それぞれの分かれ道
スンちゃんと成っちゃん、いつもコンビで仲がいいけど、
実は、中身は違ってたんだ。
道が、幾つにも分かれていた。
成っちゃんとスンちゃんは、
『城山ハイキングコース』という立て看板に目を留めた。
「低い山じゃん、40分だってさ。行ってみようよ。ちょっとした、ハイキングコースだってよ」
スンちゃんは、ちょっと考古学ってゆうか、遺跡好きだった。名所旧跡なんでもゴザレだ。
「え~」
成っちゃんは、不服をもらした。
「何の変哲もない、こんな近所の小山をただ登って降りるだけで、何のメリットがあるの~?」
成っちゃんには、意義が見つからない。
少し、ポッチャリしている人間はそう思う。
「イヤならいいよ、一人で登ってくるからさ。すぐ戻るよ」
スタスタ歩いていく。
あっという間に距離が広がり見えなくなった。
「ふ~ん」
気乗りしないまま、成っちゃんも少しずつ進んだ。
意外と整備されている小径だった。
今は、緑の季節ではないが、家の裏山にこんなところがあるなら、毎日犬連れて散歩したいもんだ。
犬は大型だと引きずられるから、小型犬がチョコチョコあるくのがいいな~。
そんなことを考えながら登ると、もう息切れがして、すぐにへたりこんだ。
「行く必要ないや、ここで、待ってよ~」
しかし、後から来る筈のコウジや雪ネェ、ゴロスケの姿も声もしない。
道端の大きな石に腰をかけて一人でいると、突然、不安に襲われた。
「取り残されたらどうしよう」
携帯を取り出し、メールしようとした。
しかし、圏外。
アンテナが立たない。
「嘘~ぉ!」
成っちゃんは、もう仕方なしに歩き出した。
山の上に行けば、アンテナ立つかな?
スンちゃんの行方を追った。
「お~い」
成っちゃんが叫んだ。
スンちゃんは、とっとと歩き、山頂に着いた。
昔は、山城があったらしい。
しかし、みんなが思うお城の建物ではない。
それほど大きくはない、ちょっとした、神社ほどの大きさの広場だ。
地面にちょっとお堀お堀りの痕跡があり、合戦の時に、敵を出し抜く何らかの工作をしたのかしらん?
と楽し気に想像した。
山の頂上だからといっても、町を見下ろすことはできなかった。
木々が生い茂っているから。
それに、小さな朽ちた小屋があった。どうやら龍の爪神社だったみたいだ。
屋根が落ちている。
風が吹くが、それだけ。
ちょっとした平な場所を歩いて、そろそろ時間だろうな~と思い、帰ることにした。
陽はまだ、上にあった。
一方、コウジたちは民家の脇を反れて進んだ。
見過ごしそうな小さな山神社があり、廃れていた。
竹林一面、薄茶色に立ったまま枯れていた。
「何で、竹林だけ枯れてるんだ~?」
「百年に一回咲く、竹の花が咲いたのかも知れない」
と雪ネェ。
「ふ~ん」
「なんか~、遠くから見たら、自然がいっぱいでキレイなんだけど、よく見ると荒れてるよね~」
「荒れてるって? どうして?」
「ほら、あっちこっちから、やたら隙間なく竹が出てきてるでしょ? 間引きされてないよ」
「京都の嵯峨野の竹林なんか、風が通ってさわやかよ~」
「これじゃ、竹が東京の朝のラッシュアワー状態」
「これを、どうにかするには、どうすればいい?」
「竹炭を作れば!」
「ナイスアイディア!」
「じゃ、竹炭の作り方を調べて、炭にすればいいんだ~」
「そう、その炭は、土にかけるといい肥料になるし、厚くすると、雑草も生えない」
「で、炭焼き炉をどうするかね? 地元の人と…」
「じゃ、帰ってインターネットで調べようぜ~」
「そだね~」
そのまま、Uターンしてカー用品のショップに戻った。
カーナビもバックカメラも装備され、大下さんは、みんなを待っていた。
コウジ、雪ネェ、ゴロスケが帰ってきて、そのうちスンちゃんも帰ってきた。
「あれっ? 成っちゃんは?」
「あれ~? まだ、帰って来ないの?」
「おかしいな? 上まで来なかったのに。とっくに帰ってるとはずなのに~」
と、スンちゃん。
こんな、見知らぬ土地で、ペアで行動するべきなのに~。
趣味が違うとこういうことになるんだ。
成っちゃんの運動不足気味のあの体では、ちょっとした登り坂のハイキングコースはキツイのだった。
みんなが、スンちゃんの顔を横目で睨んだ。
案が浮かばない。
「そうだ、携帯・・・」
すぐ「圏外だ」とつぶやく。
「ああ、俺のも」
みんなの携帯は、どれも使えなかった。
「あの山の影になって…」
そこで、店の電話を借りた。
それでも、成っちゃんの携帯には繋がらなかった。
「通じないや。電波の届かない所にいます、かよ~」
「待つしかないのか~」
店は閉まり、そこの駐車場にキャンピングカーごと待機した。
ついに、交番に行ってみることにした。
「ナビ買って、利用の第一号が交番かよ~、役に立つな~。コレ」
大下さんは、陽気だ。
「本当~」
恨めしい顔をした。
交番はあったが、駐車場は軽自動車一台分しかなかった。
後ろの車は連なってるし、青信号だから進まなければならない。
結局、この地域一帯に聞こえるような
『行方不明者の捜索の放送』を、役所側が、朝一にしてくれることになった。
「今は、それに託すしかないか・・・」
夜は、うんと地味にラーメン食べて、近くの銭湯に行った。そして寝た。
「ねぇ、100%源泉かけ流しだってさ」
「ふ~ん」
色々あって、疲れていたみんなは、二度目の温泉にはあまり興味を示さなかった。
「やっぱり、老後はここに住みたいな」
ゴロスボソリボソリとつぶやいた。
その頃、成っちゃんは、アンテナが立つ位置をさがして、携帯の画面を見ながら歩いた。
だからって、どの道を選んだか?
なんて気にもかけないでいて、いい訳がない。
それに、たとえ山のてっぺんでアンテナがついたとしても、ふもとのアンテナの立たないみんなの所では、電話はつながるハズもなかったのだが。
頂上は、まだ遠いし、なだらかな下り道を行ったり、急な坂を登ったり。
「本当にこの道でいいのか不安だ~っ!」
と言っても、誰も返事しない。
歩いても、歩いても、スンちゃんには会えなかった。
汗びっしょりになって、疲れたので座り込んだ。
陽が落ちるとあっという間に暗くなって来るし、お腹も減ってきた。
降りるしかないか…。
「スンちゃんなんで、降りてこないんだろう?」
うんと心細い。
まさか、とっくの昔に降りてるなんて夢にも思わない。
宵闇がせまるが、電灯なんてありはしない。
携帯のライトを頼りに、目を皿のようにして地面を見つめ山道を下った。
しかし、これも節約した方がいいような気がしてきて、止めた。
別れ道があった。
平らな道と急な坂道。
「あれっ、どっちだったかな~」
その時、成っちゃんは、不思議なものを見た。
東京で別れた春ちゃんの姿。
こっちと指をさした。
「そっちでいいのか~、あんがと~」
まるっきり分からないまま。
とにかく、曖昧な記憶を辿り、平地に着いた。
着いた所は、山の反対側なのか?
まるっきり様子が違っていた。
トボトボと歩き続けると、滝のように水の流れる音がした。
広場がありその片隅に、手作りの屋根付き、壁なし応接間のような、場所があった。
その脇に、本物の小屋、鍵があったが、かけてない。
「とにかく、寒~い!」
歯がガチガチ鳴った。
肩を抱えるように入り込んだ。
「泥棒と言われようが、何だっていいよ~、後で謝まろ~。命が大事じゃ!」
ドアを閉めると、風が吹きつけない分、寒さがやわらいだ。
小屋の明かりのスイッチを探って、電気をつけた。
他に暖をとるものは、何かないか?
探して見つかったのは…、どうやらここは鳥小屋で、鳥の卵を温めるための木の箱に固定された、白熱電球があった。
それを手にかざした。
「少し、暖ったかいぞ~」
それを抱え込んで、一晩過ごした。
小屋の電気は、怪しまれるといけないので、消した。
そして、朝がきた。
一人寝のモーニングコールは、鳥小屋の持ち主に迎えられた。
ここで孔雀を飼っていて、中で飛べるかなり大きな空間の網で囲った鳥小屋。
その卵も手作りの機械で、温めたりしていたのだ。
しかも、畑もやっている。
「ど~うりで、昨日、灯りが点いてるから 変だと思ったんだよ。でも気味が悪いから近づけなかった~」
小柄な人の良さそうな、おじさんだった。
「今朝の地区の放送の、年の頃30だろ、ちょっと太めと、黒のダウンジャケットと、毛糸の帽子だろ、服装でドンピシャだもんな~、『成っちゃん』だろ?おめぇ」
「ハ???」
見知らぬ町で見知らぬ人々が、何で、自分の名前を知っているのか?
とても不審に思って聞いてみたら、大下さんらの出した『捜索願い』
の放送を聞いていて分かったのだそうだ。
鳥小屋の奥さんが、炊きたてごはんで握った、おにぎりと紙コップに、温ったか~い味噌汁を入れて、差し入れをくれた。
「うわっ、ありがてぇ~」
思わずパクついた。
昨日の昼から何も食べていない。
♪ピン ポン パン ポ~ン
「こちらは・・・広報・・・」
「ほらほら、始まった」
「昨日、地区で・・・、行方の分からなかった…」
しばし沈黙「『成っちゃン』は…、無事…、保護されました・・・。
ご協力ありがとうございました。
以上・・・放送を・・・終わります。
ピン ポン パン ポ~ン♪」
「あれって、僕のこと?」
「そうだよ~アハハハ!」
なんで、言葉と言葉の間を、あんなに空けてしゃべるのかと思ったら、
山で、こだまするからなのだそうだ。
「時々、痴呆症のお年寄りとかが、帰って来ないと家族から捜索願いが出る」
「大てい、見つかるけどな~、この前は、海岸に打ち上げられたっけな~」
「・・・」
「おおいっ!今のは、冗談だからな~、観光客を脅かすなよ!」
「ハッハハハ」
キャンピングカーで、お迎えが来た。
見知らぬ土地でも、『ナビ』で迷わずに着いた。
本当に賢いナビで助かる。
「お~い、生きてたか!」
大下さんは、ハナっから心配した風ではなかった。
大の男が、これきしで死ぬ訳が無いと思っていたらしい。
「成っちゃん、よかった。よかった」
月並みな言葉しか出ない、コウジ。
「みんな、心配してたんだよ~、とにかく別行動してごめん」
と、スンちゃん。
「でも、ちゃんと生き延びる手段、見つけるんだから~、偉い!」
絶賛する雪ネェ。
「サバイバルゲーム、意外と強いんだぁ~。見直したぜ!」
お調子もんのゴロスケ。
「いや~」
成っちゃんは、いきなり主役に祭り上げられて、照れている。
「しかし、すぐ分かって良かったな~」
と、鳥小屋のおじさん。
「うん!」
全員が、地域の皆さんに心から謝った。
鳥小屋の夫婦と近所の4・5人。
ここには、民家がないが、夕べ、たまたま軽トラで通りかかったのだそうだ。
「とにかく、不法侵入で訴えられたらどうするんだ? そんなことのないように、心象を良くせねばならん!」
大下さんは、これからそんな話もしなくてはならないなと思っていたのだ。
まさかの事件の方が先に起きてしまった。
「お礼に、というか、お詫びにと言ったら、何でしょうが~、近くにあった枯れた竹林の竹を伐採して、竹炭でも作るのを手伝いましようか?」
雪ネェが、澄んだ声でいった。
付近の住人も顔を見合わせた。
他人の土地ながら気にはなっていた。
しかし、ここから遠いし、労力が大変だということで、手を出せずに居たんだそうだ。
「じゃあ、頼んます~」
「これ、インターネットで調べたの! 竹炭を作る焼却炉の作り方!」
コウジがプリントアウトの束を差し出した。
しかも、カラー写真つきの丁寧な解説付きのサイトのだ。
住民たちは、覗き込んで、興味深々といったところだ。
「森のキャラバン号、やっと初仕事が廻ってきたぞ!」
みんなの顔が輝き、うんと張り切った。
窮鼠ねこを噛む。
あっ少し違った。
なんくるないさ~。
この言葉は、あの事件以来成っちゃんの座右の銘となった。
めでたしめでたし~♪