EP:23-Temple of Cocytus - the first half - 〜②〜
あの子が登場。
佳奈江、イケナイ気持ちに目覚めそうになる。
中はまるで氷洞。
だが、少し進むと、徐々に作りが人為的な物に。
石畳が基調で出来た壁や天井が、ちょいちょい氷でコーティングされている。
故に、寒さも桁違いだ...何の対策もしなければいるだけで自分達もカチンコチンだ。
リーパーのお札が役に立っている、正にRPGで言う状態異常を防ぐアミュレットの如く。
だが、問題は道中で見かけた化け物がうようよいるという事だ。
先程から武器を振るう手が休まらない。
狼が飛び掛かってきたら口元に向けて発砲し。
人型は剣で攻撃してくるので、避け、斬り捨てる。
その間、佳奈江はずっと眺めていた。
ブレードがそう命じたからだ。
"動きを見ろ、テメェの力が使える時に何時如何に動けばいいか想像して勉強しろ。"
だから全て見逃さない。
「役に立つ時が来たらまた言うの、油断はしない様に。」
油断もしない。
...やっぱり敵よりこの2人が怖い。
「それと、はいなの。」
「へ...?」
初雪はいくつかの札を束ねて渡してきた。
「補充、アドバイスは一つ...迷うな、なの。」
迷うな。
そう言われると、確かに特訓中の自分は疑問だらけで動いていた。
特に...自分に対する自信に。
「はっきり言うの、一昨日の力は雪達だけの力じゃない。」
「へ...」
それはどういう事だ。
そう聞く前に。
「お前の祖先はお前に似ていたの...ほとんど。」
「そ、それもどういう事なのよ...?」
「やかましいのも弱っちいのも...」
「え、罵倒?」
ただでさえ小さくなっている"自分"というモノがポキッと折れそう。
だけど。
「そして土壇場で強いのも。」
「おーい!」
初雪の言葉の直後に、掛かってくるブレードの呼びかけ。
それは2人纏めてというより自分のみに向けてな気がした。
「次、お前も前に出ろ。」
「なのよッ!?」
唐突過ぎる。
しかし、彼にとってはこれが授業という奴なのか。
「お前、いきなり実践よりここで何か試してみるの。」
「一理あんな...しかし。」
何か的が欲しい。
明確な的を。
が、そこに転がっているのは先程倒した人型の亡骸。
五体満足なのもある。
...成功するかわからないが。
亡骸に何かを取り付け。
次に懐から札を取り出し、亡骸に貼り付ける。
「僕に告ぐ、遠き魂を世の理の裏をなぞり、ここに。」
呪を紡ぎ。
「呼びかけに答え、現れよ、ポロフ!!」
小さな光の柱を巻き起こした。
そしてそれは霧散する様に晴れ。
亡骸は一昨日彼が対峙した魔人の姿を取っていた。
人形の様に綺麗な顔立ちで目を閉じている。
開くと、刹那で嫌そうな顔に切り替わり。
「げぇ...おに ...ご主人様。」
言い直した。
これは所謂強制隷属付加の降霊...
いや、生きているから憑依召喚とでも言うべきか。
呼称を変えたのを見た所、逆らえない様に強制されているのだろう。
なら、安心だが。
「その呼び方、次はメイド服着て言ってくんない?」
「嫌だよ!!」
拒否できる意思は一応あるらしい...いや、本気の命令じゃないからか。
ポロフ・ザ・ネイルストーム。
一昨日、旅館を襲った魔人。
討伐後に魂縛りの楔によって彼の下僕となる。
彼にとってはこの上なく恥辱の極みだろうが。
「それで何なの、いきなり雑に呼び出してさ。」
「カナエ、やれ。」
と、彼のドスが聞いた命令。
何をやれだなんて理解している。
もらったばかりの札を一枚構える。
そう、自信だ、自信を持て。
迷いも捨てろ、あれは一度自分達を襲った敵だぞ。
「アドバイスを一つ...イメージしやすい言葉で行け。」
「え、何、何なの?」
そうだ、彼の言う通りだ。
今の所、初雪に教えられた通りにしかやってない。
自分で考えて...。
この札で特訓していたのは氷を生み出す事。
あるいは冷気を生み出し、ぶつける。
イメージ...乗せやすい言葉を考えて。
アニメやゲームで横文字を眺め続けた自分にピッタリな言い方。
紡げ。
「解放!!」
札から放たれる多量の冷気。
それは状況を掴めていないポロフを更に混乱させるには十分で。
「え、何々え...」
両手をわたわたさせた氷像、完成。
「エクセレント。」
「花丸をくれてやるの。」
どうやら、今回は合格らしい。
「えぐっ...ぐずっ...」
何もわからず呼び出されたのにそのまま何もわからずに氷漬けにされた気の毒なポロフ。
現在、解凍されてべそ搔きの真っ最中。
無理もない。
敵だったとはいえ、罪悪感が生まれてくる。
こう見るとただの幼い少年だ。
「ご、ごめん...悪かったから泣かないでなのよ...」
「泣いてないし...どこをどう見たら泣いてる様に見えるんだし...」
面倒くさい。
これが本性の様だ。
一昨日の怖い感じはどこ行った、ただの幼い少年にしか見えない。
でもちょっと可愛い...庇護欲をそそられそうになる佳奈江。
「え˝う˝っ˝」
が、それがどうしたと言わんばかりに彼の尻を蹴り飛ばすブレード。
「さぁ、お勉強から移動の時間だ、行くぞクソが。」
「ご、ご主人様絶対にキャラ変わってるって...昔こんなんじゃなかったし...」
やっぱりそうなんだ。
と、自分が感じていた思いは勘違いじゃない事を再確認できたが、どうでもいい。
確かに彼の言う通り行かなきゃ。
「ほ、ほら、一緒に行くのよ。」
彼の言う事を聞かなければならないのなら、害は無い筈。
佳奈江は手を差し伸べる。
それに対し、ポロフはまた涙目を強めて。
「お姉ちゃん優しい...」
「おねっ!?」
ダメだ、何か目覚めそうだ。
ダメな何かに。
「おねショタってる所悪いが、見ろよあれ。」
声が聞こえる、だが姿は見えない。
というより、進む先に眩い光...出口だろうか。
ポロフの手を取って声のするそこへ駆ける佳奈江。
着いて見えたのは、外じゃない。
広い...ただ広い。
建物がたくさんあり、中央には正しく神殿とも言える建物が。
まるで街の様な空間。
しかし、その外は氷塊で遮られている。
外があるのかも不明だが。
「ここは昔、街だったの。」
地底の街。
「そしてこの壁の向こうには世界があったの、この島と同じ大きさ程の。」
地底の世界。
何が何だかだ...
ともかく。
魔力探知...先程から対峙している化け物と同じ禍々しい気配。
それと、これは...
「人の気配があるな。」
「え!?」
「うん、ご主人様の言う通り、感じる。」
「何でわかるのよ!?」
と、言われても彼らの故郷で習う内容だからだ。
魔力を流し、反応を拾う。
少なくとも決められた範囲内は探知できる。
「やり方を教えてやってもいいが、何回血反吐吐くかだな。」
「ご主人様は何回吐いたっけ?」
「覚えてねぇ、少なくとも数えんのは諦めたな。」
「サラッと話す内容じゃないのよ...」
殺し合ったり強制隷属させたりさせられたりと血腥い関係ではないのか。
笑いながら話をしている彼らは何なのだ、まるで別世界。
「気にしちゃダメなの、こいつらは頭のネジが外れてるの。」
「否定はしねぇ...さて。」
会話しながら、本殿の前へ。
そこには、堀があった。
この地底での気温はシベリアをも凌駕する氷河のソレ。
それなのに、平然と流れている流水。
綺麗だ...だが何か妙だ。
距離は中々あるが、飛んでいけば問題無い。
筈だが。
「ブレードさん、どうしたのよ?」
「そうだよご主人様、これくらいこうやって...」
飛び越えて...そう言おうとしたのだろう彼は。
言う前に大きく跳躍して、飛び越えようとした。
すると、その流水の真上を通っている筈なのに。
刹那でカチンコチン。
ポロフ、二度目の凍結。
空いた口が塞がらない佳奈江。
ブレードはやはりと言わんばかりに溜息を吐き。
こんなこともあろうかと、あらかじめ彼の身体に巻き付けておいたワイヤーを思いっきり引いて回収する。
そして即座に弾丸-焔をシリンダーにセットし、焔属性を付加。
ポロフを解凍する。
魔人は人よりタフだ、この程度では死なない。
憑依でもそのタフさは健在だ。
「思い知ったか、己の浅はかさを。」
「...はい。」
解凍完了。
目に見えて滅茶苦茶落ち込んでいる。
それもそうだ、一昨日彼に負けてからロクな事が無い。
しかも自業自得というのを自覚している分、更に凹む。
見てられなかったのか佳奈江、優しく支える様に寄り添い。
「お、おかげで気を引き締めるべきだというのがわかったのよ!」
「この小娘に危機感を教えてくれて感謝するの。」
空気を読んで初雪もフォローに回る。
「...ありがとう。」
何はともあれ、ここを突破するには特殊な手段が必要だ。
「お前、お前が探し求めていた物がここの突破に必要なの。」
それはちょうどいい。
このエリア、つまり氷属性の何かだろう。
「そいつを探せば先に進み、この異常気象を止められる訳だ。」
無言で頷く初雪。
そうと決まれば、この街を巡って確かめるとしよう。
見渡してみると、入り口から本殿までは真っ直ぐ太い一本道なのに、他が迷路の様に入り組んで見える。
まるで要塞都市の様だ。
「僕は僕で探してみる、どっちが先に見つけてあそこに入っても恨みっこ無しだよ。」
「はぁ?分離する意味が...」
「もうこれ以上負けないから!それじゃ!!」
ただの小さな負けず嫌い精神で孤立して行った。
...
「お前、命令して止めれば良かったの...」
「いや、阿呆らしくなってよ...」
彼も彼で実力者だ、心配はいらないだろう。
さておき、ブレードは次に粒子化を解除し、ある物を取り出す
片手剣…細身で軽めで女性でも振りやすい物だ。
鞘付きだ。
「カナエ、心元無ぇかもしれねぇが武器だ、持っとけ。」
渡されたそれを眺めるが、中々業物だ。
「あるのと無いのとじゃ大きく違うからな。」
「あ、ありがとうなのよ。」
せっかく彼がここまでしてくれてるのだ。
せめて役に立たねば。
そう考える彼女の頭から"恐怖"の二文字は消えていた。
けどそんな彼女の背中をそっと支える様に手を置き。
「あんまり気負い過ぎるななの。」
「!」
「お前はやればできるの...さっきも言った通り。」
「...うん。」
彼女の言うことを信じよう。
自分の力だと言ってくれたが、結局できたのは彼女が見出してくれたからこそだ。
剣の振り方は一応、暇な時にそういう作品を見ていたので見様見真似で...
彼を参考にしよう。
筆者はもう目覚めています。




