ギルド長は、おっさんと朱い髪の少女に興味を持つようです。
ーーー妙な男だ。
アルゴは、目の前にいる男を計りかねていた。
妙な状況に動じるほど安くはないが、未来から来たというクトーは、今までに見たことのないタイプの人間だったからだ。
第一印象は、堅物そうなヤツだというもの。
外見は線が細く、一見して文官のように見える。
銀髪を後ろに流して、前髪を数本額に垂らした、アルゴと似た髪型に、銀縁のチェーンがついたメガネ。
青い瞳には感情が浮かんでおらず、肌の白さも相まって一見冷たそうな印象を覚えた。
冒険者というには少々派手に見える、白い礼服とファーのついたコート。
手にした黒い杖に特別な意匠はなく、普通の格好をしていれば特徴がないとすら言えるほど地味で強そうには見えないタイプだ。
ーーーしかし、頭の回転は早い。
特段の説明もなく状況を整理して、受け入れているようにも思えた。
仲間どころか、街や知り合いごと転移しているアルゴらと違い、クトーはおそらく横の少女らと単身で転移しているはずだ。
それにしては妙に落ち着いている。
そして今の『休暇を依頼として受けて、それをこなさなければならない』という発言。
ーーー格別の変わり者だな。
アルゴに、相手の戦闘力を推し量ることは出来ない。
隙のない立ち振る舞いや、放つ気配からある程度は認識出来るが、そうした諸々を加味したところで『魔王を倒した』という発言に関しては、眉唾と大半の人間が判断するだろう。
しかし、アルゴは自分の勘を信じた。
ーーーこの男には、器のデカさを感じる。
おそらく目に見えるだけではない何かが、彼と……彼の連れている少女らには感じられた。
「ウルズ」
「はい! 何でしょうかご主人様!」
なぜか好き好んでアルゴをご主人様と呼び、何の拘束力もない赤い【契約の腕輪】を首輪のように首に巻いている獣人少女に呼びかけると、彼女はビシッと手を挙げた。
「コイツらは強いか?」
率直な問いかけに、ウルズは目を泳がせる。
「えーっと……」
「率直な感想でいい」
「……多分、朱い髪の人は戦ったらどうにかなりますけど、竜を連れてる子とそのメガネの人には、イーサと二人がかりで、本気でやっても多分勝てないです……」
ーーーやはりな。
アルゴはその答えに満足した。
ウルズは『煉竜傭兵団』と呼ばれる最強クラスの傭兵団で、前衛を務めている少女だ。
性格はトリッキーだが、その実力と嗅覚、獣化した時の頑健さで並ぶ者はほぼいない。
イーサもまた、武の名門と呼ばれる貴族の出身であり、実力では王都で十指に入る。
それが2人がかりでも勝てないとウルズが認めるのなら、目の前の連中の実力は本物だろう。
「この状況を、お前はどう見る? クトー」
「おそらく、我々が住んでいたのとは異なる世界だろうという予測はしている。スイキは、この世界の住人だ」
クトーの答えは、最初から……宝珠で会話した時から明瞭だった。
「偶然出会い、神聖オース帝国を名乗る者の手から救った。記憶にある限り、そのような帝国は我々の世界には存在しない」
「なるほどな」
確かに、アルゴ自身も聞き覚えはない。
「では、スイキといったか。この世界の住人と接触するのは初めてだ。だから尋ねたいことがあるが、お前は、なぜ帝国の者に追われていた?」
「……その事情を明かすには、私は貴方とクトーさんを信用しきれていません。どちらも、顔を見たばかりです」
そう答えたスイキも、アルゴの目から見ると何か普通とは違う気配を感じていた。
朱い髪をしている者に、今まで出会ったことがないのもあるが、底知れなさという面ではこちらの少女もクトーに劣らず、読めない。
「では、お前の目から見て俺たちはどう映る?」
「私の知るものと異なる呪を行使すること、見知らぬ街並みや食事から『ここではないどこかから来た』という言には一理を感じます」
「分かった。では、お前自身のことはいい。神聖オース帝国とやらについて、知っていることは話せるか?」
「それについては、特に隠す理由もありません。それにいずれ、この街にはオースだけではなく、和繋国……この辺りを支配する大那牟命の手が、伸びてくるでしょう」
ーーーそれは有益な情報だ。
内心でアルゴがうなずき、方策を固めようと思考する最中、どうやら同じことを考えたらしいクトーが口を開く。
「敵が現れる、ということか。先んじて知れたのは、状況的に悪くない」
「同感だな。その話を聞かせてもらおう。おそらくは、この世界に関する情報として我々の益になる」
アルゴは、【カバン玉】の中から金塊と青い小瓶を取り出すと、執務机の上に置いた。
「それは?」
「対価だ。タダ働きをさせるのは、俺の主義に反する」
アルゴは商人だ。
そして利益は相互にもたらされてこそ、対等に付き合える。
「おそらく、貨幣では価値がないだろうからな。これらを情報提供の礼として渡す。それで手を打たないか?」
「……望んでいませんが、その小瓶は?」
「この世界では金に変えられない価値のあるものだ、と俺は思っている。……シミュレート・スライムと呼ばれる、この世界には存在しない魔物を封じたものだ」
するとそこで、クトーとスイキが同時に表情を変えた。
クトーはかすかに眉根を寄せ、スイキは興味を惹かれたような顔をしている。
「シミュレート・スライム……」
「異界の魔物、ですか」
「ああ。扱いを間違えると街ごと吹っ飛ぶような代物だが、興味があるか?」
「金塊よりも興味があります」
スイキの答えに、アルゴはうなずいた。
「では、話してくれ。ーーーここが、一体どこなのかを」




