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EP:21-Do you want to dance? 〜⑤〜

闘いを終えて。

彼は湯治。

彼女は…


あの後、何があったかの追及は翌日に後回す事にした。

戦後、談話室に向かいひと段落。

そしてただいま汚れと疲れを取る為、再度入浴中。

いや疲れた...これで手当てが出ないなんてやってられない。

まぁ、今回無理言って参加人数増やした分を払おうとしたのをサービスしてもらった分は儲けか。

けど物足りない気がする。

考えない様にしよう、卑しく...そして虚しくなるだけだ。

しかし、"黒"の力。

あれは余り使ってはいけない。

危険な力だからだ...余りにも。

呪いは跳ねのけるのではない、同化する。

そして別の呪いとなって自らを蝕み続ける。

それは使えば使う程、形として表れていくのだ。

今、ドス黒く染まった右手の右小指の爪の様に。

血が滲むよりグロテスクだ。

回復するのだろうか...わからない。

だが、なる様になるしかない。

というか、この力を使わなくても済む様にもっと強くならねば。

悩みは増える一方だ。

やれやれ、言葉代わりに溜息が出た。

なんて少しブルに染まり始めた時、来客。

貸し切りの筈...とは気にしない。

それより気にするのは現れた者の容姿だ。

頭にタオルを巻いて顔を隠している。

気配、魔力を辿るが、談話室にいた者のモノでない。

が、覚えがある。

ジパングとか、高速道路上で。

「俺達の貸し切りじゃなかった様だな。」

「見事だった、先程の戦い。」

と、誉めながら自然な動作で同じ湯舟に浸かり始める。

別に咎めはしない。

「そりゃどうも、で...どこにいたよおたく。」

「自室だ...俺は最悪で無ければ手を出せん。」

(ぬし)は空?海?」

「前者だ...後者は二度と引き受けん。」

というか引き受けられないだろう。

海軍。

非道な違法研究が明らかになり、世間からは絶賛非難の的と化している。

更に罪も色々重ねていたので、凍結確定だろう。

そして時間が経てば真っ新と別の人員を集めて再構築される筈だ。

「空...シスカか、つまりあの姉妹の護衛か?」

「そうだ。」

自分に何かあったか、間に合わなかった時の護衛か。

「そりゃご苦労だな。」

「なんてことはない、経費でこんな贅沢ができるのは気分が良い。」

「そりゃ羨ましい事で。」

自分にもあればいいのにと諦めきれない卑しい自分。

惨めだ...。

ブルー再びとなっていたらもう上がろうとする男。

「なぁ、少し酒飲まねぇ?」

「すまないが、遠慮させてもらう...また敵同士になるかも知れん。」

依頼によって、こうして少し話した者とも命のやりとりを行う場合がある。

それがランカーだからだ。

「そうか...名前は?」

「...リーパー・ダウン。」

ランキング1位。

依頼成功率はほぼ確実との評判だ。

目の前の彼が関わっていなければ。

リーパーからしたら、目の前の彼はライバルと言っても過言ではない。

1位に対して11位の彼に。

「なら、次また俺が勝ったら飲みに付き合え。」

「フッ...」

YesともNoとも取れない返事を返しながら、彼は去っていった。

「嗚呼....」

風呂から上がったら煙草を吸おう、そうしよう。






更なる一服を求め、先程激闘を繰り広げた庭へ。

だが、煙草を取り出す事はできなかった。

先客がそこにいたからだ。

「アニマ。」

「にぃ...」

物思いに更けているのか。

どこか悲愴を感じる目の色。

そう言えば、彼女に言い忘れた事があった。

「さっきの風...お前なんだろ、助かった。」

明日には初雪にも礼をせなば。

「あれやったの、佳奈江...アニマじゃない。」

「そうなのか、だが、力を与えただろ。」

「...」

その筈だ、あの風から感じた魔力..."力"はリュンクスと殆ど同じ物だった。

ジパングの結界の残骸から感じたモノとも。

初雪がこの地の結界の...という事はアニマも。

けど、何も答えない。

応えない。






ーーーーーーーーーーーーー






「お前は誰なの...」

ブレードの入浴中。

初雪はアニマを1人で呼出した。

けど、彼女の言ってる意味がわからなかった。

自分の正体は知っている筈だ。

今更何を...

「雪の知ってる"あの娘"はもういないの...」

「え...」

ここにいる。

そう言いたかったが、次の瞬間。

「お前の"力"、あの娘とは違うの...似せているだけで全くの別物。」

「な...」

何を言っている。

直ぐにそう返せた筈だ、聞けた筈だ。

けども、心のどこかが。

開けてはいけない扉の様なモノが拒絶を始めている。

そこから先、彼女が何を言ったのか聞こえなかった。

自分が冷静でないのを見抜いたのか、初雪は話すのをやめ。

「ごめんなの...気のせい...忘れて欲しいの、アニマ。」

声が聞こえるようになった。

なったけど...突如生まれた未知の恐怖が拭える事は無かった。


ずっと、こびり付く様に。







思い出し、気が付くと。

自分は彼の前で泣き出していた。

寒風が突き刺さり、涙も冷たく感じる。

悲しいのか...何が。

わからない、わかりたくない。

わかったら壊れてしまう、何かが。

自分は誰だ。

何者なんだ。

自分はこのままで()ていい存在なのか。

彼らのそばに在ていい存在なのか...。

どうして昔の記憶だけある?

どうして記憶が中途半端に欠落している?

自分は誰だ...


そんな彼女を優しく抱き寄せる彼。


「お前が最近、何を抱えているのか。」

そして耳元で優しく紡ぐ。

「何を思い出し、何に心を痛めているのか、お前が言いたくなかったら言わなくていい。」

けど...と続けて。

「お前が何者でも俺のそばにいる限り、お前は"アニマ"...それ以上でもそれ以下でもない。」

なんてことない言葉だ。

その筈だ。

どもそれだけの言葉が...胸を太く突き刺す。

でも生まれたのは痛みじゃない、温かみ。

流す涙の跡の冷たさなんて吹き飛ぶ、遥かな温かみ。

「にぃ...にぃッ...」

「だから泣くな...求める限り家族でいるから。」

嘗て、彼も兄貴分に言われた言葉だった。

歳を取って、自分が言う側になった。

目の前の彼女の笑顔を護る為に。

彼女ともっと一緒にいる為に。


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