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最強パーティーの雑用係〜おっさんは、異世界で休暇の日々を過ごすようです。〜  作者: 凡仙狼のpeco


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22/27

旋風の覇王は、見抜いているようです。

 

「蒼将に続いて、大層な軍を率いて来られましたね……」


 和繋国、謁見の間。


 倭衣(わごろも)を身に纏った美しい顔立ちの女性が窓の外を見下ろしながら、ポツリと言葉を漏らした。

 しかし玉座に座る男と、彼の側に控える少年は応えない。

 

 女性が眼下に見下ろす先に先に着陸していくのは、赤龍と、後続として派兵されてきた翼竜の群れ。


 赤将ボルグ率いる翼竜部隊『烈火』だ。


 主の答えが返ってこないので、目を外して見やると、酒の入った杯を傾けた玉座の男は、そこでようやく口を開いた。


「興味はない」


 口ひげの生えた片頬を楽しげに上げてはいるが、その実、ひどくつまらなそうな目をした壮年の男は、左目が引き裂き傷によって潰れていた。


 さらに、左の肘から先も失われている。

 彼こそが、この国を力のみによって支配する男、オオナムチだった。


「左様でございますか。強者のようですが、珍しいですね」


 そう嘯く女性と、空の杯に酒を注ぐ少年も、同じように左目が縦傷によって潰れている。


 どちらもオオナムチによってつけられた傷跡(モノ)

 それらは、忠誠と服従の証だった。

 

「アレク卿よりも弱い。見る必要もないほどに、明らかにな」


 オオナムチの言葉に、女性が微かに頷く……と同時に、いきなり腕を引かれた。


「……!?」


 気づくと、彼女はオオナムチの腕の中に収まっており。



「どうにも、聞き捨てならない言葉が聞こえたなァ?」



 先ほどまでいた窓の方から、粗野な男の声が響いた。


 目を向けると、つい先ほど赤龍の背中から降りるのを確認した赤茶の髪に狂気の色を宿した瞳の男、ボルグが、窓枠に手と足をかけてそこに居た。


 おそらくは、アレクと同世代くらいだろう。


 中庭から、大剣を握ったまま一足飛びで跳ねてきたらしい。

 女性が驚いていると、オオナムチが右目を彼に向ける。


「ネズミは耳がいいのか?」

「テメェがオオナムチか。誰がアレキウスより弱ぇって?」

「貴様だ」


 まるで怯んだ様子もなくオオナムチが即答すると、ボルグが全身から殺気を放った。


「調子に乗るなよォ……? 皇帝陛下からお情けで属国の長に収まってるだけの小物がよォオ……!!」

「入口の場所も知らん雑魚に関して、事実を述べただけだが。それで礼儀の何たるかを説かれる覚えは」


 ない、と告げた直後。


 無限とも思える覇気をオオナムチが纏い、瞳が龍のそれに変化した。


 金色に染まり、蛇のように瞳孔が細くなる。

 さらに、部屋を震わすほどの金気が大気に満ち。




 ーーー瞬きの間に、地面や壁から無数の刃が生える。




 それらが一瞬で伸び、反応すら出来なかったボルグに突きつけられていた。


「今一度、問うが」


 大きく目を見開いたまま固まったボルグに、オオナムチが面白くもなさそうに告げる。


「入口の場所も知らん雑魚に、礼儀をもって接してやる理由は、何だ?」

「……」


 喉笛に、後皮一枚で刺さるほどの間近に切先を突きつけられている赤将は、答えられない。


「アレク卿は、同じ攻撃を避けたが」

「……!」


 ーーー愚かですね。


 女性は、オオナムチの膝上で抱かれたまま、そう思った。


 常在戦場の掟、弱肉強食の掟。

 

 他国から那牟命の狂気を端的に現わす、と言われる勅命は、建前などではなく掛け値なしの真実である。


 力こそ、正義。


 それを体現するのがオオナムチであり、彼はたとえ敵国の者が相手だろうと、謁見において武器を()くことを許し、普段から自身に、近衛どころか警護の兵すらつけていない。


 そこに在るのは、絶対的な自信と覚悟。


 いついかなる時に誰が首を獲りに来ようとも、返り討ちにするだけの力が、オオナムチにはある。


 この地にはかつて大陸中央を支配していた、玉帝の治める八岐大国(やまたいこく)と呼ばれた帝国の首都があった。


 ほんの十数年前の話だ。


 〈御子の争乱〉と呼ばれる、一人の少女が死んだ事に端を発した戦争により八岐大国は滅び、国土は六つに分れた。


 特に首都のあったこの地は壊滅的な被害を受けて荒廃した土地となり、しばらくは支配者のない空白地帯だったが。


 無法と不毛が同居する土地となったその場所、に十年前突如現れたのが目の前の男。

 彼は立国宣言と共に瞬く間に周囲を自らの支配地として呑んでゆき、ある種の秩序を与えた。


 驚嘆すべきは、その速度。


 彼が立ってからほんの数年で、この地は無法の場ではなくなり、オオナムチという『力』の元に統治されたのだ。


 旋風の覇王、非羽々アラハバノ那牟命ナムチ


「弱き者に興味はない。引き続き、客将としての滞在は許す。俺の居室に顔を見せるに、礼、取り次ぎ、解武も一切不要。が、次に身の程を弁えなければ(しい)する」


 失せろ、とオオナムチが告げて刃を引くと、ボルグの姿が消える。


「スセリ」

「はい」


 ボルグが消え、膝から降りた女性が言葉を返すと、彼は淡々と問いかける。


「突如出現したという妙な街の情報を、あの男にくれてやれ」

「……よろしいのですか?」

「アレク卿が接触し、何事も起こらずに出てきたのだろう? おそらく、そこに居るだろう救世の神子と繋がった可能性が高い」


 オオナムチは、杯を干すと言葉を続ける。


「であれば、あの妙な街はアレク側、神子側だ。差し向けるには丁度いい相手だろう。神子につけた配下も撃退され、鬱憤も溜まっているはずだ」

「万一、神子が殺される可能性がありますが。オオナムチに敵わずとも、仮にも帝国五将の一人です」

「あの地には、予言の九頭竜がいるのだろう?」


 オオナムチは、そこでほんの僅かに楽しげな様子を見せた。


「面白くなってきたと思わないか」


 ーーーどこまで見通しておられるのだろう。


 スセリは、不思議に思った。


 街や神子、アレク、ボルグたちを監視する暗部連中を纏めて報告している自分自身ですら、確定ではない情報の正誤を、確実に見抜いているかのような口ぶり。


「神子と九頭竜が揃ったのなら、生き残ればいずれ、俺の首を獲りにくるだろうからな」


 言いながら、オオナムチはこちらと脇の少年にそれぞれに目を向ける。



「そうなれば、俺を殺すという目論見が達成できる。お前たちの望み通りだろう?」



 スセリは、その問いかけに応えず、頭を下げた。


「……仰せのままに」


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