新野さん、超すげぇ~
類は類を呼ぶで、新野さんも似たような人。
松野さんは、あんぐり~。
朝がきた。
囲炉裏端で、朝食タイム、全員が集合した。
「原油高騰のあおりで、日本の漁船二十万隻すべてが参加する漁船が一斉休漁したのが、二〇〇八年七月十五日、全国漁業協同組合連合会(全漁連)など十六団体の主導でだ。政府の動きは、特になかった。そんなことよりも、内閣改造で誰がどの派閥からどんな大臣になるかのことで、頭がいっぱいだったんだろうね~」
新野さんの朝のあいさつ代わりの言葉がこれだった。
「だったとしたら、悲しいですね~」
コウジが答えた。あまり朝から頭が回らない。
「新聞で見たけど、インド洋で海上自衛隊が米軍に給油できなくなるといって、安倍晋三首相が突如辞めたでしょ」
朝食の、味噌汁をすすりながらの話がこれだ。
「あ~、ちょっと昔ね~そういう理由からだったの? 何かで追い詰められて、ノイローゼとか聞いたけどね」
ゴロスケが知らないことは、知らないと言ういつものスタンスで答える。
「原油価格は産油国の増産決定を尻目に、十二日、一バレル八十ドルの史上最高値を更新した。アメリカの先物取り引きで、価格が決められて、その高値の石油を国民の税金で買って、インド洋のアメリカ軍にプレゼントするんだ」
新野さんは、そう言うと、玉子焼きを箸で挟んで、口に入れた。
「インド洋で、米軍にただで石油プレゼントするぐらいなら、国民に回せってね!!」
雪ネェが、怒っている。
「そうだよな、ガソリン税を減らせば、廃業しなくていい中小企業や、職を失わない国民いっぱいいるよね~。テレビでやっていたけど、トラック業界、引越し屋さん、タクシー業界、本州と島との連絡船、いろんな工場、その苦しい経営の中の苦肉の策が、派遣社員だったとも言える、それも迷走だね」
コウジも強くそう思う。
「一度、生活の糧を失うと、生活できなくなって、生活保護を受けたい人が増産されるよね?それで、法人税や、所得税が減って、結局国にお金が入らないでしょ?それでも、莫大な軍事費が出て行くんだよね~、日本の国民には思いやりのない、思いやり予算とか」
「あ~ん、頭きたっ!日本て、バカじゃん!」
「アメリカ牛の輸入で大反対する韓国民の熱いこと熱いこと! 竹島問題は、日本人にとって、あまり感心がない」
雪ネェは、この違いが、どうしても気になる。
「思うに、それは、どっちでもあったりして…、つまり、朝鮮半島から人がやって来て、その中間点だから、だから、どちらのものでもあるんじゃないって思う」
歴史の好きなスンちゃんの意見だ。
「ジョンレノンの“ノーカントリー”『イマジン』の世界だね~」
雪ネェが今度は、目を輝かせた。
「安倍さんの祖父、故岸信介氏は日米開戦時の東条内閣で商工大臣。日中戦争継続のために南方の石油資源確保を目指して踏み切った対米戦で、物資動員の責任者だった」
新野さんは、博学だ。感心する。
「へ~、そうなんだ~」
「戦後、東京裁判でA級戦犯に問われた」
「え~、A級戦犯だったんだ~」
僕らは、全員驚いた。A級戦犯の定義はアメリカ主導でだ。
「米ソ冷戦下の“逆コース”に乗って岸氏は不起訴、公職追放も解かれて、保守合同の自由民主党で首相の座に」
お漬物で、ごはんを食べて、平然としゃべり続ける。よく、消化不良にならないもんだ。
新野さんの奥さんの方を見ると、苦笑いをしている。
「いつも、朝食は、新聞を見ながら食べて、おかずが何だか知らないのよ!」
「っはぁ~」
松野さんが、驚いている。
ここでそんなことをしたら、家を追い出されそうだ。
子供たちは、難しい話から早々に「ごちそうさま」を言って、成っちゃんと昆虫採集に行った。
「死刑転じて、首相もすごいね」
コウジが聞いた。
「それが強気なんだよ。その混乱の責任を取って総辞職するが、岸首相はデモ鎮圧のため六月十五日夜、自衛隊の治安出動を打診した」
「こんなことに、感心していいのか知らないけど、当時の国民も熱かったな~」
コウジには、日本人が熱くなるのを、想像できない。
あるとしたら、サッカーのサポーターぐらいかな?
「その時『国民を敵にできない』と断った防衛庁長官が故赤城宗徳氏」
「へ~、今だったら防衛庁長官は、そんなことしないで、国民に攻めるかもね~」
「安倍内閣で、辞任時のバンソウコウで記憶された赤城徳彦元農相の祖父。因果はめぐるよね」
「ってゆ~か、同じ家系の顔ぶればっかりなんじゃない?」
ゴロスケが言った。
「あの時、バンソウコウ貼った顔、だけしか、覚えてないな~」
「麻生太郎自民党幹事長は、岸氏の政敵・故吉田茂元首相の孫だ」
「麻生さん、ネット難民の救世主にならないかな~。そしたら、ネットで選挙に投票呼びかけるのに~」
ゴロスケが言った。
「しかし、首相は国民投票で選べる訳でもないし・・・」
スンちゃんが言った。
「あ~、苦肉の策で、安保をやった人ね~」
雪ネェがうんうんとうなずく。新野さんが、ニカッと笑った。
「やっぱり、因果っていうより、同じ家系の顔ぶれって感じだな~」
ゴロスケが繰り返し言った。
「大臣になりたいなら、アメリカに迎合しなきゃ~ねって連中ばっかりな気がするよ」
「あの郵政民営化に反対した面々は、一人以外は寝返っちゃって、今回大臣おめでとうといいたいけど、どうせ、言いなりになるんでしょ? って半分の国民は知っている訳よ」
「一月十一日に、自衛隊が、インド洋で米軍の軍艦に給油することを再開するための法律が、参議院で否決されたにもかかわらず、衆議院では、与党の再議決の強行で成立した。異例の二度も会期を延長して!」
おかしい。
やっぱりおかしい。
国会で何しているの?だよ。
「国民からの税金だから、本来なら、国民に還元すべきお金を、アメリカの戦争に使われて、僕たちみたいな生活できなくなる人がどんどん増えるんだ」
「生活できない人?」
「うん、僕たちは、元々ネットカフェ難民だったの、大下さんに拾われてさ」
「???」
新野さんは、大下さんの方を見た。大下さんは、両肩をあげて、下ろした。
「少子化問題というけどね、教育費にどれだけお金がかかるか!これが医療費、教育費を無料にすれば、子供を安心して育てられるし、子供だってどんどん産んで、増やすわよ! 出生率を増やすのって、ちょっとした、簡単なことなのよ!」
新野さんの奥さんが言った。
「地域に病院はなくなるわ、教育者の試験は、不正、教育費でお金が掛かりすぎるから、子供を指導できなくなり、一人っ子が増え、両親が共働きで、手抜き料理で家庭料理の味が分からず、子供の心が荒ぶ」
雪ネェがつぶやく。
「どう~、すりゃいいのさ?」
ゴロスケが聞いた。
「心を建て直す。どうにかして」
コウジがとりあえず答えた。
「それで、みくにのおばさんは、家庭の味の食堂を始めたんだよ。手作りの料理は心を癒すんじゃないかって思って」
「みくにのおばさん?」
新野さんが怪訝な顔をした。
「うん、ぼくらの仲間なの」
「どうすれば、いい世の中にできると思う? 」
っていう仲間という意味かって、新野さんは思ったようだ。
「さあ~? 韓国みたいに、ネットで世論を動かす?」
雪ネェが思いつきで言った。
「日本人は、動くかな~?」
それは、どうかな。怪しいもんだ。
「インドみたいに、ド田舎にコンピュータ置いて、貧農民は、買い手と直取り引きして、穀物の相場で高値で売れるようになって、生活に余裕が出て、一家でテレビも買えるようになった」
それまで、自給自足だったのが、お金の世の中に変わりつつある。
これは、いい変化なのか?
日本人の失敗の後追いなのか?
でも、貧乏な人の味方であるのは確かだ。
「地方と、都心をダイレクトでつなぐ何かだ…」
産直ふるさと便が浮かぶが、それだけではないだろう。
「日本も、ふるさと納税ってやっているよ」
「でも、焼け石に水だろうね」
スンちゃんが言った。
「そうすると、農民も消費者もメーカーも深刻なことを、しみじみと知った訳だよ。
輸入調整品は関税ついても安すぎて、メーカーは、輸入品を使う。農家は、国産は高すぎるから売れない。地産地消がいいことが分かっているのに、できない。人間は、自然の摂理とまるで逆さまなことをやっているんだ」
「そうなんだ~、田舎も都会も明るい展望がないね~。地方を回ってみて、頑張っている所はいっぱいあるんだけど」
「日本は、糸の切れた凧みたいだね…」
「今年は、アブラゼミがもう朝から鳴いているよ。いつもは、もっと後の、夏の終盤に鳴くのにね~」
成っちゃんが、子供たちを連れて帰って来た。
「へぇ~、そうなんだ~」
「海でもお盆より前に、クラゲが発生してるってよ。温暖化の影響かな?」
「今年は、すごい猛暑になるねぇ~」
汗を拭いて、子供たちは板の間で、寝っころがって、そのうちに寝息をたてていた。
お母さんが、タオルケットを借りて掛けた。扇風機が静かに回っている。
日本全国、夏休み一色だ。ガソリン代が上がって、車を利用する人が少なくなって、高速道路はスカスカで、大昔のブーム以来、都心に電車で近い熱海や、鬼怒川が復活している。
ミンミンゼミや、ツクツクボウシが鳴いている。
夏草が伸びて農道を覆っているので、新野さんも参加して、男性陣は、少し刈ることになった。この暑さでは、戸外に出るのに、勇気がいった。太陽の日差しが肌に痛~い!松野さんが、少し離れた山の畑を案内してくれた。
「麦藁帽子は、風通しがよくって、一番涼しいんだよ~」
それでも暑い。みんなに、軍手を麦藁帽子、ほっかむり用の日本手ぬぐいを渡されて身につけた。
みんなすっかり農家のおじさんだ。
「へぇ~、初めて被るよ。どう似合う?」
ゴロスケがはしゃいだ。
「似合うよ、田吾作どん」
成っちゃんも、とてもよく似合った。
「熱中症に気をつけろよ!」
大下さんが、それぞれに水を持たせている。
大下さんが肩にかけるコンパクトなタイプの草刈り機で、田んぼのあぜ道とか、畑のまわりの草を刈るのだ。
大下さんが最初に、紐を引っ張って、エンジンが掛かると、ウィ~ン ウィ~ンといいながら草を刈っていった。
残りの連中は、軍手をはめて鎌で刈るのだ。
やっている時は、夢中になって我を忘れて働いた。顔から汗が、ひっきりなしに流れて来る。
風も吹いてくれない。
持参したペットボトルの水を軽~く、飲み干した。
塩分を摂らないと危険なので、一つまみの天然塩を入れてあるのだ。汗が全身を濡らした。
口の周りがしょっぱい。
「ほら、顔から塩噴いているでしょ?これガンエンっていうんだ、顔の塩って書いて」
アハハ
田舎の夏は、思ったよりも涼しい。
それは、地域を覆った木々。
葉っぱの一つ一つが気化熱で温度を下げてくれるから、
そして気温の変化は風を送ってくれるのだ。




