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森のキャラバン  作者: 森のキャラバン
49/53

やっかいそうな古民家

クリスマスの気分を味わい尽くすつもりでいたが、

お客さんが現れた。

そして、物語はつづくのだ。



グループホームに良さそうな、古い民家が見つかったというのだ。

しかも、国道沿いに・・・。

森のキャラバン号に乗って、みんなで見に行くことにした。

店は、爺さん婆さんにお任せした。

何せ、店主が浮き足立っているし~。

車にして、一時間半。

ところどころ町を観察したが、店は見当たらない。

日陰の杉山がポツンポツンと見えた。

山の上の方まで、段々畑があり、村人が細々と農業をしているのだろう。

寒いけど、雪は降らない地区のようだ。


それは茅葺の屋根の大きな家で、北側は、すっかり苔むしていた。

「もしかして、屋根も…? 」

そこまで、自分たちがやるのかな? 冗談でしょ。

コウジはそれを、考えないことにした。

柱は、おおむね真っ直ぐ立っていたが、戸の建て付けが悪い。

下の方に三角に隙間ができていた。


「よく、建っていたなぁ~」

大下さんが、感心していた。

雨戸が全部閉まっており、小さな南京錠を開けると、畳みは腐ってへこんでいて、土ボコリが二~三センチの厚さで覆っていた。


「こりゃ~、土足だな~」       

上がりかまちが腰掛の高さで、大きな四角い石を敷いてある。

普通はここで靴を脱ぐ。

「靴下が、汚れそうなホコリだ~」

「お前の靴も、ボロいけどな~」

ゴロスケが軽く言った。


「そろそろ買い換える時期かも知れないなぁ~」

コウジが履き込んだ靴の裏を見ながら、つぶやく。


役場の人が、次々とガタピシッ雨戸を開けていった。

家の中に光が入って、ホコリが舞った。

畳を土足で上がるのは、日本人として気が引けた。

障子は、猫を飼っていたらしい爪あとで紙が破れかぶれ。

障子も張らなきゃいけない。

障子のサンは無事だ。

ここに入居できるようになるのは、そうとう後になりそうだ。


頭の高さにあった、白い電気の傘がコウジの頭に当って、白熱電球がそのまま残っていた。

「電気は止められているよ」

電気が通ったら、掃除機をかけたい。


裏が林の一軒家で、田んぼの形のままススキの荒地が広がっている。

「あれも、この家の田んぼです。これも使っていいそうです。何でこんなに時間が掛かったかと言う~と~、ここの持ち主が誰なのかを、知って入る住人もいなくて、そう言えば亡きばあさんの同級生が老人ホームに住んでいて。あの~、そのちょっとボケてて、話しを聞きだすのに手間取って、やっとここのお孫さんが今、千葉県の方に住んでいるらしくて、手紙を出して、使用してもいいって、了解をいただいた~」

説明が、長すぎて誰も聞いていない。


「家賃は、いいそうですよ」

「そりゃ~そうだろ~」…ボロいもの。

みんながハモッた。


薄茶色の壁も落ちている、蔵もあるけど壁が剥がれている。

修理をするのが、大変そうだ。

「まず、柱をまっすぐにしないとね~」

雪ネェが、まず気になる全体的に、やや左に傾いている柱を指摘した。


「そうだな~、軽トラで引っ張るか?」

僕たちは、にわかに動揺した。

「冗談だよ」


でも、どうするんだ?

「いや、ダメだな。木槌で叩くか」

そんなので、柱を直せるのか? 打つ振動で家の壁が崩れそうだ。

コウジの頭に、大勢がやって来て、柱の上の方を押す様子が浮かんで来た。

前で、大下さんが、「こっちにもうちょっと」とか、監督している。

すると、大勢の女性たちが、やって来てその隙間に車止めのような三角形の板を

「せ~の~」で、同時に差し込む。

「まさかね」つぶやいた。


雪ネェは雪ネェで、芸術家の血が騒ぐらしくて、あっちこっちの壁や、柱を腕ぐみをしながら、「ふぅ~ん」と見つめ、考え込んでいた。

何かやらかしそうだ。

「壁の落ちた後に、竹で編んだザルのようなのが見えるけど、これも直すの?」

ゴロスケが、面倒臭そうに聞いた。

「これが、てんてこ舞いの語源なんだよ。小舞って言うんだ。これの分かる、キヌ婆さんを紹介するよ~」

三田さんが、言った。


「え~っ、そっから始めるのか~」

ゴロスケの声が小さくなった。

僕たちの仕事が、出来た。

古民家修理。

しかも、全然やり方を知らない。

店主だけが、興奮して台湾リスのように、あっちこっち家の設えを細かくチェックしている。


「そんなに好きなら、大工にでもなれば良かったのに~」

雪ネェがつぶやいた。


「でも、その時は、何がやりたいか、漠然としていただけで…。親の言う通りのレールがあったんだろうね」

スンちゃんが言う。


家が金持ちだと大学へ行かなければならない。

頑固な親の言う通り、一流の企業へ就職しなければならない。

そして、親の後を継がねばならない。

それはそれで暗い青春時代を過ごしていたらしい。


「威圧的な親父に少々痴呆の気が出て、緩くなって、お袋ともどもホッとした」

ぼそぼそとしゃべる店主は、安心している風だ。


アハハ


「うん、傍目にはね。まだらボケって言うか~、時々妙なことを言うんだ。目を見たらまともに見えるし、難しいことを言うんだ。でも人と会話の受け答えができない。慣れたヘルパーさんだとちゃんと会話しているんだけど、ただし20代に限るんだけど」

みんなは思った、エロ爺じゃないかって。

「何を話しているんだろうって、不思議に思う時がある。でもだんだんブレて来ているんだよな~」

両親のいない所で、店主は多くを語った。

ぼそぼそっと。


部屋は、2階も入れて、11ぐらいあり、トイレは、ぽっちゃん式、畑の隅っこに、トタンで蓋をされた肥溜めの跡らしきものもあった。


「お~い、こんなもの見つけちゃったよ~」

裏にいる成っちゃんが、大声で叫んだ。


「何、なに~?」

みんなで行ってみると、蔵までのプロムナード? って言えるのか、通路の隅に炭俵と、薪、石臼、それに餅つき用の杵と石臼が、ボロボロのベニヤ板の覆いの下から出てきた。

「餅がつけるよ~」

成っちゃんが、懐かしそうに叫んだ。

あれは、「やろうよ!」と言う顔だ。


「こうやって、セイロで蒸すんだ~」

成っちゃんが、身振りで、セイロを被せる様子を説明する。

「カマドで、薪を燃やして、水に浸したもち米を蒸して、こうひっくり返して…」

「超~古いことを知っているな~、成っちゃん、できるの?」

「ううん、できない。見ただけだもん、小さい時・・・」

きっと、お父さんがまだ居た時だろう。

成っちゃんが、お子ちゃまの目に戻っている。


「もち米なら、家にあるから、持って来るよ。あげるよ」

役場の三田さんが、言った。


「なっ?」

ゴロスケがクスクス笑った。

作戦成功って顔をした。

ゴロスケの入れ知恵が、すぐバレる。


家はすぐ修理できないし、僕らがメインにやるとしても、プロの大工に見積もりも、段取りもして貰う。


話題は、正月用の餅つきに行ってしまった。

それまでに、石臼を磨いて、大鍋を磨いて、セイロを掃除して、水道を整備して台所を片付けた。

石の臼は下に転がっていたので、臼を支える、台が必要だった。


「台ってこれのこと?」

ゴロスケが、手に重そうな木組みを持っている。


「大丈夫かな~?」

蔵の中から見つけ出て来たらしい、木組みの台は、すっかり白木でなくなっている。

しかし、蔵を見やると、大きな南京錠が掛かっている。

鍵穴も大きい。

鍵もよく探し出したな。

大下さんが、怪訝な顔をした。


「どうやって、こんな大きい物を出したんだ? 鍵が、掛かってるぞ」

とうとう大下さんが、聞いた。


「蔵の横から、壁土が剥がれちゃってて…」

成っちゃんが、事もなげに答えた。


「なるほどなぁ~」

土壁に開いた、大きな横穴から引きずり出したのだ。

きっとその時に、穴をもっと広げたに違いない。


クリスマスツリーの失敗があるから、今度はちゃんとそれをいい位置に組んで、石臼をセットする。


大下さんが、ゴロッと動かしてみようとした。

「重いな~、何キロあるんだ?」

あわててみんなが、下から抱えあげた。


「せ~のっ!」

男全員が抱えて、「うんしょ、うんしょ」踏ん張ってヨタヨタと運ぶ。


「せ~のっ」

もう一度、息を合わせてちょうどいい位置に石臼をセットした。


「ふ~っ」

一息ついた。


「板を二枚敷いて、近くまで滑らせたら、楽だったかもね~」

雪ネェが見ていてそう言った。

「それか、転がす…」


「…」


なるほどな~っ。

そうか、今度は、最小限に動かすことにしようとみんなは思った。

「終わったら、またこれを持ち上げるのか?」

スンちゃんが、泣きそうな声で言った。


もう気力はない。疲労困憊して、また明日来ることにした。

「じゃあ、また明日~っ、もち米用意しときますよ。

水に浸けときますよ~」

役場の三田さんが、素朴にニコニコしているのが、コウジは妙に気になった。


早いもので、クリスマスは、

もうどこかに吹き飛ばされて…。

生きてるってきがする。

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