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森のキャラバン  作者: 森のキャラバン
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北京オリンピックと大雨

松野さんの奥さんは、徳川のMY雑巾を作ってくれることになった。

これで、少しは、お小遣いが増えるかな?

ゴロスケが、『徳川のMY雑巾』の説明をすると、松野さんの奥さんは、もっと乗り気になった。


「じゃあ、葵のご紋を、雑巾にミシンで刺繍すればいいんだね!」

嬉々として言った。


「え~っ!」


これには、ゴロスケ本人も驚いた。


民宿が暇な時には、内職で、いっぱい作るということだった。もちろん、ゴロスケは売り上げの1%を貰うということで、権利を譲った。


「これで、リッチな経済になるかな~?」


「絶対に、な・ら・な・い!」

雪ネェに断言された。


北京オリンピックも中盤に差し掛かり、水泳の北島選手は二体会連続二冠の金メダルを獲った。

十九歳の男子体操の選手が銀メダル、マラソンの金の期待が高かった選手は、故障のため棄権。

大下さんは、松野さんとテレビにかじり付き、体育系らしい応援をしていた。

野球、サッカー、ソフトボール、卓球、柔道、水泳、体操。どのチャンネルもオリンピック一色だったのが、負けて決勝戦まで残れなくなると、だんだんお笑い番組に切り替わって行った。

その合間を縫って、高校野球を見ていた。


雪ネェは、まったく勝ち負けに興味がなく、新野さんの子供らと遊んでいた。

お盆を過ぎると新野さん一家は、「また、ここに来たい」と言って、帰って行った。

実家のような感覚だそうだ。いいことだ。


「さて、今年の夏は、異様に暑かったけど、何かが終わりそうな気配だわ~」

雪ネェがつぶやいていた。


コウジはパソコンに向かって、調べものをしていた。

オリンピックが始まると、グルジアのサーカシビリ大統領が不穏な動きを見せた。経済の発展が民衆のものとなりつつあるロシアと戦う。これに、アメリカがちょっかいを出して来て、変だと思い始めたのだ。


「郵政民営化に賛成した人を選ばないことだよね。それは分かってるけど」


「最後まで、頑張ったのはたった一人しかいなかったね」


「ある種、踏み絵みたいなもんだったね?」


「靖国神社に参拝する大臣もなんとなく…それと分かるね~」


そうなんだ、国民はもうそろそろ気づき始めていると言うのに、意識が古いまんまなのだ。


「国民も、参拝派のK泉さんが、その度に中国を怒らせて、国交にヒビを入れさせ、日本全体にダメージを与えたのを国民は、見ていたんだからね~。つまり靖国参拝は、戦没者の哀悼では、絶対にない」

コウジが、思ったことを口にした。


「とにかく、今度の解散総選挙の時が、チャンスだよ!日本のことを、本当に~大事に思っている候補者を、ネットで広く知らせるのは、いい手だわね~」


日本を変える手立てが、これで一つ見つかった。


「それから、これ!オウムの根っこがあったよ!」

コウジがスンちゃんに見せた。


「オウム信者の心理を『竹の間』でみごとに解明しているので、読んでみてよ」

一つに『親に望まれなかった子供』というキーワードがあった。


麻原がそうだった。彼は、目が見えるのに、親が彼の気持ちを無視し、盲学校へ行かせた。

メチャメチャ傷ついて、居場所のない人たちの共同生活の場所、それが出家という形。


居場所のなかったのは、僕たちもよく似た話で、痛いほどよく分かる。

あんな事件のあった後で、脱退しない人の気持ちが分からなかったけど、これで少しは理解できた。

日本は、随分前から、その兆候があったのに、誰も言わなかった。

日本は、勇気を出して、ちゃんと言わなければいけないのだ。


「ああ~」


テレビに噛り付いている大下さんが、叫んだ。

北京オリンピックの女子サッカーが、アメリカにまた負けた。ロスタイムがないであろうと思われたが、三分あった。


「前半で、日本が一点入れたら、楽観視して守りに入ったら、点を入れられた~」

みんなは、半ば呆れながらも感心した。


「大下さんって、シンプルな頭の人だよな~。分かり易いというか」


みんなで、五キロほど離れた畑の夏の草を刈りに、行くことになった。


軽トラの運転席に大下さんが、隣にコウジが乗って、後は荷台に乗り込んだ。


「今日も、暑いから程々になっ!」


「オーライ!」


スピードは出ないけど、ガタガタ揺れて、放り出されないように、荷台のヘリに掴まった。

荷台のみんなは、牛になったような気分だった。


♪  ドナドナドナ ドナ~ドナドナドナド~ 


にわか男性合唱団の声が響く。


八月もお盆を過ぎると、朝晩は少し涼しくなって来たが、昼間はやっぱり暑い。


にわかに空が曇って来て、突然、ザーッと大雨が降って来た。


「ハ?」


軽トラックはそのまま走り、荷台の人は大雨を被った。

って言うか、荷台はお尻が浸かってプール状態、全身ずぶ濡れだ。

濡れたワカメを乗っけたようなヘヤースタイル。

思わず、吹き出した。


「人がせっかく労働しようと、気合を入れたらっ、これだよ~」

ゴロスケが言った。


アハハ!口を開けると雨が入る。


軽トラは、Uターンをしたいのだが、狭い一本道だからない。かなり進んでから、帰路に向かった。農道の両脇は、田んぼが広がり、雨宿りする場所もない…、


「濡れない人と、濡れる人の運命の違いは何だろうね?」


「さあ~、地震に遭う人と、遭わない人の違いと同じだろ?」


「一九九五年にサリン事件が撒かれて、今年が二〇〇八年だから、もう十三年も経っている。建て直しは、十二年遅れというから、もう始まっているんだけど、人間の用意ができてなかったんだって~」


「…」


スンちゃんの言うことは、いつも難しい。雪ネェがここに居たら、また盛り上がるところだ。


「阪神大震災にせよ、サリン事件にせよ、詰め詰めのタイムスケジュールなの?」

「確かに、十二年前なら、僕たち、ワーキングプアーなんて、知らなかったな~、神さまの気持ちも知らなかったけど…」


下の下の下を知って、成るほど、バランスが取れてる。それに、僕たちが底辺であがいているのも、神が人間を支配していたのを、人間の支配階級の上層部が神のふりをして、支配したのから。ヒンズー教の教えみたいに、『来世は王様に生まれ変わるかも知れない』からって、奴隷に甘んじて、今度も奴隷だったりして。そんな方便もあり得る。


こんなにややこしい世界、宇宙の彼方の神の存在もありかも知れない。


人間の原罪って、少なくても、イヴがリンゴを食べたからではないのは納得する。


「親の因果が子に報いなんだったら…よく、分かるけど~」


成っちゃんが、独り言を言った。


「何か言った?」


ゴロスケが聞いた。成っちゃんが、「ううん何でもない」と首を振った。


「僕も、十二年前と言えば、順調でもないけど、仕事に就いてたからな~」


「あのさ~、スンちゃんて、どんな仕事してたの?」


「法律事務所」


スンちゃんが自分のことを言うのは、珍しい。


「ゲッ!」


スンちゃんのスンが、某有名予備校にいたからついたのは、知っていた。それからを言いたがらない。


「大学行って、塾行って、でも、国家試験は通らなかったから、弁護士のアシスタント。来る日も来る日もつまんない仕事!しかも、ドジばっかしてさ~。お前、使えないな~って」


世の中には、確かにいる、頭でっかちの使えない人間が、でも当人は、上手く世渡りができなくて、それで悩むのだ。


大雨の中だから、言えたのかも知れない。(今の言葉、聞こえなかった~?)みたいに。


「あのさ、コウジって、いい人だよな~、でも何考えてるのか、分からない時がある」

ゴロスケがそれに答えた。


「家族の一人が、自殺したらしい」


コウジが、高校を途中で辞めたのは聞いていた。

日本育英会もあり、勉強ができればお金を借りられる制度もあった。

しかし、それ以前に生活費の工面の問題があった。

色々聞かれ挙句の果てに「安易に生活保護を貰えばいいって考えるんだよね~」と言う人がいて辞めたそうだ。

コウジは、意固地なところもあった。

世の中は、ちょっと前から学歴社会だから、未来は絶たれたようなもんだったんだろう。


「普通に真面目な、仕事できるやつなんだよな~」

スンちゃんが、悔しそうに言った。


長い付き合いだけど、コウジも、あんまり自分のことをしゃべれない。

みんなが、沈み込んだ時、ゴロスケが言った。


「今の話、聞かなかったことに、してくれ!な?」


「ああ~」


雨の音に消されて、激白みたいに叫んだ。聞こえているのかいないのか…。

コウジは真面目だからな~、ああゆう努力している人を認める世の中になって欲しい。みんなは、天然のシャワーの中で考えていた。


「おとととっ」


軽トラが、突然止まった。

ゴン 頭を打った。


「イテテ」


大雨にしても、早すぎる。


土手からの下り坂に来たところで、もう用水路から溢れて、田んぼも、農道もミルクコーヒー色の水浸しになっていた。

このところ、日本列島は、一時間に雨量二~三十ミリなんてザラだ。

神戸では、大雨で川が急に増水して十人流された。

大下さんは、ルートは知っていても、大雨で、この道がこの先、通れるかどうかは分からない。


「俺も苦労しているんだぜ!」


そう言って、ゴロスケがスニーカーごと道路に飛び降りた。泥水が跳ねて、向こう百メートルばかり泥水に浸かっていて見えない。

歩いて行って、深さを調べに行くつもりなんだろう。

急激な雨で道路が冠水しちゃって、車ごとおぼれたというニュースがあった。


「待て、ゴロスケ行くな!」


ドアが開いて、大下さんの大声で、ゴロスケが振り向いた。

振り向いたゴロスケは、泣いているみたいに顔をしかめていた。

荷台にまた、乗り込んで車は、今来た道をバックして、国道に出て走り出した。

どの道を走ると帰れるのかが分かるのは、さすが大下さんだ。


「みんなの目の前で、流されて見ろ、後味悪いだろ?」

うん、ゴロスケは無言で頷いた。


コウジが窓から顔を出して言った。


「代わろうか?」


「いいよ、もう濡れちゃっているから…」


「ごめんね」


窓を閉めた。雨は白い縦糸のようだ。何で、ゴロスケが感傷的になったのか、みんなはよく分からないし、聞けない。


「さあ~、日本っていう国が元気でいればね~、もう変わっちゃたけど~」


成っちゃんも、心を誰かさんに占領されていたりする。今は、瞑想があるから、自分で浄化する方法もマスターしているから、あんまりドツボにハマらなくなったけど…。

まだ、春ちゃんで良かった。いや、これって春ちゃんの導きかな?


「それにしても、最近頭のおかしな人の事件が多くなったよな~」


「うん、オチオチ夜道も歩けない」


「ビリー・ミリガンみたいに、幼少の時、親にされたショックな事件が再三あって、記憶を消してしまいたいから、その部分に空洞ができるのだろうか? 急に、本人不在になって、何者かが居座る。(か、他人に操縦される)今の日本で起きている通り魔事件の犯人たちは、みんな、大なり小なり、これなのかも知れないね」

スンちゃんが一人でずっと、しゃべっている。 


「自分は正しいのに、変な部分で、怒られたりして、自分を居なくする癖があるのかな? それとも、何もかもあてがわれて、考えられなくなったのかな? ビリーは、自分を取り戻して、別人の名前になって、生きているんだって。自分が人格の入れ替わることをサンプルにして欲しいと希望していたんだよね…」


もちろん、心を占領されたからって、悪いことをしていいとは、限らないけど。

精神鑑定して、あの時の精神状態は、異常だったから、本人に全く責任がないのは、おかしいと思う。

せめて、それだけのことをしでかしたら、罪を自覚して欲しい。

そうでなきゃ~、殺された人が気の毒過ぎる。

そして遺族をどん底に突き落とす。

「自分も死にたいと思った。誰でもよかったから殺した」

という犯人の(心理)闇や、殺された人の無念や、家族の悲痛な叫びが、日本中を闇で包み込む、こんな世の中で、どう希望を持って、生きて行けるんだ。


結構、日本の若者は、立ち直れないほど、心は傷だらけなのだ。


成っちゃんが、ボソッと謳った。


♪道がとっても悪いから~

     遠回りして、帰ろう~(古っ!)


あれは、K泉総理のポスターが売り出されるぐらい人気者だった時、翻訳者の派遣がどうのこうので、派遣法ができて、郵政民営化で※にお金を差し出す話になってから、転職求人雑誌を開いても、派遣会社が目立つようになった。

いつの間にか、正社員が少なくなって、

ボクたち浮草みたいだったよね。

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