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森のキャラバン  作者: 森のキャラバン
33/53

新野さんがやって来た。

超~田舎大好き新野さん。

そして誰よりも詳しい。

都会の人だって、侮れない。

新野さんがやって来た。

夫婦と子供三人。

雪ネェの提案で、それらしく見えるように紺色の作務衣を着た。松野さんは宿屋の主人として、なかなか決まっている。

コウジたちは、お客さんとして振舞うか?それともここを去ろうかと思ったけど、松野さんが心細いからと引きとめた。それで、何となくお客さんを装って、見守ることにした。

奥さんがどう出るかが、焦点だったけど、相変わらず表に出てこない。裏方に徹するらしい。実質的には、雪ネェが女将のような役割になった。丸太を山から運んで来たはいいけど、チェーンソーで、六十㎝くらいに切ってから梅雨明けで、中断した薪割りをやることになった。

「おりぃやぁー」

「とお~」

なかなか勇ましいが、斧が、突き刺さったまま…、割れない。

えい えいっ 振ってみたが、離れない。

「暑いから、熱中症になる。止めよう」

大下さんの鶴の一声で、ぞろぞろと家に入った。斧付き薪は、庭の隅に置かれた。

松野さんの奥さんが、大量の梅干しを丸いザルに並べていた。梅の甘い匂いが漂った。梅雨が明けたら、三日三晩干すのだそうだ。


みんなは、手持ち無沙汰で、また糠袋を出して来て、床を磨いたりなんかして…。

「あ~、それ水を絞った雑巾でいいんですよ~」

そう言ったのは、新野さんだ。

「は?」

「囲炉裏の煙で燻されていてね~、晴れた日は緩めに絞った雑巾で、雨の日は、固く絞った雑巾で拭くだけで、ピカピカなんだそうですよ~」

新野さんの旦那さんが、ニコニコしている。

松野さんがつぶやいた。

「知らなかったな~」


子供たちは、カブトムシを獲りに行ってくたびれて寝てしまった。

「カブトムシいっぱい獲れた?」

「いや~、それが…」

ゴロスケも都会っ子で、成っちゃんも小さい時は、田舎に住んでいたけど家族で引きこもっていたので、外に出て、駆けずり回った記憶がない、そういう醍醐味は知らないそうだ。

「昆虫酒場って言ってね、夜になると樹液に集まるんだそうだ」

そう言ったのは、またしても新野さんだ。

「カミキリムシなんかに、傷つけられたクヌギや柳から樹液が出る。夜になるとカブトムシやクワガタ、カナブンが集まるんだ」

「へ~」

「でも、クヌギってどの木かは、分からないけどね~」

アハハハと爆笑した。要するに、本の知識なんだ。


新野さんの奥さんは、台所で手伝っている。(まだ、松野家は、アマチュアなので、そうすることで、あとあと問題になりにくいらしい)大量の野菜に戸惑っていた。大きなステンレスのザルに、てんこ盛りのインゲンのスジを取れと言われた。

「これ全部、スジを取るんですか?こんなに食べるんですか? うっそ~」

「嘘なんか、言うもんか!」

「え?」

危ない、危ない。せっかくのお客さんを、怒らせるところであった。コウジたちは心配した。雪ネェは、前回を知ってか、ここに居ない。

「トロいな~、じゃあ、ゴマをすって」

「あ、はい…」

「駄目、駄目、濡れ雑巾をすり鉢の下に敷いて~、でないと、すり鉢が、動いちゃうでしょ!」

「はい…」

涙ぐんでしまった。まるで、嫁いびり状態だった。しかし、あんな大きなすり鉢は、見たことがない。

夕食は、焼きナスの酢の物、ナスの味噌炒め、インゲンの白合え、ジャガイモのパンケーキ、かぼちゃの煮物、鮎の塩焼き、(もちろん暑いんで、囲炉裏に火は熾さない)、焼きおにぎり、味噌汁。見た目は、てんこ盛りでああ、田舎の料理だね~、と思う。ところが、食べてみると、アレッ? って思う。何かが全然違う。超おいしい~。

「何ですかね?これは…」

新野さんの旦那さんも、形容しがたい何かを、どういい表現しようと口ごもった…。砂糖を加えないでも、自然の素材そのものの濃い味。

「おいしいでしょ、それ奥さんが作ったのよ」

「え?」

みんなが、驚いた。新野さんの旦那さんは奥さんの味付けに、それ以外の人は、松野さんの奥さんの初めての社交辞令に…。

「そんな~、照れるわ~でも、本当おいしい~!」

新野さんの奥さんは、嬉しそうに上体を倒してお辞儀した。

「それは、もしかして、野菜の元気なエネルギーを貰ったのか?」

新野さんの言葉に一同、

「は?」

である。

「いや~、実はこの前ね、赤峰勝人さんの講演を聴きに行ってね、いや~目からウロコが落ちたとは、このことだね~。田舎に住むぞ!!と思っちゃいましてね~」

「でも、いきなりじゃ~、駄目って、私が猛反対したんですぅ~」

奥さんが引き継いだ。

「でも、来て良かった~、こんなに野菜って元気なんですね~」

「トマトや、キュウリの匂いが本当にします! よっぽど、農家の方の腕がいいんですよね~」

「いや…ぁ」

松野さんが頭を掻いた。

農薬を買うお金が勿体なくて、なるべく使わなかっただけなのだ。

「本当に、そうですよね~」

何がそうなんだか分からないが、

「そうなんですよ~」

松野さんは、婿養子の性格そのものだ。

「ここの野菜は、虫の食った穴一つ見つからない。これはお土さまが健康な証拠ですよ!」

「お土さま?」

「そうです。母なる大地、生命いっぱいの土!」

例の赤峰さんの講演で使われている言葉の表現らしい。

「それに、来た時、ちらっと見せて貰ったけど、草がボウボウ生えていた。これって、自然農をやっている証拠だと思いましたよ!」

「草ボウボウは、たぶん…忙しくて」

多少、ホッタラカシ状態だったのかも知れない。

「ここに、小作人として弟子入りしたいと思いましたよ!」

「ウグゥ」

松野さんの気持ちを考えると、人を雇うだけの収入はないと言いたいのだろう。

「いやね~、鳥インフルエンザの原因は、日の光も当たらない不健康なゲージの中で、抗生物質や、ミネラルの不足した餌を与えられて病気になったって言うじゃありませんか!」

え!そうなのか。ハッとした。

「松くい虫の原因は、中国からの大気中の窒素酸化物が雨水に溶けて、酸性雨になって地上に降って窒素アンモニアが土の中で亜硝酸に変化して、大量の虫が発生するんですよね~、見たところ、ここは松の木も元気だった!」

「へ~、そうなんだ~」

雪ネェが、すご~く感心したように言った。たぶん、松野さんが、そう言うのを先取りした形だ。

「それが、春先になると、中国からの黄砂で、中和されるって言うんだから、笑えるね~」

「そう、そう北海道も、雪道の性でラジアルタイヤが、道路を削って酸性雨が中和されるってね!」

大笑いだ。

「中和させる方法として、石灰を撒くのもあるけど…」

松野さんが言いかけると、

「土を固めてしまうしね~」

新野さんが応える。新野さん、すごく講演の内容が頭に入っている。すぐに指導者になれそうだ。

「奥さん、この塩は?」

「自然塩を使っています。にがりを抜いた」

「そうなんですよ~、昭和46年に塩田法ができて日本専売公社のナトリウム99%の塩しか食べられなくなって、ガンやアトピーが増え出した。国のやることは罪作りですよ~、全く」

新野さんは、インゲンの白合えを箸で挟んで、のたまった。(ちなみに、味噌、豆腐の水気を絞ったの、ゴマが入る)

「白合えは、実に理に適ってる。日本人に大切な大豆とミネラルを含んだにがりを使って、しかも、豆腐でにがりの毒を消して、血液をきれいにするゴマと発酵食品の味噌を使って、う~ん実に理に適ってる~」

そう言って、パクッと口に入れた。

「しかも、おいし~い」

「へぇ~、そうなんだ~」

「農業やるんだったら、太陰暦を使えと聞きますが、いかがです?種の撒き時期に狂いはないそうですよね~」

それには、松野さんがもうついて行けなくてシドロモドロになっていた。

今度は、焼きおにぎりを手に取って言った。

「玄米が良いって、言いますよね~」

「ええ、だから、糠漬けにしています!」

松野さんの奥さんの速攻である。

「いや~、糠漬けか、実に理に適っている~。江戸時代に町民が白米だけを食べ出して、江戸病と呼ばれたそうですよね~。公衆トイレで、大家さんが儲かったそうじゃないですか~。あれも、使えればいいですね~。循環ですよ。ああ、失礼食べている時に、今宵は楽しい~♪」

よく吟味し、よくしゃべり、食の大切さを改めて思った。コウジは、都会の若者がどれだけ食をないがしろにして来たかを知っていた。おしゃれな服を買うために、食べる物を節約している。栄養なんて考えていない。お昼に菓子パン二個だけとか、女の子なんかは、ダイエットと言って、おにぎり一個にデザートでプリンアラモード、甘い紅茶で流し込む。また別の若い男性は、カップラーメンに、アンパン一個、それでヒョロヒョロの若者が町をかっ歩している。切れ易くて当然だ。中には、家からお弁当を持って来ている人もいた。きちんとしている人とそうでない人との差が、歴然とあった。

全員は、新野さんの旦那さんの話を聞きながら、やっぱり農業を大事にしなくてはいけないと感じた。新野さんは、大下さんと酔い潰れてしまった。


農民が食えなくて、日本人がまともな食事を食べられなくて、国民の健康はあり得ない。

虫は害虫ではなく命の恩人、亜硝酸態のチッソという猛毒の野菜を食べてくれているから神虫。

腐った野菜を食べて分解してくれるから神菌。

ミネラルバランスの悪い土を草が生えることによって、肥やしてくれるから雑草ではなく、神草であると、繰り返し言った。

「どうして、政府指導で国民が不健康になって行くのか? 国民が生活する術を失うのか? 間違ったことばっかり、教えられて破滅の道を辿るのかなぁ~?」

ゴロスケが言った。


「それは、アメリカに支配されていることと無関係ではあり得ない」

そこまでだったら、おぼろげながらは、分かるけど。


「やっぱり、国民は、深刻な真実を知らないと…ね」スンちゃんがネットで調べたのにこういうのがあった。

「例えば、バナナは関税を撤廃した」

輸入量は温州みかん並み、林檎の生産量を上回っている。

それがもう少し高ければ、みかんや林檎を買うだろうし、高く売れるだろう。

日本では、一山百円で売られているおやつだ。

しかしフィリピンのミンダナオ島、ネグロス島では、米やトウモロコシ畑を輸出用バナナに替えて、ドールとかデルモンテの多国籍企業が支配し、国民は飢えている。

日本は、自給用バナナまで奪い取る。

それが自由化というものの正体だ。

それとやたらと甘すぎる現代人の味付けも、大規模なサトウキビ畑と関係あるかも知れない。

「貧しい人たちは、どこまでも切ないね」


「輸送のコストを考えても、一山百円は安すぎる」


「片一方の国では、肥満、片一方の国では飢え。それは、レートや、仕組みがおかしいから。だから、それ相応の値段に見直すのが、公平というものだよね」


「誰かの意見にあったけど、世界で同時に、石油を何日かだけ、買わないことにすれば、いいだけのように思うけど」


ハハハ


起きている人たちは、力なく笑った。


農業って奥深い。

本で読むのと、また違う奥の世界がある。

にわか田舎人のボクらはまだまだ修行が足りましぇ~ん。

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