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森のキャラバン  作者: 森のキャラバン
44/53

待てど 暮らせど

雪ネェの夢の喫茶店経営者のような気分になる日々が続いていた。

フタを開けたら、まさかの大繁盛。

こんな田舎で?

次の日も、また次の日も、店主は帰らなかった。

雪ネェは、孤軍奮闘し、コウジたちは、ささやいた。


「それにしても、普通、連絡ぐらいするよな~」

コウジの携帯が鳴った。雪ネェからの喫茶店の応援要請だ。

「それじゃ、行って来る」

「よし来た、後は、任せとけ!」

そのうちに、もう一人応援要請が来た。スンちゃんに。

「一体、どうなってんの?」

スンちゃんが、喫茶店に入ると、ワイワイガヤガヤ、満員御礼状態だった。

「どうしたの?」

「さあ?」

雪ネェが、嬉しそうに首を傾げている。

「コウジが、ランチメニューを引き下げに行く時、何気に聞いてみたら?」

コウジは、一つ頷くと、アフターコーヒーを持って行って、その通りやってみた。

たくさんの大皿を抱えて、帰って来たコウジのいうことには、

「これだったら、お昼の量がたっぷりで、お腹いっぱいになる」だった。


雪ネェは大喰らいで、ご飯も、おかずもテンコ盛りだ。そう言えば、店主は食が細い。

その差らしかった。

満足度アップで、リピーターが来たのだ。

「そうか、そんな理由なら良かった」

コウジもホッとした。


「どう? ホッとしたのかしら?」

雪ネェのその問いには、答えない。

雪ネェが一人しゃべった。

「何かさ~、一人が食べ終わったら、携帯で友だち呼んでくれたみたいで、だんだん増えて行ったの。不思議でしょ?」


「何でかな?」

コウジは、これは、心配かも知れないと思った。


次のお客さんも、ランチを頼んだけど、もう材料が切れていた。

「すいませ~ん。ポークジンジャーのポークが切れちゃって~」

カウンター越しに、雪ネェが叫んだ。


「一体、どこに買いに行けばいいんだろうね~?」

今度は、小声でしゃべった。


そう、それでよく留守が勤まるもんだ。

コウジは雪ネェの度胸に参った。

スーパーは見えないし、どこ向いたら一番近いのかも分からない。

第一、僕らは、いまだかつて、コーヒー豆を買おうとしても店を見つけられなかったのだ。

第二、

「じゃあ、肉発注すればいいよ。待つよ!」

最後のお客さんが、笑って言った。

聞こえちゃったみたい…だ。

「ええ、待・つ・の?」

これは、おかしい。

何もかもが、出来過ぎている。


携帯で、そのおじさんは、肉屋に注文を入れているらしい。

「ああ、俺、今、『大菩薩峠』に居るんだけどな。ポークな、3キロ。頼んます~、急ぎで」

おじさんは、プチッと切った。


「あの人たち、出入りの業者の人なのかしらね?」

一人で納得している。


ところで、雪ネェはどうしてランチのメニューがこれって、分かったのさ。迷いなく」

スンちゃんが尋ねた。

「メニュー表見て」

雪ネェが、しごく当然のように答えた。

ポークジンジャーで、ポテトサラダ付きと書いてある。

きっと店主の出す実物とは、何らかの大きな違いがあるのだろう。

味? ボリューム? それとも、雪ネェは招き猫なのか?


「おう、株価が一万円を切ったぞ!」

耳からイヤフォンのコードを垂らしている、おじさんが叫んだ。

「東京株午前、974円安の8183円 一時1000円超下げだってよ。大変だこりゃ!」

「もしかして、金融系の人たちかな?」

スンちゃんがつぶやいた。

雪ネェは、何のことか分からず、キョトンとしている。

まさか、集まった人たちは、債権者か何かじゃないだろうね? コウジの頭に不安が過ぎった。


「ネェちゃん、ご主人はいつ帰るんかね?」

大声の応酬だ。


「あ、もう帰ると思います~」

ここ、ヤバクねぇ?

スンちゃんとコウジは、顔を見合わせた。


その時、ドアが開いて、肉屋さんが配達に来た。

「へい、お待ち。ポーク3キロ」

肉屋は、伝票の納品書をカウンターに、バシッと置くと、雪ネェの顔をじっと見つめて、片方の口角だけ上げて、風のように去って行った。


「月末締めの翌月払いかなんかだろう…。信用取引だ」

スンちゃんは、これで安心したようだった。その頃には、店主は帰るだろう。


「大丈夫だって」

スンちゃんがコウジの肩をパンと叩いた。

スンちゃんの言う方は大丈夫だろうけど、成っちゃんの心配の方は大丈夫なんだろうか?

コウジは、店主の早い帰宅を祈った。


「おねぇちゃん、ここのご主人と結婚するんか?」

唐突に、オヤジさんらが訊ねた。やっぱりね。

「やだ、違うって!」

雪ネェは笑って否定して、手の平を左右に振った。

雪ネェは嘘つかないのは、僕たちは知っているけど、知らない人ならYESと取るだろう。

成っちゃんが、もしもの雪ネェのいなくなった森のキャラバン号をシュミレーションしている。

朝が来ても、もうおいしいコーヒーを入れて貰えない。

おいしいごはんにありつけない。

そんなの嫌だ。

それにたまに生ギターで、歌が聴ける。

それらを失うことは、僕らにとっても淋しくなる。


「違うんだって、そんなのあり得ないよ。誤解だって~」


ゴロスケも、口添えをした。

しかし、ゴロスケが言うと、冗談に聞こえる。


「それにしても、ここの主人は帰りが遅いな~」


重要な用があるんだろうか? この人たち、一体何どういう人なんだろう。


地元の占い師とやらが、連れて来られて、すごろくみたいなのを振ってみた。

バラバラと貝の欠片が出てきた。


「このお嬢さんとは、結婚には至らないだろう」


占い師はそう断言すると、去って行った。辺りはシ~ンと静まり返って、残りの人もソロゾロと後に続いて、そして店にお客さんが、誰もいなくなった。


「はあ? 何なのよ、あの人たち…」

雪ネェが、ムッとして言い放った。


「つまり心理テストみたいなもんだろ。察するに、結婚に何らかのコンプレックスを持っている女性と見なしたらしい」

スンちゃんが解説してくれた。

ほぼ当りだろう。


「だから~、単刀直入に言ってくれたら、単刀直入に答えたじゃないのよっ!」

雪ネェは、手を使って解説をした。


「それを、勘ぐってしまうのもまた、人間の心理だろう。人は自分の思い込みのフィルターで物ごとを解釈するから。通じない人には、通じないんだよ」

それにしても、詫びの一言もない。

まだ、納得のいかない顔の雪ネェだった。

しかし、首を傾げたままだった。


「変ね~、私。前より、動じなくなっている! これって何の効果かしらね~?」

瞑想は、雑念のオンパレードになるから、それを呼吸に集中させる訓練だ。

いつか、きっと、だぶん、無の境地にいたるだろう。

「ああ、風評被害のない国に、行きたいよ~」

スンちゃんは、濃厚な人間関係がちょっと苦手だった。


「田舎は、特にね。糸引き納豆のような、ご近所付き合いがあるからね~。」

ゴロスケが、軽いジョークを飛ばした。

よそ者が受け入れられるまでは、鉄壁の掟があり、仲間として受け入れられると、コロッと変わって、身内のような付き合いになる。


「だから、店主は、消えたのだろうか?」

「それは、無いね」

大下さんが、つぶやいた。

大下さんは、伝票を見て、コーヒー豆の追加の注文をした。

もちろん、森のキャラバン号用のも、別枠で余分に注文した。

この味は、なかなかイケてる。


「何か事件に巻き込まれたりとか…」

成っちゃんが、ふと心配になった。

最近多い。

二億円の宝くじに当って殺された女性だっている。

「そして、見知らぬ私たちが居座ったら、あら嫌だ! 私たちが犯人となる?」

雪ネェが、すっとんきょうな声をあげた。


「“老人ホームへ行くって言っていました~”って、警察に言ったら、信じてくれるかな?」

「今、消えたら、私たちが怪しまれるから、居続けなきゃ~ね」

雪ネェが、嘆いた。

雪ネェ実は、ここに少々飽きてきた。


「来た~っ!」

業者がダンボールを置いて行った。


「コーヒー豆は、来たけど、店主は来ないや」


家の修繕の方は、大下さんと大工さんチームが完璧に直した。

黄色いファイバーの断熱材もしっかり入れた。


「これで、冬の寒さも、楽に凌げるぞ」

「薪ストーブがあるから、いいよね。この山の主だから、自給自足だ~」

山の上の方は、熊の好物の山栗とかを植えて、人間と野生動物の住み分けをしているそうだ。

柿の木があったら、さっさと取って、猿に渡さない。


「フェンスの上に、大きな猿が堂々と乗っていたよ」

ゴロスケが、大笑いした。


「あの猿、きれいな毛並みだったな~。顔が真っ赤で、人間のおじいちゃんもああゆう顔しているよね」

成っちゃんが、思い出して笑った。


「…」


それにしても、店主は帰って来ない。

三週間以上も。

そうこうするうちに世界の経済は、どんどん変化した。

要するに~、しっちゃかめっちゃかで、訳わかんない状態。

日本が買われて、今度は日本が買い戻して、買収にまで乗り出した。

あんな底なし沼だと思う債権の支援に乗り出した。

しかも、円が強い。


「金額が大き過ぎて、庶民感覚ではわかない。だって僕たち、普通に生活できているじゃん!」

ゴロスケは、楽観的に見ている。

田舎じゃ、金融経済がどうこう言っても、何も変わらない。


空は青く、山は色づいて来て、きれいだ。

稲が垂れてきて風に揺れている。

とっても平和だ。


「みくにのおばさんからのメールが来た!」

さっきから、ノーとパソコンを見ていたコウジが言った。そして読み上げた。


“そちらの様子はどうですか?

知らない間に、行ったことのある、ラーメン屋さんが、お昼が来ても準備中で、それってもう辞めたのかしら。

とか、不動産屋さん自体が入った店舗が『テナント募集中という別の不動産屋さんの張り紙』が貼ってあったり。


ケーキ屋さんが、シャッター下ろして、『しばらく休業します』と貼ってあったり、

これは、定休日なのか、辞めたのか区別がつかない状態で、オーナーは、悔しいけど、休止しているのかな?

スーパーの精肉コーナーも、牛肉が売れないから、みんなが鶏肉に推移している。


やたらアメリカ産の肉が並んでいるけど、消費者は手を出さない。

中国産もスーパー自体から数を減らしつつある。

ひっそりと個人商店が消えている。


明らかに個人レベルで閉塞しているね…。水面下で善と悪の戦い!!

「だから、聖書の『最後の審判』が来ているとしたら、これを知らせて、悪の抑止力にならないのかな?悪が、我に返るきっかけにならないのかな?」

コウジが言った。


「そんなの甘~い気がする」

雪ネェが言った。



みんなの妄想がどんどん広がっていく。

キャラや、思想の個性は未来を見抜く訓練になり得るのかのか?

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