やっかいそうな古民家
クリスマスの気分を味わい尽くすつもりでいたが、
お客さんが現れた。
そして、物語はつづくのだ。
グループホームに良さそうな、古い民家が見つかったというのだ。
しかも、国道沿いに・・・。
森のキャラバン号に乗って、みんなで見に行くことにした。
店は、爺さん婆さんにお任せした。
何せ、店主が浮き足立っているし~。
車にして、一時間半。
ところどころ町を観察したが、店は見当たらない。
日陰の杉山がポツンポツンと見えた。
山の上の方まで、段々畑があり、村人が細々と農業をしているのだろう。
寒いけど、雪は降らない地区のようだ。
それは茅葺の屋根の大きな家で、北側は、すっかり苔むしていた。
「もしかして、屋根も…? 」
そこまで、自分たちがやるのかな? 冗談でしょ。
コウジはそれを、考えないことにした。
柱は、おおむね真っ直ぐ立っていたが、戸の建て付けが悪い。
下の方に三角に隙間ができていた。
「よく、建っていたなぁ~」
大下さんが、感心していた。
雨戸が全部閉まっており、小さな南京錠を開けると、畳みは腐ってへこんでいて、土ボコリが二~三センチの厚さで覆っていた。
「こりゃ~、土足だな~」
上がりかまちが腰掛の高さで、大きな四角い石を敷いてある。
普通はここで靴を脱ぐ。
「靴下が、汚れそうなホコリだ~」
「お前の靴も、ボロいけどな~」
ゴロスケが軽く言った。
「そろそろ買い換える時期かも知れないなぁ~」
コウジが履き込んだ靴の裏を見ながら、つぶやく。
役場の人が、次々とガタピシッ雨戸を開けていった。
家の中に光が入って、ホコリが舞った。
畳を土足で上がるのは、日本人として気が引けた。
障子は、猫を飼っていたらしい爪あとで紙が破れかぶれ。
障子も張らなきゃいけない。
障子のサンは無事だ。
ここに入居できるようになるのは、そうとう後になりそうだ。
頭の高さにあった、白い電気の傘がコウジの頭に当って、白熱電球がそのまま残っていた。
「電気は止められているよ」
電気が通ったら、掃除機をかけたい。
裏が林の一軒家で、田んぼの形のままススキの荒地が広がっている。
「あれも、この家の田んぼです。これも使っていいそうです。何でこんなに時間が掛かったかと言う~と~、ここの持ち主が誰なのかを、知って入る住人もいなくて、そう言えば亡きばあさんの同級生が老人ホームに住んでいて。あの~、そのちょっとボケてて、話しを聞きだすのに手間取って、やっとここのお孫さんが今、千葉県の方に住んでいるらしくて、手紙を出して、使用してもいいって、了解をいただいた~」
説明が、長すぎて誰も聞いていない。
「家賃は、いいそうですよ」
「そりゃ~そうだろ~」…ボロいもの。
みんながハモッた。
薄茶色の壁も落ちている、蔵もあるけど壁が剥がれている。
修理をするのが、大変そうだ。
「まず、柱をまっすぐにしないとね~」
雪ネェが、まず気になる全体的に、やや左に傾いている柱を指摘した。
「そうだな~、軽トラで引っ張るか?」
僕たちは、にわかに動揺した。
「冗談だよ」
でも、どうするんだ?
「いや、ダメだな。木槌で叩くか」
そんなので、柱を直せるのか? 打つ振動で家の壁が崩れそうだ。
コウジの頭に、大勢がやって来て、柱の上の方を押す様子が浮かんで来た。
前で、大下さんが、「こっちにもうちょっと」とか、監督している。
すると、大勢の女性たちが、やって来てその隙間に車止めのような三角形の板を
「せ~の~」で、同時に差し込む。
「まさかね」つぶやいた。
雪ネェは雪ネェで、芸術家の血が騒ぐらしくて、あっちこっちの壁や、柱を腕ぐみをしながら、「ふぅ~ん」と見つめ、考え込んでいた。
何かやらかしそうだ。
「壁の落ちた後に、竹で編んだザルのようなのが見えるけど、これも直すの?」
ゴロスケが、面倒臭そうに聞いた。
「これが、てんてこ舞いの語源なんだよ。小舞って言うんだ。これの分かる、キヌ婆さんを紹介するよ~」
三田さんが、言った。
「え~っ、そっから始めるのか~」
ゴロスケの声が小さくなった。
僕たちの仕事が、出来た。
古民家修理。
しかも、全然やり方を知らない。
店主だけが、興奮して台湾リスのように、あっちこっち家の設えを細かくチェックしている。
「そんなに好きなら、大工にでもなれば良かったのに~」
雪ネェがつぶやいた。
「でも、その時は、何がやりたいか、漠然としていただけで…。親の言う通りのレールがあったんだろうね」
スンちゃんが言う。
家が金持ちだと大学へ行かなければならない。
頑固な親の言う通り、一流の企業へ就職しなければならない。
そして、親の後を継がねばならない。
それはそれで暗い青春時代を過ごしていたらしい。
「威圧的な親父に少々痴呆の気が出て、緩くなって、お袋ともどもホッとした」
ぼそぼそとしゃべる店主は、安心している風だ。
アハハ
「うん、傍目にはね。まだらボケって言うか~、時々妙なことを言うんだ。目を見たらまともに見えるし、難しいことを言うんだ。でも人と会話の受け答えができない。慣れたヘルパーさんだとちゃんと会話しているんだけど、ただし20代に限るんだけど」
みんなは思った、エロ爺じゃないかって。
「何を話しているんだろうって、不思議に思う時がある。でもだんだんブレて来ているんだよな~」
両親のいない所で、店主は多くを語った。
ぼそぼそっと。
部屋は、2階も入れて、11ぐらいあり、トイレは、ぽっちゃん式、畑の隅っこに、トタンで蓋をされた肥溜めの跡らしきものもあった。
「お~い、こんなもの見つけちゃったよ~」
裏にいる成っちゃんが、大声で叫んだ。
「何、なに~?」
みんなで行ってみると、蔵までのプロムナード? って言えるのか、通路の隅に炭俵と、薪、石臼、それに餅つき用の杵と石臼が、ボロボロのベニヤ板の覆いの下から出てきた。
「餅がつけるよ~」
成っちゃんが、懐かしそうに叫んだ。
あれは、「やろうよ!」と言う顔だ。
「こうやって、セイロで蒸すんだ~」
成っちゃんが、身振りで、セイロを被せる様子を説明する。
「カマドで、薪を燃やして、水に浸したもち米を蒸して、こうひっくり返して…」
「超~古いことを知っているな~、成っちゃん、できるの?」
「ううん、できない。見ただけだもん、小さい時・・・」
きっと、お父さんがまだ居た時だろう。
成っちゃんが、お子ちゃまの目に戻っている。
「もち米なら、家にあるから、持って来るよ。あげるよ」
役場の三田さんが、言った。
「なっ?」
ゴロスケがクスクス笑った。
作戦成功って顔をした。
ゴロスケの入れ知恵が、すぐバレる。
家はすぐ修理できないし、僕らがメインにやるとしても、プロの大工に見積もりも、段取りもして貰う。
話題は、正月用の餅つきに行ってしまった。
それまでに、石臼を磨いて、大鍋を磨いて、セイロを掃除して、水道を整備して台所を片付けた。
石の臼は下に転がっていたので、臼を支える、台が必要だった。
「台ってこれのこと?」
ゴロスケが、手に重そうな木組みを持っている。
「大丈夫かな~?」
蔵の中から見つけ出て来たらしい、木組みの台は、すっかり白木でなくなっている。
しかし、蔵を見やると、大きな南京錠が掛かっている。
鍵穴も大きい。
鍵もよく探し出したな。
大下さんが、怪訝な顔をした。
「どうやって、こんな大きい物を出したんだ? 鍵が、掛かってるぞ」
とうとう大下さんが、聞いた。
「蔵の横から、壁土が剥がれちゃってて…」
成っちゃんが、事もなげに答えた。
「なるほどなぁ~」
土壁に開いた、大きな横穴から引きずり出したのだ。
きっとその時に、穴をもっと広げたに違いない。
クリスマスツリーの失敗があるから、今度はちゃんとそれをいい位置に組んで、石臼をセットする。
大下さんが、ゴロッと動かしてみようとした。
「重いな~、何キロあるんだ?」
あわててみんなが、下から抱えあげた。
「せ~のっ!」
男全員が抱えて、「うんしょ、うんしょ」踏ん張ってヨタヨタと運ぶ。
「せ~のっ」
もう一度、息を合わせてちょうどいい位置に石臼をセットした。
「ふ~っ」
一息ついた。
「板を二枚敷いて、近くまで滑らせたら、楽だったかもね~」
雪ネェが見ていてそう言った。
「それか、転がす…」
「…」
なるほどな~っ。
そうか、今度は、最小限に動かすことにしようとみんなは思った。
「終わったら、またこれを持ち上げるのか?」
スンちゃんが、泣きそうな声で言った。
もう気力はない。疲労困憊して、また明日来ることにした。
「じゃあ、また明日~っ、もち米用意しときますよ。
水に浸けときますよ~」
役場の三田さんが、素朴にニコニコしているのが、コウジは妙に気になった。
早いもので、クリスマスは、
もうどこかに吹き飛ばされて…。
生きてるってきがする。




