どんな仕事だ?
大下さんは、後ろを振り返ると、
「じゃぁ、あそこ停まっている、キャンピングカーに乗ってくれるかな」
そのままスタスタ歩いて行った。前方に白いキャンピングカーが止まっている。
「すげぇ~、金持ち」
「へ?」
「路駐か?」
「何だ? ロチューって」
「路上駐車だよ」
「そっか」
「てーへんだ。急がなきゃ!」
みんなは、慌てて追いかけた。運が悪ければレッカーに連れて行かれる。
その油断、あっという間に ン万円
八人乗りの大きなキャンピングカーの助手席にコウジが乗り込んで、
あとの簡易応接セットみたいな席にそれぞれ着いた。
二人は後ろ向きに座ることになる。
大下さんは即座に発車した。
「この中で、車の免許持っているものは~」
誰もいない。
「あ、僕 持ってる」
とスンちゃん。
「でも、ペーパーなんだ」
「そうか・・・」
大下さんは、前を向いたまま運転している。
「これから、海老名パーキングエリアに向かう、そこで食事とミーティングだ」
高速に乗るんだ。車内は静まり返った。
後ろの席から、コウジの方をチョンチョンと雪ネェが叩いた。
後ろへ来いと合図する。
「あ、僕、後ろへ移動しま~す」
頼りなげな声で言った。
「おお」
シートベルトを外し、座席にすがり付きながら移動。
もう一つサロンの座席をセットした。
「おい、それで何するんだか、聞いてるんだろ? 詳しく教えろよ」
と、小声で春ちゃん。
コウジは、みんなにすまなく思った。
「ごめん、聞いていないんだ」
「ほんまか?」
「マジで~!」
みんなは、コウジが太鼓判を押したから、
じゃあ信用しよう~と思っていたようだった。
「俺は、みんなが行くから、怪しくないと思っていたサ」
赤信号、みんなが渡れば怖くない・・・。
重い空気が漂った。
大下さんは、知ってか知らずか、前を向いて運転している。
しばらく走った時に、ゴロスケがすっとんきょうな声をあげた。
「なんだぁ~こりゃ~」
みんなが、ゴロスケが持ち上げたものを凝視した。
「七輪!」
なんて悪趣味なんだ。
最低最悪のツールがあった。
インターネットの掲示板に書き込みをして七輪と練炭で持って、一人じゃ怖いからみんなで仲良く自殺する。
ジョーダンじゃない。
「高速に乗ったら終わりじゃん。後戻りできない」
と雪ネェ。
「僕たちまだ、死なないよ!まだまだやることがあるんだ! そら、確たるものがまだ決まったという訳でもない、社会にとって有用な人材でもない。でも生きる権利だってあるだろう!」
ゴロスケが半泣きになって、訴えている。
「停めて、停めてぇ~」
春ちゃんも怖くなって叫んだ。
成っちゃんは、相変わらず黙っている。
こいつ、リアクションがなさすぎだぞ?
大下さんは、赤信号になったところで車を止めた。
「トイレなら、後ろについてるぞ」
大下さんは、おおらかにいう。
「これは、どういうこと?」
と雪ネェ。
「最近の若者の間でも変わった使い方で有名な、古風なものがあるけど…」
雪ネェの胸にトゲ刺す言い方、
やっぱり水商売には、向いていないよな。
大下さんは、後ろを振り向くと、きっぱりと言った。
「キャンピングカーってのは、料理ができるんだ。炭火でサンマも焼けるし、焼肉だってできる。外でも暖が取れる。まあ優れものだがね」
ため息をついてこう言い放った。
「この旅が嫌なら、そこのドアを開けて、
さっさと帰ってもらってもいいんだがな」
コウジも勿論、こんな言い方をされるのは嫌いだった。
でも自分が誘った以上、みんなを巻き込んだ責任がある。
降りるわけには行かなかった。
「僕の荷物 取って!」
春ちゃんが、慌てて立ち上がった。
ゴロスケが渡すと、大下さんが言った。
「おい、5000円貰ったか?」
「貰った!」
「じゃあな」
ドアを開け、暗い道路に飛び降りた。
それでもまだにぎやかな環八辺りだ。ファミレスやコンビニが見えた。
「他にはもういないか?」
大下さんが、みんなの顔を見回した。
誰も動かない。
ドアを閉め、信号が青に変わり車はそのまま出発した。
明るい春ちゃんが去ってしまって、重たい空気に占領されてしまった。
後で、コウジはゴロスケに聞いた。
「何であの時、あれだけ恐怖をあおっといて、
自分は降りなかったんだい?」
「七輪をよく見ると、汁がこぼれて汚れていた、これは本当に料理に使ったんだって分かったんだ」
「じゃあ、なぜその時にすぐ、言わないのさ」
「なぜか、分からない、でも言っちゃいけないような気がしたの。それだけの覚悟が、春ちゃんには なかったんじゃないかな~?」
「春ちゃん、彼女ができたばっかだしなぁ…」
なんとなく分かる気がした。
確かに。わざと見えるところに置いてあるところを見ると、大下さんが、みんなを試したのかも知れない。
用賀から高速に乗って、
しばらく走ると大きなサービスエリアに入った。
これか? 海老名サービスエリアって。
「でっけぇ~!」
「何でも好きなもん、食べていいぞ~」
大下さんのおごりだ。
それは、ちょっとしたショッピングモール並みの広さと、
にぎやかさが横に広がっていて、
焼き立てのパン屋もあり驚いた。
それって街中のファミレスより、数段大きい、
きれいなレストランに入って行った。
こんな夜中なのに、小さな子供のいる家族連れも多い。
自分たちの知らない別世界がそこにあって、別次元に来てしまったような。
といっても大下さんが豚カツ定食にすれば、それに同じくだ。
雪ネェがコーヒーを飲めば、みんなもマネする。
これで自動的にリーダーが決まってくる。
腹ペコの僕たちはちょっとした幸福で満たされたのだ。
くちくなると、普通に眠りたい。
「腹が膨れたところで、ちょといいかな~?」
大下さんはどっちかって言うと無口だ。
「来た、来た」
コウジたちは、無意識にイスの後ろの方にスリスリして座り姿勢を正した。
これからの、コウジたちが何をするのか?
やっと説明してもらえるのだ。
「ルールがある」
唾を呑んだ。
「道中は禁煙」
「なんだ、それだけか」
全員安堵した。
「まだある」
「・・・」
「これは、『森のキャラバン』と言って、田舎を廻って、荒れた山を整備するつもりだ。ここに偶然集まった君たちも、何らかの導きで引き寄せられたに相違ない。健闘を祈る」
「ハ?」
「あの、マニュアルは?」
何言ってんだ、ゴロスケのやつ。大企業じゃないんだぞ。
「そんなものは・・・ない!」
「でも、どうやるのさ」
「分からない。君たちで考えて欲しい」
って、嘘だろう。
雪ネェは、黙り込んでいるし。
成っちゃんも下を向いたまま。
自分の指でくるくるして遊んでいるし。
「だから、キャンピングカー?」
やっと、雪ネェがしゃべった。
「ああ、寝泊りはここでやってもらう。
お風呂は立ち寄り湯、一日一回、必ず入れるようにする。
食事は、毎回用意する。
自炊もある。
君たちの住所は、東京の私のオフィスということになるが、君たちの給料は口座に毎月振り込まれる。
月末締めの十日払い。
少ないが一日、5000円。
働きによっては、ベースアップも考える。他、何か質問ないか?」
「・・・」
あまりの想定外のことで、質問も思い浮かばない。
「あの・・・」
成っちゃんが聞いた。
「誰か知りあいでも? 行き先の当てはあるんですか?」
「ない!」
大下さん、断言したぞ。
コウジたちは、不安げに顔を見合わせた。
「日本の山が、大変なんだ」
そりゃ、知ってるよ。
だからと言って、
コウジたちに どうしろって言うんだい。