おっさんは、蒼将から提案を受けるようです。
アレクは、特に緊張した様子もなく、案内された冒険者ギルドの客間でソファに腰掛けて槍を肩に立てかけた。
武器を奪うようなことはしない。
向こうからすれば、まだ敵か味方か分からない者たちに囲まれている状況である。
それでもリラックスしているようなのは、おそらく自分の技量に対する静かな自信ゆえだろう。
「異なる世界……か。やっぱり、にわかには信じ難いね」
「だろうな。だが考えてみて欲しい」
クトーは、アルゴ、スイキと並んで彼の対面に腰掛け、足を組んだまま指を立てた。
「これだけの規模の街を、この和繋国にいる誰にもバレずに建設するのは、おそらく不可能だ」
それ自体は、曲がりなりにも軍の長を務める者であれば理解している部分だろう。
行軍や、天幕を張っただけの簡素な野営地の設営ですら場所に気を使うことを思えば、街を一つ丸ごと作るのをバレずに行うのがどれほど難しいか。
ましてこの場所は、山奥や深い森などではなく、平原だ。
材木や石造りの街並みを作る物資を運んで行くだけで、誰かの目に触れることがあり得る場所なのである。
クトーの言葉に、アレクは笑みを浮かべたまま静かにうなずいた。
「それはそうだろうね。ここに来る前に街を囲う壁の様子を見たけど、年季が入っている。また、建設の様式が、この国のものとも母国のものとも違う形で作られているように見えた」
トントン、と軽くこめかみを叩いた彼は、片目を閉じながらさらに言葉を重ねる。
「であれば……そうだね。僕としては、君たちが別の大陸から街ごと転移してきた、というところで、理解が追いつくかな?」
ーーー順当だな。
クトーは、この世界の地理や文明レベルについては把握していない。
が、ワイバーンまで含めたそれなりの規模と思しき軍隊を編成していること。
さらに、アレクの衣服や武器、口にする言葉の教養の高さ、スイキの魔導に対する理解の深さ、などから、地図を作れるラインに達している可能性は高い。
そうなると、海の向こうにある大陸が存在するのなら把握していておかしくはないし、話が早いのは助かる。
認識など『別の場所から来た』という点さえ疑われなければ、特に問題はない、とクトーは判断した。
クトーはメガネのブリッジを押し上げると、念押しで確認を行う。
「アレク殿は、転移魔法の存在は知っているのか?」
「一応ね。僕には魔の理は分からないけれど、スイキ自身も幾度か転移そのものは経験しているはずだ。ここに来たことも含めてね」
「はい」
違うかい? と首を傾げたアレクに、スイキは小さく答えた。
「他の仲間たちはどうなった?」
「分かりません。連絡がつけば良いのですが……試してはいますが、距離が遠すぎると、風の符によって声を伝えることが出来ないので」
「まぁ、戻ってくるつもりなら、いずれ連絡は取れるだろう」
「と、思います」
アレク達は、スイキの仲間の動向についてはあまり心配はしていないらしい。
彼女の護衛として試す、とクトーらと戦闘してなお手を抜いていた彼の信頼があるのなら、おそらくは自分たちと同程度には強いのだろうと察した。
「とりあえず、そっちは置いておこう。その上で、僕が気になるのは、君たちがどう動くのか、という一点のみだ」
今度はこちらのことを話す番らしい。
クトーはアルゴに目を向けたが、彼は膝に両肘をついた姿勢でジッとアレクを眺めており、話し始める様子がなかった。
おそらく、まだ自分の番ではないという意思表示だろう。
それを悟って、クトーは口を開いた。
「我々の行動動機は単純だ。元の世界への帰還、及び、現時点での街の安全の確保になる。その為に、帰還の方法を探るために動くことを考えており、この国に存在するどこかの陣営と手を組みたいと考えている」
基本的にアルゴは、王都を守ることを第一に考えており、世界情勢に興味を持っていた。
ここでスイキがある程度の信を置いているアレクを味方につけられれば、というの提案は、さほど彼の思惑から外れた思考ではないだろう。
「それは、僕と組みたい、っていう話で間違いはないかな?」
「ああ。最初に接触してきたということもあるが、スイキと仲間陣営であり、害意を持っていないことからそれを提案をしたい」
「なるほど、なるほど」
アレクは小さく二度うなずき、何かを思案する色を見せる。
スイキを預けると決めた時点で、協力する意思はありそうだが……タダで、というわけではないのだろう。
クトーはそう読んで、さらに話を続けた。
「そちらの意見、もしくは協力を得られるのであれば、その条件は?」
「僕としては、未知の勢力が唐突に出現した以上、きちんと考えたいところではある」
アレクの返答は、即座に返ってきた。
「まだ信用は置けない、と?」
「支援や交流をするほどではない、というところかな。なので、ーつ提案をしたい」
「聞こう」
クトーの返答に、アレクは笑みを深めてそれを口にした。
「ーーー帝国軍五将の一人、赤将ボルグを、倒してくれないか?」




