母
てけてけてててーーん
スットンキョウな目覚まし時計の音がなる。
歌織が目を覚ますと見慣れた天井が目の前に広がる。
「あれ?結婚相談所に行って、それからどうしたっけ?」
昨日の記憶がアイマイな歌織、結婚相談所からどうやって帰ったのか。
帰ってから何をしたのかよく思い出せない。しかし、シェラピケのソフシェラをセットアップでダボっと着ている。
大きく伸びをして二階の寝室ベッドから1階のリビングへ移動する。
「おはよう」心配そうな顔で母親の詩織がまじまじと歌織の顔をのぞき込む。
歌織とよく似たアイドル顔の、アラフィフに見えない詩織の目がおよぐ。
きちんと化粧を済ませ、先ほどまでスーツでバタバタと出勤準備をしていた詩織が急に歌織の前で固まる。何も言わない。テレビの音だけが部屋に流れる。
「どうしたの?」めずらしく挙動不審な母親に思わず、歌織から言葉がもれる。
壁ドンできそうな距離のうり二つの顔の一つがハットして、父親の食べ終えた朝食を片付けだした。
「お父さんは?」
「もう出勤したわよ、歌織は今日、何時から?」
「10時入りのアフレコだから8時半に出るわ」
詩織は心配そうに歌織の顔を見る。
「大丈夫? 朝ごはん食べれる?」詩織は心配しながら声をかける。
「食べる」自分の返事で歌織の眠気がパッと飛ぶ。元気に可愛く能天気に歌織は答える。
返事をした後にあれっと歌織は思う。どうしてそんな事を聞くかわからず、可愛らしいキョトン顔で首をかたむける。
「あなた昨日すっごいフラフラでだるそうだったの」
「だから急いで熱を測ったのに35.5度の平熱なの」
「でも意識がもうろうとしてて、お酒でも飲んだの?」
カウンターキッチンでてきぱきと歌織の朝食を用意しながらさりげなく話す。仲良し親子だが今日は何か探りを入れているようだ。
「のまないよ~、知ってるでしょ?」
歌織はダイニングテーブルを前に座りながら、真顔で当然のことのように言う。
「あたしママと一緒でお酒を飲むとヒザが痛くなっちゃうから」
詩織の謎はますます深まる。しかし、歌織はドヤ顔でキメている。
「そうよね、お酒の匂いまったくしなかったもんね」
「じゃあ昨日はなんだったの?」詩織は準備できた朝食をトレーにのせて正面の歌織へ話しかける。
歌織自身、昨日の記憶があいまいで笑顔で誤魔化す。
「なんだっけ?疲れてたんじゃない?」
詩織は少し安心してやさしく食事を歌織の前にセットする。
「いただきます」歌織は元気に朝粥といか大根の煮物と梅干しを食べながら母と話す。
歌織と詩織が雑談をかわす。
歌織の顔が昨日と別人のように生気がもどる。
朝から仕事で忙しいはずの詩織が歌織の食事を見守る。元気に食べる歌織を見て安心する。
一呼吸の静寂の後、テレビから7時30分のゴングが鳴らされる。
詩織が不自然な笑顔と挙動でそう言えばとジャブを打つ。
「小学生の時に同じダンススクールに通ってたコガちゃん結婚するらしいよ。」
歌織がお粥をむせてしまって咳払いする。
「知ってる。6月の結婚式に呼ばれてるから」
なんとか笑顔で母親に返答する。
「コガちゃんってあなたより年下だったかしら?」
不自然な挙動を一切感じさせない自然体で母が尋ねる。
母親が本当に知らないのか?知っているのか歌織にはわからない。ガードするかフットワークでかわすか刹那的に硬直する。
「どうだったかな~」
フットワークでかわすを選択する。
「確か二歳下じゃなかったかしら?」さらりと母が答えをだす。
絶対に知ってて聞いたでしょ、どこの名女優なの、あたしより演技うまいでしょ、等の不満を顔にだしながら
「そうだっけ?」歌織はとぼけて話から逃げようとするが詩織はラッシュで逃がさない。
「あなたもそろそろお話ないの?」
「親がいつまでもいると思ってたら大間違いなんだからね」
「そろそろ結婚しないと、一生結婚できないわよ」
いっきにコーナーに追い詰められる。
歌織はいちかばちかのカウンターにでる。
「私はフォロワー100万人のアイドル声優なのよ、だから恋愛もお付き合いも出来ません。」
詩織は母の目で慈悲深い心をもって諭す。
「アイドルの熱愛報道なんてよく聞くけど」
歌織は勝ち誇った顔で手を胸にあてて言う
「私はプロなの、ドームを即完売できるアイドル声優なの、だから今はお付き合いできないの」
「私が結婚する気になったらエグゼクティブ男性がわんさか結婚してくれって来るから、心配しなくていいよ」
詩織はあきれた顔でため息をつく
「おじいちゃんとおばあちゃんも早く歌織の結婚式が見たいって言ってたわよ。いつになったらひ孫の顔が見れるのか心配してたわよ」
詩織のワン・ツーがキレイにきまる。
「じゃあお母さんそろそろ仕事に行くから、食器は水につけといてね」
詩織は颯爽とウイニングランで去っていく。
歌織はテーブルにダウンしそうになるが、仕事へ出かけるためなんとか二階の自分の部屋へたどり着く。
部屋でカバンをとって出勤しようとした時、昨日のトートバッグからA4用紙のアンケート結果がチラッと目に入り思わずダウンしてしまう。
「昨日、私は異世界転生してたんだわ」
アンケート結果を認めたくない歌織が一人部屋でつぶやく。
A4用紙数枚を握りしめて顔からベットに倒れこむ。枕に顔を突っ込んで大きく息を吸うと
「あぁーーーー」と大声を息が切れるまで吐き出す。
出し切ったところで仰向けになり空を見ながら深呼吸してA4用紙を天空にかざす。
アンケート結果が記載されているランキング表をぼーと眺める。
虚無の形相で時間が流れる。
何度見ても、6位、最下位、佐崎歌織。
歌織は真顔でつぶやく。
「そうか昨日の転生した異世界では順番が逆なんだわ、6位が一番結婚したいってっことなんだわ」
無表情が本気とも冗談とも取れる。
無意味なポーカーフェイスを一人、部屋で発揮する。
改めて全体の順位に意識を向ける。
A4用紙に1位から6位までの名前が書かれている。
1位 水原奈央
2位 浜倉沙音
3位 清野かえで
4位 倉持由比
5位 井ノ瀬裕華
6位 佐崎歌織
「1位結婚してるよ」思わず大声で叫ぶ歌織。




