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最強パーティーの雑用係〜おっさんは、異世界で休暇の日々を過ごすようです。〜  作者: 凡仙狼のpeco


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19/27

おっさんと少女は、蒼将に認められたようです。

 

 レヴィは、三歩でアレクの背後に到達した。


 大きく右から回り込むように、地面を蹴った砂埃がほぼ同時に三つ跳ねた瞬間、ギリギリ視認できる速度でレヴィがそこに姿を見せたのだ。


 順手に持ち替えたニンジャ刀の柄を、相手の後頭部に向かって叩きつける。


「おや、早いね」


 アレクは、レヴィに目も向けないままそれに反応した。


 叩きつけられた柄尻に対して、肩に担いだ槍を少しズラし、青龍刀に近い幅広の刀身で受ける。

 硬い音と共にわずかに火花が散ると、アレクは砂色の髪を軽くなびかせながら首を傾げた。


「別に、斬りかかってきてくれても良いよ?」

「あら、そう?」


 二人の軽いやり取りを聞きながら、クトーは手にした魔導符をかざす。


 ーーー強いな。底が読めん。


 クトーは、アレクの実力を高く評価した。


 アルゴの頭の回転と胆力もそうだが、この世界で出会う者には傑物が多い印象を覚える。

 

 レヴィもアレクも全く本気ではないのだが、この二人が全力でぶつかり合った場合、魔力を封じられたクトーでは戦闘についていけないだろう。


「〝活力よ、(みなぎ)れ〟」


 呪言と共に、魔導符で身体能力を増大させる補助魔法を発動する。

 

 手にした魔導符は、一枚一枚に刺紋を刻み、特定の効果を持たせてあった。

 そこに刻んでいるのはクトーが使える魔法を、呪紋に応用して落とし込んだものである。


 肉体を動かす速度と同時に、動くものを捉える視力が上がり、クトーは再びぶつかるレヴィとアレクの動きを先ほどよりも鮮明に捉えた。


 攻撃を防がれて着地したレヴィに、無造作に振り下ろしたアレクの槍が迫る。

 刃を返しており、殺さないように配慮しているのが見て取れた。


 レヴィはそれを体をわずかに逸らせただけで(かわ)し、代わりに足の【カバン玉】から左手で取り出した『石』を投擲する。


 何の変哲もないただの石、だが、至近距離下方から打たれたそれは、並みの冒険者では捉えられない速度でアレクのこめかみに迫った。


 が。


「凄いな。ここまで手応えのある相手は久しぶりだね」


 アレクは、まるで曲芸のように、振り下ろした槍をそのまま手首の先だけで回転させ、柄で正確に石を弾き飛ばす。


「褒めるのはまだ早いわよ?」


 レヴィはクルリと片足立ちで体を一回転させながら、槍を避けて起こした上体をかがめた。

 そのまま、浮かせた方の足を大きくアレクの方向へと踏み込み、伸び上がるように左の掌底でアゴを狙う。


 初撃から、相手の背後、頭上、足元、と決して正対しない、かつ相手から必要以上の距離を取らない動きには、当然ながら理由がある。


 レヴィの強みは、基本的には小柄な体と、速度から繰り出される手数だ。


 しかしお互いに手加減している以上、決定打という意味では膂力と体格に差があるアレクとレヴィでは確実に相手の方が有利になる。


 その上で、投擲を考慮しないのであれば槍を持つアレクの方がリーチが長い。

 そうした不利を消し、逆に自分の手数と速度が活かせる間合いが、近接戦闘なのである。

 

 しかし対するアレクは、一歩もその場を動いていない。


 条件的に不利な近接戦闘で、ほぼ片腕の動きだけで、Sランク冒険者の中でも上位に当たるレヴィの動きを制しているのだ。


 ーーースイキが信頼し、かつ警戒するのも当然だな。


 この世界で彼がどの程度の存在なのかは不明だが、あの蒼龍といい、少なくともそこら中にゴロゴロいる実力の持ち主というわけではないだろう。


 下手を打てば、一気形勢を逆転されそうだが……相手は一人である。


 手数の振り幅は、二人で挑んでいるこちらの方が格段に高い。


「〝霊力(れいりょく)練転(れんてん)ーーー」


 クトーは、至近に意識を向けるアレクに対して、スイキに習った招来術……召喚魔法を試すことにした。


 魔力を練り上げられるようになったイーサが、炎の精霊を使役していたことをヒントに、構築した術である。


「ーーー招来、幼魔絶叫(ベイビィ・シャウト)〟」


 先ほど行使した、身体能力増強魔法。


 こちらの世界では陰陽五行の『木』にあたる魔法で、クトーらの世界における初等魔法である。


 その魔法を発動することによって巻き起こる天地の気の『渦』を加速させて、さらに強力な魔法を行使するのが『霊力練転の法』だ。


 本来は、契約を結んだ実体のある霊獣などを呼び出すのだが、クトーはどんな霊獣とも契約を結んでいない。


 しかし、魔物の生態などに関する知識は豊富にあった。


 スイキの話では、呼び出した霊獣が、本来扱う呪術だけを行使することも出来るのだという。

 その話を聞いて、要は、魔物のスキルを再現できるという風にクトーは解釈した。


 クトーの周りで渦巻く木気の気配を察したのだろう、レヴィがパッと飛びのいた瞬間、魔導符によって重ねた魔法が発動する。



 ーーー召喚したのは、指向性を持つマンドラゴラの絶叫。



 本来であれば致死性を持つ『人参に似た魔物』の叫び声は、幼体のものであれば相手に麻痺の効果をもたらす。


「おっと」


 しかし、クトーの一撃は、レヴィだけでなくアレクにも読まれた。

 さらに槍を回転させて両手で軽く握り込んだ相手は、即座に槍を扱き抜くように前に突き出す。


 差し向けられた相手以外には、少し不快な金切り音に感じられる不可視の絶叫魔法を、アレクが正確に槍先で撃ち抜くと同時に、風が渦巻いてパァン! と弾けた。


 クトーは、その瞬間にシャラン、とメガネのチェーンを鳴らしながら右に跳ぶ。


 絶叫魔法を打ち消した、何らかの風の攻撃スキルが、ほんの1秒前まで自分のいた空間を突き抜けた。


 ヒュゴゥ! と音を立てた槍撃が、背後の街壁に当たり……そのまま、斬痕が穿たれる音がする。


「結界を抜いただと……?」

「壁に穴開いたスよ!?www ただのスキルで!?www」

「あの人強すぎないですかー!?」


 壁上の三人の驚きは、順当なものだった。


 王都外壁は、基本的に強固な結界で覆われている。

 多人数による大規模攻撃魔法や、大型魔獣の攻撃を想定した強度を備えている壁面だ。


「殺す気はないんじゃなかったのか?」

「それほど、強い攻撃をした覚えがないけど」


 と、言われたところで、クトーは自分が失念していたことに気づいた。


 ーーーそういえば、この王都はペンタメローネ期のものか。


 魔導的な意味合いで言うのなら、魔王軍四天王に九龍(クーロン)王国が乗っ取られる前の防御は現在の王都よりもさらに脆弱である。


 王都奪還以後に、クトー自身が聖結界を強化していたことを忘れていた。


 まぁ、その前であっても壁の強度は、Aランク以上の冒険者が全力攻撃してようやく傷がつくレベルである。

 難なく抜いたということは、どちらにせよ、アレクの攻撃はそれを超える威力を備えているという話になる。


「君の今の紋術も、そこそこ危険じゃないのかい?」

「少なくとも命を奪うほどではない」

「二人で僕に挑んで来たんだから、これくらいは避けれるでしょ」


 アレクは、再び距離を詰めようとしたレヴィに、ヒュン、と柄尻を振り落として牽制すると、ごく自然な動作で足を踏み出した。


 と見えた次のまばたきの間に、目の前にその姿が迫っている。


「……!」

「役割分担的に、こういう戦術はどうだろう?」


 余裕を感じさせる口調で、アレクは柄尻をこちらに向けた竜槍を、片手で突き抜いてきた。


 が。


 ーーー見立ては、少々甘いな。


 クトーはギリギリで見極めた刺突を、手にした仕込み杖でわずかに軌道を逸らすように払う。


「へぇ。婦女子を前に立たせて隠れているから、てっきり腰抜けかと思ったんだけど。洗練された動きだね」

「俺は魔導戦士(ブラックウォリア)だ。近接が得意とは言えないが、心得くらいはある」


 そのまま、ストンと地面に座り込むような感覚で腰を落とすと、直後にアレクの背後から怒気に似た闘気が吹き付ける。


「そして、お前は勘違いをしている」


 同時に、アレクが払われた槍を自身の背に回して風車のように一回回すと、キキキキン! と音を立てて複数の投げナイフが弾けた。


 さらに、彼の周りの空間も数本のナイフが通り過ぎ、クトーの頭上を抜けていく。


「彼女は遊撃も出来る。前に立っているのは、俺が弱いからというよりもーーー」


 言いながら、クトーはバネのようにたわめた膝を使って一気に伸び上がり、仕込み杖の先端を彼の首元に向かって薙いだ。



「ーーーレヴィが、強い(・・)からだ」

 


「なるほど」


 涼しい顔をしたまま、ギリギリで攻撃を避けたアレクは、笑みを浮かべたままクルリとこちらに背を向ける。


「それは、大変失礼だった」

「全くね。人様のことをあんまりナメてると、吠え面掻くわよ!?」


 本気になったレヴィが向き直ったアレクに迫り、クトーの目には複数の光線しか見えない刃の連撃を放つ。

 だが即応したアレクも、巧みに槍を操り、刀身や柄でそれを受け切った。


 瞬間の攻防の隙に、クトーは彼の足元に向けて魔導符を発動する。


「〝土気よ、留めよ〟」


 踏ん張るアレクの足元の地面が、魔法の発動と同時にぬかるむように泥へと姿を変え、アレクの履いたブーツの底を呑んで即座に固まる。


 相手の足元を固める、ただそれだけの土魔法だが、アレクの足運びが止まり……槍をニンジャ刀で捻ったレヴィが、逆の手に持った投げナイフを手に、スルリと槍の間合いの内側に向けて入り身になる。


 懐に潜り込み、ピタリと首筋に刃先を押し付けられたアレクは、降参するように両手を上げて槍を地面に落とした。


 カラン、とそれが転がる音が鳴った後に、わずかな静寂。


 そして、苦笑したアレクがつぶやいた。


「お見事。僕の負けだね」


 その言葉に、ナイフを引いたレヴィが、不満そうにアレクの顔を睨みつけながら鼻を鳴らす。


「結局片手しか使ってないくせに、よく言うわよね」

「おや、バレちゃってたか」


 そう言って彼が片目を閉じたので、クトーも腰に差していた杖鞘に刀身を収めた。


「スイキを預けるに足る、と、思えたか?」

「十分にね。君たちを味方つけれたら、かなり頼りになりそうだ」


 槍を拾ったアレクが、空中でこちらを見守っていたランジュに手で合図を出すと、ゆっくりと巨大な蒼龍が降下してくる。


 それを眺めながら、クトーはメガネのブリッジを押し上げた。


「では、交渉に入ろう。こちらは、今のお遊びよりも、お互いにとって有益な結果になることを願ってな」

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 強くてニューゲーム、でも無双ゲームと言うほど楽ではない これからの戦闘も楽しみです! [一言] どこぞの領主と王様が喜びそうだなー
[一言] 実力は最後まで見せない! 今現在 敵ではないといえ見方でもないもんな
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