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森のキャラバン  作者: 森のキャラバン
29/53

たびたび宴会が続く

ほんの少し、農業体験、体力は爺さんの方が勝る。

体が出来ている。


“お爺さんは山へ柴刈りに行きました”ではないけれども、みんなは、軍手をはめて、山へ行った。

晴れ間が続き、乾いた小枝を集めてきた。

これは、焚き付けの最初に使う。

燃えて来たら、ちょっと太いのを足して行く。

一人はチェーンソーを持って、枝をどんどん掃って行った。

赤いビニール紐でくくり、束にした。

それを軽トラに乗っけて、家まで運んでくる。五右衛門風呂の脇の薪置き場に積み上げる。

みるみる壁は薪で埋まって行った。

それに何日かを費やした。

高度な技は、切り株に太い幹を立てて置いて、斧でカチ割るのだが、まだやれない。

やったとしたら、大下さん、次に雪ネェが上手そうだ。


「兄弟で、比べられるの嫌だよね」

スンちゃんがポツリと言った。


「僕には、弟がいて、いつもできのいい兄貴と比べられていた」

「できのいい兄貴って、スンちゃんのこと?」

「うん、コケたけどね」


「できの悪いのほど可愛いって言うけどさ~、弟は、無条件に可愛がられていたなぁ。じゃあ、僕の努力はなんだったのかな? って。僕には、山ほどの期待があって、山ほどの義務があって、真面目にこなそうとあがいて来たけど、ふと横を見ると、ガミガミ言われないでも愛される弟がそこに、いるじゃないかって」


「兄弟って、男女だとまだマシで、同性で二人ってよくないって聞くよね。一人っ子より悪いって、比べられるから。だから三人ぐらいがちょうどいいって言うよね」


「うん」


「でもね~、スンちゃん。エコヒイキって、どこの家庭でもあるのよね。結構、末っ子は、目に入れても痛くないほどの可愛がりようだなと、思ったことがある。厳しくされた人間と、何のポリシーもなく甘やかされた人間と、どっちがいいかって言うとね~、厳しくされた人間みたいよ。甘やかされた方は、変にプライドがあって自分は特別な人間なんだって、思うのよね、きっと。世の中に出たら、「あれ?」勝手が違うぞって!ヤワな人間が、やって貰って当たり前、人に与える習慣がないという~か。だから、これからの世の中大変だよね、のびのび子供時代を過ごして来なかった親たちが、子育てに苦労するんだもん」


雪ネェが、妙に神妙な面持ちで言った。

だからみんなは、狐につままれたような顔をしていた。


「ああ、私んち父が死んで、母親が再婚したの。父の連れ子の妹がいるけど、母は厳しかったな。実の子の私に、継子苛めって言葉をあびせられないように、向こうに気を使って・・・」


「だから、本が友達なんだ~」

コウジが言うと図星だった。


「ピンポ~ン」

そこへ、松野さんがお茶を運んできた。


「どんぞ~」

「あ、戴きま~す」

「そんで、子育ての話なんだけんどもさ」

やっぱり、聞いていたみたいだ。


「動物園の動物がよく、子育て放棄して、飼育員がミルク与えたって聞くけんどもよ」

「うん」

「あの、コンクリートの檻の中で、監禁拉致されて来たんだよね、遠いアフリカから、そらノイローゼにもなると思わねえか~?」


「子育て放棄は、ある種ノイローゼ~」

ゴロスケが感心したように言った。

動物だって、ハートがあるし、物みたいに運ばれて檻の中に閉じ込められたら、おかしくもなる。

その時点で気づけば良かった。

今の動物園は緑が多くなってきれいになっている。

でも、どうしたら入場者数を増やせるか? に終始している気がする。


「人間さまも高層マンションの地面から遠く離れた所で暮らしていて、変になったと思うべよ。せめて三階か四階までに住まないと、人間の体だって自然のモノだからよ」


「やっぱり、神さまを度外視しては生きていけない」


さすが、松野さん農業をやっているだけある。農業は脳を使うから脳業なんだそうだ。

脳Howがいる。どうして日本人に低く見られてしまうんだろう。

ヨーロッパでも減反政策があったらしくて、政府は解除に動いた。アメリカの穀倉地帯は大水、オーストラリアは日照りで、ブラジルのバイオ燃料が槍玉に上げられているが、割合としては、微々たるものだ。

しかし、世界中から食料が足りなくなるのは、目に見えている。それでも、システムに問題があるから農業で食えない。


襖が急に開いて、奥さんが言った。

「あんた、岩手で地震だってよ」

「岩手?」

「あんたの故郷の近くじゃない?ほら、M党のO沢さんのお膝元の」


「うんにゃ~、全然遠いよ」

テレビに群がると、最初は地方だから人が少ないから被害がないかに見受けられたが、後から後から地からの怒りのような、今まで見た事もない山の壊れ方だったと知れた。やわらかい火山灰で出来た山。岩盤がなく、もろかった。道路はコーティングされたチョコレートのスポンジケーキみたいに、パリンと割れて陥没していた。



最初は、僕たちの働きが遅々として進まないから、山が荒れてしまったからだと考えた。

しかし、『岩手・宮城内陸地震』は、大雨でもなく、突発的な地震だった。

中国と同じく、地震のダム湖が何ヶ所もできていた。いつものように平和に暮らしていた人たちがこんな目に遭う。

亡くなった方や、行方不明の方も大勢でた。その映像を見ると、大自然の前に人間のちっぽけな姿が蟻のように働いていた。


「日本は、世界のミニチュアだって言ったよな~」

「うん、じゃあ仙台辺りは中国じゃないか?」

頭の中で、地図を浮かべてみる。

「そうなるね」

「何の話?」

松野さんが聞くので、雪ネェが丁寧に説明していた。

「うんうん」


「こんにちは~」

玄関で誰かが、来たらしい。

「は~い」

コウジが返事して出て行った。


玄関には、先日来た消防団員らが増えて来たのと、役場の職員、今度市会議員に立候補したいと名乗り出ている若手もいて、総勢十名ばかり。コウジはあせった。


「ああ、ちょ、ちょっと待って下さい、今、奥さん呼んで参ります」

探しに行こうとすると、ノッシノッシとやって来た。


「はい?」

奥さんはギロリと睨んで、コウジはとても見てられない。

派遣社員なら即クビだろうな~。結局、「玄関では何だから」と上がって貰った。

廊下をドカドカ歩きながら、地震の被害の話でもちきりだった。

「いや~、あんなに山が崩れる何てね~」

「ほんとに、天変地異がおきたようで~」


「ハ?」

コウジは慌てて言い直した。


「異常気象が続きますね~」

そう言うと、みんなは安心したように相槌を打った。


「うん、そうだな」


天変地異と言うのを認めたくないんだ。これから起ることのほんの序章、コウジには、そう見える。

インターネットでは、テレビや新聞ではあまり知らされない海外のおかしな天候や、大規模な災害の様子が流れている。でも、インターネットで流れる情報は、ガセネタだと思っている人が多くて、一般人にはしゃべれないなと実感していた。その日、その時を誰も知らない。なるほどね。


役場の職員は、『グリーンツーリズム』について細かなどこまで市が助成するかなどの、説明と打ち合わせ、消防団員たちは、ワシらもそれができるのならば、どんな話なのか聞きたいという人たち、市議会議員は、最先端の市の行政についての行方を知りたいらしい。

そして、噂の奥さんの料理も一度、試食してみたいらしかった。「フッ」それを知っているからか、奥さんの機嫌が悪いのだ。いくらなんでも一人ではやり切れない。

雪ネェとゴロスケとコウジが手伝うことになった。


台所は、冬は床暖房になって、十畳ほどの広さで、ガスコンロは、六つぐらいあった。アイランドキッチンになっていて、十人は一緒に作業ができる。


「昔は、葬式が出たらお通夜も葬式も家でやったのだそうだ。隣組の女性たちが来て手伝いをしてくれて、蔵にある塗りの食器やお膳を出して食べて貰う。料理は仕出屋さんに頼んだもんだよ」

と、説明してくれた。田舎に行くほど、葬式が派手になる。人々が集い、宴会が始まる。


「イザと言う時には、カマドを出して、大釜で煮炊きをする。正月には、もち米をふかして、家族中が見守る中、石臼と杵で搗く、男は餅を搗き、女たちが丸める。役割分担が暗黙のうちに決まっていて、いい思い出だった。今は、二人分の餅をスーパーで買ってくる」


奥さんがこんなにしゃべったのを聞いたのは、初めてだった。

しかも、しゃべっていながら、料理はできていく、雪ネェが棚から人数分の食器を出し、コウジたちは、樽から出した漬物を刻んでいると終わっていた。


具沢山の味噌汁と、白菜の漬物と、大皿にてんこ盛りの筑前煮、サラダボールにてんこ盛りのトマトとキュウリのサラダに、厚焼き玉子、器にてんこ盛りのインゲンのゴマ味噌和え。参った。


「じゃあ、運んで」

「ハイッ!」

大奥の料理を運ぶみたいに、うやうやしく行列になって運んだ。

人様に出すというのには、それだけの重みがある。


囲炉裏を囲んでのミーティングが始まった。

いきなり、旅館業を始める訳にはいかないので、食事も農業もお客さんに手伝って貰うならオッケーと申請が降りた。

順調に事故なく行けば、七年後には、正式に許可証が貰えれた。

お風呂も五右衛門風呂をお客さんに勝手に沸かして貰って入って貰う、これの方があとあと問題がないそうだ。


「ただ、」

「タダなんだ?」


「今の時代の流れで行くと、みんなお客さんにやってもらう方向になるだろうね」

「ふ~ん」

「もう既に、先人たちが開拓していて、ノウハウができているからね」

「これ」

スンちゃんが検索で調べたレポートは、グリーンツーリズムのカリスマ、中山ミヤ子さんの講演テープを起したものだった。


一軒の農家から、波及して四十軒の受け入れ先も稼動する発展振りだ。

また、本場ドイツでの見学ツアーも行って来ている。

修学旅行の子供たちにも田舎暮らしの体験はいい情操教育にもなる。

若いうちに本物の自然を味わって欲しい。

そうして、『自分が、働いてみんなの役に立つと言う、労働の喜び』も知って欲しい。

「大人も子供も経験していない大事なことを、子供時代に戻って、やり直して欲しい。そんなメッセージがあるよね」

雪ネェが締めくくった。


一呼吸、置いて役場の職員が、ため息をついた。

「素晴らしい~」

「んだな」


「秋葉原の犯人と同世代だっていうから、こんな人たちもいるんだと、日本も少しは安泰だな」

「んだ、んだ」

「あ、ありがとうございます」

コウジたちは、同世代どころか一つ間違えば同じ環境だったとは言えなかった。


市議会の議員候補も、何か考え込んでいるようすだった。


「本当に、地位や名誉だけのことで、政治家になっては駄目ですね。目からウロコです」

その声は、消え入りそうだった。


「今の、市議会の先生はよ~、当選したらとたんに態度がそっくり返りやがって、町内の運動会にも、顔を出したけんどもよ~、貴賓席に偉そうに座ってるだけだ~。アレだけ、選挙前に頭下げて、家の玄関まで来て、頼んだり電話掛けてきたりしてよ~、何か騙された気がするさ~ね」


「んだとも、選挙違反だちゅ~に、町内から勝手に、酒なんぞ送ってからに~、会計が往生こいたよ、まったく」

「また、近くの畑で採れた野菜とか、無人でもいいから直売所を設けて、野菜売ったらいいよね?」

とたんに、みんなの顔が色めきたった。

趣味で農業を始める人もいるけど、いっぱい採れても売るところがない、配ったところで知れている。

もしも、直売所があれば無駄にもならず、みんなの励みになる。人と人とのつながりもできる。


「農協でよ~、決められた農薬買わねぇと、野菜売ってくんねぇからよ。薬が、去年から倍も値上がったんだぞ! 農家では、儲からなくなるって。もし、そこから野菜が売れれば少しは小遣い稼ぎになるかな?」


「農協もネットワークがあるんだから、いい方法があればいいね」

「いや、あんな組織は、もう機能しなくなるさ」

「おいらは、農協の指導通りにやって来たけんども、ちっとも暮らしはよくなんねぇ」

「でも、評判がついて、まあ直売所の野菜が売れ出すのは、何年も先の話さね~、でも、現金収入はありがたいね」

「何か、いい観光スポットがあれば、お客が来るけんどもよ~」

「小さな美術館?」

「こんな田舎にな」

自傷的な笑顔が浮かんだ。


「G県の話だけどさ、H・T美術館の前で、農民が野菜売っていて、揉めて、Hさん他の郡に引っ越したっていうのを聞いたことがあるな」


「農家にとっては、切実な問題だったのね」

「クビの折れた菜の花の絵描いて、外で野菜売っちゃいかんというのは、どうなんだろうね。美観を損ねるんだろうか…」

農家の人も、どんな売り方したかも知らないけど、お互い他人なんだからとことん話合いをして、新しいルールを作って、前へ進まないことには、地域も生きていけない。


「観光地へ行って、そこの地名の入った、キーホルダー買う時代じゃないのは、確かさ」

「それよりは、毎日食べる新鮮な野菜を買う方が、物が増えなくて済むしね。健康にもいい」

「そこの土地の無農薬のとびっきりの美味しいサラダを、大空の元で食べたら、一生の思い出になる」

「そんなもんかね?」


「観光地の人が喜ぶのは、大金を落としてくれるお客様、贅沢な料理を食べて、高級旅館に泊まってくれて、そこで地域の人が働いて、潤う。でも近頃、僕たちみたいに、車中泊の人間が増えて、コンビニで弁当を買い、お金を落としていなかいの。ゴミだけ置いていく」


「でも、物はもう沢山!それだけの物を仕舞って置くスペースがない(笑)のもあるけど、日本人の中に難民のような、明日はどうだか分からない時代だから、物を買わないでお金を貯めとく人が増えたのは、確か」


「そんだな、明日地震で家が潰れるかも知れないな~」


「通り魔に突然、刺されて命を失うかも知れないでしょ」


「テレビで何回も流れているCMから、突然、目が覚めたみたいに、あれ?これって僕は欲しくなかったって」

「さも、美味しそうに(見えない)タレントが飲んでいる清涼飲料も、嘘っぽいな~って」

国民が目覚め始めているんだと思うよ。


「そうだんべ、『小林多喜二の蟹工船』があんなに売れたもの、何かの兆しに感じるっぺ」

ゴロスケの田舎の人風の言葉は、ちょっと違う土地の言葉のようだ。


「本当に必要な分だけ欲しいけど、後は困っている人にあげる~、こうなったら日本は大丈夫なんだろうけどね」

「これから、もっと大変な時代なことは確かで、僕たちその真っ只中に居るんだね」


「ほ~、そんなもんかね~」

市の職員も、市議会議員の候補も、興味深げに僕たちの話を聞いていた。


「いや~、美味しかったよ~、奥さん!」

消防団のおじさんは、奥に向かって叫んだ。

「いや、本当に、ご馳走さん~」

普通は、割烹着の裾で手をふきふき、あいさつに出てくるんだけど、奥さんは出てこない。


「・・・あ」


お客さんは、心もとなげに帰って行った。

コウジはふと、この囲炉裏端が、とっても特別な空間だったことに気がついた。

「なんか、波動が高い? って言うか~?」

「あのさ~、農業の忙しい時だけ、協力できる、人材派遣の元締め立ち上げるっつ~のはどう?あれっ?みんな寝ているし~」

スンちゃんが、呼びかけたけどみんなは、食べて、眠くなって横になった。牛だ。


「なんか、眠たくなったから、寝るね~」

ゴロスケがやっとそれに応じると、また寝てイビキが聞こえて来た。


お茶を運んできた奥さんが、ビックリした。

「はれ、ま~」

みんなは、板の間に丸太のように動かない。


「トドのハーレムっちゅ~か」

奥さんは、立ち尽くした。


農家の悩み、都会の居場所のない若者の悩み。

これって、足して二で割ったら良くね?

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