おっさんたちは、無事に交渉を終えたようです。
ーーー赤将ボルグ。
アレク同様に若い将であり、この和繋国が成立する前の大戦には参加していないらしい。
「赤将を倒す……その意図は?」
「邪魔だから」
彼はあっさりと言い、肩を竦めた。
「ボルグは、僕とは違って戦いを好んでいる。少々嗜虐的な面があって、味方の血が流れることも厭わないし、根本的に性格が合わないんだ」
「それだけが理由か?」
クトーは、アレクの言葉に微かに眉を潜めた。
気に食わないから排除する、と言っているように聞こえる。
アレクの信用を得る為だけに、それだけの理由で敵対する道理はクトーにはなかった。
しかし彼は指を鳴らすと、片目を閉じる。
「もちろん、違うよ。一番厄介な点は、皇帝や将軍に心酔し、忠誠を誓っていることさ。王の為ならば、どれほど残虐な行為であろうと平気でやるし、相手の意見なんか聞く気がない」
言いながら手のひらを上に向けた彼は、スイキを指し示した。
「きっと、君たちとも話し合いなんかしようともせず、この街を攻め落とすだろうね。スイキがこの場にいると知れば尚更だろう」
「アレク殿の言葉通り、ボルグが攻めてくるのであれば、排除を請け負うに足るだろうが、こちらに被害が出なければ、命を奪うほどの理由にはならない」
「なるほど。……ではその点については、君たちの判断に任せるよ。君たちが生け捕りにしたいのなら、そうすると良い。自分の目でボルグを見て判断したら良いんじゃないかな?」
「そうしよう」
「だが生け捕りにした場合、その後の対応次第では僕は協力しないけどね」
アレクは、生け捕りには賛成しない指針のようだった。
「君たちが、この国を支配するオオナムチの配下であるという可能性を、僕はまだ拭えていない。何らかの理由で今まで潜んでいた可能性も、ないわけではないからだ」
ボルグを生け捕り、その上でナムチにアレクを売る可能性がある、と言いたいのだろう。
しかしそのリスクは一応、受け入れてくれるようだ。
「もし、この王都がナムチの支配下であると仮定した上で、論理的に考えて、今の今まで君たちに見つからなかった理由がこの街にある、と思えるか?」
「ないね。幾度も偵察経路として通っているから、あれば気づくんじゃないかな。……だけどさっきも言った通り、魔の理は僕には分からない」
街ごと隠すような呪紋が存在しているかもしれないし、どこか別のところから転移してきたのなら、位置的な情報に意味はない、とアレクは告げた。
それ自体は、妥当な思考だとクトーには思えた。
「これ以上は平行線か」
「スイキは信じたいけどね。君たちがオオナムチの配下なら、彼女を自由にしておく意味はほぼないと思っているから。ボルグを排除してくれるなら、手を組む余地はあると変わらず思っている」
「同じ国に所属しているのに、そこまで毛嫌いする理由があるのか?」
「そう。まぁこっちにも色々あるからね。向こうに、スイキの身柄を奪われるのも困るんだよ」
どこもかしこも、一枚岩ではない。
そういう部分については、別の世界だろうと人間の営みは変わらないのだろう。
アレクの口調から、ナムチを排除したいという目的は同じでも、ボルグとは別の立ち位置なのだろうと思われる。
彼は自分自身の目的の為に、ボルグはおそらく、皇帝派とでも呼べる立ち位置で動いているのだ。
「ボルグ、ひいては皇帝側の目的は? あるいは、君自身の目的でもいいが」
その問いかけに、アレクは軽く眉を上げる。
へぇ、と小さく口を動かしてから、表情を笑みに戻した。
「まぁ、言えないね。ただ、どちらの目的もこの国の支配層にとって益となる行為ではない、とだけ」
ーーーオオナムチの暗殺、に間違いはなさそうだな。
ほぼ答えを言っているに等しい。
「まぁ、赤将ボルグと争うことを阻害する答えではないはずだよ。君がオオナムチの陣営でも、そうでなくてもね」
確かに、アレクの言う通り。
もしクトーらがオオナムチと繋がっていた場合でも、赤将ボルグを排除する理由になる言い方ではある。
ーーー情報の出し方が流石に上手い。
「他に何か、聞きたいこととかある?」
アレクの問いかけに、それまで黙っていたアルゴが口を開いた。
「国の内情や街の位置など、分かる範囲で教えられることがあれば知りたい。また、貨幣や流通に関することで何か取引が出来れば」
「貨幣?」
「俺は商人だ。異なる世界からきた、と言ったが、この国にも貨幣制度が存在することはスイキから聞いた。であれば、流通の形態が類似であろうことは理解出来る」
故に詳しい内情を知りたい、と告げるアルゴに、アレクは頷いた。
「なるほどね」
「教えてくれるのならば、こちらが提供可能な物資を出す。もし有用なら、そちらの貨幣価値とすり合わせ、その分の対価として、この世界のカネを手に入れたいと思っている」
アルゴの提案の理由が、クトーには非常によく理解できた。
王都では、いくつかの物資が不足している。
あるいは将来的に、不足するものがあった。
食料の備蓄にしてもそうだ。
多少の余裕はあるが、王都は単体でこの世界に転移しているのである。
「交易が可能になるのなら、行政の滞りが解消出来るしな」
「なるほど。……僕に、そんな弱味を見せて良いのかい? 国としての持久力が足りず、兵糧攻めが有効になってしまう認めることになるけれど」
「略奪、という手段はあまり取りたくない。そちらの戦力規模も読めんしな」
アルゴが静かにそう告げると、アレクは目を細める。
ーーーやはり、凄まじい胆力だな。
あれだけの戦闘力を見せた相手を前に、ギルドを作った男は暗に『提案に応じないのなら奪い取る』と告げたのだ。
空気のピリつきに、レヴィが腰のダガーに軽く手を添え、ウルズが耳をピンと立てて慌てたようにお互いを見つめ合う二人の男の顔を見比べる。
しかし、そんな空気を全く気にもせず、アルゴは話を続けた。
「貴殿が、こちらの戦力や地理に利用価値があると判断したのなら、対立するよりも協定を結ぶ方が有益だろうとは思うがな」
「仰る通り。……まぁ、オオナムチと繋がっているのなら、その提案を僕にする意味はないか。良いよ。その点については、交渉に応じよう」
アレクの答えに、ホッと空気が緩み、アルゴたちが交渉に入ったので、クトーは他の面々に告げた。
もう、危険はないだろう。
「退出していいぞ。この後の話は、聞いていても退屈だろう?」




