EP:07-So far Distance. 〜⑤〜
環境のせいである程度狂っている彼だけど優しさが無い訳じゃない。
目を覚ますと、身体がずぶ濡れだ。
床から水が溢れていき、水位が上がっていく。
意識を即座に覚醒させて場所を確認。
木製の小屋だ...水攻め真っ最中の。
もたもたしてるとお陀仏だ、もう膝まで水が溜まっている。
現状を把握しよう、自分の装備もだ。
全部ある...一つとして欠けていない。
しかし、この状況をどう打破するかだ。
小屋の中に物はない。
壁を叩くが、素材は柔らかい。
隙間はあるが、水は流れていかず。
ナイフなんかで破壊はできそうにない。
真っ先に思いつく方法から試してみよう。
手榴弾を一つ分解する。
中の火薬を取り出し、壁の隙間に挟み込む。
ついでに拳銃のマグからいくつかの銃弾も取り出して挟む。
丁度挟めるサイズの隙間だ。
さっきより溜まりが早い...もう水が腰元に溜まって来たが慌てず。
壁に仕込んだそれを反対側から銃撃で発破。
小さめの穴が空いた。
水は流れ込むだろうが、それでは時間が掛かる。
急いでその穴から手榴弾を転がす様に落とす。
ピンを抜いた状態で。
もう胸元まで溜まって来た。
次第に浮力が身体を浮かす。
ここで問題発生...彼は泳げない。
だが死に物狂いで反対側まで泳いだ、犬かきで。
5秒立って爆発、衝撃で崩れた壁の穴から水が大きく流れていく。
ここでようやく最初の窮地を脱した訳だが、外は完全に密林。
ルートも勘で進むわけにはいかない、危険が大きい。
音を聞く...草の擦れる音がうるさすぎる、即時に中断。
勘で見つける...だからダメだ。
足元をよく見る...自分を小屋に入れてこの場から離脱する際に消していても足跡等の形跡は少し残る。
見つけた...誤魔化す様に地面を擦った跡が草と草の間に。
それを見落とさない様に進んでいく。
時間制限はあったか、無くてもあると思え、これは試験だ。
暫く進むと明確ではないが獣道ができていた。
あては他にない、進むしかなく駆け抜ける。
すると人影...否。
人の形をした木製人形だ...動いている。
こちらへ構えを取っているという事は交戦の意思ありという事か。
考えよう...人型をこの試験に置くのはただの妨害としてか?
こう考えよう...人を相手取る場合を見る試験管役として置かれているのだと。
試すに銃弾...は温存しておきたい。
ナイフ...急所を、狙うは心臓部。
と、見せかけて足払い。
確実性を持つ為に相手の動きを殺して殺す。
倒れた人形に覆い被さり、心臓部に刃を刺し込む。
予想通り、人形は動きを停止する。
これは最初...つまり、段々難易度が上がっていくのだろう。
気を緩めるな...絶対に合格するんだ。
進む足を強める。
あれから何体相手取ったか。
流石に疲弊を感じる。
けれど、魔法はほとんど使っていない。
精々身体強化を少し、要所要所で。
見た所敵はいない。
進むと辿り着いたのは川。
渓谷の狭間らしい...上からは見物客か、大勢の人間がこちらを見ている。
ヤジなのか、応援の歓声なのか。
どっちにしろ、ゴールが近いのかもしれない。
が、川を見ると、大岩の様なモノが動いている。
...ワニだ、それも大型の。
木製人形よりも手強そうだ、面倒だし見つからない様に進む。
けれど、静かに進む自分を追ってか否か、ワニは追従するようにこちらに。
焦ってはいけない、冷静にゴールを目指して歩け。
暫く、ペースを保って進むと。
木製の簡易的な門を視認...隣には電光掲示板が時を刻んでいる。
残り5分、焦らなければ間に合う。
気が付けばワニの姿も見えない。
どこに潜んでいるかはわからないが、とにかくゴールを目指せ。
残り3分、ゴールは目と鼻の先。
その時だった。
後ろから悲鳴と雄叫びが同時に聞こえたのは。
振り向くと、黒髪の幼い少女がワニに襲われていた。
上から落ちたのだろう、あのままでは危ない。
しかし、ゴールは目前だ...間に合わなくなるかも知れない。
けどゴールしてからじゃあの娘が間に合わない、もうワニが大きく口を開けている。
迷うな。
温存していた魔力をここで一気に放出する。
イメージだ。
魔法を使うにはイメージが大事だ。
例えば今は、ロケットの噴射の様な爆発的な加速のイメージを足に。
身体を軽くするように半粒子化して。
ワニと少女の間に立つと、ブレードはナイフをワニの口の中に刺す。
牙が腕に刺さり、激痛が走るが構わない。
残った手榴弾を投げ込んでナイフを抜く。
そのまま少女を抱え。
「捕まってろ。」
少女が言葉通り捕まったのを確認。
ナイフを仕舞った手で銃を取り出し、手榴弾へ発砲。
刹那、自身を星屑になるイメージを掛ける。
光の塊となったブレードは捕まる少女ごとゴールに向かって飛んでいく。
離脱した瞬間、ワニの体内が爆散。
ブレードと少女は光る流れ星の如くゴールを超えた。
身体を元に戻し、少女を放す。
姉だろうか、彼女を抱きしめる桜色の髪の少女。
ゴールに着くという目的を達成した上に、人命救助まで果たした彼は大きく評価された。
どうやら今回の合格者は自分1人らしい。
疲労感と共に先程の牙による痛みが押し寄せて来た。
アレクセイとモルツが慌てて駆け寄ってくる。
アレクセイはポケットから青色の液体の入った小瓶を取り出すと、飲む様に促す。
指示通りに飲むと、傷がみるみる癒えていく。
回復薬…ポーションらしい、痛みも感じない...疲労は拭えないが。
「はて、お前さんその髪はどうした?」
「髪?」
何の事を言ってるのかわからず、川の水で自分の姿を見ると。
黒かったはずの髪が...紅く染まっていた。
「何だ...これ...?」
訳がわからない。
けれど、まぁいいと受け入れる。
「カッコいいじゃん...。」
変化を。
後に解ったのは、その時本当に魔力が身体に馴染んだという事だった。
何はともあれ、彼はこれでランカーとなった。
14歳の誕生日にライセンスを発行されて。




