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森のキャラバン  作者: 森のキャラバン
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人並に骨休め

餅つきのギャラを貰って、たまには温泉でも行くかということになって。

バンザ~イ

送迎のおじさんの、運転するワゴン車に、みんなが乗り込むと、

また大下さんが、何気に言った。

「いいか? ちゃんと、安全ベルトするんだぞ」

大下さんは、どっちかって言うと、大雑把で、前の席だけシートベルトすりゃ~いい、って人なのに~。

ここって、交通規則に厳しい土地なのかな? なんてコウジは考えた。


ブルルルル


にわかにエンジンがかかると、ゆるやかに発進した。

大通りから、急に、車が通るのにあり得ないスレスレの細い路地へ入った。

また、もっと細い道へと、たまに曲がりながら、しかも急な坂道を平気で転がして行く。

家の軒をかすめるように、ちょっとあり得ないスピードを出して。

 まるで、ジェットコースターのようだ。

僕らはビビッた。

にわかに、座席のヘリをギュっと掴んだ。


「ひぇ~~~」


スピードを出したまま、宿のご主人は、慣れたであろう道をテクニックで走る。江ノ電の軒をかすめるのに似ている。

新年早々、汗が出て、スリリングな気分を味わった。

車は、キィ~ッと一軒の古そうな旅館の前で、停まった。

みんなの頭が同時に前に、つんのめり、また戻った。


「はい、お疲れ様でした。着きましたよ」


「あり得ないよ。だって、車の幅より、道路が狭いじゃん!」

ゴロスケが、堪らずに叫んだ。


そんな車があればいいな。ぶつかるから車が車体の幅をすぼめてか。


「物理的にそれはない」

スンちゃんは、落ち着いていた。


和風と洋風のミックス、大正ロマンの館へようこそ。

雪ネェが、玄関の設えを見上げた。


「どっかで、見たような気がするんだけどな~」

「前世でか?」

大下さんが、この頃平気でこういうことを言うようになった。

「まさか!」

昔、信じていた輪廻転生は、もうないらしい。


「お客さ~ん♪」

ご主人の声が、弾んでいる。


玄関にずらっと並んだ、六人に、フロントの女性が言った。

「こちらの宿帳に、お名前を書いて頂きましたら、お部屋にご案内致します。

お荷物をお持ちします」

しかし、全員背中にリュックを背負っているし、手荷物はない。


「大丈夫です。手ブラだし~」


「お部屋は、三階になります。お夕食は、二階の宴会場、松の間にて、六時半からになります」


キーを受け取ったところで、次のお客さんが入って来た。


「いらっしゃいませ~」

一人で、大変だな~。


僕たちは、とっとと靴を脱いで、揃えて、その部屋に向かった。

雪ネェは、別の階になった。


木造の高層の建物の真ん中が階段だ。


「天井が高いなぁ。千と千尋のまさしく、ゆや?って感じ」

コウジが感想を述べた。


「だからか~、どっかで見た気がしたのは。あれって、設定が、神さまが、お風呂に入りに来るところなのよ~」

台湾の屋台風でもあり、京都風でもあり、朱塗りの太鼓橋もあったっけ?


リックを下ろして、大下さんが、タオルを出しお風呂へ向かった。

コウジ、スンちゃんも続いた。

雪ネェもきっと、そうだろう。


成っちゃんが、押入れの戸を開けたり、障子の窓を開けたり、テレビの下の戸棚を開けたり、エモン掛けを動かしたりして遊んでいた。

「俺、ちゃんとした、旅館に泊まるの初めて~」

「俺も~っ!」

顔を見合わせ、笑いだした。


「失礼します~」

「はい?」

スス~ッと襖の戸が開いて、さっきのフロントの女性が入って来た。


「何か用なのかなぁ~?」

二人とも怪訝な顔をした。思い当たることがない。

「いかがですか? お部屋は」

「うん、古いね~」

「…」


ゴロスケを成っちゃんが、ひじでつついた。

「お茶をお入れします」

「はい。どうも~」

お茶を、ゆ~っくり二人分入れて、しばらく何かを待ってから、帰って行った。


「?」

「何だろうね~。意外とここ親切だね~」


テレビをつけ、備え付けのお菓子を食べ、お茶を飲んで、寛いだ。

そして、大下さんが、帰って来た。

お茶を飲んでいるのを見て、何かを察して言った。

「お前たち、チップ渡したか?」

「へ? 何それ!」

「お世話になりますって、心であげるんだよ。ちゃんとした、ところでは…」


「え~っ!知らなかった~っ」

「い、いくらあげるんですか?」

成っちゃンが、うろたえた。

「まあ、二千円か~、千円か~、ポチ袋、なければティッシュで包むんだ」


「え~っ、そんなにぃ~!」

餅つきで、一日働いて、六人で、あれぐらい。お茶を入れてくれたからって、一瞬でそんなに持っていかれるのか~っ。2分で千円か? ネットカフェの一日分に近い。

僕たちより稼ぎがいいじゃん。

ちょっと、切ないものがある。向こうの人も切ないだろうけど、あちらは、何組も受け持つじゃん。


「まあ、食事の時でも、いいんだけどな~、ほんの気持ちだよ」

「ふ~ん。初めて知った~っ」

二人で、ハモる。

さすが、大下さんと二人は思った。


食事の時間になって、時間通りに、松の間に行き、お膳の前に座った。

一人一人に四角い、台座のついたお盆のようなものに、前菜、お刺身に天ぷら、煮物とご馳走が並んでいた。

器は古そうで、お膳の前の僕たちは、お雛様のようだった。

固形燃料にチャッカマンで火を点けて、土鍋が煮える。牛肉のしゃぶしゃぶか?

大下さんが、代表でチップを用意しようとした。

しかし・・・。


「しまった、万札と小銭しかない!悪いけど、これで、勘弁してくれ~」

百円玉を、高く積み上げていた。斜めにピサの斜塔のようだ。


「あ、ありがとうございます~」

明るく弾けそうな、若い仲居さんだった。

それによって態度がコロッと変わることを少し期待はしていたが、それほどでもなかった。

ここの娘さんらしい。あまり気にしない性格のようだ。


雪ネェが、天井を見て、唸った。


「何か、この建物、大正ロマンですね。懐かしいです」

「あっ、ここ、千と千尋の神隠しみたいでしょ!」

陽気に笑った。


「そう! 湯婆~ばが出てきそう~な~」


雪ネェも、笑った。

そう言われて見れば、ふと物陰に居そうだった。


「あっ、出た!」

ゴロスケが見た人、それは、隣の宴会場に来た、家族連れの老婦人だった。


アハハハ


七人で、陽気に笑った。


二日程、滞在することにして。

ぞろぞろと夜の温泉街を繰り出した。


最近の宿泊施設では、お土産コーナーを館内に設け、お客さんは、浴衣姿で外をそぞろ歩かなくなった。

すると、周りの商店にお金が落ちない。ここはちゃんと外を歩いて、楽しめるようになっている。

昭和初期頃の懐かしい雰囲気の店をくぐると射的があった。コルクの鉄砲を詰めて、コウジが狙った。


パン


乾いた音がして、何かが落ちた。

受け取ると、それは、シャボン玉液とストローのセットだった。

「へ~、初めてやって、初めて当った~」

「よし、コウジに続け~っ!」

他の人は、みんな欲を出して外れた。


温泉は、鉄の赤錆色の湯の花がこびりつき、古い浴場だった。宿は、大勢で賑わっているのに、他のお客さんと一緒にならなかった。

「いいなぁ~。貸切りだ~極楽、極楽。ここで、瞑想をやったら、どうなるんだろう?」

「止めとけよ」

案の定、湯当りしていた。

「一応、毎日温泉に入っているから、ならないはずなんだけどな~」

「だからと言って。欲かくのも~いかがなものかと…」

成っちゃんとコウジもいいコンビだ。


窓を開けて、ストローを付けて、夜の町に、シャボン玉を飛ばした。

子ども心になれた。

コウジの子どもの頃は、子ども心を、自分から排除した。

今は、時たま子どもで居られることが、許される。

一時してから、成っちゃんが言った。


「寒いよ、閉めてよ」

「うん、ごめん」

シャボン玉は、すぐ消えるものだ。


伊香保温泉での、意外な展開、夢のような日々。

夢なら、どうか覚めないで欲しい~。

朝になった。ちゃんとした和室の家のちゃんとした布団で目覚めると、旅に出たくなくなる。


しかし、予算も限られているということで、和定食を食べて、朝風呂に入って「千と千尋の和風旅館を去ることになった。

「家が恋しい~」

居場所があったわけでもなかったけど、みんなそんな気持ちだった。

「お世話になりました~」

旅館の入り口まで、お見送りに来てくれた。

「ありがとうございました~」

丸顔の笑顔で手を振ってくれた。

キュー、バタン

車のドアが締められて、また登りのジェットコースターになった。けれども二回目は、それほど怖くなかった。

不思議だ。


昼は、近くの榛名山へ行って、名物のうどんをすすった。ものすごく腰が強い。今まで食べた中で一番だった。あとは、竹下夢二の記念館を足早に見た。


正月そうそう、真面目な討論会をテレビでやっていた。

司会は、NHKのアナウンサーで、コメンテーターは、きれいに二手に分けられていた。

Tさんが、「改革がうまくいかなかったのは、改革半ばで、途切れたからだ」と主張していた。

その向かいにKさんが、Tさんを睨むような目つきで、「ブッシュの批判とK泉構造改革は完全に失敗」と告げていた。

その斜向かい、Tさんの横で、Oさんが、アメリカ追従こそが日本の使命のように弁じ、そのまた真向かいのYさんとSさんは、本来あるべきジャーナリズムを、国民のための本来あるべき政治の姿を、勇気を持って述べていた。

少なくてもこの中の三人は、知識人の顔をして、国民を変な方向に先導するハメルーンの笛吹きのように、感じた。

「でも、評論家の意見を鵜呑みにするんじゃなくってさ、自分で考えないとね~」

コウジは思いなおして、言い方を変えた。

「いや、自分で考えてみてどの人が近いかで判断しないとね~」

僕らのようにテレビがなかったり、ネットのYouTubeや、新刊本で真実に触れえたから世の中高年の人々は、新聞やテレビを鵜呑みにして、さも自分の意見のように世の中を評論しているようにしか見えなかった。だいたいパネリストなんか、要らないと思っていた。僕らにもちゃんとした意見や、考え方があった。


「さて、帰るぞ」

大下さんの一声で、心のシャボン玉が、はじけた。

道中ゆっくり帰ることにして、また道の駅で一泊した。


もはや、立ち寄り湯は、あちこちにでき、道の駅のトイレは、ありがたいことに、便座が温かかったりする。しかし、残念ながら極寒の中、せっかくの便座のフタが上がっている。

「エコだよ、エコ!」

ゴロスケがフタを閉めて回った。


山の中で、テレビは入らず、大下さんは、ラジオをつけた。


ラジオから、歌手のアグネスチャンのトークが聞こえてきた。

大変頭のいい女性で、日本ユニセフ協会大使で、多方面に渡り活躍している。

彼女が、人生の転機を語っていた。

それまでの彼女は、暗くて、自分のことを幸福ではないと思っていたらしい。

中学の頃、身体の不自由な人や、貧しい人たちのところへ、ボランティアをしに行ったそうだ。 

そうしたら、自分の環境への不満が吹っ飛んで、自分はなんて恵まれているんだろうって、感謝さえできるようになった。

それに他人のためにできることをしていると、幸福を感じた。

明るくなって歌を歌うようになって、日本に来られた。

ご主人と出会って、お子さんもできて、ユニセフの仕事もさせて貰えた。

とても幸せだと。

日本に来れたことは、とっても幸運だったと。


アグネスは、日本で行われているご神業のことは、知らないだろうけど、日本語を覚え、日本語を話し、日本人の特別な何か、使命を感じ取っているのだと思う。

日本人以上に…。

自分たちも、何かを為さなければと焦った。


「僕らも、最低を知ってから、普通を知ると、ありがたみが分かるからいいんだよな~」

「まあ、そうかもね」


帰る途中、遠くから見えるノロシのように、きのこ雲のような煙が上がっていた。


「あれ、何だろう?」

「火事だな、もう鎮火している」

救急車も消防車のサイレンもなく、静かだった。

しかし、プラスチックの焼けた匂いは、漂っていた。


年末年始は、空気が乾燥して、一家が死んでしまうような火事が多い気がする。

今までの人生で得た持ち物を全部燃やして、去って行くのだ。

生きている時の、自分はどうであったか?

正しく生きていたか? それとも…?


悲惨なニュースは、遠いパレスチナのガザ地区から、届く。

もう、イスラエルの悪行は、世界中が注目をしている。

「900人も一般人が死んでいるのに、一般市民は攻撃に賛成だなんて~」

「どうかしてるよ」

スンちゃんが、怒った。

「オバマになっても、アフガニスタンに軍部を置く」

「そのアメリカを支持する日本は、間接的にパレスチナ人を苦しめることになるのかな?」

成っちゃんが心配する。


「うん、どんなに和平交渉しようとも、本当かなと思っちゃう。彼らの力をいい方に使えば、立派な社会になるのにねぇ~」

「もう争いはできないよ。世界中が知っているから」

成っちゃんが、断言して言った。


「もともとハマスは、イスラエルが支援した勢力だよね」

「え~、そうなんだ~」


「カリスマ性のあるアラファトさんに対抗する勢力を作りたかったみたいだ。アラファトさんは、死んじゃったし~」

あとになって知ることになるが、各国から支援されたお金を難民に配らずに、独り占めにしていたらしい。一人に権力が集まるとろくなことがない。


「おまけに、イランは核兵器を持っておらず、IAEAに加盟して査察も受けているのに…」

「IAEAって…、1957年に発足した原子力の平和利用を促進する国際機関だって」

スンちゃんが、ネットで調べた。

「…あのさっ、善良な一般市民も、可哀想だよ~、なっ!」

フォローしたのは、以外にもゴロスケだった。

コウジは思った。

ゴロスケも人間が成長したな~。

何とか、喰い止めたい人もいる筈だ。

戦争は終わらない、武器商人の漁夫の利に為に一般人が流した血や涙をなんとも思わない奴らがいる、でも、どうすればいいんだろう~?


「日本人の遺伝子は違うんだって。ヤップ遺伝子。争いを好まない遺伝子」

雪ネェが言った。

「だから、欧米人や、中国人らの争う気持ちが理解できない…」

世界の人たちは、この世を変えることができるのは日本人だと思っているって。


「最後の一厘でぐれんぞ」

スンちゃんが言った。

「ひつくの神さんの『日月神示』で言っている」


「何それ?」

「最後の一厘が何かは、わからない、けどさ。これからまだまだ暗い世の中になるんだって。みんなが絶望の底になった時、発動されるという日本の予言書のようなものさ…」

みんながスンちゃんの顔を見た。

大分、車の運転も慣れてきてカッコよくなったし。


世間さまは、このような贅沢をしていたんですね?

とっても嬉しいです。

人生の前半で苦労したせいか、世間並なことがとっても

幸せで~す。

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