上にあげて、パチンッと指を鳴らす、目の前から紅茶が入ったマグカップと、多種多様なクッキーが出現した。
その場面を見た私は突然のことで、困惑する。
湊「…ははは、困惑するのも無理ないか…。」
彼は笑いながらそう言う。
湊「今の僕は、この世界の夢を操る事ができる、所謂夢の神様みたいな存在だからね。」
「そう、なんだ……。」
私はあっけらかんとしてそう相槌を打った。
なんだか全てが夢のようで、私自身頭の整理が追いつかなかった。
それからは他愛もない会話を交わした。
笑える話、一緒に遊んだ時の話、一緒に叱られた時の話、沢山のお話を彼と交わした。
ふとっ私は、彼にどうしても聞きたい事を思い出した。
「ねえ、湊君…。」
湊「なんだい?」
そして、言った。その一言を…。
「どうして、あなたは私を置いて逝っちゃったの?」
湊「……。」
その瞬間、彼の顔は無表情となって、押し黙った。私はそのまま言葉を紡ぐように、質問を続けた。
「どうして、私に何も言ってくれなかったの…?」
それでも彼は、何も答えず、ただ押し黙り続けるだけだった。だけど、やがてその口を開き始めた。
湊「水蓮…。」
湊「人は…いつ死ぬと思う?」
「えっ?」
急な質問返しに、私は困惑して、そんな素っ頓狂な声が漏れた。
「それは…、寿命を迎えた時…。」
湊「違う。」
彼は、そうハッキリと私の言葉を否定した。
湊「人が死ぬ時は、寿命を迎えた時じゃない…。」
湊『人に、忘れられた時さ。』
そう一言、彼は言葉を口にした。そして、そこから彼は言葉を紡いで話し始めた。
湊「誰かが心の中で、覚えてくれてるからこそ、人はその中でずっと生きていられる。」
彼は自身の胸に手を置いて、そう言葉を吐く。私もつられて、自分の胸に手を置いた。
湊「水蓮。君は僕が死んでからというもの、何一つとして興味を持たず、なにもしなくなった。」
湊「僕はそんな君を救いたくて、君の夢の中に現れた。」
湊「君を救うために……。」
「それなら、毎日私の夢に出てきてよ…。そしたら、私もいつも通りの生活が送れるか」
湊「そんなんじゃダメだ!」
彼は、そう強く私の言葉を否定した。
湊「そんなんじゃ……、いつまで経っても成長できない!」
「でも!私、あなたがいないと……。」
彼は突然私の近くに寄ってきて、私の体をそっと抱きしめて、子供あやすかの様に頭を撫でた。
湊「…水蓮、たとえ僕がそこにいなくても、僕は君の心の中でずっと居続ける。」
湊「君の心の中で、いつまでも見守り続ける…。」
湊「だから……。」
と彼は一拍を置いて。
湊「僕が、安心して見守り続けられるように、前に進んでほしいんだ。」
彼がそう告げた瞬間だった。
私の目から、再び涙が零れ落ちた。だけど、その涙は悲しみでもなく嬉しさでもなくて、よくわからない感じの思いを抱きながら涙を流していた。
そこで私は、心の中で何かが固まった。それはまるで、決心がついたかのように。そうして私は、彼の胸に顔を渦噛ませながらこう言った。
水蓮「…うん!わかった……。貴方が心配しなくてもいいくらいに。私…強く生きるから!」
それを聞けて安心したのか、彼はわたしから離れると、彼の姿が消えて行った。そうして、視界が暗転。そのまま、私は夢から覚めるのだった。
□□□
あの夢から覚めた私は、勢いよく布団から跳ね起きた。そして、あの時の記憶をむし返して思い出した。
「安心して見守れるように……か。」
ふと、彼が言った言葉を口にする。そして、覚悟決めた私は、急いで制服に着替えて、家を飛び出した。
「私、前に進むね。あなたが安心できるくらい、前へ前へと突き進むから…!」
そうして私は、明るい笑顔を浮かべながら、前へ進むために、学校へと足を運ぶのだった。
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