EP:19-The person who inherits the soul. 〜①〜
第19話。
ちょっと2本立て形式にも見える様で見えない様で、主人公のルーツが少し見える話でございます。
・父、勘違いであたふたする
・魂を継ぐもの…ホプキンスの由来
子供相手にもほぼ容赦しない。
いやちょっぴり…1日限定のガシャを引く石分くらいのちょっぴりくらいは。
表紙です↓
https://twitter.com/poh_YmikuIMZVQ/status/1393551609708253189?s=19
壮絶なピンチが訪れている。
と、小さくも壮大な絶望を抱えるのは1人の男性。
ラカム・ポース・ヴィネット...シスカの夫であり、チェリムとソニアの父。
彼はひょっとするとこの国の頂点に立つかもしれない将来を背負っている有望な政治家である。
尤も、目の敵にしてる政治家にリードを奪われているが。
ともかく。
今年こそは娘の誕生日に間に合わせて休みを取る、そう意気込んでいた。
が、部下が失態を犯し、泣きつかれ。
共に直していたら泣く泣くタイミングを逃してしまい。
毎年こうである、いい加減心も折れる。
とにかく、今日は早く終わらせて帰宅。
「ただいま。」
「おかえりなさい、お父様。」
そう言って出迎えてくれたのはチェリム。
祝ってあげる事もできなかったのに、笑顔で優しく出迎えてくれるとは優しい娘だ。
「先日はすまなかった...これはプレゼントだ。」
押しつけがましいかもしれないが、一緒に飲みたいと思って買ったお気に入りのワインだ。
「ありがとうございます、よろしければ一緒に飲みませんか?」
「おぉ、それは嬉しいな...では、呼ばれようか。」
娘の方から誘ってくれた。
しかし、娘はコルクを抜き。
用意したグラスに適量を注ぐ。
全ての動作が流暢だ。
気になったので凝視にしていたのを悟られたか、照れ臭げに。
「実は誕生日の時に、友人から色々教わりまして。」
友人。
どんな時でもそう言った関係の相手を作ろうとしなかったあの子が。
感涙に打ちひしがれそうになるが我慢だ、引かれてしまうだろう。
「それは良い話だ、どういった友人かな?」
「それが何とも珍妙な話で。」
珍妙...友人を語るだけで?
「何と言いますか...ソニアの想い人なんです。」
「えぇっ!?」
「違うよお姉ちゃん!?」
焦り気に会話に入って来たのはただいま帰宅したソニア。
内気な彼女にしては珍しく姉に食って掛かろうとするが、その前に父親の存在に気付いたのか向き直って。
「あ、お父さんおかえりなさい。」
「あぁ、ただいまソニア...それで...」
その想い人とはどういう事かと問い質したいが。
当の本人はソニアに口撃真っ最中。
それを受け止めるチェリムは涼し気な表情。
冗談の一つも今まで言ってこなかった彼女がいたずらっ子みたいな顔をしている。
これもその"ソニアの想い人"とやらによる変化なのか?
自分が長く帰らなかった間に...家に、大きな変化が訪れようと...
否、訪れていた。
それからの自分は、とても酷い人間だっただろう。
"火急の要件以外は呼び出すな、呼び出したらクビ"と言いつけて。
娘の尾行。
パワハラと職権の乱用...自業自得だが胃が痛い。
けれど、その"想い人"がどんな人間なのか気になる。
娘たちの言い合い...というかソニアが一方的に捲し立てていただけだが。
"ブレード"
確かそう聞こえた、それが件の男の名前だ。
娘は今、諸事情により学校を休学中の状態である。
そこに付け込んで何か良からぬ事をする輩ではないか、しっかりと見極めなければ。
...と、実は娘も同じ事をやっていた事を彼は知らない。
セントラルの広場にて、ポツンと待つソニア。
そこに、1人の青年がやって来た。
紅い髪。
Tシャツとズボンだけの超ラフな格好。
彼が"ブレード"。
「悪い、待ったか?」
「いえ、私も今来た所ですから。」
チャラチャラした感じだが、礼節を弁えている様だ。
その後も、車道側に自分が立ったり。
食事代は自分が出したり。
輩が来たら武も無しに秒で黙らせたり。
ウインドウショッピングも仲良く滞りなく行ったり。
...非の打ち所がない。
何だか負けた気分だ。
...負けたって何だ、自分は彼女の父親だ。
そうこう言ってる間に夕暮れ。
彼は彼女を家の前まで優しく送り届け。
今度は近くのレストランバーに1人で入る。
自分も後を追う様に、近からず遠からずな席へ。
カウンターで1人、肉料理とバーボンを口にする彼だが。
そこに来客...しかも自分にとってかなり見覚えのある。
「あら、1人で始めてるのねBの坊や。」
シスカ...自分の妻だ。
どうなっている...普段の彼女の印象でこういう店に来るなんて意外中の意外。
確かに嗜む程度に飲むのはよく目撃するが。
「あ、生1つね。」
あんな日本人のビジネスマンみたいな酒の頼み方はしなかった筈だ。
というのも彼女に後から聞いた所、実は結婚してからかなり猫を被っていたらしい。
が、アレクセイと久しぶりに飲みに行って我慢できなくなった。
それから1人でも街で飲んだくれる様になったとか。
後に語られた内容である。
それを未だに隠せていた、脅威の仮面の持ち主である。
ともかく、2人並んで乾杯。
「で、早速だが...ジョージはどうなった?」
ジョージ...件の海軍元帥か、どうして彼が。
「暫くの間、海軍その物を凍結させたわ...頭を冷やすまではね。」
「思い切ったな、あんたらと爺さんの仕事が増えるぜ。」
「どうしてもキツイ場合はそちらに依頼するわ。」
「破格なら引き受けてやる。」
依頼...引き受ける...ランカーらしい。
それも軍の事情を知らされるくらいには高位の。
しかしブレード...どこかで聞いた気がする。
「さて、小難しい事はここまでにして、飲むわよー!!」
妻がよくわからない、いやマジで。
が、隣の彼は。
「それより、近くにいる奴も誘った方が良いんじゃねえか?」
近くにいる奴...誰だろうか。
と、本気でわからない彼に近づくのはシスカ。
「あら、あなたいたのね。」
どうやら自分だったらしい、近くにいる奴。
「しかしまぁ、娘と同じ行動取るたぁな。」
「あら、この人何したの?」
動じない所か本人を目の前に話が進んでいく。
「朝から俺を尾行してた、多分ソニアに悪い虫が付いてないか確認したかったんだろ。」
バレてた。
それなりに自信があった分、ショックだ。
しかも自分がソニアの父だという事もバレているらしい。
「確かに、チェリムと同じ事してるわね。」
あの子もやったらしい、血筋を感じてしまう。
とにかく、バレては仕方ないので3人で店員に頼んで空いていたテーブルへ移動。
「いやぁ...とうとう貴方にバレちゃったわね。」
「言ってくれれば家でも同じように振る舞えただろうに。」
「もう遅いけど...ある意味意固地よ、威厳を保つ為の。」
「確かに遅いな、テメェの飲んだくれぶりはチェリムすら呆れるレベルだぜ。」
「最近あの娘が前より冷たいの...」
「逆に人として温まって来てる証拠だぜ、親なら喜んでやんな。」
「そうね...。」
やっぱり彼が変化の原因らしい。
随分と明るく変えてくれたものだ。
「そうそうあなた、彼はブレード・E・ホプキンス...アレクセイの息子よ。」
「義理のな。」
驚愕の事実。
目の前のチャラチャラした男が...アレクセイ陸軍元帥の?
しかし、モルツという実子がいた筈。
という悩み気の表情を読んだのか彼は。
「モルツは俺の義兄に当たる、オタカルチャーを教えてくれる気前の良い兄貴だぜ。」
察しも良いらしい。
彼は大物だ、違いない。
そして、彼が妻と何を話していたのか。
聞けたのは、違法AWの売人がまだのさばっている事。
そして次に彼が口にし、語ったのは。
「魔人...かね?」
「あぁ...奴らの面倒な所は、直接ここに来れなくても思念を飛ばしてくる事にある。」
「思念を...つまり、何かに乗り移る事も?」
「可能だ、死体...あるいは弱りかけの人間が一番奴らにとって都合が良い。」
「厄介だ...先程話した夢の大魔法とやらは思念のみをとばして行っていたと?」
「あぁ、奴は特殊だ...ニーア・N・ホープレス。」
「それが件の魔人の名前か。」
それもまだ野晒しだ。
どうにかする手段は今の所無い。
何故なら奴らの本拠は自分の故郷だからである。
ロクな奴がいないというか基本敵だと認識して間違いない。
2人だけ。
そう、2人だけ...可能性がある者がいる。
だが、期待しない方が良いだろう。
「しかし、どうしてそこまで詳しいのかな...一般的に広まっている情報ではないだろう?」
「奴らは同郷の者でな...なるべく俺が何とかしたいんだよ。」
取り返しのつかない被害者が出たら寝覚めが悪い。
それが関係者だったら帰郷して孤独の戦争を始めるまである。
魔人の干渉を防ぐ為の封魔結界...何者が破壊したのか知れないが、この間の夢世界の原因はそこにある。
他の地の結界も確認したい所だ。
「旅行に行くか...。」
『はい?』
突然漏れた一言。
まぁ、ともかく...ピンチ霧散のラカムであった。
最初からそんなモノは無かったのだが。
ヴィネット家は好い人しかいない。
母親の本性が残念なだけで。




