悪夢にうなされる俺の婚約者に、独占欲(デコピン)という必殺技を。
戦に魔法を使用してきたこの王国の魔法技術は周りの国々より進んでいる。そのため俺の通う学院でも魔法の実力が全てだ。そんな国の王族に仕える俺の家は魔法騎士の名門。上位貴族の家でも俺は三男坊で爵位は長兄が継ぐことになっているし、何かあっても次兄がいるから俺は幼いうちから軍の魔法騎士になるために厳しい訓練を受けてきた。魔法騎士として武功を立てなければ俺みたいな三男坊なんて生きていけない。
「リルリア…」
俺の隣には、俺の肩に無防備に寄り掛かって寝ている俺の婚約者がいる。お前には親同士の決めた婚約と言う風に言ってあるが、実際は父上の部下の集まるパーティーでお前を見て一目惚れしたのは俺だった。
「お前は本当に隙だらけで困る」
俺はそんな困った婚約者を見詰め、起こさないようにそっと綺麗な顔を覗き込んだ。
講義がお互いに無い時間帯はよくこの木の下で一緒にいる。ここは学院の外壁近くの湖で、いつも人払いをさせているし、お前との逢瀬を誰にも邪魔なんてされてたまるか。
「またか…お前は何で他の男から魔力干渉されてくるんだよ」
何故か、彼女はよく周りから魔力干渉されやすい。魔力コントロールが下手くそなお前は可愛いと思うが、こういうところは気に入らない。
子供の頃から悪い夢にうなされて、何か悩んでいるようなのに何も話してくれないお前は本当に…。
「たすけ、て…キース」
ああ、でもこうして悪夢にうなされている時だけは素直に俺に助けを求めてくるお前は好ましいと思う。だから俺が、俺だけがお前を悪夢から救える男でありたい。
「誰にも渡さない」
俺はそう言いながらお前の前髪をかるくはらうと、微量に魔力を込めた指でおでこを弾く。
変な風に魔力干渉されたお前の魔力に、俺の魔力で干渉する。正常に戻すように、それでいて俺の魔力に染まるように、俺の女だと印をつける。
男が女に魔力でマーキングするのはこの国では愛情表現の1つだ。やり過ぎると束縛が酷いと嫌われる可能性もあるために、程々にしておかないといけないが。
「おい、いつまで寝てるんだ?」
どうやら起きたらしい。そんな不安そうな、泣きそうな顔で見上げてくるな。俺の中にある葛藤なんて、お前は知らないだろう?
くそっ…何で俺の首に手をやるんだ。だんだんとお前の顔が目の前に近づいてくる。
「お願い、おはようのキスをして」
「しかたないな」
俺の負けだ。だから、お前の気が済むまで抱き締めてキスをしてやる。