表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森のキャラバン  作者: 森のキャラバン
51/53

草津よいと~こ一度は~おいで♪

超有名な草津温泉、

まさかちょっと前まで、こんなレジャーが楽しめる日が来るなんて思いもしなかった。

人生で最大のリッチな気分♪かな~。

「あん?」

大下さんが、封筒の中身を開けて、しばし沈黙…。


「きっと、交通費くらいの金額なのよ」

とは、雪ネェがコウジにささやいた言葉だった。


「みんな、お礼も貰ったし、年末年始に、どっか行きたいところあるか?」

大下さんが、気を取り直して言った。


「草津!」

「そうだな、♪草津よいとこ~、一度はお出でって言っているしな~」

ゴロスケがはしゃいでいる。


「みんなも、草津でいいか?」

大下さんが見渡し、全員異議なしということで、決定した。


雪道が心配なので、スタットレスタイヤに、履き替えた。タイヤももう古くなったので、引き取ってもらった。

凍った道路は危ないからだ。


電話で問い合わせると、今どき、チェーンを巻いている車は見当たらないとのことだった。


雪ネェは、朝一番にご飯をいっぱい炊いて、お握りを作った。


「いつか、何かの役に立つから、見ときなさいよ~」

一列に並ばせた。


「次は、やれってか」

「やらせて貰えるなら、やるよ!」

「まずいだろうけど…」


「梅干を何個か裂いて、お握りの中に入る大きさにして置く、水を入れたボールを用意して、小皿に天然塩を少々入れて、平たい大皿も並べとく。同じ大きさのお握りにするために、しゃもじでご飯茶碗にご飯をついで、濡らした手に塩を擦り込み、ご飯を載せる。上側の手の甲で山を作り、下の手の平を平にして、三角形を作る。辺を何回か、転がして、形を整え、大皿に置く」

雪ネェの手の動きは、早くて見る見るうちに三角お握りが、並んでいった。


「熱いまま、包むと食中毒の恐れがあるから、冷ましてから、アルミホイルに包む方がいいの。海苔も、もうちょっと後で巻いて包む…」


雪ネェの手作りのお新香も、タッパーに入れた。


「このお新香も実は、簡単に作れるの。白菜を口に入る大きさに切って、ニンジン、唐辛子、刻み昆布、柚子の皮、それに適当に天然塩を振って置く。重しを載せて、冬場は、三日くらいで水が出てくるから、もう自然に醗酵して食べられるの。リンゴの芯とか入れると、それも醗酵して美味しくなるわ。室温だと醗酵し過ぎるから、タッパーで冷蔵庫に入れとくの。この作り方を知っていたら、かなり家計が節約できると思うよ。もちろんヌカ漬けが栄養があるけど、毎日中をかき混ぜないといけないから、大変なのよね~。これなら、手間要らず」


「本当に、塩だけで醗酵するの?」


「うん。生野菜に酵母菌がついているんだって」

用意したビニール袋に次々と入れていく。第一、キャンピングカーには、塩、コショウ、ソース、マヨネーズなんでもござれだ。水もタンクにたっぷり入れた。

「リンゴは塩水に入れると、変色しにくい。ゆで卵は、お手軽な蛋白源になる」

それぞれリックにタオルとか、入ったか確認した。


「イザ!出発~!」


だいたいスキー場とか、観光地の道路は、整備されている。

除雪車が雪をどかし、融雪道路といって道路からは、小さな噴水が出て雪は、溶けている。

雪の多いところでは、チェーンを巻いた車など、一台もなく、みんなスタットレスタイヤで、すいすい走っていた。


ラジオの放送で、派遣社員のその後が聞こえて来た。


東京都が、体育館を期間限定で開放したり、生活保護を申請できるように、弁護士が動いたり、その集団は、派遣村と呼ばれた。

一家の大黒柱が、実は大変なのだ。

収入がないということで、家庭や、進学も難しくなる。

「そんな仕事にあぶれた人たちの受け入れ先は、やっぱり、自給率を上げるための農業だよね」

「輸入している中国だって、そのうち作物が作れなくなって、食えなくなる…」

「う~ん」

混乱もなく、果たしてソフトランディングするだろうか?

そんな心配もあるけど、僕たちも、草津温泉にもぜひ、行きたかった。


草津は標高が高くて、長いくねくね道を走る。大きな駐車場にキャンピングカーを留めて、テクテク雪道を下ったその先には、湯気の上がった有名な湯畑が、あった。


「わぉ~」

歓声が上がった。


「硫黄の匂いが異様だ~」

「そう、言おうと思っていたのね~」


「卵が腐ったような匂いって言うけど、あんまり腐った匂いって嗅いだことないのよね。マッチを擦ったような匂いだ」


まあ~、どちだっていい。土産物屋には、目もくれず、草津温泉に浸かりたかった。


大下さんが、真っ先に向かったのは、そこら辺にある、共同浴場。

無料だ。


簡単な小屋のような前に、多少の行列があり、木戸を開けるともう、脱衣室があった。

カゴにそそくさと抜いた服を投げ入れ、タオル一つ持って、次の風呂場に踊り込む。桶で、お湯を汲み、凍えた身体にかける。

「あちっ、あちっ!」


お湯は、やや黄色がかったにごり湯で、とてもじゃないが、入れないほど熱い。

何度かお湯をかけて、意を決して入った。

豊富な湯量!自然湧出量・日本一! 毎分三万二千リットル。温泉を水で薄めずに温度を下げる方法として、水のパイプをくっつけて冷やす。

その代わり、温まった水は各家庭に配られる。頭いい~っ。

「ふ~っ」

「熱くて、長く入られない~」


「せっかく、来たんだからなぁ~、皮膚に滲み込ませないと~」

貧乏性な僕たちは、また浸かった。


「シャワーでお湯の成分を落とすなよ!」

これは、大下さんの、命令だ。

「はい!」

年越しそばを食べた後に、身体も冷えて来たところで、一言。


「もう一軒ドイツ式の風呂があるぞ!行ってみるか?」

大下さんは、超温泉好きで、以前来たことがあるらしい。

「せっかくだから~行きた~い!」

みんなのハモリ。

このメンバーの中にもちろん、好奇心のないヤツはいない。


『湯モミ』って温度を下げるために、長い板を差して混ぜるらしい

よ」

そぞろ歩きながら、スンちゃんが言う。


広い施設は、いくつもの温泉のタイプがあり、テーマパークのようだ。

頭だけ出して、我慢してお湯に浸かる。

しかし、湯モミされると、よけいに熱い。耐えられなくなって、すぐに脱落して行く。

首から下は、ツートンカラーで、真っ赤だ。


大下さんは、意地になって頭だけ出して浸かっている。

「すげぇ~」

僕たちは、もう着替えることにした。


「思う存分、浸りましたよ!」

浸かり過ぎて、気分がよくないほどだ。

この寒い外気が、心地いい。


「ほら、湯の花!」


雪ネェはとっくに上がって、いつの間にか、商店で湯の花を買っていた。


「これで、またお湯に浸って、今日のことを思い出せるよ!」

「この硫黄の匂い、癖になりそうだもん」


「日本と言う国は、寒いところには温泉が湧くようにできている。本当~に恵まれていると思うよ」

コウジが言った。


「本当だ、神様からのプレゼントだね」

成っちゃんが、賛同した。


キャンピングカーに戻って来て、道の駅に向けて出発した。程なく今年が終わる。


久し振りに、車の中で寝た。布団に慣れたので、堅く感じる。カーテンを閉め、まだ寒いので、断熱シートを買って置いたのを、窓の内側をグルリと覆って、吸盤で留めた。


それぞれの胸の中に、同じ思いが去来していた。

「今年は、不思議な縁で、色んなことが起った…。派遣切りの人たちのことを思うと、僕たちはラッキー過ぎる」


「失業者8万5000人に拡大か…」


それを、僕たちがどうこうして、助けられる訳でもないけど、大変気になってた。

国が定額給付金のことで、話が決まらないうちに、地方自治体は動いて、救済の手が差し伸べられたところもあった。

そんなニュースを聞いてホッとするが、助かったのは、ほんの一握りだと思う。

そうして問題なのを忘れてしまう。


「新年明けましておめでとう」の挨拶もそこそこに、神社にお参りをする訳でもなく、いい年をして、お年玉を貰う訳でもなく、大下さんが、今年の最初に言ったセリフは、忘れない。

「うどんでも、食うか?」

「・・・」

「あ、はい」

大下さんが、説明するには、昔、日本にも、土地が痩せてて、お米が獲れなかった地方もあったのだそうだ。

小麦の産地は、だいたい水が少ないからだ。その土地のお婆さんが子どもの頃は、毎日うどんを食べたそうだ。


「毎日うどん?」

「毎日、お米を食べられるって言うのは、大変ありがたいこと?」だったのだ~。


それを、「私は、パン党だ」なんて、お米を食べないのは、罰当たりな気がした。家畜の餌用の米とかの時代になってる。


「そっか~っ!」

雪ネェが、突然叫んだ。


「私は、今まで、植物は、その土地の成分を吸い上げて、植物繊維に溜め込むものだと思っていたけど、考え違いだわ。

痩せた土地でも、そばは育つ。

しかも、そばは、ミネラルがバランスよく含まれていて、消化もいいのよ。

痩せた土地で、あんな細い体で、ミネラルを製造していたのだわ。

凄すぎる! 凄い!」

ちょっとした興奮状態だ。


「地産地消って、その土地でとれた人間(??)の体にあったモノを、作り出しているんだよね~。・・・グローバル経済なんて、意味ないじゃん!」

「雪ネェは、急に飛ぶんだ~」

スンちゃんが、そのジャンプ度に感心している。


「北海道のジャガイモを、運ぶのに、運搬の消費カロリーが、ジャガイモのカロリーよりも高かった。なんて笑えないジョークがあるけどね」


雪ネェと、スンちゃんの、小気味いい言葉のピンポンが続く。


「広島の原爆の跡地に、一番最初に生えて来たのが、土筆。つまりスギナなんだけど、栄養あるのよ。その土地に必要な成分を作るために地面から、生まれて来たのよ。春の七草なんてみんな、都会人から見ると、雑草にしか見えないものが、滋養もあり、天からの恵みなんだけど、情報を検索すれば、それが大事に思う人間が、増えつつある。それをちゃんと伝えて、次の世代にちゃんと伝言して行くことこそが、正し~い人間の生きる道~なのよ!」

新年早々、雪ネェはいいことを言ってのけた。


「うめ~っ!」

つるつるシコシコの水沢うどんは、絶品だった。

このコシを出すために、体重をかけて、踏んで、一晩置くらしい。


「伊香保でも行くか?」

「本当に?嘘~っ!」

ゴロスケと成っちゃんが、騒いだ。


こちらも、大下さんが知っている所らしくて、携帯で連絡してキャンセル待ちに予約を入れた。


立ち寄り湯ではくて、ちゃんとした和風旅館に、今晩は、特別に、泊まれるらしいのだ。


「別に、道の駅でもいいんだけどな…」


大下さんが、そう言うのは、きっと(ぜひ、あそこに泊まらせたいという)考えがあってのことだろう。


こっちは、茶色の温泉らしい。車で駐車場まで行くと、大下さんがまた、携帯で電話していた。

しばらくするとお迎えの、ワゴン車がやって来た。それぞれ、手荷物を持つと、森のキャラバン号の車のキーをロックした。


草津に眼医者はない。らしい。

なんでも湯の成分が空気中に漂っていて

それが目効くんだってさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ