おっさんは、少女らと共に街の中に入るようです。
「入れたな」
クトーは街中に入って、ぐるりと周りを見回した。
スイキの言葉が確かなら、ここは確かにそこにないはずの街だった。
本来クトーらが住んでいた王都の周りならば目をつぶっていても歩ける程度には把握しているが、周りの地形に見覚えはないし、何より草原のど真ん中ではなく、近くに山があるはずなのだ。
外から現れたクトーらに、門番は警戒していたが……。
「まさか、冒険者証が役に立つとはな」
知っている王都であれば、と身分証として提示した途端に、態度が軟化したのである。
となれば、逆説的にここはクトーらの知る王都である、という可能性が高くなるのだが。
ーーー城どころか、街や土地ごと転移するなど、とてつもない魔法だ。
かつて、クトーらの世界に存在した古代文明の者たちは大陸を天空に浮かせ、神々と呼ばれた者たちは過去に飛ぶ時空魔法などを行使したが、それらは技術や神威の粋によってなし得たこと。
人を数人、別の場所に飛ばすのとは訳が違うのである。
目的もなく引き起こされるにしては、規模が大きすぎる。
「ミショナの街……帝国造りの街並みに少し似ていますね」
しかしそんな疑問を抱いているクトーに対して、スイキは別の疑問を口にした。
「それよりも、冒険者、というのは、何なのでしょう?」
「仕事としては何でも屋に近いな。身分に関わらずなれて、魔物退治や薬草狩り、荷運びの護衛などで生計を立てている者たちの総称だ」
特に難しい説明でもないので端的に答えると、髪を隠すように外套のフードを目深に被った彼女はこくん、と可愛らしくて首をかしげた。
「……やはり聞いたことがありません。旅人のようなものでしょうか」
「そうだな。似てはいる」
実際にはクトーらが住む王都に本部があり、そこから基本的にはあらゆる街に支部がある一大派遣組織の所属となり、かつ特定の街を拠点とする者も多いため、厳密には旅人とも呼べないのだが。
「九龍王国の王都……に見えるけど。なんか真新しいし、街並みも全然違うわね。ここ、中流層よね?」
「そうだな」
本来の王都であれば、現在足を踏み入れた壁の周りにさらに家や建物、壁が存在しており、貧しい人々や外から来て市民権を得ていない者などがいる、治安の悪い地域がある。
「開発途上、のように見えるな」
クトーは、メガネのブリッジを指で押し上げてレヴィの言葉に答えた。
目の前にある中流層は、そうした最外層に近い雰囲気を感じる。
建物の様子もしっかりした作りではなく、背も低い。
道も石畳ではなく土が晒されたままで、踏み固められて馬車用の板敷きが敷かれただけの簡素な道だ。
そして、街を行く人々は誰も不安げな顔をしているように見えた。
喧騒もなく、かなり大人しいように思える。
ーーー街の置かれた状況を、把握しているのか?
そんな風に観察しつつ、クトーは言葉を重ねた。
「考えられる可能性としては、二つ。一つはここが、似ているだけで俺たちの知る王都ではない可能性」
冒険者証が通じた時点で、その可能性も低いのだが。
「もう一つは、ここが過去の王都である可能性だな。これが多分、最も合理的な答えだ」
「いや、どこが?」
レヴィは眉根を寄せて、こちらの顔を見上げる。
せっかくの可愛らしい顔立ちが台無しな表情をして欲しくないのだが。
「過去の王都が、全然知らない場所にあるのは全くもって合理的じゃないんだけど!?」
「それに関しては、俺がここに王都を出現させた訳ではないので、知らん」
しかし。
「どれほどあり得ない可能性であっても、残った答えが事実に最も近い。それを裏付ける情報も耳にした」
「いつ?」
「門を通る時に、だ。門番が口にしていたのを聞いていなかったのか?」
『ようこそ、ペンタメローネの王都へ。』……門番は、そう口にしたのだ。
「聞いてたわよ。それがどうしたの? なら、九龍王国じゃないじゃない」
「ペンタメローネ王国、というのは」
クトーは、歴史書を読んで知った知識をレヴィに伝える。
「ーーー九龍王国の前身となった、旧王国の名称だ」
小国連合と呼ばれている、大陸中央地域の宗主国である九龍王国は。
ペンタメローネ王国と隣国だったアンデルセン王国の王族が近親となり、それぞれの王国に一人だけしか生まれなかった王位継承者同士が婚姻を結んで生まれたのである。
「……じゃ、本当にここが過去の王都ってこと?」
「その可能性が極めて高い、という話だな」
言いながら、クトーはポケットに収めた【カバン玉】に手を伸ばすと、中から一つの魔導具を取り出した。
【風の宝珠】だ。
リュウに繋がらなかったものとは、別のものである。
「一つ、試してみよう。これは、冒険者ギルドから預かっているものだ」
「知ってるわよ。ギルド総長とか、王都の冒険者ギルドに繋がるやつよね? 大きな依頼を受けりした時に預かるやつ」
「ああ。これを、起動してみる」
「……何のために?」
まだ表情が晴れないレヴィの察しが悪い、というわけではない。
冒険者ギルドから預かる宝珠には……正確には、これが繋がる先にある宝珠には、秘密というほどでもない一つの事実が存在するのだ。
「ギルド総長の持つ【風の宝珠】は、初代ギルド長が、トレメンス侯爵家と呼ばれる貴族から下賜されたものだ。立ち上げから代々、印章と共に受け継がれている。ここが、もし本当にペンタメローネ王国……過去の王都であるとするのなら」
クトーは、レヴィの疑問への答えを口にした。
「ーーーこの王国の、現在のギルド長に繋がる可能性がある」




