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森のキャラバン  作者: 森のキャラバン
45/53

ひょうたんからパーティ

ド田舎で、人口密度が決して多いとは言えないここで

奇跡が起こった。

それは、意外な人物の登場で…。

店主がいないまま、一ヶ月が来ようとしていた。

「雪ネェ、どうすんの?」

「さあ、このまま居座っちゃおうか?」

カラカラと笑う。


大工さんから請求書が来て、大下さんが取りあえず払っていた。

雪ネェは、思いつくままメニューを増やした。


「高菜チャーハン、キムチチャーハン、キムチスパゲティー、オニオンスープ、レンズ豆のカレー、しかもお手製お新香もメニューに入れた~♪」

雪ネェは、ルンルンしている。


「いいのかな~?」

成っちゃんが、心配している。


「帰って来ない店主が、悪いんじゃないの?」

この辺りに食堂はないらしく、一度引いたお客さんも、この味が癖になったらしくてやって来る。


「今月の売り上げは、すごいらしいよ。丁度大工さんらに払った分と同じになった。」


「うん、先月の十倍ぐらいかな?」

「すげ~」


「てゆうか~、閑古鳥が鳴いていたのよね。今まで…」

ランチの時間に合わせて、やって来る、おじさんたちは、おとなしく食べていて、次に入ったお客さんに、一同度肝を抜かれた。


おまわりさんだ。


「え~、変わったことはないですか?」

「ないです」

「え~、世帯主は、安藤公男さんでよろしいですね?」

「はい」

「で、あなたは?」

「白鳥 深雪です」

雪ネェの本名だ。ゴロスケがプッと吹いた。


雪ネェが、ジロリとゴロスケを睨んだ。


「え~、悪かったわね~、似合わなくて」

「え~、どうゆう関係ですか?」

「友人です」

「で、あなたは?」

大下さんに向き直る。

大下友造(おおしたゆうぞう)です」

「えっ~、たいしたゆうぞうじゃなくって?」

ゴロスケが、すっとんきょうな声をあげて、マジでびっくりしていた。


おまわりさんは、眉間にシワを寄せた。

同僚の名前を知らないのは変! と勘ぐられた。

コウジが、まじめに先回りして答えた。

「中道 コウジです」


「中本工事で、なくって?」

おまわりさんが憮然として聞いて来た。


「じゃなくって~」

コウジは軽くため息をついた。昔っからよくからかられて、嫌な思い出が蘇る。


ゴロスケが、ウケてゲラゲラ笑い出した。

成っちゃんも、つられて笑い出した。そのうち、ゴロスケが涙目になってヒイヒイ笑った。


「もう、いいっ!」

観察していると、力入れているけど、ボールペンのインクがかすれて書けていない。

後で、鉛筆でなぞるんだろうか?


「で、安藤さんはいつお帰りですか?」

「知りませ~ん♪」

ハモった。


「こっちが、聞きたいよ」

「うん、聞きたい」


おまわりさんは、ジロリと睨むと、シールを渡した。

「これ、玄関に貼っといて下さい」

「丘交番 荒井 忠一」

おまわりさんの名前だ。


ドアが閉まる。ドアベルがカランカランと鳴る。

さあ、思いっきり笑っていいぞ~、「アハ」と顔も緩んだ時、

さっきの警官がもう一度入って来た。

「何で、みんな集まっているんですか?」


こういう時の、スンちゃんの機転の利きようは、天才的だ。


「今日、僕の誕生日なんです!」

スンちゃんの仏頂面をじっ~と見て、おまわりさんは、疑わしげな眼差しをしていた。

が、スンちゃんの差し出した運転免許証を見て、やっと僕らを信じたようだった。


「そうか、お誕生日おめでとう!」

一言、言うと去って行った。


お客さんたちは、黙ってそのやり取りを聞いていた。

スンちゃん、おまわりさんに誕生日おめでとうは、言われたくはなかったろうに。

そうして、みんなにも知られたくなかったろうに。


「今日、そうか、スンちゃんの誕生日だったのか~、盛大にお祝いしよう!」

大下さんも、笑いを含んだ口調で、努めて真面目な顔でいる。


「ヒャッホー」

「ヤッター、パーティーだ。パーティー」


「私、歌っちゃおうかな~♪」

イベント大好き人間がこれだけいて、30代男が誕生日を祝って貰くれるとしても何が嬉しいもんか…。

とっさに出た言葉だったけど、スンちゃんは後悔したに違いない。

ゴロスケや、成っちゃんなら嬉しがるかもしれないけど。

「で、11月11日でいくつになった?」

「33歳」


その視線は、流れて雪ネェに注がれた。

「言わない…」


みんなは、慌てて視線を泳がせた。


「ねぇ、せっかくガスオーブンがあるからケーキ焼こうか?」

「へ~雪ネェケーキ作れるんだ~」

成っちゃんが、尊敬の眼差しで言った。

「いや、焼いたことないから、実験的にやろうかな~♪ と…」


「レシピ分かるの?」

コウジが言った。


「ネットで検索!」

「あっ、そうか~」

さっそく、調べて材料を買うべく、雪ネェは、電話を掛けていた。


「はい、はい」

受話器を下ろすと、「田舎だから、うちは、ケーキ型とか、そんな材料ないって」

取りあえず、スポンジ台と苺とネジリロウソクとアラザンと、インスタントのホイップクリームにして、出入り業者に配達して貰った。

夜になると、苺ケーキの大きなのが三個、ロウソクを十一本づつ立て、ビーフシチューとサラダとおにぎりが出来上がった。


意外や意外、みんなちゃんと自分ちに友だちを呼んで、お誕生会をして貰った経験がなくて、まるで自分のことのように嬉しがった。

スンちゃん以外は。


スンちゃんは、幼い頃は、嫌という程やって貰ったみたいで、でも大人になって友だちに祝って貰うのは、とても嬉しげだった。

はにかんで、笑った、照れてる~。


雪ネェが、久し振りにギターを鳴らした。

マイクはなし、でも声が通る。


「え~、今日はスンちゃんの誕生日だと言うことで~、おめでとうございます。彼の人生はどんな人生でしょうか? 」

雪ネェの声が高らかに響いた。

ビートルズの『イン マイ ライフ♪』が、とっても優しげに響いた。

何で? 歌手のまま行けたら良かったのに。


カラン カラン  


振り向くと、ドアベルが鳴って、おじさんたちが駆けつけた。

お酒持って。

家から、食料も持ち寄って、カウンターに置いた。

雪ネェの歌に、聞き惚れるみたいに、前の席に陣取って座った。


バーボンウイスキーが出てきて、日本酒が出てきて、冷えたビールがケースで配達された。


ポップコーンに、スルメイカに、お刺身に、柿やリンゴや、みかん、栗、蒸したさつま芋、新米で炊いた松茸ごはんのおにぎり、地鶏の唐揚げ、自然の中のささやかだけど秋の豊穣のもの。


しかも、みんなの注目の的は、今が旬! 北陸産のズワイカニ~!


「すげぇ~、大、大ご馳走だ~」

ゴロスケの言葉に、

「し~っ」

おじさんたちに睨まれた。


「今日、イベントで歌うって。聞いたから…」

おじさんたちもイベントに飢えているのだ。


「え~、ここで、またノルウェーの森を歌います」

雪ネェの十八番だ。

英語バージョンが、何だか切ない。

それは日本の小説の性もあるけど、春ちゃんを思い出すからだ。


ジャンジャカジャン ジャンジャカジャン


雪ネェの声だけでも良かったけど、大下さんがコーラスでハモって奥行きも出た。


一曲、歌うと拍手喝采で、ライブハウスの中のように盛り上がった。


おじさんたちは、もうお酒飲んで盛り上がっている。

今日、家に車で帰れないよね~。


大下さんも注がれて、飲み出した。

みんなは、じっと行方を見守った。

大下さん飲んだら、寝るぞ~。

ところが、大きな声で、カントリーロードを歌い出した。

雪ネェも、伴奏に回った。


いく分、知っているおじさんもいて、大合唱となった。

  

♪~


カラン カラン ドアベルが鳴った。

次ぎは、誰かと思ったら、長いこと雲隠れしていた店主が入って来た。大勢で賑やかにいるから、目を見開いたまま、フリーズしたみたいだ。


人と人との間には、きっと言葉があります。

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