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最強パーティーの雑用係〜おっさんは、異世界で休暇の日々を過ごすようです。〜  作者: 凡仙狼のpeco


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おっさんは、回復魔法を教えるようです。

 

「ふむ。……確かに、名前は似ているが」


 九頭龍、と言われて、クトーは彫刻を続けながら、言葉を返した。


「それだけで判断するのは、少々早計かもしれん」

「と、いうのは?」

「この王都が領土とする地域は、ペンタメローネ王国と呼ばれているが、後に隣国と併合して国の名が変わった。……その名が、九龍(クーロン)王国だ」


 木の札に最後の一刺しを終えたクトーは、彫刻刀を置いて背後に目を向ける。

 そこでは、休憩を終えたイーサとウルズが、レヴィとワイワイ話をしながら修練を継続していた。


「となれば、九頭龍とは、アルゴたち……ひいてはこのペンタメローネの王都そのものだ、というのも、あり得ないことではない」

「……誰か特定の人物を指しているわけではない、と?」

「真相は分からんが、九頭龍を探すために飛ばされた先に、この街もあった。ならば、含意がいくつかあってもおかしくはないだろうな」


 クトーは、スイキに答えながらメガネのブリッジを押し上げた。


「こちらからも一つ質問がある。君を狙う連中は、何を企んでいる?」

「おそらくは、私の力そのものを」


 彼女の返事は明快で、特に疑問も抱いていない様子である。


「口ぶりからして、君が持つ力を世界のために役立てる、というわけではなさそうだな」

「……私の力が開花することを望んでいる師の狙いは、もしかするとそうかも知れません。しかし、ナムチや帝国の考えは不明です。彼らは動乱を引き起こしている側ですから……」

「であれば、お前の仲間と共に、その師を探して真意を問うのが近道かもしれんな」


 人同士の戦争に竜の勇者……スイキがそうだというのは、クトーの仮定だが……の力を使うのは、愚の骨頂である。


 魔王と対になる存在の力は、容易に世界を滅ぼすことが出来る。

 その力を悪用しようとするのであれば、止めなければならない。

 

「今の話を、アルゴにするつもりはあるか?」

「任せます」

「……どういう意味だ?」


 クトーは、かすかに眉根を寄せた。

 これは、彼女自身の話だ。


「それは、人に委ねていい類いの判断ではない」

「それでも、貴方に任せます」


 スイキは、特に表情も変えずにこちらの目を見返していた。


「私は貴方を、信用に足る、と判断しました。なので、貴方がアルゴに事情を明かしてもいいと判断するのであれば、そこに意を唱えるつもりはありません。貴方は、私よりも人の理を解すように思えます」


 難解な言い方だが、要はクトーに人を見る目がある、という意味だろう。


「買い被りだと思うがな」

「もしアルゴに事情を明かすことによって、何らかの不利益な状況になったとしても、貴方を責めることはしません。それが私の決断です」

「良いだろう。熟考しよう」


 アルゴの気質がどれほど好ましいものであっても、国の総意としてそうであるかは不明だ。

 その辺りを、一度問いただしてみてから判断すれば良いだろう。


「ナムチ王らの動向については、何らかの推測はあるか?」


 クトーは続いて、アゴを指で挟みながら、今一番、懸念(けねん)していることを問いかける。


「ナムチは、おそらく動きません」

「……どういうことだ?」

「彼は、自分に歯向かう相手以外に興味を持たないような気質の武人と聞き及んでいます。ここを襲うとすれば、最初は蒼将アレクの斥候か、別勢力の帝国兵でしょう」

「……領土内に、不明な街が出現しているのにか?」


 クトーからすると、およそ為政者とは思えないような対応である。


「そもそも治世の面で、ナムチは領民を虐げませんが、同時に救いもしません。『弱肉強食の掟』が、彼の掲げる政策の全てです」

「極端だな」

「ゆえに、帝国を含む他国の勢力が入り込むことに頓着しないのです。彼は、気に入らないとなれば、単身で軍を叩き潰すだけの力を持っています」


 ーーーこの世界の魔王、か?


 クトーは、自分の世界の魔王の顔を思い浮かべながら、スイキの言葉にうなずいた。


「何にせよ、今のところは和繋国や帝国よりも、お前やペンタメローネ王国との協力しながら情報を集める方が良さそうだ」


 ある程度方式が固まったところで、いきなり背後から爆発音が響いてきた。


「うわっちぃ!?w」

「だ、大丈夫ですかー!?」


 振り向くと、イーサが煙を上げており、ウルズが心配そうに問いかけている。

 そして、レヴィが怒鳴った。


「危ないわね! 何してるのよ!?」

「いや、わざとじゃねースよwww 魔力が巻けたと思った瞬間に、弾けたんスwww」


 手を振ってヘラヘラと笑うが、イーサの手は煙を上げており、遠目にも赤く見えるくらいの火傷を負っている。


「気をつけなさいよね! ちょっとクトー! 来て!」


 レヴィがぷりぷりと怒っているのは、心配の裏返しである。

 呼びかけられて、クトーは腰を上げた。


「行こう」

「どうされるのです?」

「怪我を癒やす。ちょうど、作っていたのはその為の符だ」

「癒やす……?」

「そうだが」


 回復魔法など特に珍しいものでもないはずだが、スイキは戸惑っていた。


「そんな呪紋の存在は、聞いたことが……即時で治るのですか?」

「定量消費魔法を、符に落とし込んでみた。これで発動しなければ、他の手段もある」


 【四竜の眼鏡】に備わる、定量魔力消費型の回復魔法を模したものだ。

 もし発動しなくとも、別にメガネの力を使えばいいだけである。


「この短時間で、刺紋の応用まで……!?」

「イーサ」


 スイキが絶句しているのを尻目に、クトーはイーサに近づいた。


「腕を出せ」

「え? うスw」


 大人しく腕を差し出した彼の火傷に、符をかざす。


「〝癒せ〟」


 符は、描いた紋に従って天地の気を取り込み、滑らかに術式を発動させる。

 白い光が注ぐのと同時に、火傷は跡形もなく癒えた。


「治った……!? え、どういうことスか!」

「ただの回復魔法だろう。何をそんなに驚いている?」


 この世界には類する魔法がないようだが、さすがにこちらの世界の過去から来た彼らは知っているはずだ。


「いや回復魔法!? ポーションとか活性魔法じゃ、こんな即座に癒えねースよ!?w」

「見せて下さい! 見せて下さーい!!」


 ヤベェ、スゲェ!! となぜかテンションを上げて癒えた手を眺め回すイーサに、ウルズがぴょんぴょん、と跳ねながら見せるようにせがむ。


「……どういうことだ」


 回復魔法そのものは、ペンタメローネ建国辺りに発祥しているはずなのだが。

 しかし、疑問はすぐに解けた。


「もしかして、クトーさんって聖教会の関係者スか!?www」

「違うが、何故だ?」

「いや回復魔法って、教会の司祭の独占技術じゃないスかwww 門外不出で、そのせいで教会が権力を独占してるんスよwww」


 ーーーなるほどな。


 クトーは合点がいった。

 たしかに、長い間回復魔法は聖女や司祭しか使えない『神の奇跡』であると言われていた、という話は聞いたことがある。


 それがある時期から、魔導士の一人が原理を解明したことで、冒険者が徐々に使えるようになり、教会の治癒を独占していたことによる俗世的な権力は徐々に削がれていった、というのが、通説である。


 ーーー時の流れは、世界そのものの時間を流動させない限りは不可逆、だったはずだな。


 クトーは、トゥスという仙人に聞いた話を思い返してから、少しの間考えた。


 もし仮にその『原理を解明した』という魔導士が、イーサであれば。


「……使い方を教えてやろうか?」

「マジスか!?www いいんスか!?www」

「別に、さほど難しい魔法ではないからな」


 魔導士ならば、初等魔法であれば、闇以外のほぼ全ての属性魔法は習得可能だ。


「ヤベェスよ!! ウルズ、オレら超ラッキースよwww」

「ですねー!! イーサが回復魔法を使えるようになったら、ご主人様も喜びますよー!!」


 素直に喜ぶイーサたちを少し可愛らしいと思いつつ、クトーは目を細める。


 ーーー歴史的な整合性は、取れるはずだが。


 実際に冒険者が回復魔法を使い始めた時期については、詳細な記録はなかった。

 つまり、ここでクトーが回復魔法の使い方をイーサに教えた後に、彼が元の世界や時間軸に戻って、それを普及させても特に問題はない。


 そこで、クトーはふと、自分を見上げるスイキの視線に気づいた。


「……お前にも、この符を贈ろう。作り方は、見たら分かると思うが」

「良いのですか?」


 モノ問いたげな視線の意味を推察して提案したが、図星だったようだ。


「特に悪いことはないだろう。技術は、広めて使うものだ」

「ありがとうございます」


 なぜか深々と頭を下げるスイキに、クトーが軽く首を傾げてみせると、シャラリとメガネのチェーンが鳴る。

 符を受け取ってどことなく嬉しそうな様子が、こちらも可愛らしい。


 クトーが少し満足していると、黙って成り行きを見守っていたレヴィが、腰に手を当てて渋面を浮かべながら口を開いた。



「喜ぶのは良いけど、魔法を習う前に魔力と気功の扱い方を覚えなさいよ……」

 

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] さりげない技術革新w サスクト!! [一言] 可愛いジェラシー いただきましたw
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