赤将の兵と対峙するようです。
「あれが敵?」
「おそらくな」
クトーは、城壁の前で横に並んでいるエルフィリアの質問に静かに答えた。
アルゴの仲間だという、髪をレヴィのようにポニーテールで纏めた女性である。
しかしその格好は少々変わっていた。
クトーが所属するパーティー、『ドラゴンズ・レイド』の東方の仲間が着ているようなキモノを、帯で締めずに羽織っており、冒険者服を中に着ている。
持っている得物は大刀という種類らしい、彼女の身長ほどもある片刃の長剣……いわゆるカタナだ。
「一応、アレクからは始末することを条件に提示されているが、一度話を……」
と、言いかけたところで、野太い声が響き渡った。
「さァ……狩りの時間だ!!」
同時に、彼が引き連れてきた兵が一斉に動き始める。
「……向こうはボク達と話し合う気がないみたいだけど?」
どことなく笑みを含んだ声音でエルフィリアが言うのに、クトーは黙ってメガネのブリッジを押し上げた。
アレク同様に龍に乗る野太い声の男……おそらくはあれが赤将ボルグなのだろう……が、肩に担ぎ上げていた巨大な戦斧を振り下ろすと、赤龍が大きく顎を開き、いきなり息吹を放つ。
「おわwww イキナリっスねぇwww」
「容赦なしですぅ!!」
イーサとウルズが何処となく呑気な声を上げるのと、頭上を駆け抜けた真っ赤な炎閃が王都の外壁に到達するのは同時だった。
が、その息吹は発動した聖結界に衝突して大きく広がり、内部にはわずかに少々熱を含んだ風が吹いたくらいである。
アレクの来訪後に、レヴィとむーちゃんの力を借りて結界を強化しておいたのだ。
「飛竜に乗った奴らが十数人、地上の兵士が百ってところかな?」
エルフィリアが、どことなく嬉しそうにこちらに目を向ける。
「もう、やっちゃって良いよね?」
大刀の剣士、エルフィリア・マ。
クトーは、彼女の名前を文献で目にした記憶があった。
アルゴが作り上げた冒険者ギルド創世記に活躍したという、冒険者パーティーの前身……魔物狩り集団『雷迅の戦団』に所属し、世界初のSランク冒険者に認定された女性である。
アルゴ曰く〝戦闘狂〟であるらしい彼女の言葉に、クトーは静かに頷いた。
「向こうにその気がないのなら、迎撃する。生け捕りもおそらく難しいだろう」
アレクは、『龍と意志を通じ合わせる者は、軒並み強大な戦闘力を秘めている』と言っていた。
アレクやレヴィの例を考えると、【真竜の薙刀】を使っていないクトーよりも実力は上と見て間違いない。
そこでレヴィが、トントン、とブーツの先で地面を叩きながら問いかけてきた。
「壁に近づかれる前にどうにかしちゃいたいし、行くわよ?」
「ああ」
クトーが応えるのと同時に、エルフィリアとレヴィが跳ねる。
「イーサ、ウルズ」
「うスwww 派手に行くスよwww」
「お腹が空くので、あんまり変身するの好きじゃないんですけどー!! ご飯の為に頑張りますぅ!!」
魔術師のイーサは魔力を練り始め、獣人のウルズが『アォオオオーン!!』と遠吠えを上げる。
すると、防具を身につけずブカブカの服を着ていたウルズの姿が変化していく。
バチバチと電撃を体に纏い、メキメキと音を立てて体が膨れ上がる。
〝狂躁獣化〟と呼ばれる、獣人が持つ固有の能力である。
ウルズの形態は、人狼のようだった。
両手両足の先は獣の爪を備え、肩や腿も発達し、全身を純銀色の硬質な毛皮が覆うのと同時に顔も狼のように長く伸びて、メキメキと犬歯が鋭く太くなる。
髪が顔の周りを覆い始めた毛皮と同質化し、鬣となって、大きく伸びた尾と毛並みが同化する。
アルゴの仲間としてエルフィリアと双璧を成す前衛ーーー〝暴食の銀狼〟ウルズ・ヴェルダンディ。
「行きますッ!!」
レヴィとエルフィリアに遅れること数秒、ウルズも飛び出して行った。
するとそこで、先行した二人を避けるように兵士達の波が割れる。
兵士らと交戦しようとしていた二人がその動きに合わせて左右に割れ、射線が開けた。
「イーサ」
「準備オッケーすwww」
魔力を練り上げたらしい彼の言葉に、クトーは頷いて呪符をかざした。
「〝縛れ〟」
放ったのは、植物の蔦を発生させて操る初等魔術。
開けた射線の地面を走った青い光が、騎獣した兵士の足元に到達し、数騎の足を縛ってもつれさせる。
前を走っていたそれらが速度を落とし、あるいは姿勢を崩したことで、後ろから来た数騎が衝突して数名の兵士フが宙に投げ出され、あるいは姿勢を崩した騎獣と兵士が後続に踏み潰される。
一部の戦線を崩したが、この魔術の狙いはそこにはない。
植物系の魔術は、五行の『木』に属する。
そして木気の増大は、木生火の相生関係により、火を操る下地を大気の中に作り出すのである。
「やれ、イーサ」
「炎の扱いなら負けねースよwww 〝霊力練転! 制約と誓約において命ずる!! 焼き尽くせーーー炎の精霊ォォオオッ!!!」
イーサが唱えると、彼と契約しているという炎の精霊が幻出し、その体に纏う炎が赤から、青へと染まる。
そのまま、精霊が炎の球と化して真正面に突進していき……兵士に直撃すると同時に、凄まじい炎が辺り一帯を包み込んで、火柱が天高く噴き上がった。




